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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
冒瀆王女と戦争

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276.冒瀆王女は背を押す。


「では、ステイル様。この段取りで騎士達と共にサーシス王国の南方をで宜しいでしょうか。」


ジルベール宰相がとうとうステイルとの打ち合わせを終えた。ステイルが頷きながら、鎧を締め直している。


「ああ、わかった。俺が不在の間はお前がこの全てを回すんだ。問題は無いな?」

「無論ですとも。」

ステイルの言葉に優雅に笑んだジルベール宰相は、腕ごと使って深々と礼をしてみせた。すると、顔を上げると同時に「ああ、あと一つ私からも案があるのですが…」と何か思いついたようにステイルへ耳打ちをし出した。

他の本陣へ映像を送る為の視点から隠れるように話すジルベール宰相に、囁かれたステイルは少し目を見開き、そして私の方へと視線を向ける。

最後、話し終えたジルベール宰相は顔を上げて「勿論、判断はプライド様とステイル様にお任せ致します」と笑ってみせた。…何だろう、ものすごく気になる。

ステイルはジルベール宰相のその台詞に、少し不機嫌そうに顔を歪めたけれど最終的には「絶好調のようだな、ジルベール。こんな緊急の事態だというのに」と忌々しげに返した後、私へ歩み寄ってきてくれた。


「姉君、少しご相談があります。」

ええ、と一言返して耳を傾けてみせる。

そうすると、ステイルが私の両脇に控えてくれているアラン隊長とカラム隊長に目を向けて「お二人も御一緒に」と声を掛けた。二人が同時に身体を座っている私の位置まで傾け出すとステイルがそっと耳打ちを始めてくれた。…正直、何故わざわざコソコソ話にしたのか理由は分からなかったけれど、ステイルとジルベール宰相の案に私も同意した。確かに、その方が良いと私も思う。今は少しでも戦力を無駄にはしたくないし。……何故かアラン隊長とカラム隊長が若干額を湿らせていたのだけが気になった。

私の了承を受けたステイルが「では、そのように」と言って笑ってくれる。そして今度はティアラと同行する騎士達に、くれぐれもティアラに無理はさせないようにと声を掛けに行った。

北方最前線の映像から急に騒めきが聞こえてきた。一瞬また敵襲かと思ったけれど、すぐに騎士団長の反応から違うことがわかってほっとする。その場を一度通信兵に任せ、映像から騎士団長が居なくなる。騎士団長にも私とステイルから必要なことは全て報告した後だし、恐らくこのまま騎士団も再戦の最終調整に入るのだろう。

大分準備も速やかに進み、そろそろ一気に動き出す頃合いだなと考えた時。


…ふと、ランス国王からの映像を食い入るように見つめているセドリックの姿が目に入った。


「セドリック。」


少し大きめに声を掛けてみると、ビクリと肩を一度震わせた後にすぐ私の方へ振り向いてくれた。燃える瞳を大きく揺らし、早足で私の前まで歩み寄ってきてくれる。一瞬、私の足に目を向けたと思えば、再び整った顔を歪めてしまった。まだ、私の足の事を気に病んでくれているのかもしれない。「貴方のせいではないと言ったでしょ?」と笑ってみせると、余計に表情が曇った。

……だから、私はもう一度彼に問い掛ける。


「貴方が援軍に向かうと決めたのは…ランス国王の為?」


私の言葉に目を強く開くセドリックは、そのまま一瞬で真っ直ぐ私へ顔を向けると「違うっ…‼︎」と声を上擦らせた。


「それだけではない…‼︎兄さんや我が民の為に、そしてプライドお前のっ…‼︎」

弁明するように声を荒げるセドリックが、途中ではっとしたように言葉を詰まらせた。それ以上は言い淀むように口を閉ざす彼に、私も思わず苦笑してしまう。やはり私の事も少しは気遣ってくれていたのだろうかと思うと、今は嬉しくも感じられる。そしてセドリックは、再び言葉を選ぶように口を小さく開いた。


「…今この場で立ち上がらなければ、一生俺はこのままだと…そう思っただけだ。」


また目を逸らし、自身の胸元を掴むように団服越しの物へ握る力を込めるセドリックがボソボソと呟いた。微かに震えたその手に、私は手を伸ばして重ねる。私に触れられたことに驚いたのか、また身体を一度震わせて目を丸くする彼に、そのまま私は語り掛ける。


「…セドリック、よく聞いて。」


座ったまま、高身の彼を目だけでなく顔ごと向けて覗き込む。殆ど真上を見上げるような体勢になってしまう私にセドリックはすぐに気付いたらしく、その場に片膝をつくようにして逆に覗き込んできてくれた。


「…大丈夫。本当の貴方は、容姿だけでは推し量れない程、素敵だから。」


そう言うと、セドリックは何か言いたげに口を開いた後、…また辛そうに私から目を背けてしまった。

胸元を強く握りしめ、堪えるように顔を再び歪めた。先程よりも更にその手が激しく震え始めていた。…多分、彼はいま勘違いをしている。

辛そうにする彼へ「違うわ」とそっと告げると、セドリックが再び私へ目を向けてくれた。真っ赤に燃える瞳が、小刻みに揺れているのがよくわかる。


「…自分を殺さないで。自分にできることを全てやって、大事なものを守る為に一生懸命な貴方が…きっと一番素敵だと、私は思うわ。」

私の言葉に、セドリックの震えが急に止まった。代わりに彼だけが時間が止まったように息も忘れ、膠着した顔で私を見つめた。見開かれた瞳がまるで水晶のように丸く光る。


「もう大丈夫。…お兄様方はきっとずっと前から、貴方を待っている。」


彼の顎が震えた。込み上げる何かを堪えるように震わす彼の瞳が潤み始めているのがわかって、また泣きそうなのだと気がつく。これから参陣だというのに、と思い彼の涙を周りから隠すようにその頭に手を回して鎧越しの私の胸元に顔を押し付けるようにして抱き寄せた。肩まで震わせ始める彼の頭をそっと撫でた。




「迎えに行ってあげなさい。」




彼の時間が、どこまで止まってしまっていたのかは私にもわからない。

それでも、出逢ってからずっとあまりにも幼過ぎる彼が、…大人になれなかった彼が、守りたかったものだけは知っている。


「世界中の人に自慢して。貴方はあのお兄様の…ランス・シルバ・ローウェル国王の自慢の弟だということを。」


肩に力を入れ続ける彼の両手が行き場が無いように震え続けていた。

今までと違って、泣くのを必死に堪えようとする彼から一度手を緩めると、ゆっくりとその顔を私に向けてくれた。涙が目元で止まり、その代わりに泣くのを耐え続けた顔は酷く真っ赤だった。小さく頷きながら今にも泣きそうに歪んだ彼の顔を見つめ、私は言葉を重ねる。


「そして、ヨアン・リンネ・ドワイト国王にとっても自慢の弟。…きっと貴方が一番、お二人の素晴らしさは知っている筈よ。」


行き場のないまま震え続ける彼の手を、私からそっと掴む。そのまま彼の震えを押さえるように自分の頬に当てた。ひんやりとした鎧越しの彼の手が、小さく震えているのが肌に伝わった。

涙を堪え続ける彼が、下唇を噛み締めながらまるで振動するように何度も頷いた。今度は彼のもう片手も同じように私の頬へ当てさせ、そのまま重ねた彼の両手に私は力を込めた。


「なら、胸を張りなさい。貴方は貴方にとって世界一の王の弟なのだから!」


彼に届くよう、強めに声を上げて笑ってみせる。すると、見開き続けた瞳が光が射したように激しく燃え上がった。数秒間の溜めの後、最後に力強く頷いた彼から「…ああ…‼︎」とはっきりとした声が漏れた。

ジルベール宰相から窺うように「そろそろ」と声が掛けられた。ティアラもジルベール宰相や騎士達と一緒にこちらの様子を窺ってくれている。

進軍準備が整ったのだろう。私が手の力を緩めると、彼がそっと離れるようにして立ち上がった。「行かねば」と呟く彼の右手を最後に両手で引き止めるように掴み取る。


彼が、立ち上がるというのなら。

彼が、自分の意思で止められた時間を動かしたいと願うのならば。

私が、彼にいま最後に伝えるべきことは。






「隠し続けた爪を、…牙を。今こそ解き放ちなさい、セドリック・シルバ・ローウェル…‼︎」






荒げた声に、怯えたかのように彼の全身が振動し、震え出した。握った私の手を、彼がまるで握手するかのように力強く握り返した。

歯を食い縛った彼の表情が、覚悟が定まったかのように引き締まる。揺れていた燃える瞳が固定され、肩を後ろに引いた彼がそのまま胸を張るようにして背筋を伸ばした。



「ッ見ていろ…‼︎プライド・ロイヤル・アイビー!」



決意のようなその声を最後に彼の手が今度こそ私の手中から摺り抜け、その上着を大きく翻した。ブワッ、とマントのように翻されたそれの余波が私の髪を揺らす。

伝えることは伝えたと、黙って眼差しで返せばもう彼は私に振り返らなかった。真っ直ぐとティアラと騎士達の元へ歩み、ステイルと言葉を交わした後、一瞬で姿を消した。


「…大丈夫、きっとできるわ。」


彼に、そして私自身に唱えた言葉は形を為さず宙を泳いだ。


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