398.無関心王女は聞き、
「……申し訳ありません。我が妹のティアラが…。」
はぁ…、と私は思わず溜息を吐き出した。
目の前には、母上との会合の為にわざわざ足を運んでくれたランス国王、ヨアン国王、そしてセドリックが並んでいる。私も第一王女としてティアラと一緒に近衛騎士のアーサーとエリック副隊長を連れて出迎えた。
ステイルはジルベール宰相のお手伝い中だし、多分ハナズオ連合王国と母上の会合が終わる頃には休息時間を得られる筈だと話していた。
そして今、セドリックは早速項垂れている。「こちらこそすまない…」と呟きながら金色の髪が垂れて彼の顔を隠した。国王二人が肩へ手を置いて不憫そうに苦笑いをしている。そりゃあ苦笑いもしたくなる。だって
セドリック達と挨拶を済ませた後、逃げるようにティアラは部屋に戻っていってしまったのだから。
…うん、今回はセドリックにも不備はなかった。それは私も理解している。ただ、今までの行い…というかまず第一印象がアレだったし、仕方ないといえば仕方ないし自業自得なのだけれど。
それでも、やっぱりここまでティアラに猛烈片思い中のセドリックを知ってしまうとどうしても同情してしまう。
防衛戦…セドリックがティアラに告白してから半年以上が経過している。それから式典とかで顔を何度か合わせたセドリックとティアラだけれど、未だにお友達ポジションにすら遠そうだった。
私達への赤面癖もある程度治った。更にティアラに対しても赤面せずに普通に話せるようになったらしいセドリックだけど、当の本人は未だにお怒り中の為、どうしても仲良くお喋りの域までいかない。
二人の会話は一回手助けした時以外は知らないけれど、セドリック曰く前と変わらずの一方通行らしい。その上、ステイルの誕生祭の時もティアラの機嫌を傾けてしまったままだとか。……駄目だ、考えると余計不憫になる。誰とでも分け隔てなく仲良くなれる天使のティアラへ一方通行だなんて。もし私がそうなったら確実に泣く自信がある。
「母上は王宮でお待ちです。是非この後またお話ができれば嬉しいです。」
お帰りの時間に、御都合が合えば。と伝えれば国王もセドリックも是非、と頷いてくれた。
今回はセドリックも含めた三人での母上達との会合だ。従者や兵士を連れて母上の元へ衛兵に案内されていく三人を見送ってから、私は宮殿へと戻った。…ティアラの様子を確認する為に。
……
「おっ…お姉様ごめんなさい…!私っ…!」
玄関から中に入ってすぐ、ティアラが青い顔で出迎えてくれた。
すごく慌てた様子のティアラに、専属侍女のカーラーとチェルシーが心配そうに寄り添っている。
多分、その場から離れた後すぐに無礼だったと我に返ったのだろう。一応挨拶はしてくれたし、ちゃんと断ってから奥に引いたのだからそこまで問題はないのだけれど。
敢えて言えばなかなかの露骨っぷりだったので、セドリック本人にでなくてもティアラが彼を避けて逃げたのはバレバレだろうなぐらいだ。青い顔で謝ってくれるティアラに思わず笑ってしまいながら、ゆっくりと私は言葉を返す。
「大丈夫よティアラ。誰も怒ってなんていないから。」
お部屋で話しましょうか。と言って、ティアラを私の部屋に招く。
寛ぎ慣れた部屋で少しティアラも落ち着いたのか、私が専属侍女のマリーに紅茶をお願いした頃には、ソファーに寄りかかりながら大きく深呼吸をしていた。いつものティアラの様子にアーサーやエリック副隊長もほっとしている。
「………なんだか、セドリック王子はよくわからなくて。」
ぽつん、と小さなティアラの声が部屋に浮かぶ。
私もティアラの隣に掛けながら、わからない?とその言葉を聞き返すとティアラは少し甘えるように私に寄りかかりながら頷いた。アーサーとエリック副隊長が聞いているし、直接的な言葉では聞けないけれど、せめて話すことでティアラの気持ちが少しでも落ち着けばと話をそっと促す。
「あの人は、…変です。絶対。」
ぷくっ、と膨らませたティアラの頬が可愛らしい。
怒ったような表情をしながら、手元は穏やかに膝の上へ重ねていた。
まぁ確かにね、とティアラの言葉に私も苦笑する。セドリックの態度は変わり過ぎている。特に私やティアラに対しては。それに何も知らないティアラが戸惑うのも当然だ。
マリーが淹れてくれた紅茶を、カーラーがそっと手渡してくれる。私も自分の専属侍女のロッテから受け取りながらお礼を伝えた。
「お姉様にあんな酷いことして、なのに時々……で、泣き虫で甘えて、お姉様を今はお慕いしてて。なのに、………。それに…今は、時々いじわるです。」
途切れ途切れに小声で呟くティアラは、熱々の紅茶の水面をふー…と吐息でひと撫でした。
ティアラの言葉をうんうんと聞きながら、ふと最後の一言に首を捻る。…いじわる⁇いつセドリックがそんなことを言ったのだろう。ステイルの誕生祭の時だろうか。
まさか知らない内に不敬でも、と何を意地悪されたのか聞いたけれどティアラは首を横に振って教えてくれなかった。「不敬とかではありません。…でも」と零し、その後はティーカップにそっと口をつけた。火傷に注意しながら飲むティアラを眺めながら、私はアーサーとエリック副隊長に目を向ける。
当然二人もわからないらしく、戸惑うような視線を私に返してくれた。まさかセドリック、好きな子にいじわるしたくなるとかそういうのだろうか。もしそうなら私からしっかりセドリックに注意するべきかと少し真面目に考える。
紅茶を一口飲んだ後、一度カップを皿ごとテーブルの上に置いたティアラは私の肩に軽く小さな頭を傾けるようにして乗せた。
「………ですけど、さっきのはあまりに私が失礼だったので、この後お会いした時にきちんと謝ります…。」
ふぅ…と大きく溜息をつくようにティアラの肩が下がった。
まるで怒られた後みたいに眉を垂らしたティアラに私はそっと頭を撫でる。
セドリック達が今日我が城に来るのは分かっていたことだけれど、なかなか心の準備が間に合わなかったらしい。単純にセドリックからの告白をされたこともそうだけど、これから先のことに不安や心配とかもあるのだろう。気持ち的に不安定になってしまうのも無理がない。だって
あと二ヶ月後にはティアラの十六歳の誕生日があるのだから。
とはいっても、ティアラの婚約者候補の確定は十七歳になってから。まだ一年ある。
それでも、十六歳で女性として認められたら周囲の環境もきっと変わってくるだろう。十六歳になったティアラは、これから私やステイルと一緒に国外の社交会に出席することも一気に増える。
私が十六歳になる頃は、学校制度で頭がいっぱいで細かいこと…どころか婚約者の存在すら忘れていたけれどティアラはそれが無かった分、色々考えてしまって当然だ。
「大丈夫よ、ティアラ。私とステイルも、…皆がついているわ。」
そう言って私からティアラの頭から長い髪、そして背中を撫でる。そっと反対側の肩に手を添えて抱き寄せると、ティアラがコクンと頷いた。それでも、やっぱり不安が込み上げたのか、私からも隠すように小さな細い手で目元を拭った。
それから暫く二人で寄り添いながら、私達は時間が経つのを待った。
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