贈られ、
「あれ?すごく似合ってたのに、良いのかい?」
いつのまに見ていたのか、レオンがすごく残念そうに戸棚に戻されたうさ耳帽子と私を見比べた。
曖昧に私が返事をすると今度はレオンが「これはどうかな?」とピンク色のヒラヒラドレスを私に出してきた。
ピンク‼︎しかもヒラヒラ‼︎何より腰の部分の大きなリボンが、まるでラッピング後のプレゼント包装のようにくっついている。まさかのレオンチョイスに思わず「えっ⁈」と声を上げてしまう。
「プライドって、こういう女の子っぽいドレス少ないなと思って。君なら何でも似合うと思うし、勿体無いなって。ほら、頭にもこういうリボンつけてみればすごく…」
いやいやいやいやいや‼︎
私が驚いて言葉も出ない間にもレオンが今度は子どもが描いたようなサイズの巨大どピンクのリボンを上の棚から取り出してきた。そんなリボン前世でも幼稚園児のお絵描きでしか見たことないし‼︎
断る言葉を探している間にもティアラまでもが「すっごく可愛いですっ!」と応戦してくる。
「試着室もあるし、着替えさせてくれるらしいから試してみたらどうだい?」
レオン、めっちゃぐいぐい来る‼︎
私があわあわしている間にも試しにと言って巨大リボンをそっと頭に乗せてくる。なんかもうリボンだけでも小学生になったみたいで恥ずかしくなって「そ、…そのっ…」と振り絞って小さく声を漏らす。
今こうして頭にリボン付きなだけでも恥ずかしいのに、その上リボンドレスなんて恥ずかし死にしてしまう。私の声に気づいたレオンがリボンを私の頭に乗せたまま「どうかしたかい」と尋ねてきたので、上目だけでレオンを見上げて顔が火照り出すのを自覚しながら訴える。
「はっ…恥ずかしいので、……だめ、です…。」
もう言葉が出なくて上擦った声のまま子どものような断り方になってしまう。
恥ずかしくて完全に顔が絶対赤くなってる。すると、レオンも自分のセンスを否定されると思わなかったのか、琥珀色の瞳が丸く見えるほど目を皿にして動きを止めると
…顔が、真っ赤になった。
え、レオン⁈と思わず驚いて大きな声が出てしまう。そんなに否定されるのが恥ずかしくなるくらい自信があったのか。私が声を上げた途端に今度はレオンまで片手で口を覆って私から顔を背けてしまった。リボンがレオンの手から落ちかけたので私が自ら頭の上で帽子のように押さえる。
どうしたのか、完全に私から見えないように背後を向いてしまったレオンの背中を見つめ、今のうちにと巨大リボンだけでも上の棚に戻そうと踵をあげる。
手が届かずどうしようかと悩んでいるとカラム隊長が受け止めて戻してくれた。…何故か目の焦点が合っていないようで顔もまだ赤かったけれど。振り返ってみればアラン隊長が全身真っ赤なままぽかんとこっちを見ていた。さっきから子どもみたいなチョイスの王女が同伴者として恥ずかしいのだろうか。…今のところ私のセンスじゃないのだけれど。
「ごめっ…プライド。…その、少しからかい過ぎちゃったみたいだ。」
早々とショックから立ち直ったらしいレオンが、白い肌をピンクに紅潮させながら私に向き直ってくれた。「似合うと思ったのは事実だけどね」と言いながらレオンがリボンドレスをそっと元の場所に戻してくれた。冗談なら良いんだけど、本気だったのならそんなに凹ませてしまって申し訳ない。でも、その次にレオンが選んでくれたドレスは凄くセンスが良くて、髪飾りも合わせて一目で気に入ってしまった。私があまり着ない系統の可愛らしいデザインなのに、すごくシックで。思わず即決でドレスを抱き締めて「ありがとう!」とお礼を伝えると珍しく指先で頬を掻いていた。そのまままた頬をピンク色にしてレオンが微笑んでくれる。
そんなにさっき断られたのが恥ずかしかったのだろうか。でも直後に「見せてもらえるのが楽しみだな」と妖艶な笑みを向けられた途端、またすごい色気が溢れてきて今度は逆に私が顔を逆上せてしまった。
ガタンっと音がして振り向けば、店員のお姉さんが余波を浴びて顔を真っ赤にしたままフラついていた。…うん、やっぱりそうなるわよね。
ティアラも凄く飛び跳ねて声を上げてくれて「まるでお姉様の為のドレスですっ!」と大絶賛してくれた。
私もさっきのリボンドレスショックの反動ではしゃいでしまい、ドレスを自分の丈に合わせて見たまま「どうかしらっ?」とアラン隊長とカラム隊長に聞いてみたら、二人とも顔を真っ赤にしたまま「とても、かなりお似合いだと…‼︎」「可愛っ…!です‼︎はい!」と同時に返事をしてくれた。
さっきのフォローなのか、そんなに顔に熱が入るほど力一杯誉めてくれると少し照れてしまう。式典とかで着るのはちょっと系統として憚れるけれど、いつかの楽しみに取っておこうと心に決めた。うん、本当に可愛い。
ティアラも自分用のドレスを三着ほど購入して、一着は私と色違いのドレスもあった。「着るときはお揃いにしましょうねっ!」と満面の笑みで可愛いことまで言われてしまって、うっかりときめいてしまう。
そして最後に、……なんだけれど。
「そういえば、…ここって女性専門店だったのね。」
ステイルやアーサーの分も買いたかったのに残念だ。
そう思って言うと、レオンが「いや」と短く呟いてから、店員さんに確認を取ってくれた。どうやらこのお店の話を城下で聞いた時、レオンは色々商品のことも聞いていたらしい。男の人用もあるとのことで、店員さんに導かれるままに店内の一角のスペースへ行くと、確かに男性用の衣装があった。
…かなりゴッテゴテの。
なんというか、ヒラヒラのワイシャツとキラキラの装飾が激しい。なんか鎖のようなものがセットになってるものもあったり、…なんか、アレだ。前世でかなりやり過ぎた系のビジュアルバンド衣装とか、十四歳で右眼が疼く系の人が喜びそうなファッションだった。
ティアラが「すごいですね…」と若干気圧されながら呟くと、その中でも吸血鬼のようなビジュアルバンド系の服を摘み「これなら兄様も似合うかも」と言い出した。いや待って⁈確かに似合うけど‼︎
ステイルはすごく美形だし、黒髪も相まって似合う!似合うとは思うけども‼︎
「た、確かに素敵だけれど、…たぶんステイルは着る機会が無いと思うわ…。…ヴェスト叔父様に叱られちゃうし。」
今、ステイルは私生活の半分以上は摂政業務の為にヴェスト叔父様と一緒にいる。流石にそこで意味深な十字架までくっつけた格好をしたら、規則に厳しいヴェスト叔父様に校長室で正座レベルで怒られてしまう。……似合うとは思うけど。
一瞬、個人的なパーティーで着るのはありかもねと言ってしまいそうな自分を心の内に押さえた。流石にパーティーでもあれはない。
「なら、アーサーのはどうでしょう?」
ステイルの服を諦めたティアラが、今度はアーサーの服をと悩む。確かにアーサーなら騎士の仕事以外は私服だし、怒られる心配はない。
そうねぇ…と呟きながらティアラと二人で服を物色していると、背後から生唾を飲むような音が聞こえてきた。
見れば凄く緊張したような佇まいでアラン隊長達がこっちを見ている。もしかして二人も欲しいのだろうかと思いながら首を傾げていると、ティアラが「これはいかがでしょう⁈」と声を上げた。
振り向けば、またビジュアル系の服で白の上衣に黒と銀色のベルトが至る所に巻かれているような服を摘んだ。確かにこれはこれで格好良い。アーサーの銀髪にも合っているし。騎士団の団服にも似た感じもあるし。うん、と頷いた途端にまた背後で息を飲む音がした気がしたけれど、取り敢えず先にティアラに答える。
「確かにこれならアーサーに」
「ッいえ‼︎その!騎士団長の目がありますので‼︎‼︎」
「ッハリソンが面倒なんでっ…‼︎」
…何故かカラム隊長とアラン隊長が同時に止めに入って来た。
声が同時に発せられて上手く聞き取れなかったので、ティアラと一緒に聞き返せば二人が何か目配せし合いながら言い直してくれた。
なんでも、アーサーの父親である騎士団長がこういうのは私服でも許さないと思うのと、さらに言えばアーサーは私服も殆どラフな物が多いらしく、装飾が多いのは勿体無くて着れないと思うと。さらに普段使いでもアーサーは家の小料理屋さんの手伝いや畑仕事で絶対汚すし、その時の格好には動きにくいしあまり適さないと。確かに言われてみればその通りだった。
私がふとそれを聞いて、隣の列にある十四歳で右眼が疼く系の人が喜びそうなファッションを摘んで「これは?」と尋ねてみる。表面が白でテカテカして、首元には鎖みたいなのがジャラリとくっついてはいるけれど装飾としてはさっきより地味な方だ。キラキラと金色の刺繍が少し目立つかもしれないけれど、既にファッションとしてところどころ敢えて破けてる仕様だし、そう思って摘むと
「それはセドリック王子っぽいから嫌ですっ。」
ブッ‼︎⁉︎
ティアラの間髪入れない言葉に思わず私達は吹き出してしまった。
ティアラ‼︎セドリックのイメージってこれ⁈それを言ったらビジュアル系も充分セドリックに似合っちゃうと思うけれど‼︎‼︎
失礼ながら必死に口を押さえて笑いを堪えていると、隣でまさかのレオンまでもが私と同じように口を押さえて笑っていた。うっすら喉を震わす音が聞こえて、どうやらかなりのツボだったらしいと思う。
さらに背後を見ると、アラン隊長が腕ごと口を隠しながら目に見えて肩をプルプルさせていた。カラム隊長が「アラン!場をわきまえろ‼︎」と叫んだけど、カラム隊長も笑いを我慢し過ぎて顔が赤いしアラン隊長に怒りながら自分も口端が笑いを堪えてひくついていた。
「〜〜っっ…ティアラもっ…手厳しいことを言うんだね…。」
ハァァ…と笑い過ぎて涙目のレオンが、大きく息を吐きながらティアラに向いた。
ティアラはプンッと頬を膨らませながら「なので、そっちはダメですっ!」と言ったので、最終的には残念だけど今回は二人へのお土産は無しということになった。
何故かそれが決まった途端、アラン隊長とカラム隊長がすごく胸を撫で下ろしていた。…そんなに服装に騎士団長が厳しいとは。まぁ意外ではないけれど。
息子が急に上級のお洒落をしたら戸惑うかもしれない。レオンの服も選ぼうかと提案したけれど「いや、嬉しいけど僕も父上との公務が多いから」と断られてしまった。
最後に、レオンが私とティアラにさっきのうさ耳帽子だけをお土産にとプレゼントしてくれた。プレゼントなら、まぁ、…持っていても良いわよね…?とちょっぴり舞い上がる気持ちを抑えながら受け取った。
やっぱりぬいぐるみとしても可愛い。本来の用途に使うべきとはわかっていながらも、私もティアラもそれぞれうさ耳帽子を抱き締めてしまう。そのままティアラと一緒に御礼を言うと、レオンが今度は照れたようにはにかんだ。やっぱりティアラの笑顔は最強過ぎる。
レオンの城に戻った後は、残りの時間をティーパーティーで過ごした。少しだけまた珍しいお菓子を食べさせてもらい、帰る時間になったらレオンはいつものように馬車まで私達を見送ってくれた。
馬車への短い段差に手を貸してくれようとするレオンに、私は「ちょっと待ってて」と伝えて馬車の手前で押し留める。
そのままティアラと一緒に馬車の中に駆け込むと、ゴソゴソと買った服を積んだ場所とは別のところから用意したものを丁重に手に取った。明らかに中身がバレバレなので、下手に隠さずこのまま馬車からレオンに声をかけることにする。
「レオン!」
馬車の中から思い切って声を掛け、手の物を両手に抱えて私達は再び馬車を降りた。
我が国から用意した、特大の花束と共に。




