364.高飛車王女は苦笑する。
「ちっ…!ッ騎、士団長!副団長まで‼︎‼︎な、なんでここに⁈‼︎」
まさかのスペシャル過ぎるゲストに、アーサーがこれでもかというほど目を見開いていた。
…うん、驚くのも無理はない。父親且つ上司がプチパーティー中に来訪したら驚かない人はいないだろう。私だってここに父上が現れたらステイルに飛び付いて速攻瞬間移動で逃亡してしまう自信がある。
驚きのあまり完全に絶句状態になってしまったアーサーの顔をステイルが楽しそうに覗いていた。ある意味、アーサーにとっては本日一番のサプライズだったかもしれない。
アーサーの昇進祝いをすることを決めた時から、実は騎士団長に話すことは決まっていた。…と、いうよりもそれがアラン隊長とカラム隊長からの条件だった。
以前はアーサーの部屋での極秘サプライズパーティーを賛成してくれた二人だけど、今回は何故か条件付きだった。「じゃあ騎士団長にも許可取っておきますね!」とアラン隊長は騎士団長に話すこと前提でさらりと進めてしまうし、カラム隊長も「仮にも王居から抜け出すのですから、王族三名に我々騎士四名では不十分だと思います」と言われてしまった。抜け出すといっても騎士団演習場の騎士館は城の敷地内だし、護衛ならヴァル達も呼ぶしと言ったけれど駄目だった。結果、アラン隊長とカラム隊長が騎士団長に交渉してくれ、場所が騎士が大勢居る騎士館であることと護衛として騎士団長と副団長が仕事後に合流すること、更にそれまではお酒も禁止という条件でお許しを貰えた。
保護者同伴は厳しいとも思ったけれど、代わりに色々協力もしてもらえたし結果としては良かった…と思う。
「遅くなって申し訳ありません、プライド様。少々陛下への定期報告に時間が掛かってしまいました。」
「この度は折角の祝会にロデリック共々お邪魔して申し訳ありません。」
エリック副隊長が扉を閉じるのと同時に騎士団長と副団長が頭を下げてくれた。いいえこちらこそ、と返しながら部屋の奥と食事を勧めると副団長が両手に大量に携えた物を掲げて見せてくれた。
「お待ちかねの酒です。…とはいっても我々は一杯だけですが。」
それでもやはり乾杯は不可欠ですから。と言ってくれる副団長にお礼を言う。アラン隊長が待ってました!と大喜びで大量の酒瓶を副団長から受け取った。お酒…とそこでヴァルの方を振り向けば、完全に絶対拒絶と言わんばかりに荷袋の砂を使って私達から壁を作ってた。どうやら顔も見たくないらしい。…まぁ、騎士団長なんて過去に殺しかけた張本人だから当然だろう。
配達中盗賊や人攫いを捕まえては騎士団に引き渡しているヴァルだけど、未だに配達人業務と同じようにフードで顔を隠している徹底ぶりだ。直接顔を合わす騎士以外には見られたくもないらしい。彼の前科を覚えている騎士が少なくないこともそうだけど、本人自体も騎士嫌いだから余計にだ。
一度視線を外し、今度は騎士団長の方に向いてみれば、いままさにアーサーと相対していた。腕を組んで佇む騎士団長は相変わらずの凄い威圧っぷりだ。アーサーがまるで悪さを発見された子どものように唇をへの字に曲げたまま騎士団長を見上げていた。
「…なん、でいらっしゃるンですか、騎士団長まで…。」
「プライド様の護衛だ。極秘とはいえ、王族三名を騎士四人だけでは不足と判断した。」
「そう、…ですか。」
自分の為のパーティーなのが気まずいのか、目を泳がせるアーサーを隣に並ぶステイルが肘で突いた。「許可を取っているんだ、遠慮する必要はない」と言われると、アーサーは再び騎士団長を見返していた。
「…お疲れのところ申し訳ありません。でも、…」
未だ緊張が取れないのか、ペコリと頭を下げたアーサーに騎士団長より先にステイルが眉間に皺を寄せた。騎士団長は変わらずの顰めっ面でまさに鉄仮面状態だ。
「……ありがとうございます。…………父上。」
最後だけぼそりと小さく呟いたアーサーの声が和らいだ。
いつのまにか騎士団長のことを父上と呼ぶようになったアーサーは、本当に昔とは変わったなと思う。騎士団長もアーサーの言葉に少し表情が緩んでいた。そっとアーサーの肩に手を置くと「代わりにこの後、付き合って貰うぞ」と声を掛けた。
「この後…⁇」
「……。クラリッサに報告に行く。」
少しの間の後に断言した騎士団長の言葉にアーサーの顔が赤らんだ。
片手で頭を抱えながら「勘弁して下さいよ…」と唸るアーサーはチラチラと視線を気にするように目だけが宙をうろついた。近衛騎士達は副団長と乾杯の準備をしているし、ヴァル達は完全拒絶中なので当然見ていない。それでもステイルやティアラ、ついでに私にも見られていることを確認すると余計顔を火照らせた。
「クラリッサさんってどなたですか?」
ティアラが首を傾げると、ステイルもアーサーの顔を覗いた。項垂れ気味のアーサーに代わり、騎士団長がこちらを向いて答えてくれる。
「妻です。」
騎士団長の奥さん、つまりはアーサーのお母様だ。
ああ〜…と納得してしまう私達に、アーサーがくぐもった声で「次の休息日で良いじゃないっすか…」と唸った。どうやらこの歳で母親の話題は少し恥ずかしいらしい。「副隊長昇進の時も報告は後日でしたし…」と続けるアーサーに「すぐに終わる」と騎士団長が断じた。最終的には了承したアーサーが「せめて二人の時に言って下さいよ…」と苦情を呟いていた。
「まぁ良いじゃないか、アーサー。クラリッサさんもきっと喜ぶぞ?」
聞こえていたのかそれとも話題を知っていたのか、副団長が笑いながら声を掛けてきた。突然の女性の名前に近衛騎士達が今度こそ「クラリッサ?」「アーサーの恋人か⁇」「いや恐らく…」と反応する。騎士の先輩達にまで聞かれてしまったアーサーが凄い勢いで副団長の方を振り向いた。
「ックラーク‼︎‼︎テメェは勝手に話題に入ってくンな‼︎」
カッとなった頭で歯を剥き声を荒らげ、…固まった。……どうやら、母親の話題以上の現場を見られてしまったらしい。「すまんすまん」と愉快そうに笑う副団長の傍には近衛騎士三人がぽかん、とした顔でアーサーを見てる。先輩騎士の前…いや、私達の前で堂々と副団長を名前呼びしたアーサーの顔色がみるみるうちに青ざめていった。
「…なんか、久々に見たな。アーサーのその呼び方。」
「かれこれ六年ぶりですかね…。」
「アーサー、親しき仲でもある程度は慎め。他の騎士に聞かれたら大変だぞ。」
アラン隊長、カラム隊長、エリック副隊長がそれぞれ半笑い気味に言葉をかける。
私やステイル、ティアラもアーサーと副団長の会話は何度か見たことがあるけれど、こうして見るのは久々だった。
青から赤に変わっていった顔をアーサーはうつむき気味に片手で押さえた。そのまま「すみません…」と恐らくは副団長へというよりも私達や騎士の先輩達に返している。騎士団長を見れば少し口元が笑っていた。
「さぁ、折角のお祝いだ。早速乾杯しようじゃないか。」
何事も無かったように副団長が酒の入ったグラスを持ってきてくれる。
カラム隊長やアラン隊長、エリック副隊長も手伝って私達にそれぞれ手渡してくれる。テーブルに置いた酒瓶を一本ずつセフェクとケメトが抱えてヴァルの方に戻っていくのが見えた。自分で取りに行きなさいと言いたかったけれど、それだけ会いたくないということだろう。
アーサーも副団長から酒を渡されて、軽く睨みながらもそれを受け取った。全員にグラスが行き渡ったところで私からの乾杯の合図をと、グラスを掲げた。
「アーサーの騎士隊長昇進を祝して。…乾杯っ!」
カラァンッ、と硝子の軽やかな音と共に「乾杯」の声が合わさり響き渡った。
カラァン、カラァンッと互いにグラスを鳴らし合う。アーサーから少し照れたように「ありがとうございます」という言葉が続けられた。私も皆に合わせてグラスを傾ける。…うん、美味しい。
ステイルが瞬間移動で二人の分にとっておいた生姜焼きとお味噌汁をテーブルごと持ってきてくれ、ティアラが一つ一つ二人に勧めてくれた。「お姉様と一緒に作りましたっ!おかわりもまだありますから!」と眩しい笑顔でティアラに言われ、騎士団長と副団長も畏れ多そうに言葉を返しながらも笑顔で受け取ってくれた。
グラスの酒を一度で飲み干した騎士団長と副団長が、御礼を言いながら皿を受け取り、また初めて見る異世界料理を凄く珍しそうに眺めてくれた。
「…以前、騎士団に提供された鶏肉料理もそうですが、また初めて見る料理です。」
「プライド様の創作料理…ですか。また贅沢な持て成しをして頂いたな、アーサー。」
目を少し丸くする騎士団長と面白そうに笑う副団長がそれぞれ生姜焼きをフォークで刺した。
二人に合わせるようにアーサーやアラン隊長達も再び料理のおかわりを皿に盛り始めた。私から「以前に提供した料理の中で、アーサーが好きな料理なんです」と伝えると二人とも目だけでアーサーを振り返った。
二人の視線に気がつかないアーサーがアラン隊長と並んでがっつり皿に大盛りをよそっていた。それを確認した後、騎士団長も副団長もゆっくり料理を口に運び、…目を丸くした。味わい、飲み込んだ後、驚いたように皿の料理と私を交互に見てくれた。
「今までに食したことのない味付けです。…とても、美味です。騎士達の手が止まらないのも頷けましょう。」
「プライド様は料理の腕まで長けていらっしゃるのですね。以前頂いた創作菓子も絶品でしたから。」
騎士団長、副団長の褒め言葉が嬉しくてうっかり顔がふやけてしまう。
お世辞とわかってても嬉しいものは嬉しい。良かったらスープも、とステイルがテーブルに置いたスープを勧めると二人とも早速飲んでくれた。また褒め言葉が返ってきて、副団長が「お前はこっちの方が好きそうだな」と騎士団長に笑いかけた。
「!そうだ、アーサー。ハリソンとの追いかけっこはどうだった?」
ふと、思い出したように副団長がアーサーに呼びかけた。アーサーがアァ⁈と声を荒らげ、…また「しまった」という顔をした。副団長がそれを見て「今更だ、気にせず話せば良い」と続けると、さっきよりは声のトーンに落ち着きを取り戻したアーサーが苦々しそうに口を開いた。
「…。……まさか、ハリソンさんが今日一日中逃げ回ったのって…。」
「ああ、私から頼んだんだ。プライド様が今夜の為に一日アーサーを足止めして欲しいとのことだったから。」
あっさり認める副団長に私も苦笑いする。…そう、今回のアーサーのサプライズにおいて私は下拵えを抜いても料理に殆ど一日費やすことになった。更に言えばサプライズ前にアーサーから騎士隊長昇進を聞くわけにもいかなかった。
その為、どうにかアーサーが今日一日近衛騎士で王居に来れないようにできないかとカラム隊長達に相談したところ、今回のサプライズを知っている騎士団長達に協力を仰いでくれた。
騎士団長達なら上司命令で理由をつけてアーサーを一日くらい足止めすることもできる。しかも自然に!とお陰でこうしてアーサーにバレずに料理を作ることができた。
「だからあんだけハリソンさん逃げ回ってたのかよ⁈」
アーサーからの二度目の絶叫が響く。…どうやら、アーサーの足止めを担当してくれたのは噂のハリソン隊…ハリソン副隊長らしい。アーサーがそのままカラム隊長達の方に顔を向け「先輩達も知ってたンすか⁈」と目を皿にした。アラン隊長とエリック副隊長が思い出したように肩を揺らして笑ってる。
「いや〜、流石ハリソンだよなぁ。アーサーから一日中逃げ回るとか。」
「それを追い続けるアーサーも流石ですけどね。」
「ハリソンは私達からの頼みではアーサーからの逃亡など聞かないだろうからな。副団長と騎士団長の御協力あってこそだ。」
いやあの人前にも俺から逃げまくりましたよ⁈と叫ぶアーサーに今度はカラム隊長も笑った。アーサーはまだハリソン副隊長に好かれてることは知らないらしい。むしろ決闘直後で誤解が悪化してないか心配だ。
「そう言えばどうだった、ハリソン副隊長との決闘は。」
ステイルが味噌汁を手にアーサーに尋ねた。アーサーがその言葉に多少ぐったりと表情を暗めた。首の後ろをさすりながら「あー…」と最初に言葉を濁す。
「………殺されるかと思った。やっぱ怖ぇ、あの人。」
…どうやらやはりなかなかの死闘だったらしい。その時の戦いを思い出したのかアーサーの顔が今度は青ざめた。ステイルが「だが勝ったのだろう?」とアラン隊長達から聞いたことを確認すると「ギリッッッギリッな」と凄く強調されて返された。話を聞いた騎士の誰もが苦笑している。
「コペランディの一軍相手にした方がずっと楽だ。…勝てたのだって最後は完全に持久戦だった。」
最前線で大活躍したらしいアーサーの言葉だとすごい説得力を感じる。更に言えばハリソン副隊長なんて本当に一人で一軍掃討しちゃっているし。
生姜焼きを一口で食べきり、最後に飲み込んだアーサーにアラン隊長が「いや、かなり凄かったですよ⁈」と楽しそうに話題に加わってきてくれた。
「ハリソンの本気の速度に反応できる奴なんて騎士団でも数えられるくらいしかいませんし、俺が見に行った時は完全に互いが拮抗してました。」
「アーサーの剣には騎士の誰もが圧巻されてましたよ。…そのせいで最初、ハリソン副隊長から完全に射撃の的にされてましたが。」
「最後は本当に死人が出るのではないかと七番隊の騎士が数人控える事態になりました。」
アラン隊長、エリック副隊長、カラム隊長とその時のことを話してくれながら、最後にアラン隊長が「ていうか最後は本当にどっちか死んだかと思ったよな?」と軽い調子で付け足すと、全員から頷きが返ってきた。…本当に熾烈だったらしい。
「…い、…生きていて良かったわね。アーサーも、ハリソン副隊長も。」
私がなんとか言葉を絞り出すと、アーサーから「ありがとうございます…」と相槌が返ってきた。特殊能力者の治療入れても三日絶対安静の怪我なんて相当だったのだろう。
「ほんっとに…あの人は絶対敵に回したくないっす…。」
最後のアーサーの溜息交じりの言葉に、敵どころか本当は過激派レベルの味方だと言ってあげたい気持ちを私はぐっと堪えた。




