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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
来襲侍女と襲来

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2313/2316

Ⅲ268.来襲侍女は約束する。


「オスカー、聞こえますか?」


無事?とプライドがノックのような感覚で壁を叩く。

既に一度目の前で建築された土壁を前に圧巻で立ち止まった。ざっと周囲を見てもオスカーの元まで辿り着いた者はいないのだろうことが察せられる分厚く高い壁だ。ところどころひっかき傷のような痕はみられたが、それも数センチの深さで止まっている。

現首領であるエルドに命じられ、貧困街の住民の殆どは振り上げた武器を一時的に下ろしたが、当然感情のままに振り下ろそうとした血気盛んな者もいた。スコップやカナヅルで付けられたようなひっかき傷に、プライド達もひと目で想像はできた。脳裏にはエルドからの「もう戻りやがったのか」という言葉が浮かぶ。


「私です。ジャンヌです。無事かどうか返事を聞かせてくれますか」

「ぁ……ん。えっと……さっきの?何、時間……何、日……?」

まだ数時間ですよと、プライドはそこで小さく笑ってしまう。

分厚い壁の中で、彼も時間の経過がわからないのだろうと思う。数回呼び掛けてやっと得られた返事がくぐもっていたのは分厚い壁のせいだけではないだろうと考える。別れた時から何事もなかったかを尋ねたかったプライドだが、ある意味この眠そうな彼の声が一番の返答だった。

念の為にもう一度「無事?」と確かめてみれば肯定が短く返された。壁に覆われてから眠ってしまったオスカーには、プライド達が戻ってくるまでが情緒もないほどあっという間の体感だった。自分が眠っている間に血の気の多い男達が壁を壊そうと武器を振り下ろし当たり散らし怒鳴り散らし、……穴を開ける前に幹部や仲間達に回収されていった経緯も本人は全く覚えていない。特殊能力による壁の高さと強固さは、一般人の憤りだけで簡単に壊せるものちみはない。

全く危機感を感じさせない丸みを帯びたオスカーの声に、結果としてはヴァルのお陰で安息を得られたらしいとプライドは胸を撫で下ろす。縛り上げられた上に突然こんな分厚い壁に閉じ込められたらパニックになっても良いくらいだと思うが、幸いにもオスカー本人には気にされなかった。


「あの、……何か……問題、とか……」

「!いいえ、大丈夫よ。今、エルド……貧困街の彼らとの用事を済ませて帰ってきたところです。もう少しで、ちゃんとここから出せるから」

「え…………」

安心して!と言葉を続けようとしたプライドの声が途中で引っ掛かり止まる。思わずといったオスカーの欠けた声が壁の向こうへと澄ませた耳がきっかり拾えてしまった。

あれ?と思いつつプライドはそこで膝を折る。壁の前に少し屈んだ状態から、両膝をついて顔を更に壁へと近づけた。姿の見えないオスカーへ、なるべく顔の位置も近づけ手を当てる。

プライドの傍に控えるステイルや騎士達も気配を消して耳を立てた。明らかの今の「え」は好ましい反応ではなかった。


「……どうかしましたか?」

「あ……いえ、ごめっ……。……このままでいれたらとか思っ……」

寝ぼけ混じりの慌てた声に最後は萎む。顔は見えずともその声色だけで、プライドは小さく息を吐いた。

途方もなく空を見上げれば、強固な土壁が今は本当に彼を二つの意味で〝守っている〟のだと理解する。今も飽きたように土壁へ寄りかかっているヴァルにそんな意図はないと確信するが、意図せずオスカーにとっては望ましい状況になったのだろうと思う。ちらりとステイルに目を向ければ、理解するように頷きと共に眉の間が狭められた。〝どこにも行きたくない〟という心情の特殊能力者に接するのも、ステイルはオスカーが初めてではない。きっと彼も同じなのだろうと理解する。

当然、ここにずっといたからといって事態は何も解決しない。縛られたままの彼がいつかは餓死するだけだ。


見上げたままぽかりと口を開け、プライドはぼんやりと物思いに呆けてしまう。

オスカーの気持ちもわかれば、同じ第四作目のラスボスの望みとも似ていて皮肉に感じられる。彼はこの分厚い先に引きこもり続けても、その面倒を貧困街がみることは決してない。オスカーの望みもまた、本当に小さな願いだが叶えることは簡単ではない。オスカーの場合は、特殊能力者に対して根本的な解決しか残すところはない。

急に無言になってしまった自分に対し、気付けば壁の向こうから声が漏れ出していることにプライドは気付くのも数秒遅れてしまった。「ごめんなさい」「嘘です」「ここから出たい」と早口で繰り返す彼に、プライドもステイルから耳元で呼びかけられてからハッとした。しまった不安にさせてしまったと、そう反省しながら顔の見えない同士でそれでも笑いかける。


「行きましょう。もっと陽の当たる場所に」

「……どこに?」

「フリージア王国です。貴方の生まれ故郷です」

フリージア、と。反復された言葉は殆ど壁に消され、届かなかった。

一部一部の音を拾い、彼が国の名を呟いてくれたのだろうと理解したプライドは一度口の中を飲み込んだ。ゲームの設定でオスカーの過去もいくらかは知っている。

そして特殊能力がある限り、彼は間違いなくフリージアの血を引き、一時期はフリージア王国に住むか少なくともそこで産まれている。


「フリージア王国は良い国です。特殊能力者もいるほど、様々な民が生きています……生き直すのに、悪くはありません」

なるべく彼にも届くように通らせようと凛とした声で、胸を張ってプライドは言えた。記憶に過る既視感に口が苦くなりながらも自分の中で本物であることは変わりない。

あくまでフリージア王国の王女としてではなく、フリージアに住まう一人の民として断言する。自国以外にも良き国があることを理解した上で、今の彼にとってフリージアこそがそうであると言葉にする。

オスカーのことを、この場の誰よりも知ってしまっている自負があるからこそ彼を連れ帰りたい。彼の危険性から考えても、このまま強制的に連れ帰ることは可能だがやはり彼本人の意思が欲しかった。

見えない彼と目を合わせるかのように一定位置に視線を注ぐプライドの言葉に、ステイル達も唇を結び聞き入った。貧困街の深奥で、自分達が移動したことで様子を伺いに来た貧困街の住民の気配と視線がいたるところからちらほらとあることにも気付く。周囲全てに騎士達が音もなく警戒を強めていることも、壁の先にいるオスカーは知らない。


「広大で、多くの民を迎えます。これから先、もっと住みやすく……なるでしょう」

してみせます。の言葉を飲み込んだ。今の自分は王女ではなく侍女だ。

人の耳があることを思えば、安易な発言は控えなければならない。ゲームでも、フリージア王国に期待も抱いていない彼に過剰にフリージアを持ち上げることも躊躇った。あくまで事実だけを、少しでも彼に帰国の意思を持てるようにと言葉を選ぶ。

地方や山奥の田舎では理解が及ばない地もある。だが、彼ならばと今後の彼が辿るべき経路を頭の中で思い浮かべながら思う。オスカー本人は決して性格に難がある種の人間ではない。寧ろ第四作目では常識人の枠だったとプライドは思う。特殊能力のせいで人に触れたり触れられることを過剰に恐れ嫌うのは既にだろうと察するが、こうして壁を隔てて普通に会話をしてくれる青年だ。そして現時点ではまだ心の傷もゲームほどは深くない。きっとやり直せる筈だと信じ、見据える。


「オスカー。貴方は、どんな生活を望みますか」

「…………普通」

ぼそりと、投げかけられた言葉に声は曇っていた。

まるで何の気のなしの返事に聞こえた一言に一度大きく瞬きを返してしまうプライドだが、それからすぐに「普通、に」と言い直された。

途端に、素っ気ない言葉が彼らしい返事へと変貌する。

「普通に、暮らしたい、です。……この、呪いとか無く、して。普通に手に取って、普通に生活して、本読んで、それで…………」





『普通に誰かと手を繋ぎたい』





「……そうね。わかりました」

言葉が最後途切れるように止まったオスカーの言葉に、ゲームのオスカーの台詞が浮かび、過ぎる。

彼からはその言葉は続けられなかったけれど、やはりあのオスカーと同一人物なのだとわかりきっていたことが改めて思い知る。今の彼はもうあの望みを抱いているのだろうかと考える。

ゲームではあくまで自分の特殊能力をある程度制御できるようになったオスカーと主人公が少しずつ心を通わせ、互いに触れられるように恐怖心を克服する。恐らく今は自分の特殊能力も制御できていないのだろうと理解する。たとえ手を触れるだけでも、一度間違えば相手の命を奪ってしまうとわかっているからこそ安易に試すこともできない。


呼吸と共に目を閉じ、壁を撫で下ろす。今の彼が誰にも見られない暗闇の中でどんな表情をしているのか考えるだけで胸が痛んだ。

ささやかな彼の願いが、特殊能力一つでどれほど難しいことかは第一王女である自分が理解する。ゲームの能力を制御できるようになったオスカーが、制御できるようになったと〝実感を得る為だけに〟どれほどの犠牲が必要になったかも。

パウエルのように目に見える制御でもなければ、ブラッドのように小さな程度から試すことすらできない。そしてかかるのは自分の命ではない、全て他者の命だ。

「こんな力は要らない」「呪いを解きたい」「だけどどうすれば良いのかも」と言葉を繰り返す彼はまだ、自分のそれが特殊能力と呼ばれることにすら実感が伴っていない。自覚がなければ余計に、普通の生活と毒の特殊能力は共生することは難しい。だからこそ



「約束するわ。フリージアに帰ったらその願いを叶えましょう」



息を飲む音は、微か過ぎてプライド達にまで届かなかった。

暗闇の中で身を固くし、目を猫のように見開き唇を結ぶ青年は耳を疑う。まだ自分のことも理解できていないオスカーには、それがどれほど難しいことなのかもわからない。しかし壁越しでも凛と響かされる声に聞き入り、無意識に息を止めていた。

一度は姿を確認した筈の相手が、本当に人間なのかと疑うほどに迷いのない清廉とした声だった。

返事のないオスカーへ、プライドの目は迷いない。ゲームの設定で彼のことを知っているからこそきっと彼ならば不可能ではないと確信を持ち、約束を言葉にする。


「貴方は一度もその特殊能力を悪用しようとしたことはないのでしょう?」

「!ないっ……!!ない、ない!本当に!それだけは本当でっ……ッお願いです信じてください言い訳とかじゃっ……本当、本当に俺はっ!一度も……!!」

ゲホゲホッと、直後には咳き込んだ。

食べ物も水分も不足した喉が、突然酷使したことで悲鳴をあげた。砂を噛んだような口で、首を大きく左右に振る。壁の向こうに閉じ込められてから初めて鎖が身体に減り込み軋ませるほどに全身で訴えた。特殊能力という言葉はしっくりこなくても、悪用という言葉には必死で否定する。

わかってる、わかってるわと。プライドも喉を張りながら落ち着けた声色を調整する。彼がそんな人間ではないと知っているからこそ、きちんと言葉でも確認したかった。

プライドの迷いない、確信めいた言葉に傍に控えるアーサー達も〝予知〟という言葉でそれを予感する。レオナルドに対しても同じように彼女がまた何らかの予知をしたのだろうと考える。それほどまでに、彼女の言葉には同情や慈悲以上の強い感情が滲んでいた。


「……もう大丈夫。今日まで生き延びてくれてありがとう」

毒の特殊能力は本人にだけは及ばない。しかし、その特殊能力を持ちながら生き延びることが難しいことは想像に難くない。人に恨まれることはできても、自分を守ることは別だ。相手を殺したくなければより一層難しい。彼の特殊能力の可能と限界値を知れば、殺さないことの方が難しいこともわかってしまう。


第四作目の舞台はあくまでフリージア王国。そんな中で、第四作目という手掛かりだけで彼に巡り会えたのは幸運だったとプライドは本心から思う。

貧困街に見つかってしまったことはオスカーにとっては最悪でしかないが、お陰で見つけられた。いつ彼がどういう形で命を狙われるかは時間の問題ですらあったと思えば、ぞっと背筋が冷たくなった。ほんの少し出逢える機会が少なければ、出会えるどころか死んでいたのだから。

届くように続けた声に、また返事はなかった。しかし、プライド自身そこに返事は要らないと思う。ただ生き抜いてくれた彼に感謝を伝えたかっただけで、まだ自分は彼に何もできていない。


「ここから出る時には、貴方がフリージアに向かう時でしょう。大丈夫、信頼できるフリージア王国の騎士です。彼らに任せておけば、もう恐れるものはありません」

「き、……貴方、達は……」

「大丈夫。ちゃんと会いに行きますから」

するり、と彼の内側に丸まった毛先の髪を思い返しながら壁を撫でる。いつか本当に、互い恐れなく触れられる日が来るのを祈るように手を当てた。

どこか不安の混えた声に、それでも自分達の存在を気にしてくれる彼に、少しはこちらを信用してくれたのだろうかと考える。胸を右手で押さえ、今は直接目を合わせることすらできないことが歯痒い。

この後、レオナルドが目覚めてからすぐにオスカーが解放されるかはまだわからない。約束こそ取り付けてもエルドや貧困街、レオナルド達が自分達の都合が良いように動いてくれる相手とは思わない。だからこそ、あくまで約束できないことは語らない。

しかしたとえこの後貧困街にごねられようとも、絶対にオスカーを連れ帰ると決意を新たにする。

オスカーをここから出す時そこに自分達がいるか、騎士達に任せるかは状況によってわからない。ただ間違いないことは、彼をフリージアに連れ帰り、そして願いを叶えることだけだ。




「共にフリージアの空を見上げましょう」




それでは、またと。言葉を告げ、プライドは立ち上がる。

今はただオスカーの無事を確かめに来ただけだ。彼の安全と、意思を確かめられた今、ずっとこの場にいるだけではいられない。最善はここにいるではなく、レオナルドが目を覚ますのを待つことだ。

垂れた髪を耳にかけ、大きく息を吸い上げる。振り返れば騎士達が守ってくれている中で、最初よりも貧困街の住民達が集まってきていた。全員遠目に、そして物陰から心ばかり身を隠しながらこちらに注目している。

あくまでステイルの侍女という立場で、その傍に立てばステイルも静かに応じるように歩き出す。確認するまでもない、帰還の意思を汲み取った。

来た道を戻るステイルの傍に付き、騎士達に囲まれながらプライドは小さく首だけでオスカーの方へと振り返る。


彼のささやかで、大きな願いを叶えることができるのはフリージア王国だけなのだと確信しながら。


今はその為の更なる一手へと足を動かした。


「バッドエンドから一年後~誰にも期待されない魔法使いの私が、伝説の精霊魔法使いに実力を認められ王子を救う~」 略して「バドいち」連載中です。

ncode.syosetu.com/n9682ly/

こちらも是非よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
『第四作目の舞台はあくまでフリージア王国』 そうだったんですね。このラジヤの属国じゃなかっんだ… そういえば、ジルベールの白昼夢、キミヒカ世界でティアラがサーカス観戦してたっけ。移動型だから、サー…
優しい言葉に泣きました(T^T)
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