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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
来襲侍女と襲来

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Ⅲ239.踊り子は恋焦がれ、


『嗚呼アンジェリカ。綺麗だよ、とても綺麗だ。たった今君は世界一だ!!』


団長、団長、団長、大好き。

団長と出会う前の私は、今はもうあんまり思い出せない。恥ずかしいし、思い出したくないことの方がずっと多い。

けれど団長に出会えた日の事は今だって昨日のことみたいに覚えてる。


親に捨てられた浮浪児の私はまだ子どもで、まわりの男に舐められないように狙われないようにただただ必死で汚かった。髪だってボサボサで邪魔になったらすぐ切っていたから伸ばしたことどころか解いたことも無い。

「舐められたら馬鹿にされる」「殴られる前に殴れ」は、親が私に教えてくれた中で一番役に立ったことだった。

気に食わないことがあるとすぐ私を木に吊したクソ野郎だったけど、父親の喋り方を真似すれば子どもでもちゃんと男に見せられた。男だったら馬鹿にされても殴って済むし、変な目で見られない。他の汚い仲間に混ざっていれば誰も私を女だなんて思わないし、私自身も自分が男か女なんかなんてどうでもよくなって、わからなくなっていた。

舐められない為なら女も男も関係なく石を投げてやるし、盗む為に大人相手にでも逃げたし殴ったり喧嘩もした。


私が生まれた街は、周辺の集落の中でもずっと都会で高い店も贅沢をする為だけの店もあって、……汚くて乱暴で。裏通りにいけば誰かしらドブの中で寝ているような街だった。

煌びやかな領主は毎日酒で水浴びするような生活をしているのが有名で、毎日パーティーをしていたからお零れを拾いによく通った。窓の向こうを見ると、信じられないようなご馳走を食べ散らかして飲みかけのコップを置いたままのお披露目に皆が夢中になっていた。

領主の趣味で、上手いか下手かもわからない娘達のバレエを客に見せびらかしてた。その間は使用人も客も皆がバレエを嫌でもずっと目を離さずに見ていたから、食べ物を拾うのも盗むのも簡単で、……盗み見するのも簡単だった。


『おいアンジェ!!なにやってんだ早く逃げるぞ!!』

『あ……おう!!』

十二歳ぐらいになった頃。初めて街に訪れたサーカス団は物珍しさで大勢の人達が詰めかけて、私達みたいなお金のない子どもも大勢覗きに集まっていた。チケットなんか買えるわけもなくて、公演日にはテントの布を捲って隙間を覗くだけだったけれど、……嘘みたいな光景だった。


煌びやかなドレスも、お化粧も、もてはやされることも羨ましいなんて思ったことはない。それでも、輝く衣装を着けて舞台で拍手を貰う人達はみんな綺麗で眩しかった。

たった一枚テントを捲っただけなのに、まるで別世界を覗いているような感覚に瞬きするのも忘れた。あの貴族のパーティーなんて比べものにならない空間全てが奇跡のような場所だった。貴族のバレエには興味も見せなかった仲間達だって、サーカスは見終わった後もずっと興奮が冷めてなかった。

あんな世界の中心で生きていける人なんて、きっと世界中に愛されて選ばれた特別な人なんだろうなと思った。貴族や王様とかお金持ちと同じ、産まれた時から全部決まったように輝いている人にしかなれないんだって




『そこの君!なんて美しいダンスをするんだ!!』




……そう言われたのは、月も出ていない夜。

誰にも見られたくなくて、知られたくなくて、いつものように光なんて届かない誰にも見つからない路地裏で急にそう叫ばれた。

素晴らしい素晴らしいと手を叩かれながら近付かれて、最初は馬鹿にされてるのかと思って、その後は人生で一番恥ずかしくなった。見たことしかない貴族のバレエを真似して踊っていたなんて、男みたいな私がそんな()()()()()()()ことをしているのも、あんなのに憧れているのも恥ずかしくて堪らなかった。


見られたと、逃げようと思ったけれど背後は行き止まりで、目の前のおじさんを突き飛ばすしかなかった。

私よりもずっと大人の男の人は「いやいや邪魔をしてすまない!」と馬鹿みたいな明るい声で白い歯を見せた。恥ずかしさで身体が上手く動かなくて、逃げるのなんか慣れている筈なのに追い詰められた。

今のダンスは?どこで覚えたんだ、名前は、指導者は、素晴らしい才能だ、いつもここで?ご両親はと。意味のない質問ばっかりしてくるおじさんは、一度も私に住処も性別も前科も聞いてこなかった。


ダンスなんて見よう見まねで上手いわけないのに目をきらきら光らせるおじさんは私を騙そうとしているのだと思った。

今まで見つかったことなかったのに、見慣れないそのおじさんに私からも聞き返した。どこの誰だって、女買いてぇならどっかいけって。するとヘラヘラ笑いながら私に帽子を取って綺麗な礼をしたおじさんは、……その頃ほぼ毎日私達が覗きに通っているサーカス団のテントがある方向を示した。

見慣れないなんて当然で、おじさんはそこのサーカス団の人だった。舞台の上からは考えられない、私達と同じようなボロボロの古い服を着たおじさんは近くの酒場を探していてうっかり何もない路地に入ったらしい。「いやしかし幸運だった!」と大声でまだ叫ぶから、仲間でも本当は呼ぼうとしてるんじゃないかと思った。


『君のダンスは美しい。まだ若いのに素晴らしいことだ。家族もいないのならばどうだ、私の元にこないか?君は間違い無く我がサーカス団の舞台で踊るに相応しい才能を持っている!』

『ハァ?!何言ってんだおっさん!!イカれてんのか?あんなクソみてぇな躍りで』

『何を言う!指導者もなくあんなに美しく踊ったのは君自身だぞ?私の目に狂いはない。君は美しい、君は才能がある。君はきっともっと輝ける!!』


嘘だ、騙してんだろ、ふざけてる、騙されるか馬鹿、どっかいけクソ野郎。そんな言葉がいくつも浮かんだけれど、どこかでそんな嘘みたいな奇跡を夢みてしまっていた自分もいた。

きっとそれもサーカスの所為だったと今も思う。あんな煌びやかな場所で、舞台で、私も踊れたら良いのにと一度サーカスを見てからは毎日のように夢を膨らませていたから。

まるで神様が私の夢をそのまま現実に見せてくれたような感覚だった。汚いおじさんが、片膝ついて子どもだった私の手を握って真っ直ぐ見つめてきた。子どもよりもっと子どもみたいな透き通った瞳に私を写して「綺麗だ」と言ってくれた。

握られた手を振り払うこともできないまま気付けば返事をしてた。……なんだっけ。「別にいいけど」とか「仕方ねぇな」とか「飯出るんだろうな」とかそんなこと。

子どものそんな生意気、父親に言ったら殴られて窓から投げ飛ばされてたのに、おじさんは満面の笑みで抱き締めてくれた。

「良かった良かった」と言いながら、私の手をそっと手の平に乗せるように取ってテントへ連れて行ってくれた。


『若者の成長というのも一種の奇跡だ』

初めての舞台なんて、絶対失敗すると思った。

それでも初めておじさんの、……団長の手で化粧をしてくれて、衣装を用意してもらえた日の感動は忘れない。鏡を見た時に、私が知らない〝女〟の子がぽっかりと口を開けていた。

団長が「綺麗だ!」ってまた褒めてくれて、もう舞台に立つ前からドキドキしたしこのまま死んで良いと本気で思った。

舞台に立ってダンス始めると、絶対下手だったのに「がんばれ!」「上手いぞ」「すごいな」って、見ず知らずの人が声を掛けてくれて拍手をくれて、…………もっともっと上手になりたいと思った。

バレエなんて本当に見た分しか知らなかった私に「本物を見なければ!」って団長は高いお金を払ってバレエを見せに連れても行ってくれた。貴族の自己満足のバレエだけじゃない、本当のバレエを遠目でもちゃんと最初から最後まで見れた時は本当に涙が出た。

サーカスには意外に私と年の近い子もいて、想像していたような気位の高い世界と違う裏側は路地裏と同じ汚くてうるさくて野蛮。

それでもなのか、それだからなのか、最初からずっと居心地が良かった。団長が「綺麗だ」「妖精だ」「姫君だ」って呼んでくれる度にもっともっと可愛くなりたくなったし綺麗になりたくなって〝女の子〟になりたくなった。

団長が好き。おじさんでも格好良くて優しくて、お金使いが下手で、ボロの路地裏で下手な躍りをしていた私をみつけてくれた団長が大好き。

アンジェリカって女の子らしい名前をくれて、女の子に戻してくれた。

他の誰もが認めるくらいダンスが上手になって誰にでも言い寄られるくらい綺麗になる前から、私を綺麗だって言い続けてくれた団長が一番好き。……だから、団長。今回だけ、お願い。











戻  っ て こ な゛ い゛  で 











「アアアアアッ!!!ア゛ア゛ッッッ出て、出てげッ下衆女ァ!!ァッ……」

「アッハハ!きったない言葉ねぇ。所詮は下民だわ」

最悪。意味わかんない。

踵の高い靴を鳴らす女を、睨みたくても顔が上がんない。もっと言いたいことがあるのに息をするのもせいぜいで、歯を食い縛って地面を睨む。……なんで、私がこんな。ここ、サーカスだよね?


なんとか顎を上げても人の足どころか靴しか見えない。一つだけ見覚えのある靴に、ラルクだとわかったけれどもうあんな奴どうでも良い。

昔はもっと大人しくて可愛いところもあったクセに、いきなり女できた途端に団長にまで迷惑かけ出したあんな奴。ラルクが好きな子できたって知った時は応援してやって良いかなって思ったのに。

あんな奴でも好きな人ができるんだとか、良かったじゃんとか思ったのに!ちょっと嬉しかったから大目に見てやったのに!!なんで、なんでこんな意味わかんない奴までサーカスに招き入れてんの?!ッ違うラルクじゃないラルクじゃなくてあのクソ女!!


ギッと歯を食い縛ってラルクの隣に並ぶ靴を睨む。

オリウィエル。ラルク手懐けてからずっと何もしないで甘い蜜ばっか啜ってたクソ女。レラちゃんみたいに辛いことあったんだと思って許してやってたのに、団長がいない隙にあのクソ共を招きいれやがった。「サーカスを開演しろ」とか馬鹿じゃない?何の準備もこっちの都合も知らねぇで言うんじゃねーーーーーーよ!!!

あのクソ共が団長テントに文句言いに入った時は、まだ良かった。ちょっとぐらいラルクもオリウィエルも困れば良いと思った。団長が全部やってくれて、私達も見てないところでどれくらい大変な思いして面倒な奴らの相手もして、開演準備だってすごい色々やることがたくさんあるんだって思い知れば良いと思った。なのに、急に、急に、追い返すどころか偉そうにふんぞり返って私達の前に立ちだした。最初はまたサーカスを招きたいだけの金ヅル貴族客かと思ったのに。


『まずは何でも良いから芸をみせてちょうだい。それから使えるか考えてあげる』

偉そうにそんなことをオリウィエルの隣で言い出して。

オリウィエルも急に偉そうにこっちに命令し出すし、ラルクもオリウィエルが今は団長だから命令は絶対だって猛獣まで出してきた。こっちだって文句言うし無視するし、いい加減うざいから出てけって追い出してやろうとしたら急に!……殺された。

パァンッ!って、あの女の腕を掴んだディルギアさんの頭が背後から撃ち抜かれた。狐みたいな目の紫髪の側近に背後から、いきなり。

みんな叫んで怒鳴って、レラちゃんは腰を抜かして立てなくなった。みんな逃げようとしたら、兵士みたいな連中に武器突きつけられて囲まれて、客じゃなくて強盗だった。


それから演者が一人一人舞台に無理矢理立たされて、こんな状態でまともに楽しくできるわけないのにやらされた。

グレイクストーンさんは事故って大怪我して下働き達に先生のとこに運ばれて、ミラチェッタちゃんは震えて舞台に立つのもできなかったら今度はあの女に客席から撃ち殺された。

偉そうに中央の特別席にふんぞり返って足を組む下衆女が、深紅の髪を指先で遊びながらなんでもないように殺した。


隣に座る狐目側近も、それにオリウィエルとラルクまで今まであんなに団員のお陰で食べてこれたクセに文句一つ言わず見てた。オリウィエルなんて目をきらきらさせて笑ってやがった。「すごい」「みんな言うこと聞く」とかふざけんなって、誰がテメェらの前でダンスなんかするかよって私が怒鳴ってあの下衆女の胸ぐらを掴んでやろうとしたら



『じゃあ〝ソレ〟も要らないわね?』



どういう意味だって、言う間もなかった。

飛ばしてやった唾をすんなり避けられて、杖代わりだと思っていた剣を一瞬で抜いて斬りつけられた。……私の、足が。

がくんと崩れたと思って、両手をついたらもう足の感覚がなくて痛いだけだった。アッハハハハ!!って急に女が高笑い上げだした。膝から下が熱くて、足だけじゃなくて全部が今は痛い。頭がグラグラして、上手く考えられない。

叫んでも叫んでも誰も助けてくれなくて痛いのも引いてくれずに血がたぷたぷ顔まで溢れてくる。私の顔まで血が広がっているのに、下衆女の靴を汚すしかできない。

ラルク、ラルクまで動かない。酷い、本当に、全然助けてくれない。一番クソ女に何か言える立場のくせに、昔は話し相手になってやったのに、友達だった筈なのに、なんでそんなに急に切り捨てれるの??クソ馬鹿野郎死ね許さないアンタなんか団長の子どもじゃない絶対に。

……どうしよう、足。先生治してくれるかな、何日、何日で治る??どうしよう、その間に本当にダンス、下手になっちゃったら。せっかく、お客さん次も楽しみにしてるって、皆言ってくれてるのに。団長、団長ががっかりしちゃう。


「……?アハッ。ハハハッ……アッハハハハ!ねぇ?どうしたのかしら。誰か回収に来なさいな。早くしないと死んじゃうわよ?」

「我が君に恐れを成しているのでしょう。席を替えましょうか?私の足置きにちょうど良い」

ハハハハッ!!って、女が馬鹿みたいに笑い出す。

男の話も耳に入っていないのか裾の長いドレスを着たまま子どもみたいに足をバタつかせて笑う。何度も何度も尖った靴先が私の顔にぶつかったのにもう痛みを感じない。どうしよう段々寒くなってきた。なんで、なんで、どれくらい切られたの?

言いたいのに、もう顎にも力入らなくなってきた。熱が馬鹿みたいに奪われて、靴と血の水面が揺れている。これ、全部私の血だったらどうしよう。

アレスはまだ帰らないの?なんでこういう時に限っていねぇのあの馬鹿男。行方不明とか家出とかふざけないでよ。団長にあんなに気に入られるくらいすごい特殊能力あるクセに。喧嘩だって強いクセに。…………ううん、でもやっぱまだ帰ってこないで良い。あんな奴、私より喧嘩早いから〝こう〟なっちゃう。

アンジェリカちゃん!!って、悲鳴みたいな泣き声が聞こえてきた。声がもうよく考えられなくて思い出せなくて、なのになんとなくレラちゃんかなって思う。

あんな怯えてたのに、こっち来れないよね?今だって、駆け寄ってくると一緒にクソ女の高笑いがこんなにうっさく聞こえるもん。


「……ねぇ?オリウィエル。ちゃあんとお勉強してる?」

「!はい。はい。はい。ありがとうございます。嬉しいです。見てます。すごいです。私も────様みたいに、なりたいです」

止血、止血、誰か運ぶの手伝って、って。掠れた声で聞こえるけど、意味がもうわからない。

目が開いているのに、視界が暗い。ズル、ズル、て引き摺るのが誰かわからない。あの女から剥がしてくれるままうつ伏せから起こして運ばれる。視界が上になって、ゲス女が頬杖ついて笑ってる。顔が塗り潰されたみたいに黒で見えないのに、笑ってる。気もち悪く笑ってるのだけはちゃんとわかる。

オリウィエルが目を輝かせてて、ラルクが……馬鹿みたいにわかりやすく私から顔を背けてる。目も合わせれねぇようなことってわかんなら止めてよ馬鹿。昔から、……一人で上手く立ち回るの、苦手だったよね。


私より前からの古株のくせに、女々しくて弱腰で。愛想も振りまけないし一人で舞台にも堂々と立てない。団長が紹介してくれないと新入りに話しかけることもまともにできない。

全然駄目駄目なくせに団長に可愛がられて羨ましかった。…………あーあ。……一回くらい、こっち見てよ。


「良い子ね。……大丈夫。練習台はたくさんいるわ」

ここに、と。そう言って、端が裂けたように笑う下衆女の口元が白黒の世界で唯一の赤だった。

誰かに運ばれるまま、下衆女も、ラルクも、クソ女、狐男も、大好きだった舞台も遠くなる。誰かが何か私に呼びかけてくれているけどもう、誰の声かわかんない。

べったりと地面を濡らしていた血溜まりも遠くなっても、今度は私の口からも多分血があふれ出て移動するごとに垂れ落ちた。どんどん居た場所が遠くなるままで─……





「一緒に楽しく教えてあげる」





私の足だけが血溜まりに()()()()()()()()()







……








「……ジェリカ……アン……リカ……アンジェリカちゃん、アンジェリカちゃん……」

「んん~~??いやぁ……ねっむぅ~……」


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