そして見届けた。
騎士団長の声に、アラン隊長とカラム隊長が突然スイッチが入ったかのように動き出した。
少し慌てた様子で素早く私に外された手の部分の鎧を装着し直し、腕を背後に組むと背筋を剣のようにピンと伸ばして扉の方に向き直った。信じられないくらいに素早く動く二人の様子を見届けてから、私は騎士団長に返事を返した。
「お待たせして申し訳ありません、プライド様。」
礼儀正しく入ってきてくれた騎士団長の後には続々と騎士達が頭を下げて入ってきてくれた。
私の傷を治療してくれた怪我治療の特殊能力者の騎士だけではない。途中、アーサーも一緒に並んで入ってきて、私と目が合うと他の騎士達と同じように頭を下げてくれた。
あまりの数の多さに驚くと、騎士団長が「全員、プライド様の負傷に関しては把握済みの者達です」と言ってくれた。よく見れば確かに皆、怪我を治療してもらった時近くにいてくれた騎士達だ。何故かアーサー以外、皆が私の顔を見るなりほっとしたような表情をしていた。彼らもどうやら私の事を心配してくれていたらしい。
「カラム、アラン。…いい加減に休め。」
騎士団長がチラリ、とカラム隊長とアラン隊長へ目を向けた。騎士団長の指示に、二人共姿勢を正したまま肩を一度だけ震わせた。
カラム隊長とアラン隊長は昨日の戦いから、ずっと自ら志願して不眠不休で私の近衛任務を担ってくれていた。つまり、この殆どの騎士達が近衛騎士である騎士隊長二人の代理だ。二人が安心して交代できるように、同じ近衛騎士のアーサーだけでなくこれだけの数を集めてくれたらしい。…何故かエリック副隊長はいなかった。アラン隊長の代わりに一番隊を見ないといけないからだろうか。
「騎士団長命令だ、明日まで休め。」
ステイル様にも許可は得ている。と言う少し厳しめの口調の騎士団長に、アラン隊長とカラム隊長は承知した。
少しぐっと唇に力を込めたように見えた二人は、そのまま私達にも改めて深々と頭を下げた。騎士団長の命令通りに退室をしようと、私達に背中を向けて去ろうとした二人を私は「待ってください」と引き止めた。
「…あと、一つだけ。」
本当は今じゃなくても良いとは思う。明日になればまた二人は近衛騎士の任に、…少なくとも帰国するまでは従事してくれるつもりだから。でも、今話したことを明日にまで蒸し返したくはなかった。今日全てちゃんと話して、あとはもう二人の意思に委ねようと思った。
私の言葉に騎士団長が一度席を外しましょうか、と言ってくれたけど「すぐに済みます」と断った。私の方に振り返ってくれた二人のうち、最初にカラム隊長の名前を呼ぶ。騎士団長や騎士達の手前、しっかりと姿勢を正して私の前まで再び歩み寄ってきてくれた。
私と目があった途端、何を言われるかと緊張で頬を若干紅潮させたカラム隊長の首を両手で抱き寄せる。そのまま顔が近づいたカラム隊長の耳元で、ずっと言いたかった言葉を伝えた。
「──────────────────」
カラム隊長が僅かに、私の腕の中で顔を上げた。
そっと腕を緩め、最後に笑いかければ再び表情を硬直させたカラム隊長がそこにいた。
話が終わったと意味を込めてそっと背に触れると、カラム隊長は今度こそ深々と一礼し、退室していった。
静かに閉じられた扉を見届けた後、今度はアラン隊長と目を合わす。名を呼べば、少し緊張からかぎこちない動きで歩み寄ってきてくれた。
手を伸ばそうとしたら、その前に素早く身体を屈めて自ら耳を近づけてくれた。抱き寄せる必要がなくなり、そのまま彼に耳打ちをすると、それだけで身体がまるで石のように硬直していた。
「──────────」
言葉の途中で、…あの時のことを思い出したらまた胸が強く締め付けられた。
思わず近づけてくれたアラン隊長の頭を腕ごと抱き締める。茶色がかった金色の短髪の固い感触が私の肌を刺した。…今度はアラン隊長も何も言わなかった。
「──────────────────────────────」
ぐっ、と腕の中に向かって力を込める。自分で言っただけでも酷く胸が痛かった。
また涙が滲みそうなのを堪えながら、最後まで言い切った。…アラン隊長から、強く歯を食い縛る音が聞こえた。手を緩め、私から一歩離れるように蹌踉めいた。アラン隊長を見返せば酷く強張った表情のまま、無言で勢いよく頭を下げてくれた。背を触れるまでもなく、足早に退室したアラン隊長がバタンと扉で音を立てた。
「…お待たせしました。騎士団長。」
充分な沈黙の後、騎士団長へ目を向けた。何か考えるように眉間に皺を寄せた騎士団長はゆっくりとアラン隊長が去った扉から私へ視線を移してくれた。
背後に控える騎士達に手で指示を出すと、アーサーが私の背後に。怪我治療の特殊能力をもつ騎士が、私の足に。そして他の騎士達も私とティアラを囲むようにして部屋中に配備された。
今までは部屋の外を兵士や騎士が守ってくれていたけれど、とうとう部屋の中まで取り囲まれてしまった。動けない王女相手ならば仕方がない。
用心深いステイルのことだから、私やティアラの護衛に近衛騎士でない彼らでは一人や二人では不安に思ったのだろう。
「…では、先ず。」
私の傍に歩み寄ってくれた騎士団長が、ゆっくりと話し始めた。
今後の指針と、私の怪我、そして滞在中の計画について。
…まさか、私も知らなかった予想外の噂まで聞くことになるとも知らず。




