310.第二王子と金色の王は辿り着き、
ー ガラァンッ…ァン…ガラァン…
「…この、鐘の音は…‼︎」
終戦の鐘の音に、誰もが耳を奪われた。
手から滑り落ちそうな剣に力を込め、それを勇ましく敵兵に向けながらも音へと思考が奪われていく。
敵兵もまた、突然の鐘の音と更には騎士や兵士の異変に嫌でも予想がついた。武器を振るう手に惑いが生じ、構えたまま躊躇った。
「…………終戦。」
ぽそっ、と最初に口にしたのはティアラだった。ナイフを今から振ろうとした手を止め、確信を抱いて呟いた。その言葉に火がついたかのように、彼女の背後で手綱を握るセドリックがゴクリと大きく喉を鳴らし、顔を上げた。
「ッ兄貴‼︎‼︎」
少し泣きそうな上擦った声が確かめるようにランスへと向けられる。セドリックだけではない、自軍の兵士や騎士も誰もが国王であるランスの言葉を待っていた。茫然と目を見開き、鐘の方向に目を向けたままの彼はセドリックの言葉に零すように「ああ…」と呟いた。そして、自らを奮い立たせるように手の中の剣を握る手に力を込め直し、セドリックへ振り返るより先に剣を天にと掲げて見せた。
「…ッ我らの、…ハナズオの勝利だ‼︎‼︎皆の者‼︎この国は我らのものだ‼︎!」
声を張れ、勝利を届けよとランスの咆哮が水を打ったかのような戦場に高らかに響き渡った。
渦を巻くような歓声と咆哮が響き、同時に敗戦を悟った敵兵が次々と武器を地に落とした。
ランスを囲うように兵士達が集い、武器を掲げて賞賛と喜びの声を彼に上げた。更には騎士も兵士も共にティアラと、そしてその背後に乗るセドリックを馬ごと囲い、叫んだ。投降した敵兵を捕らえながら、誰もが興奮と喜びが覚め切らない様子で灼熱が溢れ続けた。
騎士や兵士に賞賛を浴びながら、セドリックは無言でランスの方へと目を向けた。多くの兵士に、民に認められ賞賛される兄が誇らしく、そして…
「えいっ。」
ぐいっ、と突然正面から鎧越しに胸部を押される。目を向ければティアラが振り返り、自分を馬から降りろと言わんばかりに細い腕で押しやっていた。何かと思い、言葉に悩むと逆に水晶のような瞳で睨まれてしまう。
「お兄様のところに行くのでしょう?私はもう大丈夫なので降りて下さい。貴方の居場所は私の隣ではありません。」
手綱は騎士が握ってくれますから、とそのまま強制的にセドリックから手綱を奪い返すとティアラは傍に控えた騎士へ丁寧に手渡した。
礼の代わりに真っ直ぐとティアラを見つめ返して頷くセドリックは、勢いよく馬を飛び降りた。「兄貴‼︎」と他の騎士や兵士に負けないくらいの声量を張り、同時にランスのもとへと駆け出した。剣を持ち替え、右腕を先にと国王へ伸ばす。すると、セドリックに気づいた兵士達が振り返り、彼へと道を開けた。
今回の戦で活躍した一人である第二王子に、誰もが尊敬の眼差しを向ける。そして、馬上で兵士達の声に応え続けていたランスがゆっくりと掲げた剣を下ろした。未だに気が抜けないと言わんばかりの険しい表情が
強く輝き、弟へと向けられる。
「セドリック‼」
威厳のあるその声が、弟一人だけに向けられた。国王自ら馬を飛び降り、剣を腰に納めて手を伸ばす。
常に張り詰め続けた国王の、その笑みこそが終戦と勝利の証だった。




