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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
傲慢王女と元凶

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455.配達人は閉ざされる。


「先ずは、……本当にこの度はご迷惑をお掛け致しましたレオン第一王子殿下。彼らの行先は思い付かなかったとはいえこのような……。」


「いえ、とんでもありません。それよりもステイル王子、プライドは…?」

謝罪と共に頭を下げるステイルにレオンは軽く受け、そして促した。

レオンの促しにステイルは一瞬だけ視線を彷徨わせる。そのままヴァル達の方へちらりと目を向けると、一度だけ息を吐いて口を開いた。この話は内密に、と口止めをレオンに願ってからゆっくりと話し出す。全く現状を知らないヴァル達にもわかるように順を追いながら。


「姉君は、……誕生祭で倒れ、目覚めてからは人が変わったように問題行動が多く、結果として城内……そして更には自室で軟禁の処置を受けていました。」

軟禁。その言葉にレオンは思わず開いた口が塞がらなくなった。

あのプライドが、という驚きと最後に目にした豹変からの納得だった。プライドがあの後も同じような振る舞いを続けていたら必要な処置だろうとも理解する。むしろ城内から自室内にと狭められたということは自分が知るよりも更に酷いことを犯した恐れもあると思えば、余計に何があったのかと気になった。

そこまで考えていれば、先ほどまでずっと黙っていたヴァルが「近衛騎士共はどうした」と短くステイルへ尋ねた。レオンもその言葉に大きく頷くと、共に尋ねるようにステイルへ視線を投げた。プライドと常に共にいる彼らがいれば、ヴァル達への暴走も止めていた筈だと思いながら。

その問いに、ステイルは一度黙って彼らを見返した。今度は少し長い間を作り、眼鏡の黒縁を押さえた後に静かに言い放った。


「近衛騎士もとい、専属侍女や近衛兵。そして姉君が制定した学校制度や……配達人。全てが一時凍結された。今の姉君には統括が難しいという判断だ。」

勿論、代理か引き継ぎが終わり次第再開する、という言葉を聞きながらヴァルは「アァ?」と軽く唸った。プライドの豹変だけでなく、自分達の仕事まで凍結されたことに不満を露わにする。セフェクとケメトもその言葉に「えぇ⁈」「いつ再開するんですか⁈」と声を上げた。


「再開の目処は決まっていない。それで、……今日の騒ぎにより、正式に姉君は明日から離れの塔に移すことに決まりました。」

ステイルの言葉にレオンが僅かに息を止める。

プライドの婚約者としてフリージア王国に滞在した時に城の設備についてはあらかた説明を聞いていた。……離れの塔が、どのような場所なのかも。

ヴァルが「離れの塔だぁ?」と聞き返した際、ステイルが感情を殺したような声で「理由あって王族などを隔離する為の場所だ」と簡単に説明した。よりによってプライドが、そんなところに収容されるなんて、とレオンはショックを隠せなかった。ふらり、ふらりと足元が揺らめき、軽く指先で頭を抱えながら俯いた。レオン王子?とステイルが心配して声を掛ければ「大丈夫です……」と掠れた声を漏らしながらゆっくりと翡翠色の瞳をステイルへ向けた。


「どうか、教えて下さい…ステイル王子。あれからプライドに、……何が起こったのか。」

聞けば自分が傷つくことは目に見えていた。

自分の中のプライドではなく、最後に目にしたあの悍ましいプライドの話を聞くことになることも。


『もしかすると、…もう貴方の知るプライドには会うことはないかもしれません』


ヴェストへ言い渡された言葉を思い出し、思わずレオンは自身の胸を押さえた。

針で刺されたように痛みが走り、発作のように息苦しささえ覚えた。……それでも、彼女の現状を知るためにどうしても聞かないわけにはいかない。

ステイルもここまでレオンに迷惑をかけた身として、望まれた限りは一方的に去るわけにはいかなかった。ヴァル達をここに匿ってもらったことは、女王であるローザを含めて誰にもステイルは教えていない。更にはこの後のことを考えても、ここで断ることは不可能だった。

確認するように目線をヴァルへ投げれば、彼からもギロリと鋭い眼差しで返された。本人も当然、最初からの説明を求めている。ヴァルはプライドの豹変どころか、プライドが誕生祭で倒れたことすら噂しか耳にしていなかったのだから。

聞きたいか、と問うのも野暮だと思い、代わりにステイルは真っ直ぐヴァルを見返した。


「最初から話してやっても良い。……ただし、お前からもさっきのことを俺達に事細かに説明してもらう。今後についての本題はその後だ。」

良いな、と確認を取れば一音だけをヴァルが返した。

了承と受け取り、ステイルは順を追って話し出す。レオンが既に知っているプライドが倒れた時の経緯から、目覚め、更には城内での暴虐を露わにし怪我人まで出したことを。……そして十年前のプライド、それについてのローザ達上層部の判断を。

ヴァル達からすれば、耳を疑う話ばかりだった。セフェクとケメトは口を開けたまま途中からは別人の話を聞いているような感覚だった。ヴァルからすれば、そんなに突然の変化だということは驚いたが、自分の知るプライドではなく今日会ったあの〝バケモン〟のやったことだと思って聞けば、すんなりと受け入れることもできた。

ただ、それとプライドが同一人物だったことに関しては今だに心中では戸惑いが大きい。レオンも過去のプライドについては特に衝撃だったが、同時にヴェストの言葉の真意をやっとはっきり理解した。


「ですが、……今日のことはそれにも勝り遥かにやり過ぎです。姉君本人は、部屋からは出ていない、窓を割ったのも配達人、正当防衛だと母上達に言い張ってはいましたが……。」

そこまで話してステイルは視線をレオンからヴァルへと移した。

お前が話す番だぞと言わんばかりの眼差しにヴァルは舌打ちをしてから口を開き……一度、躊躇った。


「……おい、ガキ共の着替えはまだか。」

ステイルから目を逸らし、レオンへとヴァルが投げ掛ける。

すぐにヴァルの意図を汲み取ったレオンは「あぁ」と声を漏らし、ステイルも腕を組んで待つ姿勢を取った。そうだったね、と言葉を返すレオンはふと、未だに砂で拘束されているセフェクとケメトに視線をやり、ステイルへと投げ掛けた。


「!そうだ、ステイル王子。……実は二人ともこの拘束が解けなくて。瞬間移動でどうにかなりませんか……?」

レオンの言葉にステイルがパチパチと二度と瞬きをしてヴァルを見た。

「お前の能力だろう」と一言尋ねたが、ヴァルは忌々しげに顔を歪めると「俺の意思じゃねぇ」とだけ吐き捨てた。その言葉に、プライドの命令の為に自分の意思で解除ができないのだと理解したステイルは「そういうことか……」と呟くと腕を組んだまま溜息交じりに二人へ歩み寄った。


「すまなかったな、気が付かないで。」

長時間二人を拘束したまま放置していたことに謝罪しながら、ステイルはまずセフェクの砂の拘束に触れた。

一瞬でセフェクを拘束していた砂の塊だけが外へと瞬間移動され、自由になる。セフェクから小さく「あっ……りがとう、ございます」と言葉が漏れた。次にケメトの拘束を同じようにして消すと嬉しそうに両手を上げたケメトがセフェクの手を握りながらステイルに笑いかけた。


「ステイル様のお陰で、ヴァルもセフェクも助かりました!すごく感謝しています!」

ありがとうございます!と頭を下げるケメトに釣られるようにセフェクもぺこりと頭を下げた。

初めて二人に真正面から言葉を受けた気がするステイルは、少し目を丸くしてから最後に柔らかく笑顔を返した。「……無事で良かった」と思わず口から零れ、それから二人をこんな目に合わせた元凶がプライドであるという事実に一瞬で顔の筋肉が凍り付いた。突然の表情の変化に二人が首を傾げると、ステイルは「いや……」と呟きながら二人にも改めて頭を下げた。


「……謝って済むものではないが。……姉君が酷いことをした。今は俺が代わりに謝罪しよう、本当にすまなかった。」

突然謝り出すステイルに、逆に慌てるようにケメトとセフェクが「王子殿下がそんなっ」と声を上げた。慌て過ぎた結果、また二人が「殴られるのは慣れてるから平気」発言をした為、またヴァルがステイルに睨まれた。「ちげぇ」と面倒そうに手でステイルの視線を払うヴァルにステイルは音にして息を吐いた。


「三人とも、医者にも診てもらいましたが問題ないとのことでした。……御安心下さい。」

心情を読んでか、滑らかに笑んだレオンにそのままソファーを勧められる。それを受け、礼を伝えてからやっとステイルは部屋のソファーへ腰掛けた。

部屋の外にいる侍女にレオンが確認を取れば、準備はできたと返ってきた。それを聞いたヴァルはケメトとセフェクに先に行ってこいと促す。湯浴みや身体を磨くのも着替えの衣装も別室に用意されている。フリージア王国と同様にアネモネ王国の城も頻繁に出入りが増えたお陰で、二人とも一人でなければヴァルと部屋を分かれて過ごすことも平気になっていた。

ヴァルの表情を確認したケメトが「行きましょう」とセフェクの腕を引き、二人は侍女に案内されるままに部屋から出て行った。

扉が静かに閉められ、パタパタとセフェクとケメトの足音が遠のいていくのを耳で確認した後、ヴァルは大きくうんざりと息を吐き出した。


「……一週間前だ。主に今日、手紙を取りに来いと命じられていた。」

嫌々話すようにぐんなりとした低い声のまま、ヴァルはステイルに命じられるより先に話し出した。

別に自分がプライドの部屋に侵入したと罪をなすりつけられるくらいはどうでも良かったが、隷属の契約の縛りで王族であるステイルに嘘がつけない。ヴァルは、プライドに窓から口の動きだけで呼ばれたことも、指示され窓を割ったことも説明する。そして、隷属の契約に則り自分がプライドへの全ての許可を奪われたことも。

いま思えば〝全許可〟ではなく〝自分への許可〟のみに絞られていただけ良かったと心からヴァルは思う。そうでなければ今頃、レオンやステイルにすら自分は平伏し敬語で語らなければならなかったのだから。

プライドにセフェクとケメトを殺すように命じられかけたと話し始めれば、その時だけは居心地悪そうにステイルとレオンから顔ごと逸らし、忌々しそうに口を動かした。


「……あと一文字だった。テメェが来なけりゃあ、確実にガキ共を絞め殺してた。」


命令通りにな。と吐き捨てた言葉は酷く重たく、憎悪や嫌悪すら入り混じっているようだった。

あまりの行いにレオンは言葉も出ない。プライド、でなくともそんな甚振ることを楽しむような所業を同じ王族がやったというだけで信じられない。

更にはヴァルが語った凄惨な現場を想像すれば、心臓が酷く脈打ち、まるで魘されるように息が浅くなった。大事な存在を自分の手で殺させるなどという所業、考えただけでも全身が拒絶反応を起こすように毛が逆立ち震え上がる。

そうか……、と一言だけ答えるステイルは表情を曇らせ、先ほどのプライドの言葉を思い返した。同時にやはり今後の方針はそれしかないと決意し、口を開く。


「ヴァル。……第一王子ステイル・ロイヤル・アイビーの名の下に命じる。お前達はフリージア王国に帰ってくるな。」


アァ⁈と、ステイルの言葉に苛立たしげにヴァルが歯を剥いた。どういうつもりだ、と聞けばステイルはヴァルを無視するかのようにレオンへ向き直り、言葉を続ける。


「レオン王子、……もし可能であれば暫く彼らを極秘に保護しては頂けないでしょうか。代わりに、その間は姉君のことで何かありましたら秘密裏ではありますが、お伝え致します。」

「僕は構いませんが……?それに、プライドのことを知らせて頂けるというのなら寧ろ望むところです。」

おい‼︎と、自分を無視して話を進める二人にヴァルがとうとう声を荒げる。

突然国外追放された上に、まるで犬や猫のように勝手に受け渡しされている状況に怒るのも当然だった。だが、それでもステイルは無視してレオンと話を続けていく。


「本当に申し訳ありません、レオン王子。もし、彼らが……ヴァルが御迷惑をお掛けしたならば姉君や母上ではなく僕に書状を。すぐに対応させて頂きますので。」

「いえ、彼らを保護したいのは僕も同じです。もし、ステイル王子から申し出られなくても僕から望んだでしょう。」

「感謝致します。全てが落ち着いたら、改めて御礼をさせて頂きます。一年前もこちらが助けを申し出て頂いたというのに……」

「そんな。あれは寧ろ〝僕が貴方に〟借りている側です、ステイル王子。あの時は本当に」


「ッおいクソ王子共‼︎‼︎いい加減にしやがッ……⁈」


ドン、と。

耐え切れずに力の限り怒鳴ったヴァルに、逆にステイルの方がソファーの上から瞬間移動で飛びかかった。

床に座っていた状態から、突然ステイルに飛び掛かられ、再び胸ぐらを掴まれた彼はそのまま床に背中から叩きつけられた。ステイルは倒れ込んだヴァルに跨るようにして動きを奪う。さっきまで穏やかにレオンと話していた筈の彼は焦がすように怒りで滾らせた目でヴァルを正面から捉えた。

突然の不意打ちに歯を食い縛るヴァルは、隷属の契約でステイルを突き飛ばすことも押し退けることもできずに睨み返した。すでにヴァルの凶悪な顔を見慣れているステイルは、掴み上げた手に力を込め直しながら額がぶつかるほどに顔に近づける。


「いい加減にしろは俺の台詞だ、この馬鹿が。」


絶対零度の言葉と共にステイルは真っ黒な覇気を放った。いまこの場で今度は自分が絞め殺されてもおかしくないほどの殺気を滲んでいた。あまりのステイルの豹変に、歯を食い縛ったまま言葉に惑うヴァルへ更に彼は続けた。


「今、お前達にフリージア王国に居場所など無いと何故わからない?」

淡々と語るステイルの言葉にヴァルは目を見開く。「なんだと……?」とやっと言葉を絞り出せば、少し顔から距離を開けたステイルから侮蔑にも近い眼差しで見下ろされた。


「また今の姉君に弄ばれたいのか?」

ぞわっ、とその一言でヴァルは全身を酷く強張らせた。

今日、自分はプライドの命令によりどんな目に遭ったか。その恐怖は誰よりも理解していた。


「今は離れの塔に軟禁されるが、いつ出てくるかも知れない。もし、偶然でも姉君に会ってしまえば今度こそお前は二人を失うぞ。」

もし「殺せ」の一言でも受ければもう避けられない。

その後にステイルが三人を助けたところで、命令を解かれない限り今回の拘束と同じように一生ヴァルは二人の命を狙い続けなければならないと。その事実だけをひたすら並び立てるステイルの目の奥は、闇が焔のように揺らめいていた。ギラギラと黒く光る瞳と、鉛よりも重い言葉にヴァルは舌の動きすら奪われる。言葉も出ないヴァルにステイルは「良いのか?」と尋ねるように言葉を続ける。


「失うぞ?今度こそ。本当の本当にお前は自分の手で二人を殺させられる。その手の中で息絶える瞬間を目に焼き付け、その感触も一生忘れられることはない。あれほど必死に踠き掴み取った全てを自分の手で失うんだ。姉君はそれを〝楽しみ〟だとそう言っていた、わかるか?〝楽しみ〟だ。あの人はまだ満足もしていない。本気でお前に二人を殺させるつもりだった、今度こそお前は姉君のお陰で救えた命を姉君の道楽の為に失わさせられるんだそれで良いのかお前にとってそれが最善か?そんな筈がないだろうお前が死んでも守りたい存在だと少しでも認められるのであれば二人の為に今は耐え抜けお前が家族を失うなど俺が許さない俺が良いと言うまで二度と我が国にもプライドにも近付くなこれは命令だッ‼︎‼︎‼︎」

途中からは殆ど一息で捲し立てるように言い放つステイルの言葉は、数え切れないほどに様々な感情が入り混じり激情を孕んでいた。最後には部屋に響き渡るような怒声を放ってしまう。

あまりの声量に至近距離にいたヴァルは耳も皮膚もビリビリと振動させられた。ステイルの顔は怒りで真っ赤になり、歪められた口からは整った歯が食い縛られたまま剥き出しになっていた。胸ぐらを掴んだ手からは爪を食い込ませ、荒い息は僅かに震えていた。肩で息を整える間もステイルの目は限界まで見開かれたまま瞬き一つせずにヴァルへ向けられた。


「………………。」

言葉とともにステイルからの激情を直接浴びたヴァルは、本当に暫く声すら出なかった。

ステイルの言葉があまりにも正しく、返す言葉が見つからなかっただけではない。今の自分の立場を思い知らせようとするステイルの形相は、他人事とは思えないほどにあまりにも必死で切迫していた。自分達を、……少なくとも自分を良くは思っていない筈であるステイルの言葉とは思えないほど悲痛だった。


「ッ……お前やケメト達に何かあれば。………過去のあの人が泣く。」

息を整えると同時に、少しずつ冷静を取り戻したステイルは最後にそう呟くと呆然とするヴァルの胸ぐらから手を離した。ゆっくりと彼の上から退き、眼鏡の位置を指先で直す。そしてヴァルへ目を離さないまま自分で襟を正した。


「……レオン王子ならば、確実にお前達を匿える。……なるべく離れるな。」

それ以外は好きに使って下さい、と自分の前ではっきりレオンに断るステイルに、やっとヴァルは舌打ちが零した。レオンと外で一緒に居れば奴隷と間違われるのがオチだと思いながら、もう言い返す気にはなれなかった。


「俺からは以上だ。……また、レオン王子へ報告の為に来る。その時に文句があればまた聞いてやる。」

では、失礼致します。とレオンへ礼儀正しく挨拶した直後、ステイルは一瞬で消えた。

ガシガシと頭を何度も強く掻きながら、気分が悪そうに顔を顰めるヴァルへ「大丈夫かい」とレオンは軽く声を掛けた。


「言うまでもないと思うけれど。……君達のことを思ってのことじゃないかな。」

「うるせぇ。」

わかってるんなら言うんじゃねぇ、と不機嫌そうに唸るヴァルは、重そうに身体を起こし、床に座ったまま俯き気味に自分の顔を掴んだ。唸り、歯を食い縛り、当てようのない怒りを拳にして床に叩き込む。

今の現状では明らかに自分は不利。ヴァルにもその程度のことはよくわかっている。それに何よりも……


コンコン。


「見て見て!すっごく綺麗な服!」

「ヴァルの分の服も貰ってきました!僕とセフェクで選びました!」

ガチャン、という扉の音と共にセフェクとケメトが飛び込んできた。

髪まで綺麗に整えられ、汚れひとつない服に身を包んだ二人は、何も知らない人間がみれば貴族にも見えただろう。スカート部分を見せるように掴んだセフェクと、ヴァルの分の服を両手に抱えたケメトは満面の笑みでヴァルへと駆け寄った。部屋にもうステイルが居ないことに気が付き見回したがレオンが「さっき帰られたよ」と伝えると少しだけ目をぱちくりさせてから頷いた。


「うん、二人ともとてもよく似合っているよ。それなら動きやすいんじゃないかな。」

「……暫くはどうせ大して汚さねぇがな。」

レオンの言葉に低い声で答えるヴァルは、ケメトから差し出された服を片手で鷲掴んで引き寄せた。

ヴァルの言葉に「⁈なんでよ」とセフェクが目を丸くした。旅をすればすぐに土埃で汚れるのにと。ケメトが「ステイル様との話はどうだったんですか」と尋ねると、ヴァルはうんざりと息を吐きながら手近なケメトの頭を反対の手で鷲掴んだ。


─ ……コイツらだけは捨てられねぇ。


「……主がどうにかなるまではここに居ろだとよ。うざってぇが暫くはこっちで雑用だ」

気分わりぃが、と悪態つきながら告げるヴァルはそのままゆっくりと立ち上がる。

新しい着替えをバサリとはためかせると、無駄な装飾や服の形状がひらついたり煌めいていないことを確認した後に一度セフェクに放り投げた。


「別に働かなくても、衣食住くらい提供するよ?」

「テメェに養われる趣味はねぇ。」

首を傾げて見せるレオンにヴァルが煩わしそうに歯を剥いた。

はっきりと切り捨てられてしまったレオンは肩を竦めながら「ステイル王子にも頼まれているし」と言ったが、今度は無視された。バサリ、バサリとその場で話をしながら、着ていた服を次々と脱ぎ捨てていくヴァルにセフェクが「主は……大丈夫なの?」と彼の新しい着替えを両手に問い掛ける。


─ 殺すなんざまっぴらだ。


「さぁな。王族の問題だ、雇われの俺達には関係ねぇ。」

金が払われねぇならそれだけだ。と興味がないように言い放つヴァルをケメトはじっと何も言わずに覗き込んだ。脱ぎ終えた服を床に落としたまま、ヴァルはセフェクから新しい服を受け取るとそのまま一枚一枚着込み出す。


「でもっ……主がおかしくなっちゃったのに理由もわからないんでしょ⁈本当にステイル様が言うみたいにずっと主がこのままだったら……!」

「そん時は、……雇用主が主じゃねぇなら働いてやる必要もねぇな。別の仕事ならまた適当に探しゃあ良い。」

たとえ別の人間が配達人への仕事依頼の役目を引き継いだところで、プライドがこのままであればヴァル達はフリージア王国に近づけられない。配達人の仕事自体が不可能になる。さらに言えばアネモネ王国に永住できるわけでもない。プライドがそのまま女王戴冠すれば、彼女は自由に隣国であるアネモネ王国にも訪れることができるのだから。

むしろ、フリージア王国の周辺諸国の多くが今や同盟国や和平国。その全てが彼らにとって安全な場所ではなくなってしまう。


─ 行き場なんざいくら失おうと変わりゃあしねぇが。


「でもっ……‼︎」

最後の一枚を羽織り終わったヴァルにセフェクが声を上げる。

セフェクにとってもケメトにとってもプライドのことは酷く気掛かりだった。どんなに説明を受けてもやはり、プライドが悪魔にでも取り憑かれているようにしか二人には思えない。納得が行かないように何度でも言葉を返し続けようとするセフェクにヴァルは



……そっとその頭を掴んだ。



「……取り敢えずは、だ。どちらにしても今の俺らが主にできることなんざ一つもねぇ。」

今は黙ってろ、と突き放すように言うヴァルの顔を見上げた途端、セフェクは「……わかったわ」と小さく頷くしかなかった。


─ 〝帰る場所〟だけは手放せねぇ。


酷く苦しそうにしか見えない、彼の姿に。

二人はそれに気付きながらも、ただただ知らない振りしかできなかった。

ヴァルが脱ぎ散らかした服をケメトが拾い上げ、ゴミ箱を探すとレオンが侍女達を呼んで片付けさせた。

セフェクが「仕事って何すれば良いの?」とヴァルを見上げればレオンが「じゃあ僕の護衛でもして貰おうかな」と滑らかに笑んで提案した。ケメトが「その服すごく似合ってます!」と嬉しそうに笑いながらヴァルの袖を引っ張った。

気を抜けば吐き気に襲われ、肺が締め付けられたように圧迫され、息をするのすら意識した。頭の中ではぐるぐると今までのプライドとあの化物のプライドが交互に回り、彼の心臓を幾度も引っ掻いた。まるでプライドに裏切られたような感覚と、同時に彼女を亡くしたかのような感覚に飲まれ、苛立ちから無意識に口の中でも歯を食い縛る。だがそれでも彼は


「……うざってぇ。」


その全てを、自覚することなく飲み込んだ。

殺意が沸くほど無力な自分よりも、優先すべき者の為に。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ドロッドロの毒を含んだ展開って好きなのですが、 ヴァルプラ推しだったりするぶん、切なかったりもします。
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