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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
傲慢王女と元凶

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442.騎士達は飲み込む。


「…なぁ。…アーサー、大丈夫だと思うか…?」


グラスを揺らしながら、アランはガタンと椅子を傾けた。

自室に招いたカラムとエリックへ言葉を投げ掛ければ、二人はグラスには手を付けないまま首を横に振る。アランの行儀の悪い足癖を指摘することもなく、言葉を反芻しては顔を険しくさせた。

いつものアランの部屋。いつもの演習後の夜更け、いつもの酒とグラス。そこに集まった近衛騎士。……だが。


アーサーの姿は、無い。


「……明日が休みだからって、演習終わってすぐに帰っちまったからなぁ。」

今までもアーサーが実家を手伝う為に前夜に帰ることは度々あったが、このタイミングで心配にならない方がおかしい。去り際のアーサーの背中を思い出し、アランは大きく溜息を吐いた。


「今朝から元気、…ありませんでしたからね。」

そう言ってエリックは苦笑いをして見るが、どうにも上手く笑えない。

演習中、近衛騎士の中でも一際明らかに沈んでいたのはアーサーだった。騎士隊長としての仕事はしっかり果たしていたが、あまりにも言葉数も少なく、何より覇気が欠片もなかった。更には手合わせ中は相手に集中していたが、休息時間になれば何度も壁に頭をぶつけ、放心し、転ぶ事もしばしばあった。今ならばハリソンから奇襲を受けたら即死だろうと騎士達が思う程度には。

プライドの回復、箝口令、その二日後には近衛騎士の一時停止。騎士団長のロデリックだけでなく、騎士団の誰もがその不穏を感じ取っていた。だが、近衛騎士の彼らは箝口令とステイルからの機密情報どちらも他の騎士達に説明することはできない。ロデリックすら、王族からの通達以外プライドの異変すら知らされてはいないのだから。


「無理もない。ステイル様からあのようなことを知らされたのだから。」

カラムの言葉にアランとエリックは同時に眉を寄せた。

昨晩のステイルからの言葉を思い出し、自身の胸まで酷く騒いだ。

カラムも、昨晩の話から心の整理がついた訳ではない。アランもエリックもまた演習中は表に出さないようにと努めたが、きっと違和感は出ていただろうと自覚はある。その証拠に近衛騎士の一時停止について、騎士の不備ではないと報されているにも関わらず、誰もそれ以上彼らに容易に何があったのかを尋ねてはこなかったのだから。箝口令を理由に話せないと断る必要もなく、城内の不穏と近衛騎士達からの違和感に誰も何もカラム達に追及できなかった。


「……俺さ。今日聞いたんだよ、副団長に。」

唐突にアランが声を上げる。

何を、と二人が顔を向ければアランは視線をグラスに向けたまま言葉を続けた。いつもの彼とはかけ離れた沈みきった横顔にカラムまでもが別人かと一瞬思ってしまった。


「十年前のプライド様。……やっぱ、噂通りだったってよ。」

グビッ、と喉の奥の蟠りを酒と一緒に飲み込んだ。

アランの言葉に「副団長に感づかれてしまったどうする」とカラムが一言注意をしたが、それに関して「俺からは何も言ってないって」としか返事を返さなかった。だがアランがそれでも確認せずにはいられなかったのだと、それも二人はわかってはいた。

十年前のプライド。今の彼女はただそれに戻っただけだと。俄かには信じられないが、ステイルの話を聞いた後では疑う事も難しい。


「……それでも自分は。……やっぱり受け入れられません。」

ぼそり、と小さな声で返したのエリックだ。

グラスの水面を眺めながら、地につくような垂れ下がった声を漏らした。場を和ませることの多いエリックの、一人鬱々とした表情は痛みも滲んでいた。


「自分にとって、プライド様は……恩人です。ですから、今でも本当に何か悪い病にかかったか、別人なのではないかとしか思えないんです。」

情けない話ですけれど。と力なく笑うエリックの顔は全く笑顔ではなかった。

悲しそうに眉を垂らして告げる現実逃避のような言葉こそ、まる一日考えた時点で行き着いたエリックの答えだった。


「なので、……アーサーの戸惑いも少しはわかる気がします。アーサーにとってプライド様は、人生を変えてくれた人ですから。」

そこまで告げてから、喉の奥が少しだけ突っかかった。

これ以上は話すとまずいと思ったエリックは、一度唇を絞るように固く閉じた。

エリックにとってもまた、プライドは大事な存在に他ならない。人生の大小さえ関係なければ、エリックもまた間違いなくプライドによって人生を変えられたのだから。

両腕をテーブルに付き、黙り込むエリックにカラムはそっと肩へ手を置いた。


「……わかっている。私達にとっても、プライド様の存在は大きい。」

そう言って二度優しく叩かれれば不出来な笑みが崩れ、エリックは堪える為に片手で顔を覆った。何とか込み上げるものは抑えたが、感情の波が酷く彼を襲う。


それほどに、ステイルの言葉は残酷だった。


彼らの知るプライドがもう居ない、事実上は死んだと同義のように思えるほどの語り、全てが。

エリックをそっと宥めるカラムが彼の言葉を引き継ぐように口を開き、続けた。

「……そう簡単に、飲み込めるような話ではない。変わってしまったとはいえ、我々が守ると誓った御方だ。」



「もう俺達の知るプライド様じゃねぇのにか?」



カラムの言葉にアランが息継ぎする間もなく返した。

淡々としたアランの言葉に、カラムは歯を食い縛る。アランの言うことは尤もだった。もし、今のプライドがこの十年間の彼女と別人であると言うならば、彼らが忠誠を誓った彼女とも別人ということになる。何よりあの性格と振る舞いだ。もし、初対面があのプライドであれば、間違っても第一王女の近衛騎士になりたいなどと誰も思わなかった。

そして今、他者を傷つけ、同盟国の王族にすら関係を危ぶませるような行為を犯す彼女を次期女王にすることすら不安を覚えるのも事実だった。守る価値どころか、いっそ不幸に見舞われてしまった方が国の為だと考える人間が出てくるだろうと思うほどに。


「絶対、今のプライド様が公になったら敵増えるよな〜。……それこそ、俺らじゃ守りきれねぇくらい。」

毒殺、事故に見せかける、奇襲、夜襲。方法なんていくらでもあるぞと指折り数えて続けるアランは酷く落ち着いていた。

エリックの気持ちも考えろと言いたい衝動をカラムはぐっと堪えた。……アランがそれを言葉に発せるということは、既に何度もその事実に胸を裂かれ、のたうち回った後だからに違いないのだから。

視線を自分の揺らすグラスに向けたままのアランは、数度指折り曲げ伸ばすを繰り返した後にやっとカラムへ目を向けた。


「どうするよ?今度こそ近衛中にプライド様に死なれでもしたら。今のプライド様じゃ俺らの話も聞いてくれねぇだろうし、死ぬどころかかすり傷一つでも処刑とか騎士団全体の責任にされるんじゃねぇ?」

あっさりと。あまりにも絶望的なことを他人事のように言い切るアランの様子は昨晩のステイルとも少し似ていた。

まだグラス一杯にも満たない量しか飲んでいないのに、酔っているのかと言いたくなるほどの平然とした言い方だった。先ほどと変わり、明日の天気を尋ねるかのようなアランの表情にカラムは眉間に皺を寄せる。

まるで、このまま近衛騎士から続けることを……それどころか近衛騎士をプライドに付けること自体を反対するかのようなアランの言いように身体中の血が凄まじい速さで駆け巡る。

アランの言葉に頭が逆に冷え、何とか堪えきれたエリックも顔を上げ、信じられないものをみるような目でアランを見た。

アラン、と少し強めにカラムが声を掛け、はっきりさせるべく彼へと問い掛ける。

「そういうお前はどうするつもりだ。もし、再び近衛騎士を任じよと打診を受けたら。」




「そりゃあ死ぬまで守るよ。絶対にさ。」




再び躊躇いのないアランの言葉が返された。

予想と反した返答に、今度こそカラムもエリックも言葉を無くす。それに対し、アランは「ん?」とわざとらしく首を傾げた。それでも二人が口を開けたまま固まっている姿に「いやいやいや」と困ったように笑ってみせた。


「俺のはもう決めちまったことで、なんつーか自己満足みてぇなところがあるからさ。騎士団とか民の為になるかもわかんねぇよ。」

だから俺に合わせることねぇから、と言い切るアランは今度こそグラスの中身を飲み切った。

カンッ、と軽くグラスをテーブルに着地させたアランは、再び酒をグラスに注いだ。


「……でも、……それでも守りてぇんだ。十年で昔に戻っちまったっていうなら、また十年後には変わってるかもしれねぇし。……二十年後には会えるかもしれねぇから。」

途方もない、夢物語だ。

それも、アランが誰より自覚していることは二人もわかった。その上で、待ち続けるつもりなのだということも。既にそれほどにアランの意思は固かった。


プライドから賞賛の証を受けた、あの日から。


プライドを守る。

それはもう、アラン自身の体裁程度では変えられないほど頑なに。

だからよ、とアランは未だに言葉を返してこない二人にヒラヒラと明るく手を振ってみせた。まるで、この場で道を分かつかのような仕草で。


「俺はもうそういう死に方って決めてるから。お前らまで泥被る必要はねぇよ。」


な?と敢えて軽い口調で笑うアランの姿に、何故か途方もなく二人は胸を締め付けられた。

更にはアランのその言葉が、カラムへの揶揄も含まれていることはカラム自身嫌なほどよくわかった。

プライドを守る為、恥を晒しても騎士として残ると二人で決めたあの日のことを。

あの日の約束とこれは別だと。カラムとエリックまでもが今のプライドを守る為に身を張る必要は無いと。

自分達が言葉を見つけられずにいる間も、アランは平然と「勿論騎士団の意思には従うつもりだから」「あの人の間違ったことにまで従うつもりはねぇから」と話し続けた。


「……っ、……わかっているのか。今のプライド様は、……このままでは悪しき独裁者にもなり得るぞ。」

あまりにも一人死地へ去るかのようなアランの笑顔に、耐え切れずカラムは歯を食い縛る。

今度はギリッ、と音が響くほどに強く噛み締めた。だが、変わらずアランはテーブルに頬杖をつくと「わかってる」と短く答えた。その返事がまた大きくカラムの内側を引っ掻いた。


「もし、プライド様が昨日のようなことを犯せば。」

「止めるよ。今度は怪我人が出ねぇようにしないとな。」

「もし!プライド様の御心が二十年先も変わらなければ……!」

「なら、三十年先だな。」

「……もし、万が一革命などが起き、民の為にプライド様を裁かねばならなくなった時は。」

「騎士団に従うって。……これでも、俺は騎士だからな。」

「三十年先でもか。」

「騎士団と民には絶対剣を向けねぇよ。」


カラムのどんな言葉すら、アランは躊躇わずに答えた。

飄々としたアランの態度にカラムはテーブルへ拳を突き立てた。特殊能力を使いはしなかったが、それでもテーブルはけたたましい音を響かせた。勢いのまま立ち上がり、新たに酒を注いだグラスを再び傾けようとするアランの胸ぐらを両手で掴む。突然のことに少し目を丸くしたアランは、波打ったガラスをテーブルに置き、カラムへと掴まれるままに向き直った。


「ッお前が‼︎……プライド様に刃を向けられるものか……‼︎」


噛み締めるようなカラムの叫びに、アランは両手を軽く上げてみせた。

自分からはカラムに何をやり返すつもりもないと示すアランに、カラムは掴む手に力を込める。

プライドをどこまでも慕うアランが、プライドに剣を向けられるとは思えない。もし本当に騎士団が革命を起こさないといけない事態などが起きれば、アランはその剣を騎士にも民にも、…プライドにも向けず誰より先に己自身へ突き立てるのだろうと確信が持てた。

アランがそういう人間なのは、騎士団の誰もが理解していることだ。


「私は!……騎士である己に誇りを持っている……‼︎もし、騎士としてあの御方を裁かねばならなくなればっ……ッいやそうなる前に!もしあの御方が引き返せぬほどの一線を越えれば私は騎士として必ずこの剣を取るぞ‼︎」

「……その時は、邪魔しねぇようにするよ。」

ヘラっと、力なく笑うアランはもう覚悟しかなかった。

とうとう怒りでカラムの握る手が震え出し、次の瞬間には乱暴にアランを突き飛ばすようにして手を離した。静かに笑うアランを睨みながらカラムは荒くなる息に合わせるように自分の首元を緩めた。


「……ッだから、私も近衛騎士を止めるつもりはない!」


食い縛った歯を見せながら睨んでくるカラムに、アランは少しだけ意外そうに大きく瞬きを返した。

だが、それ以上は止めることも肯定すらせずに「そっか」とだけ答える。自分と同じようにカラムの覚悟も他者に簡単に変えられるものではないと知っている。


「このまま続けば遠からずプライド様は処罰を受ける。そうでなくとも女王になれば必ず綻びが生じるだろう。……ッもう泥は一生分被った‼︎私はあの御方に審判が下される時まで共にいる。」

それが騎士としてのけじめだと。そう言い放つカラムは、最後に剣を抜く。

剣先を敢えてアランに向ければ、その眼光は鋭く真っ直ぐに彼の首筋に照準を合わせた。


「その時は私の決断の方が先だ。たとえあの御方であろうとも、そしてお前が阻もうとも!……私はこの剣を躊躇いはしない。」

民の為ならば騎士としてプライドもアランも斬ると。そう決意したカラムにアランはやはり何も言わなかった。

それがカラムなりに考えた、自分が慕ったプライドと友であるアランに唯一してやれる最善だった。

感謝も謝罪も全てを含めた笑みだけでカラムに返したアランは、席につく前にグラスを揺らす。

そのまま再び座ろうとした途端、ずっと黙していたエリックが「自分は」と口を開いた。

振り返り、顔を向けるアランとカラムに、エリックはうつむかせた顔のまま声を搾り出す。


「……………………自分は、……。……っぱり、…駄目です……。」


ぽつん。と雨水のような言葉は、いつになく酷く弱々しいものだった。

肩を震わせ俯くエリックの顔は二人からは見えない。それでも続きを促すことなく、二人はエリックが自分から語るまで待ち続けた。何度も自身の拳を握り直し、歯を軋ませたエリックは暫くしてやっと再び言葉を生成した。


「プライド様は、……今のままでは……っ、……また多くの人を傷付けるかも、しれません……。」

単なる令嬢ならば、ここまで悲観的にはならなかった。だが、相手は次期女王。そうすれば一人の問題では収まりきらなくなる。


「プライド様にも……今の、我々は……必要とされてはいません……。」

何度も何度も思い出す。

今まで想像もしなかったプライドからの邪険の眼差し。それを向けられる度、エリックだけでなくアランもカラムも自身の胸に棘が刺さった。どれほど今まで、自分達は当然のように暖かな眼差しばかりをプライドから受けてきたのかを実感するほどに。


「……もし、本当にカラム隊長の仰る通り、……プライド様が討伐すべき人間になられたら、……騎士として近衛騎士の我々も、……名を汚すでしょう。」

それもまた、アランもカラムも既に理解している。

だからこそアランは自分以外を巻き込みたくないと思い、カラムもまた既に泥を被る覚悟を決めた。そしてエリックは




「………それでも、……やっぱり駄目なんです。」




小さく、エリックが顔を上げる。

口だけが笑うように緩ませながらその目から既にパタパタと涙が滴り落ちていた。

顔を上げた拍子に首に伝っていた水滴が、今度はテーブルに落ちて染み込んだ。涙を拭うこともせず、エリックは泣いて僅かに赤らんだ顔のまま言葉を紡ぐ。


「自分にとっても、……っ。……やはり、プライド様は特別で。……頭ではわかっていても、もうっ……以前のプライド様に一生お会いできないと理解はできても……っ。」

アーサーほどではない。あそこまで人生全てが変わった訳じゃない。それでも、エリックにとってもどうしようもなくプライドとの記憶は手放しがたかった。


「………できません。……やはり自分がッ……自分の方から、あの方を……プライド様を切り捨てることは、できません。」

そこまで言い切るとエリックは片手で顔を拭った。

すみません、と小さく隊長二人に謝りながらやっと大きく息を吐き出した。肩ごと息を吸い、吐き出すのを繰り返せばやっと気持ちも喉も落ち着いた。


「……アラン隊長やカラム隊長のような強い覚悟ではないかもしれません。ですが、……自分もまた最後までプライド様の近衛を選びます。」

お二人に戦って勝てる自信もありませんが。と笑ってみせたエリックの瞳もまた覚悟の色をしていた。たとえ自分が選択に迫られ、どちらを選んだとしても。きっと二人のどちらかに自分は斬られるのだろうと、……そう思いながら。


「ただ、………自分にはもう、この選択しかありませんから。」

最後のエリックのその言葉に、それは自分もだと二人は思った。

自分達の慕うプライドは返って来ない。

今のままのプライドでは必ず破滅が待っている。

たとえ、今のプライドが改心してもそれは自分達が知る十年のプライドではないかもしれない。


それでも、騎士である彼らは既にプライドと共に死ねる覚悟はできていた。


言葉をそれ以上交わし合うことも、鼓舞し合うことも三人はしなかった。自分達の決断が本当に正しいのかすらわからない。

ただ示し合わすようにグラスを手に取り、一度で三人は同時に中身を飲み切った。




互いの覚悟を、認め合うことなく飲み込んだ。


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[良い点] 涙が出ました。 近衞騎士…
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