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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
無関心王女と知らない話

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393.貿易王子は城下を巡る。


「あ…ああああぁぁ…いやだ…いやだ…駄目だ駄目だだめだ…。」


震える手で頭を抱え、歯を鳴らす。

…それが、僕の人生の全てだ。

部屋の隅に縮こまり、誰にも見つからないようにと固くなる。頭と共に耳を押さえ、荒くなっていく息音だけに聴力を集中させる。

カーテンに覆われた窓から、うっすら差し込む夕陽すらもまるでナイフを向けられているかのように恐ろしい。夕陽で真っ赤に染まった、…真っ赤な…



『〝嫉妬しちゃう〟わぁ…』



ドクン、と言葉が過った瞬間に血が激しく身体中を駆け巡った。

恐怖と不快感に全身が総毛立ち「あああああああああああああああっ‼︎‼︎」と叫び。必死に脳裏の声を打ち消そうと抗う。


違う、違う、彼女はもう、いま、居ない!さっき、帰った、つい、今さっき、ちゃんと、帰、帰ってくれた‼︎居ない居ない、居ない!ここには、居ない!大丈夫、誰も、誰も、誰も人も何もっ…


必死に自分で頭を落ちつけようと考えながら、それでも全身でバタバタと暴れ、踠かずにはいられない。彼女に触れられた頭がまるで生き血を浴びせられたかのように生温く燻り、あの声が舐められたように耳にこびりついて剥がれない。

…もう二年以上、僕はこうして〝余生〟を生き続けている。

何度も叫喚し、何度もいやだ駄目だと唱え続ける。それでも、…全く恐怖は和らがない。


……民に、会いたい。


他の誰でもない、アネモネの民に。

彼らの笑顔に、声に触れたい。

最後に会った彼らは元気だろうか。…そこまで考えて、また頭の中が真っ赤に塗り潰される。目を固く閉じ、それでも僕の罪は拭えない。

…元気なわけがない。僕はこの手で、彼らの大事な隣人を惨たらしく殺してしまったのだから。

僕の、穢れた欲求に巻き込まれてしまった民。

彼らと僕が酒場でどんな時間を過ごしたのかは記憶も無いしわからない。でも、僕の被害者でしかない彼らは罪人としてアネモネ王国から離され、死した後はそのままフリージア王国で葬られたと聞いた。再びアネモネの地を踏むことも叶わず、………この、地に。


「すまない…すまない…すまないすまない…」


許してくれとは思わない。僕の、僕の、僕のせいでアネモネの民が、こんな国の土に還らないといけなくなるなんて。

ずっと、ずっと部屋から出ることもできずに時が過ぎ、二年も前のことが昨日のことのように蘇る。

あの赤も、肉を裂いた感触も、断末魔も、言葉も声も残酷なほど鮮やかに。


「あ…ああああああああああああっっ…いやだっ…いやだいやだ嫌だ嫌だ嫌だ…‼︎」

声が震えながらも勝手に出る。伸び切った髪を毟るほどに掴み、記憶を打ち消したくても消せはしない。


違う!違う違う、これは僕が一生背負うべき罪なのに何故忘れたいだなんて思うんだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ何故僕はこんなところに帰りたい帰りたい帰りたい奴隷堕ちでもなんでもいいから僕をアネモネに帰らせてくれ帰りたい帰りたい帰りたい今すぐアネモネに





『フリージア王国は今すぐアネモネ王国に侵撃するわ』




「っっっっ…………駄目だっ……。」

駄目だ、帰っては、いけない。

僕は、ここに居ないと。彼女が望む、通り、通りに生き、生きないと。


歯を食い縛り、見開いた目から涙を顎まで伝わせながら自分に言い聞かす。ぐちゃぐちゃの顔を拭うより、頭に食い込ませた指に力を込めて意思を保つ。

言ってはいけない、帰りたいなどと。

もし、彼女に聞かれたらアネモネの地が焼土にされる。もしかしたら、また理由をつけてアネモネの民が殺されるかもしれない。それだけは


コンコン。


…突然、扉がノックを鳴らす。

その音すら怖くて怖くて女性のような悲鳴を上げてしまう。彼女が戻ってきたのかと衝動的に思って自分の肩を抱き締める。歯を鳴らし、部屋の隅に縮こまり続ければ、城の侍女が二人並びに挨拶と共に部屋に入ってきた。「失礼致します」と僕に挨拶をしてくれ、丁寧に食事と新しい着替えをいつもの場所に置いてくれる。もう一人の侍女がビクビクと怯え続ける僕を心配して声を掛けてくれる。僕は彼女に


「う゛っ…あ、あ、あああああああああああああ⁈来るなッ‼︎来ないでくれ‼︎僕、僕、僕に近付くな‼︎やめろやめろやめろっ‼︎いやだ来るな嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ来るな来るな来るな来るな来るな‼︎」


怖い怖い怖い怖い怖い‼︎‼︎


人が、怖い。心配そうに近づいてくれる侍女の顔が僕の頭の中で血に濡れる、僕に伸ばしてくれた手が剣で断裂される、優しい目が潰される、その口から血を吐き、断末魔が吐き出される。彼女が話す言葉がもう理解できなくなる。〝助ケテ〟〝殺シテ〟と全く違う言葉を発しているようにしか思えない。

彼女の顔が、姿があの時のアネモネの民に被り、僕を責める。


嫌だ嫌だ嫌だ殺し、殺、殺、殺される‼︎彼女が、彼女が僕に、女王に殺される!僕に、僕なんかに関わったせいでまた、また、また殺される‼︎


自分でも訳のわからない言葉を何度も叫び、発し手足を乱して侍女を拒む。僕の醜態に驚き、声を上げた侍女が何かを叫んで他の侍女と一緒に部屋を飛び出した。バタン、と扉だけが丁寧に閉じられ、僕は必死に乱れた息を整える。ぼたぼたと、汗と涙が絨毯を汚した。


「っ…っ…ゔ、…ゔ…ぁぁ…。」


僕は、醜い。

人が怖い。僕みたいな人間擬きの所為で傷つけられ、命すら惨たらしく奪われてしまう。僕に関われば、また彼女の反感を買ってしまうかもしれない。もう、僕みたいな欠陥品のせいで誰も傷つけたくはないのに。


…誰も、関わらないでくれ。

僕には何も出来ないのだから。ただ、罪なき人を死に追いやることしかできないのだから。

あああああああああああ…でも、…でも、……どうかこの胸の内だけで願うのは許して欲しいっ……誰か、誰か、誰か、どうかっ…









……助けてくれっ…




……




「……ふわぁ…っ。」


馬車が動きを止めた衝撃で、同時に欠伸がこみ上げる。

…しまった。少し呆けてしまったみたいだ。

人前でないとはいえ、口を開けてしまうなんてと欠伸の後も片手で口を押さえながら恥ずかしくなる。

宰相や従者が「お疲れですか」と声を掛けてくれ、そうですねと返しながら指先で窓のカーテンを摘む。


「このカーテン…やっぱり開けちゃ駄目ですか。」

馬車から外を見渡せる窓。その全てにカーテンが内側から掛けられてるせいで外の景色が全く見えない。せめて民の声や騒めきだけでも拾えたらと、目を閉じて耳を澄ませていたら呆け過ぎてしまっていたらしい。今朝は夢見も悪かったみたいだし、そのせいもあるだろう。記憶にはないけれど、かなり魘されていたと侍女にも心配をかけてしまった。


「御辛抱下さい。レオン王子殿下を乗せていると気付かれては、また馬車が進まなくなります。」

もう着きましたから。と、溜息交じりに言ってくれる宰相の言葉に僕は思わず肩を竦めて笑ってしまう。

最初は時折馬車から外の民に手を振るくらいはできたけど、いつからかだったか僕が手を振ると女性が倒れる、民が群れをなして馬車を追いかけたり集まってくるということが続いて、降りるまではカーテンを全て閉じることになってしまった。…正直、すごく残念だ。

従者や騎士達が、準備は終わったと言ってとうとう馬車の扉が開かれる。その途端、民の騒めきが扉から僕の耳へ一気に飛び込んできた。もう、その聞こえる一言ひとことが愛おしい。

衛兵達に守られながら、馬車を降りる。その途端、民の歓声が轟いた。

時折、僕の名前を呼んでくれる声も聞こえる。聞こえた方に手を振れば甲高い悲鳴が響いた。…怪我をしたとかじゃなければ良いけれど。あまりに凄まじい悲鳴に時々心配になる。

集まってくれた民の手を取り、言葉を交わす。すると人波の奥から見覚えのある農民が作物を抱えて駆け込んできてくれた。騎士が警戒から武器を構えるけれど、僕が命じて下ろさせる。こんにちは、と挨拶すると凄く大きな声で「レオン様!」と眩しい笑顔を向けてくれた。


「二年掛けてやっと美味に育ちました!ぜひとも召し上がってみて下さい!」

この後城にも献上に伺います!と言いながら、カゴに入れた大きな野菜を僕に見せ、服が汚れるからと傍にいる騎士が受け取ってくれた。

貿易中にも何度か目にした野菜だ。青々としたその野菜は今朝収穫したばかりなのか陽の光に当てられて生き生きと輝いていた。


「すごいな…!ありがとう、今夜にでも頂きます。」

思わず感嘆の声が漏れてしまう。本当に素晴らしい出来だった。今まで貿易でも取り扱ったりはしたけれど、やはり採りたての鮮度は違う。何より彼がわざわざ僕に見せに来てくれたことが嬉しくて、土がついたままの彼の手を取り、お礼を伝えた。

今日はいつもと違う城下の外れに降ろさせてもらったからか、初めて会うような民も多い。でも、こうしてわざわざ見知った民まで会いに来てくれたことがとても嬉しい。

今では少しずつ城下以外の地域も治安が良くなっていた。裏通りにも活気が溢れ、数年前まで深刻だった他国からの裏取引も取り締まりが強化された。お陰で近年はそういう噂も聞かなくなった。

野菜をくれた農夫が頭を何度も下げて人波に戻っていくのを見送った直後、今度は別の女性に「レオン王子殿下のお陰で夜にどの道を選んでも怯えず歩けるようになりました…!ありがとうございます…!」と言われ、嬉しくて思わず顔が綻んでしまう。…途端にその女性が目眩を起こしたらしく、急いでその身体を支える。

すると、今度はあちこちから悲鳴が上がり、女性もその場に座り込んでしまった。「だ、だだ大丈夫です…!立てます…‼︎」と真っ赤な顔で僕に断ってくれた女性は、友人らしき他の女性の手を借りて人波の奥に去っていった。本当に急病だったらと少し心配になる。


「レオン殿下‼︎僕は奴隷制度撤廃に賛成します!我々は己が力のみでレオン殿下のアネモネ王国を支えてみせます!」

今度は利発そうな青年だ。眼鏡の奥をきらきらさせて本を掴んだまま胸に手を置いて僕に示してくれる。ありがとうございます、と言葉を返すと眩しいの笑顔と共に周りの民からも「私も!」「賛成しています‼︎」「奴隷制度反対‼︎」と彼の背を押すように声を上げてくれた。

二年ほど前から始めた奴隷制度の撤廃も、今や国民の殆どが支持をしてくれている。奴隷を使う貿易商が減り、代わりに労力として民の働き口も増えた。奴隷削減後に経済が潤い出してからは特に、こうして声高に叫んでくれる民が増えた。このまま行けば奴隷制度撤廃もすぐだろう。

そうすれば、チャイネンシス王国とも直接貿易を進められる。ハナズオ連合王国との貿易が進み、ランス国王とヨアン国王の計らいで遠回りをする形でチャイネンシス王国とも交易をさせて貰えた。

サーシスの金もさる事ながら、チャイネンシス王国の宝石は我が国でも需要が高い。一度我が国の分を市場に下ろせば、値引き交渉をされることもなく一瞬で捌かれてしまう。奴隷制度が撤廃されれば、より円滑にハナズオ連合王国との貿易が可能になると判明した時には奴隷撤廃を望む声は更に大きくなった。

自らの足で立ち、その手で国を回して見せると。…目の前の青年のように民が力強く語ってくれるのが嬉しくて何より誇らしい。


「レオン様っ!ねぇ、レオン様がこっちにいらっしゃってるわ!」


…また、どこか聞いたことのあるような声が。

目の前の青年と握手を交わし終えた僕は、その声が不思議と引っかかった。

未来ある青年が図書館へ向かっていくのを見送ってから、今度は気になった女性達の方へ足を運んでみる。騎士にこれ以上進まないようにと手で制されながら、僕に向かって女性達が顔を火照らし声を上げてくれていた。彼女達を囲むように男性陣も僕が近づくと声を上げた。


「こんにちは。第一王子、レオン・アドニス・コロナリアです。」

そう言って笑い掛ければ、甲高い悲鳴が上がった。

何人かの女性は顔を真っ赤にしたままポケンとして固まってしまう。これじゃ話せないなと思わず笑ってしまうと、一番前にいた女性が大きく揺れてふらついた。支えようとしたら、僕より先に彼女の傍にいた男性が支えて「興奮し過ぎだろ」と言いながらガハハハと豪快に笑っていた。もう一人の女性に今度こそ言葉を交わすべく再び声を掛ける。顔を真っ赤にしながらも、細いしなやかな手を僕に伸ばして握手を交わしてくれた。


「お会いできて…光栄です…!」

ハァ…と甘い吐息が彼女から溢れ、僕からも笑みで返す。

ありがとうございます、と伝えると一生懸命に会話を続けようと口をパクパクさせながら言葉を紡いでくれた。


「本当に、本当に…お綺麗でっ…あぁあッごめんなさい、王子殿下に綺麗なんてっ…ですが、本当に麗しくっ…!」

自分でも何を言っているのかわからなくなったように女性が自分の口を、そして顔を両手で覆う。それを見た男性達が「らしくねぇぞ」と大笑いした。女性が怒ったように男性を睨み、また僕を向いては顔を火照らした。


「お褒めに預かり光栄です。…でも、貴方の方がずっとお綺麗ですよ。どうぞ、国で困ったことがあれば何でも僕に仰って下さい。」

必ず力になりますから。そう伝えると、裏返った声で女性が言葉を返してくれた。

すると、今度は傍にいた男性が女性を押し退けるように身を乗り出して声を上げてくれた。「レオン第一王子殿下!」と呼ばれ、顔を向ければ彼は路地の奥を指差して僕に眩い視線を向けてくれる。


「俺はっ…私は小さな酒場を営んでおります!是非、是非とも!お気の向いた時には足をっ…」

「馬鹿野郎!お前ンとこみてぇな汚ぇ隠れ酒場に殿下がいらっしゃるかよ!」

ガハハハハッ‼︎と笑われた酒場の主人が「黙ってろ呑んだくれ!」と声を荒らげる。顔を真っ赤にしたままふらついていた女性達もそこの常連なのか、同じように店主と男性の掛け合いに笑っていた。


……嗚呼、そうか彼らは。


「良いですね。…是非、見せて欲しいです。これからお伺いしても?」

店主に尋ね、宰相や騎士達にも確認をとる。

一度その場がどよめき、宰相が僕に聞き返した。それでも僕が「民の暮らしを少し見学するだけです」と伝えると、すぐに騎士達に護衛の隊形を取らせてくれた。店主が一番予想外だったのか、言葉を何度も吃らせながら目を白黒させて僕らを酒場まで案内してくれた。店の常連らしき人達も声を跳ねさせて僕らと店主に続いた。


「楽しみです。…とても。」


ちゃんとした正しい形で再び彼らに出会えた。

その事実に、僕の胸は静かに踊った。


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