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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
傲慢王女と元凶

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443.騎士は、決める。


「お待ちしておりました、ティアラ第二王女殿下。」


……目の前に、美しい女性がいる。

あどけなさが残るが、女王とは全く違う清らかさを感じさせた彼女は……ああ、そうだ。


「突然の訪問なのに、お時間を作って頂いてありがとうございますっ!アーサー騎士団長。」

いえ、とんでもありません。と私は言葉を返す。

先日の誕生祭で招かれた際、一度だけ挨拶を交わした王女、ティアラ・ロイヤル・アイビー第二王女殿下。

昨日、ステイル摂政より第二王女であるティアラ様がこれから先は時折視察に足を運ばれるとのことで通達があった。ステイル摂政にとっても義妹であらせられるティアラ様だが、本当に姉にも義兄にも似ていないものだと思ってしまう。

あの二人とは似ても似つかない純粋な笑顔だ。ここまで曇りない清廉な笑顔も久しく見る。女王とも、あの薄気味悪い摂政とは大違いだった。


「とはいっても、ティアラ様にお見せできるようなものでもありませんが。どうぞ、お好きなだけご覧になって行かれて下さい。」

ありがとうございますっ!と目を輝かせ、案内した高台から騎士団の演習風景を眺める彼女に思わず顔が緩む。

……私にも、ああして騎士に目を輝かせた頃があった。

騎士に憧れ、父に憧れ、……そして純粋に目指したいと望んだ頃が。今やその動機も汚れ、憎しみと怨嗟に塗れてしまったが。

だが、やっとこうして父と同じ騎士団長になることもできた。今まで私を支えてくれた騎士、…そして今は何処に居られるかも知れないハリソン騎士団長のお陰だ。

まだ騎士団長になって日は浅い私だが、もう少し待てば女王の護衛も任じられる筈。そうすれば私はあの事故の真相をー……


「すごいですねっ……!こうして騎士の方々が毎日頑張って下さっているお陰で私達も民も平和に過ごせているんですもの!」


私の方へと振り返り、笑って下さるティアラ様に笑みを返す。やはり、淀みの一つもない清らかな笑顔だ。


「それが騎士としての役目ですから。………本来は。」

最後、思わず呟いてしまった言葉にティアラ様が「え?」と首を傾げる。

いえ、なんでもありませんと笑みを返せば少し心配そうな眼差しをされた後、再び演習へと目を向けられた。

……そう、本来であればそれが騎士の役目だ。

だが父が亡くなり、その跡を継いだクラークが死に、段々と女王の圧政は強まり騎士の役目もそこに淀みを溜めていった。

女王に逆らう者を粛清し、女王が望む国と争い、多くの民の血に騎士は手を染めている。……父が望んだ騎士はきっとこのような在り方ではなかっただろう。

一年ほど前にあったサーシス王国と元チャイネンシス王国の蹂躙戦。……私は当時、騎士団長に命を受けられずにフリージア王国の留守を任されたが、帰ってきた騎士は皆が虚ろな目をしていた。あれをきっかけに騎士を辞した者や自ら命を絶った者も少なくない。お陰で今も騎士団は人員不足に悩まされている。……それを何とかすることが私に課せられた役割の一つとも言えるだろう。


「騎士団長。……どうかなされましたか?」

ふいに、ティアラ様が再び心配そうに私の顔を覗く。

しまった、物思いに耽り過ぎてしまったらしい。ステイル摂政からはティアラ様がいらっしゃった時は片時も離れず警護するようにと仰せつかったが、……正直いまはこのひと時すら惜しいほどに忙しいのが現状だった。


「いえ、なんでもありません。」

「もしかしてお疲れなのではありませんか…?まだ騎士団長になって間もないとお聞きしましたし、もしお邪魔であれば」

「御心配ありません。……お気遣い頂き、感謝致します。」

鋭い女性だ。

ふんわりと花のような印象を抱かせる彼女だが、他者には鋭いのだろうか。純粋さ故の慧眼なのやもしれない。


「……こうして、ティアラ様がお見えになって下さることは、騎士達の励みにもなります。是非またいつでもいらっしゃって下さい。」

笑みで返し、王族へ無礼のないように頭を下げる。

私の言葉に照れたように顔を綻ばせたティアラ様は「はいっ!」と声を弾ませた。……この様子なら本当に頻繁に通われそうだ。




……こっちが忙しいとわかってンなら来ンなよ。




などと。……言えるわけもない。

いくら私の時間が忙しかろうが、疲労で騎士達の身体が悲鳴を上げようとも、王族の気にすることではないのだから。


「今度、何か差し入れをお持ちしても宜しいでしょうか?」

「いえ、そんな恐れ多い。……ですが、きっと騎士達も喜ぶでしょう。」

本当ですかっ⁈と目を輝かせて喜ばれるティアラ様に私も答える。

社交辞令か思いつきだろうが、まぁ実際に持ってくるとも思わない。王族が騎士に差し入れなど聞いたこともない。……いや、それ以前に騎士のことを省みてくださる王族など居はしない。


騎士団長であった父の死すら、…何も響かなかったのだから。


今でも、……当時のことは鮮明に覚えている。

父の死に嘆き悲しむ騎士と、ただ絶望することしかできなかった己。そして、どうでも良いことのように扱った女王。思い出せば怒りと憎しみが何度でもこの身に蘇る。目の前にいるこの純粋無垢な王女さえ、……あの女王と血が繋がっていると考えれば穢らわしく思えてきてしまう。


「……ティアラ様。」


憎しみと殺意を抑えるように、気がつけば私はティアラ様に自ら言葉を掛けた。

自分でもわからない。王族である彼女に、私は何を期待しているのか。

私の呼びかけに小首を傾げながら彼女は振り返る。金色に輝く瞳を真っ直ぐ私へ向けて言葉を待った。


「貴方様にとって、騎士とはどのような存在でしょうか……?」

不躾な問いにはなりますが。と苦笑しながら問う私に、ティアラ様は大きく瞬きをされた。どのような……と小さく口の中で繰り返し、そして次の瞬間には満面の笑みをこちらに向けられた。


「勿論、我が国の誇りですっ!アーサー騎士団長や騎士の方々、皆が素敵な存在だと思います!」

…本当に心の美しい女性だ。

私の望んだ答えをすぐに返して下さる。

更に、その言葉を紡ぐ笑みには何の取り繕いもなかった。心からのティアラ様の御言葉に心から私は感謝する。もし、現女王ではなくその御方が女王でおられればどれ程に救いだろうか。……いや。


「……ありがとうございます。その御言葉が我々には何よりの褒美です。」

それこそ、考えてもどうしようもないことだ。

私から感謝の意を込めて心から笑めば、ティアラ様の顔が俄かに火照られた。熱でもあるのか、少し心配にはなったがその後に返された笑みから推察して単に褒められたことに照れただけだと理解する。


第二王女、ティアラ・ロイヤル・アイビー殿下。

先日、婚約者を発表された彼女はひと月後にはサーシス王国に移られるだろう。

どうか彼女だけでも、異国では幸せになって頂きたいと思う程度には…気がつけば私は不思議と心を許していた。



私と父が愛した、騎士という存在を唯一認めて下さったこの御方に。



……




「アーサー!まだ畑にいるの?」


……母上から声を掛けられて、気がつくともう昼時だった。

プライド様が目を覚まして四日目。寝不足が続いていたけど、やっぱ今日も殆ど眠れなかった。早朝にはいつもの鍛練をして、母上が起きてきてから畑の手入れをして、……終わった後も畑から動けなかった。

気がついたらぼーっとしてて、目を開けたまま寝ちまってたのかなとぼんやり考える。


「……今、戻ります。」

たまに帰っては手入れをしてる畑は今年も順調で、あと二ヶ月もすれば美味い作物が取れるだろう。

家の中に入ると、母上が慣れた様子で昼食を出してくれた。湯気をたてたスープの香りに、思い出したように腹が鳴った。器を持った途端に、外の寒風で少し悴んだ手が解凍されてほぐれる。

一口直接飲んだ後、スプーンで掬いながら母上の話を聞く。プライド様の病は大丈夫かしら、貴方も心配でしょう、いくら食は進まなくても食べないと、今日も殆ど寝てないのでしょう、あの人も無理をしてないと良いのだけれど、と話す母上に相槌を返しながらも、はっきりとは答えられない。

そうしてる間にも店の方に客が入って来て、母上は話を中断して仕事に行った。俺も残りを全部食べ切ってから、食器が足りなくなる前に洗って片付ける。それから客の注文に忙しなく料理を始める母上の背中に声を掛けた。


「今日、店の方は手伝わなくても平気っすか。……外、出てぇから。」

「ええ、勿論よ。むしろ寝てなくて平気?」

振り返らずに返事をする母上は、木ベラを片手に俺へ手を振った。

夜はまた騎士団に帰るのでしょう?と確認を取られた後は、また客が入ってきた音で足を動かした。剣を腰に差したまま扉を開ければ、「無理はしないようにね」とわざわざ上着を持たせて送り出してくれた。

本当は料理だけでも手伝えりゃあ良かったけど、……今日はできる気もしなかった。プライド様のことを考える度、頭ン中がぐちゃぐちゃになって、……息するのすらしんどくって。


「………やっぱ、ここが良い。」


独り言を呟いて、結局また今朝と同じ畑に戻る。

もう手入れも終わったし、やることはねぇけど自分の部屋よりずっとここの方が落ち着いた。

畑の隅の木に寄り掛かり、腰を下ろせばまた長い溜息が溢れた。


「……ハリソンさん、ちゃんと飯食ってっかな。」

あの人、放っとくと本当に飯食わねぇから。俺と食うようになってからは、一日一食は少なくとも食ってくれてるし、出された飯は残さず食う人だけど。それでもあの運動量に絶対足りてるとは思えない。

そこまで考えて、そういやぁ昨日近衛騎士が一時停止と父上から聞いた時もあの人殆ど無反応だったなと思い出す。まぁ、父上とクラークの決定なら絶対あの人は従う。「あくまで一時停止なのですね」と聞いたらそれまでだった。

ハリソンさんもプライド様の豹変は知ってるし、もう色々勘付いているのかもしれない。俺が誘ったのにすぐ一時停止なんかになっちまったことに後で謝ったら「お前が謝ることではない」と言って消えちまった。……やっぱ怒ってンのかな。


「…………。……近衛、騎士。」

……止まっちまった。本当に、唐突に。

ずっと……プライド様を、あの人を守ると決めたのに。簡単に引き剥がされた。

今までが夢みたいにおかしかったんだって思うくらい、一気に現実に引き戻された。今はもう、あの人を守るどころか近付くことすらー……、…………違う。



あの人はもう、居ない。



『〝正常〟と見て良いのか、どうか。もし、今の姿こそが本来の姉君であれば……。』

ステイルの言葉が、頭から離れない。

思い出しちまった途端、また頭がグラついて次々とプライド様の事が頭を埋め尽くす。思わず座り込んだまま頭を抱えて項垂れた。

……今の、アレが本来のあの人だとすれば、本当に最悪だ。

面白半分に人を傷付けて、雑に扱って、嘲笑う。

あんな人がもしこのまま女王にでもなったら目も当てられないことになる。そんなの俺でもわかる。……でも、あの人はプライド様だ。

優しくて、強くて、格好良くて、誰にでも手を差し伸べて、父上を命懸けで助けてくれて、俺を救ってくれた人〝だった〟。

何度考えて思い返してみても、未だにあの人がプライド様と同一人物じゃねぇと思い込みたい俺がいる。もう全部が全部あの人とは正反対の王女様が、あの人と同じ顔で、声で、話すのを笑ってるようにしか思えなくて、思い出すだけで嫌悪感が胃を焼いた。


たった十年の、奇跡。


本当に、そうだったのか。

俺達が慕ったプライド様は全部仮物で、偽物で。本当に都合の良い夢を見ただけだったのか。

目を閉じれば、鮮明にまたあの人の笑顔が浮かんでくる。俺の名前を何度も呼んでくれて、優しく心から笑ってくれた。

……もし、あの人がこの十年の奇跡もなくあのままだったら、俺はどうなっていただろう。

顔を上げ、見慣れた畑を見渡せば、七年前と似た光景が目に映る。

十年前のプライド様が具体的にどんなンだったか俺は知らない。ただ、少なくとも今のあの人じゃ絶対に父上を救ってはくれなかっただろう。むしろ、笑って騎士団からの映像を眺めていた気すらする。

想像もしたくねぇのに、頭の中で崩れた崖に飲み込まれる父上や騎士の映像を指差し笑って見てるプライド様の姿が想像できた。怖気の走るあの笑顔と高笑いで。

アッハハハハ!と、生々しくあの人の笑い声が頭に響いてきて、今聞こえてるわけでもねぇのに手のひらで思わず両耳を塞ぐ。血脈の音が代わりに耳に直接流れてくれて聴覚を覆った。


「……っ。……どこ、……行っちまったんですか……。……プライド様…。」

どこにも行っていない。あの人は今も城にいて、きっと今も部屋の中で元気にしている。……誰より綺麗だった、あの心を失ったまま。

違う、失ったんじゃない。なかったもんが十年間だけ咲いていた。

頭を振り、必死に自分に言い聞かす。どうしてもあの人が〝戻った〟んじゃなくて〝変わった〟としか思えない。……思いたくない。

きっと、今のあの人じゃ七年前に父上も俺も救ってくれなかった。それ以前に俺もあの人に心の内を晒そうとは思えなかっただろう。



考えれば考えるほど怖くなる。



父上を失って、きっとずっとこの畑からも抜け出せなかった。

騎士になりたかったと内側で叫びながら、何もできなかった自分を今も呪い続けた。

ステイルにもティアラにもカラム隊長にもアラン隊長にもエリック副隊長にもハリソンさんにも騎士の人達にも出会えなくて、…父上に本音を言うことも、父上の気持ちも知ることもできなくて、一人この畑で腐って死んでいた。

七年前まで農夫に向かっていた筈の自分の手のひらを眺めれば、酷く震えていた。今は剣を握る為に鍛えられたこの手が、七年前と重なった。

七年前の、あのプライド様が居なければ絶対に避けられなかった俺の未来が、あまりにも現実味があり過ぎて。気がついたら手どころか全身まで震え出す。寒くはねぇのに、思わず自分の肩を交互に鷲掴んで丸くなる。



だめだ、あの人無しの人生なんて考えたくもねぇ。



『自分一人近衛騎士から外されるのと、近衛騎士ぜ〜んぶ廃止されるの。…どっちが嫌?』

答えられません、と。……そうとしか答えられなかった。

あの人が、どう答えてもきっとやることは変わらない気がして。それを止めたくて、微かな抵抗しか出来なくて、……それでも結局だめだった。

この十年が今のあの人だったら、絶対に今の俺はあり得ない。

本当に、存在全てが奇跡みたいなあの人じゃなかったら、こんな幸せな人生あり得なかった。最低だった十三年間の人生すら笑って誇れるようにしてくれたのは他ならないあの人だ。

あの人の為なら何でもできた、あの人の為なら何だって耐えられた。……なのに。


「……っ、………ねぇ……‼︎」

感情が、胸に収まらず口から零れた。

肩を掴む指に力を込めて必死に堪える。同時に込み上げてきた感情を力尽くで抑えつける。

俺の知る、俺を救って変えてくれたあの人はもう居ない。むしろ、最初から存在しなかったようなものなんだと思えば身体の中がぐちゃぐちゃに掻き乱されて息が詰まった。


『もし、再開されても近衛騎士を辞退したくなった場合は僕にご相談下さい。……希望は、叶えます。』

ステイルのあの言葉は、近衛騎士全員に対して。……つまり、俺に対しての言葉でもあった。

俺達の知るあの人と別人どころか正反対のプライド様を本気で守りたいと思えるのか、騎士の誇りにかけて本気で守れるのか。……俺達の知るプライド様が絶対許さねぇことばっかする、あの人を。


「ッ…………く、ねぇっ……‼︎‼︎」

もう、ぐちゃぐちゃだ。

本当のプライド様じゃなかった優しいあの人に、……どうか戻って欲しい。本物とか仮物とか関係ない。俺の全部を救って、全部を与えてくれたあの人が俺は良い。でも今の最悪な王女様も間違いなくプライド様で、あのプライド様が七年前に俺を救ってくれた過去も間違いない。だけどあの人は十年間とのプライド様とは別物で、でも、だけど、なのに、それでも。

頭の中がこんがらがって吐き気がする。

ステイルはあんなにすぐ腹を決めたのに、俺一人がうだうだ考えているのが情けない。


「……っ………しッ…くねぇっ……、」

今の最悪な王女のプライド様を守りてぇか?守りてぇに決まってる‼︎辞退なんかあり得ねぇ。今どんなに別物に変わっちまっても、あの人がプライド様なのは変わらない。七年前に俺を救い上げてくれた、今の俺を与えてくれたあの人の為なら何だってできる何だって我慢でき










「殺したくねぇよッ……‼︎‼︎」










……耐え切れず、とうとう感情が口から弾けた。

地面に向かって言葉を吐き出し、膝に額を擦り付ける。目の奥に熱いものが込み上げて、肩に爪を立てて耐え切った。震えが止まらず、誤魔化すように歯を食い縛る。


近衛騎士を、続けるのが怖い。


アラン隊長、カラム隊長、エリック副隊長、ハリソンさんが最終的にどうするつもりかはわからない。プライド様の近衛騎士を続けてくれるのか、騎士の誇りと民の為に支持できないと辞退するのか。……多分、後者の方が正解だ。

ステイルやヴェスト摂政、王配やジルベール宰相が今のプライド様をちゃんとした王女に教育し直すまで、どれくらいかかるかわからない。ただ、根っこから俺達の知るプライド様と別物になったあの人が、……王女らしい人になれる気が俺には全くしなかった。少なくとも、俺達の知るプライド様を越えられはしないだろう。

今の自分と全くの別物と比較されて、そっちの別物の方がずっと優秀で輝いていて、自分の顔を通して別物の面影ばっか追われる。……七年前、俺が苦痛で仕方がなかったことを、俺はよりにもよってプライド様にしようとしてる。最低最悪な人間だ。そして、その最低最悪な俺は





プライド様を、この手で殺すかもしれない。





『私がこの国の民の敵と判断した時は、真っ先にこの首を切りなさい』

……七年前に言っていた。

俺が、プライド様を守ると誓ったあの時に。

まだ、第一王位継承者といってもプライド様は王女だ。女王と王配がちゃんとしててくれれば、最悪の暴走は止められる。今の近衛騎士や専属侍女、近衛兵の停止も全部プライド様の標的になるような人間を出さねぇようにする為だ。制度だって、……今のプライド様にはとても任せられねぇと思ったからだろう。だけど


それでも、いつか今のあの人が暴走したら。


ぞわっ、と背筋に何かが気味悪く走った。

もし、今のプライド様がどこまでも暴走して、また教師に怪我させたみてぇに色々な人を怪我させて、傷つけて、王女の権威で酷いことばっかして、もし万が一にもそのままあの人が



女王になって、しまったら。



「……〝民の、敵〟……。」

間違いない、あの人は知ってた。七年前には既に。

自分がいつか、そういう人間になっちまう未来を。

やっぱり予知じゃないなんて嘘だった。あの人はずっと、そんな自分に怯えてたってのに。


「……変えられ……なかったンすか……?」

当てようもなく尋ねちまう。答えなんて返ってくる訳もねぇし、……なにより決まってる。

きっと、あの人の力でもどうにもならなかったことだということは。

今まで何度も予知をして、たくさんの人の人生を変えてくれたあの人なら絶対に変えていたに決まっている。そうしなかったってことは、……本当にどうにもならないことだったんだ。

人のことにはあんなに命賭けるくらい必死になるくせに、自分のことは簡単に諦めちまう。そういう人だから目が離せなかった。


「……嫌ですよ……。…………その為に、……俺を騎士にしたンじゃねぇでしょう……。」

知ってる、あの人はそんな人じゃない。

自分の為に他人を利用するような人じゃない。……ただ、そんなあの人が俺に願った。


〝真っ先にこの首を〟と。


本当に自分じゃどうにもならなくて、だからきっと止めて欲しいと願った。

いつ来るかわからない恐怖に怯えて、諦めて、最後の最後まであの人は俺達のことを想って生きてきた。

そして最後に、殺して欲しいと願った。

どんだけ残酷な願いだとわかっていても、それでもあの人は願った。それだけ本気で、……今の自分を止めたいと願ってる。

今は〝まだ〟民の敵とは言えない。最上層部が必死に今のプライド様を止めて、今度こそ女王に相応しい人間になるようにと努めてくれている。きっと、あの人の怯えた未来は今よりもう少し先のことなんだろう。

でも、……もし仮に今から俺がプライド様の首を刎ねても、十年間のプライド様は「良かった」と笑うような気さえする。止めるとしてもどうせ「いま私を殺したらアーサーが罪に問われちゃうじゃない!」とかそういうのだ。


「……そォいう人ですよね。……貴方は。」

自分で言って笑っちまう。同時に震えがやっと止まって、肩を抱く腕を緩めて降ろす。

顔を上げて空を見れば、もう大分時間が経っていて、随分ここに居たんだなと頭の隅で思う。

沈み始めようとする太陽がまだ眩しくて、手を開いて覆い隠す。漏れた光で自分の手が輝いてるみたいに見えた。


「………やっと、……届いたのに。」

嘆くばっかで何もしなかった俺が、騎士になって近衛騎士としてあの人の傍にまでいられるようになって、あんなに近くにあの人を感じられるようになれた。

笑い掛けてくれる度舞い上がるぐれぇに嬉しくて、名前を呼んでくれれば心臓が高鳴って、頼って貰えれば死ねるほどに誇らしかった。


なのに今は、その近さが怖い。


近衛騎士が再開されて、またあの人の傍にいるようになったら。……それはいつでもあの人を殺せる場所に居るってことになる。

いっそ近衛騎士を辞退すれば、あの人を殺す機会もなくなる。俺は騎士で、あの人は王女だ。簡単にこの剣が届かなくなれば、……あの人を殺さないで済む。

次もし再開された近衛騎士へ戻ればきっと、今のプライド様の背中を見る度に殺すべきかどうか考え続けることになる。そんな毎日、次は俺の方がどうにかなっちまう。

離れれば、忘れたふりもできる。

昔の優しかったプライド様だけを思い出にして、今の〝変わってしまった〟プライド様を嘆いて、時代の流れに従って、騎士団の一人として〝別物になった〟プライド様を斬らなきゃいけなくなった時に剣を取れば良い。それが、一番良い。


……だけど。


「プライド様……。」

沈み始めた夕陽が、あの人の髪と同じ色に染まっていた。

目に移るもの全てがあの人の色に満ちて、一瞬本当にこの場にあの人がいるような気さえした。

あの人が愛した国が、あの人の色に照らされた。


「……あの日の誓い……。俺に、守らせてくれますか……?」


やっぱり俺は、目を逸らせない。

最後に辿り着いちまった答えは、あまりにも単純で身勝手で。

あの人の最期の願いも、怯えも、苦しみも知っちまった上で、俺が俺としてあの人にできることなんて本当に僅かしかなかったから。


「その為に、……どうか許して下さい。」


俺の全てを変えてくれて、救ってくれた。

欲しくて欲しくて堪らなかった全てを与えてくれた。

俺の世界を変えてくれた、幸福を貴方がくれた。

父上の恩人で、騎士団にとっても憧れの人。

あの人の為なら命だって惜しくはない。

姿形以外の全てが変わってしまっても、……やっぱりあの人との過去まで別物にはできない。

今のプライド様も、どうしようもなく〝あの人〟だから。


陽が沈む。

赤から黒へ色を変え、ゆっくりゆっくりと夜に落ちていく。冷たい風が頬を擦って髪を束ごと揺らした。

その場から立ち上がり、剣を抜く。空を見上げれば本当にうっすらと月が浮かんで見えた。三日月の端が、まるで今のあの人が高笑いを上げた口端みたいに見えて。


「〝その時〟が来たら。……貴方へこの剣を向けることも。」


月に向け、刃を掲げる。

いつか絶対来るだろうその時に、俺はもう躊躇わない。

たとえ、相手が誰であろうと絶対に止まらない。

あの人との誓いを守る。その為なら俺は











『貴方の剣は、愛する者を護る為に』












本当に、何を失っても構わない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 病と無縁の畑、あまりに強い
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