409.絶縁王女は浮き立つ。
ティアラ主催のダンスパーティー。
一ヶ月ほど前にティアラ自らが提案した催しだった。
当時十六歳の私が学校制度を提案したように、ティアラも何か自分主催の発表かイベントをしたいとジルベール宰相に相談したのが始まりだった。そこから母上や父上、ヴェスト叔父様も交えての話し合いを続け、ティアラ自身の力で企画した催しだ。
ゲームでは当然そんな素敵なイベントは無い。ティアラはずっと離れの塔にいたのだから。
「お姉様、兄様、宜しくお願いしますっ。」
嬉しそうに顔を綻ばせるティアラに、私もステイルも応えた。
誕生祭でのダンス披露会は、ティアラ主催の初の試みということもあり小規模なものだ。大広間の中央で、私とティアラ、そしてステイルがその場で選んだ来賓と一緒にダンスを披露する。
一曲ごとにステイルは自分から来賓の女性に、私とティアラは手を差し出してくれた男性の中から手を取って選ぶことになっている。ダンスパーティーというよりも、実際はダンス披露会に近い。
本当は最初に自分の婚約者と踊る筈の私達だけれど、まだ候補者すら秘匿の状態だ。だから、今回ティアラが最初に選ぶ相手は凄く注目される。
前奏に乗って、優雅に歩むティアラへ多くの男性陣が手を差し出した。妙齢の男性だけではない、王族とのダンスは誉だ。年齢、婚約者や妻の有無関係なくティアラが一歩進むたびに近くの男性は皆、当然のように手を差し出した。事実上、この大広間中の男性と王女はダンスをする権利があるのだから。
その中、ティアラは一歩一歩小さな足取りで歩み
セドリックの、手を取った。
あまりにもあっさりと取られたことに、セドリックが目を丸くしていた。
来賓の手前、王女らしくにっこりと笑うティアラの笑顔が直撃したセドリックの顔が一気に茹で蛸のように赤く燃え上がっていた。信じられないように目を丸くして金魚みたいに口をパクパクさせている。最後はティアラに重ねた指先だけで引っ張られると、丸い目のまま口を一文字に結んでしまった。最近はずっとティアラの怒った顔ばかり見ていたから余計に破壊力があるのだろう。……気の所為か、笑顔を整えていたティアラまでも僅かに頬が火照ってきている気がする。やっぱり初めての催しだし緊張しているのかもしれない。
セドリックの両脇に立っていたランス国王とヨアン国王が思わずといった様子でセドリックの反応に笑っていた。二人とも緩んだ口元を隠すように手で押さえながら、ティアラとダンスフロアへ歩んでいくセドリックに凄く柔らかい眼差しを向けていた。にこにこと笑っている二人は本当に嬉しそうだ。
以前、ハナズオ連合王国で行った祝勝会のダンス。
ティアラは、あれを是非フリージア王国でもやりたいと思っていたらしい。
我が国でも社交界や城でも大規模なダンスパーティーはあるけれど、王族だけが来賓とダンスを披露するような催しはなかった。だからこそティアラは自分の誕生祭をきっかけに是非、我が国でもそれを組み込みたいと思ったと話してくれた。
一年前、セドリックは色々あって祝勝会で私達とダンスは踊れなかった。そんな彼にとって、初めてのティアラとのダンスだ。嬉しくないわけがないだろう。金色の髪が二人同時に歩いた途端に優雅に靡いてキラキラと照明に反射した眩しさと、何よりその美しさに私まで思わず溜息が出てしまった。
そんなティアラとセドリックの姿を眺めながら、私もパートナーの手を取る。少し指先に力を込めると、優しく包むように握り返してくれた。応えてくれたことが嬉しくて、私は視線をティアラ達から彼へと向けて笑い掛ける。
「宜しくね、ステイル。」
「喜んで。」
私の義弟、ステイルとのダンスが一番初めのスタートだ。
誕生祭の主役のティアラが最初に好きな相手を選び、私とステイルが姉弟同士で踊る。もし、このダンスパーティーが定着すれば次の私の誕生祭ではティアラが最初にステイルと踊ることになるだろう。
今までもダンスパーティーでステイルとは何度か踊ったことはあるけれど、こうして来賓の注目を殆ど一身に浴びてると思うと流石に少し緊張する。今までみたいに紛れるダンスじゃない、たった二組のダンスを来賓全員が注目するのだから。
ステイルと手を取り合いながら、私もダンスフロアへと入った。ティアラとセドリック達とぶつからないように距離を置き、来賓へと向き合う。
膝を使って礼をした後、とうとう音楽が始まった。
私達は互いの手と背に添え、見つめ合った。
私とステイルとティアラ。
一組目のダンスの始まりだ。




