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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
傲慢王女と元凶

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448.騎士団長は構える。


「…どう思う?」


騎士団演習場。

騎士団長として騎士達の演習状況を確認しながら各所を回る私に、副団長のクラークが言葉を掛けた。射撃演習場の報告の後、素手の模擬訓練の様子を確認し終えた後だった。


「演習の状況か?それならば今日も集中が乱れている。……調子が芳しくない者も多い。」

「それもだが、……その原因の方もだ。」

私の言葉に軽く首を傾けるクラークは、最後に声を潜めて尋ねてきた。

お互い顔を見合わせはしないが、その声色だけでどのような顔をしているかは大体予想もつく。「プライド様か」と短く尋ねれば、僅かに息を吐く音が耳に届いた。騎士達が視界の中では組になった相手と拳を振るい、時には足技を使いながら一本を狙い合う。だが、なかなかいつものような覇気も見えず、中には逆に雑念を払うように訓練とは思えぬ覇気を放つ者もいた。

プライド様が倒れられてから、警戒がある程度解かれ、一部がこうして演習も可能になってからもまだ騎士達はこの調子だ。

ティアラ様の誕生祭。

そこでプライド様は突然倒れ、翌日に目覚められたと報せが入った直後、今度は箝口令が出された。それから一度もプライド様は姿を宮殿の外から現さないという。

更には三日前には突然の近衛騎士の一時停止。名目上はプライド様の不調が原因とのことだったが、……どうにも雲行きが怪しい。

近衛騎士達も女王から箝口令が敷かれ、自ら口を開こうとはしない。私が一時停止を命じた時も既に知っていたかのように落ち着き払い、誰もが一言で応じていた。

目覚められたこと自体が誤報だったのかと思わせるほど、それからプライド様の現状は不明だった。プライド様を慕う者ばかりの騎士団で、それが僅かでも不調に繋がらない訳もなかった。事情を知っているのであろう近衛騎士達は身を引き締めてこそいるが、その表情も纏う雰囲気すら皆が険しい。特にアーサーは演習が終わり、集中が切れた途端にその変化は明白だった。……無理もないが。

何も知らない騎士達も不穏を感じてはプライド様の身を案じ、中には未だ目覚めてはおられないのではと不安を口にする者もいた。当時、プライド様が目覚められた時に護衛としてその場にいた騎士達すらも、その話題を聞くたびに俯き顔色を暗くした。

一体プライド様に何が起こったのか。……今の我々には知るすべは何もない。


「……とある筋からの、あくまで噂なんだがな。…………聞きたいか?」


変わらず声を潜めるクラークに私は初めて目を向ける。

他の騎士達に気づかれないように表情こそあまり変えてはいないが、その目は真剣そのものだった。

とある筋、ということは実際はかなり確かな情報なのだろう。だが、騎士団内ですら情報が噂も殆どたたない今、一体どこで聞いたのか。クラークが自ら噂や情報を積極的に探るのも珍しい。騎士団で容易に口を割る者も少ないと思うが。……尋ねるように目だけを向けた私に、クラークが軽く肩を竦めた。「言いふらされていた訳じゃない。私以外には誰にも話してもいないさ」と断るように言ったクラークに、私は一度目を閉じてから溜息を吐く。何だ、と短く促してみればクラークは再び潜めた声で囁いた。互いに演習の様子を眺めながら、口だけを動かす。


「プライド様は、目覚めてから様子がおかしくなられたらしい。」


おかしく……?思わず顔を向けそうになりながら、眉だけ上げて続きを待つ。

視線の先では騎士の内、数組が勝敗がついて地面に背をつけた。勝者から手を借りて立ち上がりながら再び構えを取り直す。


「何でも、傍若無人な振る舞い……見舞いに来ていたレオン王子やハナズオ連合国の王族、更にはティアラ様にすら酷く当たられたと。……まるで、人が変わったように。」

クラークの低めた声に、その深刻さが伺える。

変わらず顔は向けず、腕を組みながらその言葉に私はふと十年ほど前を思い出す。確か、幼き時のプライド様も当時は我儘な振る舞いをされていた。話を聞けば、今までのプライド様からは想像もつかないが、……当時のプライド様からは容易に想像がついてしまった。

まさか十年前に戻ったか、記憶喪失にでもなられたのかと考えてしまう。だが、たかだか我儘な振る舞いが増えた程度で王族がここまでプライド様を秘匿するのは疑問だ。城の人間だけなら未だしも、他国の王族にも無礼な振る舞いをと思えば確かに問題ではある。しかし、それと近衛騎士の一時停止との関係は……。

思案する私にクラークは「私もそれ以上はわからないが」と言葉を締め括る。クラークの情報源がどこからなのかは敢えて聞かないが、クラークにも知るのはそこまでが限界だったということから考えても、やはり秘匿は徹底されているらしい。


「…聞くだけではまるで十年前のようだな。」

私の頭でも読んだのか。それとも同じ考えに辿り着いたのか、その言葉に私も短く答えた。

あれから、……プライド様が初めて立派な御姿を見せたティアラ様の誕生祭から十年も経ったのだと思えば、それすらも信じられない。当時のプライド様の振る舞いは式典などで目にしたが、今や私もクラークもその後の十年間のプライド様の方が色濃く記憶に残っていた。


「ここからは私のあくまで予想なんだが……。」

落ち着いた声色で私に告げるクラークは、僅かに躊躇いながら言葉を続けた。

言葉を遮らず、聞き届けるべく無言で待つ。また他の騎士達が組合を行い、拳を防ぎ足を払う。今は一番隊と四番隊の合同だが、戦い方は違えど良い勝負だ。


「プライド様がその通りに変わられ、人前にそれが見せられない場合。上層部は隠し続けるだろう。……可能な限り。」

それであの箝口令と秘匿か。…ならば近衛騎士すら一時停止されたのも少しは納得できる。

なるべくプライド様の変化を知る者がいないように、深く知る前にと遠ざけられた。どれほどの変化かは想像もつかないが、秘匿するほどのものであれば十年前以上である可能性も充分にある。

……プライド様の、変化。それがもし豹変と呼べるほどのものであれば、次期女王としても知られるわけにはいかないだろう。その上、プライド様は殆ど風化されたとはいえ、十年前の我儘な振る舞いは城下でも有名だった。再び十年前に戻られた、本性が現れたなどと風潮を受ける可能性もある。予知能力を開花されたとはいえ、もし豹変し人格が歪まれたなどであれば、次期女王に疑問を持つ者が現れる可能性も充分にある。実際、十年前は八歳のプライド様に対し既に疑問の声も多くあった。…私やクラークも含めて。

王族とはいえ、人の親でもある。娘の豹変ならばなるべく元に戻るまでは隠したいとも思うだろう。………元に、戻るまで。

そこまで考えたところで、一瞬過ぎった考えを私は自ら打ち消す。目を固く閉じ、眉間に皺を寄せればクラークが「どちらだろうな」と言葉を掛けた。……また読まれたか。

プライド様の変化は、当時の私やクラークにとっても突然ではあった。ティアラ様の六歳の誕生祭で良き王女としての振る舞いを見せた。元々、式典でしかお会いしてはいなかったが、それでもあまりに突然だった。予知能力の開花やティアラ様の存在、第一王位継承者としての確立、義弟であるステイル様……心境の変化のきっかけなどいくらでもある。


だが、当時のプライド様と今までのプライド様。その変化の〝中間〟を知りはしない。


……いや、やはりあり得ない。

まさか十年も前のことを上層部は今更引っ張り出し、プライド様の本性が出たとでも言うのか。我が国の上層部や王族がそのような馬鹿げた結論に達したとは思いたくもないが。

プライド様の人柄は私もクラークも、騎士達も皆が理解している。あの、行いも演技や外面、見せかけなどの為に狙ってできるものではない。


『彼は私の国民です』


七年前も本性がその当時のままであれば、……身の危険や王族の規則を破ってでも私を助けようなどとするとは思えない。むしろ、あのまま手を出さずに作戦会議室で待つ事こそが王族としても正しい判断だ。

本当に今のプライド様が豹変でもされたというならば〝戻った〟ではなくあくまで〝異変〟として他に要因があると考えるべきだろう。突然倒れた時の異常性からも、そう考えることが自然だ。

医者にもどうにもならず匙でも投げられたとでもいうのか。アーサーが触れてもどうにもならないということは、病ではないのだろうが…。


「少なくとも私には、…この十年のプライド様こそが本物だ。」

吐く息と共にそう言い切れば、クラークから「……そうだな」と静かな声で同意が返された。

そのまま私の肩に手を置くと「そろそろ各隊の演習を回す時間だな」と言って一度他の隊の演習場所へ向かっていった。私も言葉を返し、その場の騎士達に片付けと次の演習場所への移動準備を命じる。

手の中にある各隊と新兵についての報告書を確認し、見回せばやはり全体の士気は高くない。気を抜くな、目の前のことに集中しろと声を張りながら誰よりも威勢良く声を上げる一番隊のアランと、次の行動へと指揮を飛ばすエリックへ目を向ける。二人とも、三日前よりは大分調子も戻っているように見える。何も事情を知らない騎士達よりも、既に何かに向けて気を構えているところもあるのだろう。三番隊のカラム、そして昨日休息日から戻ってきたアーサーも同じ様子だった。……次に家に帰った時には妻にも家での様子を聞いてみるべきか。

最近近衛騎士になったばかりのハリソンだけは様子も全くと言って良いほど変わらないが、恐らく私達と違い目の前でプライド様の豹変を目にした騎士達の衝撃は大きかっただろう。私の記憶が正しければ、全員が直接十年前までのプライド様を見たこともない。ならば余計に今までの見たこともないプライド様の姿でもあった筈だ。十年前を彷彿とせずに済んだのは幸いかもしれないが、……それでも衝撃であることに変わりはない。


『己が価値を理解していないのは貴方もです騎士団長‼︎』


「……。」

もし、クラークの見立て通りであるならば、どうすれば本来のプライド様に戻られるのか。…医者でも専門家でもない私には理解も及ばない。


『例えこの世界の誰が貴方を否定しようとも、私は肯定します。貴方はお父上のような立派な騎士になれると』


私を窮地から救い、そしてアーサーの心を救って下さったあの方の心が、……どこに行かれたのか。もし、戻らぬままであるとすればそれは我が国にとっても大きな損失に他ならない。

この十年間。プライド様は民と向き合い、時に間違い、暴走し、逸り、立ち上がり……


『ッ私を‼︎助けて下さい‼︎‼︎』


少しずつ。

本当に少しずつではあるが、成長された。自棄を孕んだ姿さえ多くの経験と痛みを引き換えに


『自分の為に、…誰かが死ぬような事態に巻き込まれるのは…、…。………凄く、辛いわ』


学ばれ、理解し、思い返された。

国を統べ、女王となるに必要な覚悟も、心構えも身につけられておられた。

そんなあの方が、もし十年前とは言わずとも酷く変わってしまわれたのであれば。……私としても、痛手どころの話ではない。プライド様の成長を、女王戴冠の日を心待ちにしていたのは私や騎士達だけではない。

ティアラ様の誕生祭のダンスパーティー。あれをプライド様との最後の思い出とはしたくない。大体、あの時は




『ええと…それは……。……………あら?』




「───?」

……今のは、何だったか。

ふと、思考が止まり、頭に過ったものを必死に手繰り寄せて思い返す。

確か、プライド様とのダンスの時だ。ダンス相手を選ぶ際にプライド様は私を、ティアラ様がクラークの手を取った。

共にダンスを重ね、成長されたプライド様の楽しそうな姿に私も穏やかな気持ちになった。あの小さな少女が立派になられたものだと、それこそ感慨に耽ったものだった。……そう、その時だ。

ダンスをしながらも、今ならば聞かれる心配もなく真意をお聞きできるかと、恐れ多く思いながらもプライド様にお尋ねした。


アーサーを婚約者候補に選ばれた、真意を。


このような場でお聞きすることではないことは重々承知ですが。と断りながら「アーサーを選ばれたのは驚きました」と最初に伝えた。プライド様は最初こそずっと苦笑いを浮かべながら問いに答えて下さっていた。


『色々ご迷惑をお掛けしてごめんなさい。』

『いえ、そういうことでは。……ただ、貴族であるカラムならば未だしもアーサーを何故にと疑問には思いました。……私は、アーサーは決して王族に相応しき家柄ではありません。』

『!そんなことはありません。騎士団長は国を守って下さっている我々の誇りです。アーサーも皆が認める立派な騎士ですから。』

『……プライド様。ならばまさか本当にアーサーを候補者の一人とお考えで…?』


立ち入り過ぎた問いだと、すぐに気がつきはした。

だが、私自身まだアーサーがプライド様の婚約者候補に選ばれたことに心の整理も完全にはついていなかった。いっそアーサーと実は既に恋仲か、もしくはカラムかもう一人の婚約者候補が本命である為の数合わせかと言われれば納得もできたものだった。……だが、プライド様は。


『ええと……それは……。……………あら?』


一度、慌てるように少し顔を赤らめた時はまさかと胸が逸ったが、……すぐに赤みが引いかたと思えばそのまま顔を硬直された。

まるで、たった今話していた内容を瞬時に忘れてしまったかのような、頭が弾いたかのような反応だった。その直後には本当に「ごめんなさい、何を話していたかしら」と困ったような笑みまで返された。

私も立ち入り過ぎた問いを自覚した後だったこともあり、二度目は聞かずその後はダンスに集中した。プライド様も本当に忘れたかのようにダンスを楽しまれておられた。今思えばあれは一体何だったのか。

時折、騎士にもあのような反応をする者はいる?凄惨な戦場を体験した後などに〝思い出してはならないこと〟を指摘された途端、防衛本能が働き思考や脳の働き自体が遮断された者の反応だ。だが、……あの会話で何故プライド様がそのような反応を?

アーサーとの関係に何かあったのか、いやそれにしては当時アーサーの様子に変化はなかった。ならば、何を思い出すことをプライド様はあの時拒絶されたのか。

クラークや誰かに相談しようにも、婚約者候補の話を含む内容を他言できはしない。だが、妙に引っかかる。

それに今はプライド様も婚約者候補どころの話ではない。寧ろ、その話すらこのままでは保留か破談になる可能性もある。そこまで私は考え、……ふと思う。


私は、……破談になって欲しいのか。それとも叶って欲しいのか。


大事なのは、……本人達の意思だ。私が介入すべきことではない。今はプライド様どころかアーサーの気持ちすらわからないのだから。

だが本人達の気持ちが何にせよ、もしアーサーがプライド様と万が一にも婚約となれば。…必然と、アーサーは騎士を辞することになるだろう。次期女王と結ばれるということはそういうことだ。王配としての職務は片手間でできるようなものでもなく、……戦場で命を捨てるような身になって良い存在でもない。王族の身でありながら騎士となり名を馳せた王子も過去には居たという。だが、騎士であり王配である者など当然ながら過去に一人も存在しない。そしてアーサーも、……そうなるだろう。

つい一年ほど前に、アーサーに私の席を奪ってみろと言った身としては……正直辛いものがある。

王配は素晴らしい存在であり、もし選ばれればそれは誉だ。だが別段貴族の生まれでもなく、むしろ騎士としての生き方に誇りを持ってきた私にはどうしても安易に喜べなかった。


「………。……今は、そのようなことを考える場合でもないな。」


長い溜息と共に、雑念を吐き出し振り払う。

今は何よりもプライド様の御身と御心を第一に案じるべきだ。何より、今のプライド様がクラークの話通りであれば到底次期女王として望まれることすら難しい。

プライド様が女王として相応しき身となり、国を統べる。その過程でどのような事象や行程が起ころうとも、私は騎士としてのそれに構えるのみ。



非が無き者の全て幸福に、納得の行く結末を迎えられることなど。

奇跡でもない限り、そう……在りはしないのだから。


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― 新着の感想 ―
[一言] そう言えば、一つ忘れていた。 アダムに狂わされた人物は、アダムに逆らえなくなるのかどうか。 アダムの残虐さを反映する人格になるのか。 こちらの理由も考えられるか。
2023/09/13 12:01 退会済み
管理
[良い点] プライドの変化に苦悩しながらも、助けられた事実を事実として其々覚悟を固めていく騎士達や、何気ない一言を覚えていて、彼女が破滅の道を選んだ事に気付いたジルベールが涙する所等、読み応えたっぷり…
2023/09/13 11:21 退会済み
管理
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