そして突き刺さる。
「率直に言わせて頂きますと、僕はティペットを捜索することには反対です。ジャンヌにも時間を置いてから進言するつもりではあります」
確固たる理由でプライドが探すというならば協力は惜しまない。しかし、あくまで現状自分達が把握している情報だけでは到底認められない。
そう今も比較冷静であれと願う思考で告げるステイルの言葉に、騎士達も驚きはしなかった。自分達もまたそれが正直な気持ちだ。
ティペットは自国の民で、奴隷被害者で、今はアダムに操られている可能性も奴隷の洗脳をされている可能性もある。しかし、それはティペットを捕らえた後の救済処置の理由にはなっても、王女が身の危険に顧みず探す理由にはならない。
自分も同意見です、と。今度はアランが肩の位置に手を上げた。真剣な声色は、決して軽い同意ではない。
「ティペットを生きて確保して、ゆくゆくは先生にも会わせる。そこまでは異議ありません。ただ、ジャンヌさんが探しに行く必要はありません。身を晒して追うのも捕まえるのも、それは俺達の仕事ですから」
「アランに同感です。ただでさえ現時点で彼女は我が国で指名手配犯です。犯したことは変わらず、危険性も同様です。水に流す流さないの問題ではありません」
アランの意見にカラムも続く。
プライドが予知した人物を捜索するのは、あくまで彼女の目と耳でないと予知した人物の判断もつかず彼女自身も思い出すことが困難だから。彼女の本業は人捜しではない。予知に関係ないティペットを探しに行くのは彼女でなくてもできる。
そう冷静に騎士としての意見を上げる先輩騎士二人に、アーサーも喉から太い音を鳴らした。
やっぱそうだよなと思いつつも、プライドの意思を考えるとティペットを探しに行かなければならないような気もしてしまっていた。洗脳されている可能性が高い自国の民を見捨てるくらいなら、自分が今度こそ一時もプライドから離れなければ良いと何度も考えようとしたが、やはりプライドに危険な場所にはいて欲しくない。
自分がプライドを優先しているからそうなるのかと思ったが、先輩騎士とステイルの意見に少し安堵した。やはりここでティペットを本人が探すのは違うと改めて思い直す。
「……もともと、よ……予知で視たのが全員じゃねぇから今日も捜索に出てたンだよな……?そっち探した方が良いんじゃ……」
「その通りだと俺も思う。どちらにせよ俺達に日はもう残されていない。俺がここで切り上げるかと提案した時、ジャンヌがどう答えたか覚えているか?」
『そうね』
認めた。本来ならば時間を惜しんでいるのだから彼女の性格上、残りの予知した人物の捜索と情報収集をと言うのが普通だ。
やはり大分混乱していたのだと、アーサーに返しながらステイルは改めて思う。今自分が危険な状態だという理解と、救うべき民が一人定まったことことが文字通り混在していた。ティペットとの接触を望むのであれば、むしろ街で再び予知した人物を探すことに躊躇いはない筈だ。
それなのに避難をすんなり受け入れたのは、それだけ思考の容量が減っていたとステイルは考える。
あそこでもし街に降りるとプライドが言い張っても説得して諦めさせるつもりはあったステイルだが、あまりにも彼女がすんなり認めたから逆に判断もすぐについた。
「それに今までジャンヌが、毒味を忘れたことはあったか?慣れた視察でも、プラデストでも、ファーナム家でもだ」
一度もなかった。毒味は王族である自分達にとって習慣にも近い。ただノアに警戒心が削がれていただけではない、それ以上に動揺に支配されていた証拠だ。
目を覚ました時は落ち着いているように見えたが、むしろそれが妙だったとステイルは眼鏡の黒縁を押さえながら思う。立て続けに今度は誘拐監禁されて、ノアの話通りであればすぐに平静を取り戻した。泣き喚くどころか叫びこともしなかったというプライドに、彼女の強さもあると思うが引っかかる。その前にティペットで怯えていた後に、追い打ちをかけられて逆に落ち着くなどあるものなのか。そう、疑問を続けて騎士達にステイルは正直に投げ掛けてみる。
ティペットへの対処、目的が変わったからといってそこまで気持ちの切り替えまでつくものか。その疑問がステイルの言葉をきっかけに全員の胸に落ちる。
「きっとジャンヌ自身もまだ気がついていないと僕は思います。なので、本人に尋ねる前に皆さんの客観的意見があればお願いします」
「少なくとも、……目的が変わった程度で治まるようなものではなかったと思います……」
ステイルからの再びの投げ掛けに、今度こそエリックは胸を手で掴み押さえながらも発言した。
さっき言い損ねた話を、もう一度頭の中で繰り返す。あくまで自分が見ただけの主観だとは思う。しかし、あの時のプライドを自分の中だけで片付けてはいけないと、ステイルの発言で確信した。
口を開いた時から顔が酷く強張っていたエリックに、ステイルだけでなくアランとカラム、アーサーそしてハリソンも今度は大きく目を開き顔ごと向けた。苦笑にしようとしても笑いきれないその表情で、エリックは顔色もさっきより暗ずんでいた。
「件の、ティペットに遭遇した後に医務室テントに入ってすぐのことなのですけれど……」
そう言いながら一度アーサーに目を向けた。ティペットに遭遇した際のプライドの動揺していた様子はアーサーと共に全員に共有した後だ。しかし、エリックが一番印象に残っているのはあの市場を離れた、後だ。
医務室テントを借り、すぐにステイルやアラン達を呼ぼうとした。先生やティペットに見られている可能性も視野に入れてステイルを指笛でも呼べなかった。そう順を追って、さっき説明した筈の流れをもう一度丁寧に並べるエリックに誰も省略しろとは言わない。むしろ、エリックが順を追うことにそれだけ意味があるのだと理解する。
アラン達を呼びに行こうと、そこで足に自身があるアーサーが飛び出そうとしたがそうしなかった。違う手段でアラン達が集まるのを待った。その理由は。
『!!あッそれ、…………は……、……』
「止めたんです、ジャンヌさん本人が。血相を変えて声を張り上げて。……恐らく、自分の傍からあれ以上人が減るのが怖かったのではないかと思います。理屈とか、そういうのを全部置いて〝怖いから〟とすれば、…………相当だと、自分は思います」
だから自分もまたあの時にアーサーを止めた。
アーサーが足が速いから一番すぐに応援を呼べる。そうすればもっと早く全員駆けつけ安全な状況を確保できた。あの場にはエリック以外にもヴァルもローランドもいた。それでも、プライド本人は〝怖いから〟離れて欲しくなかった。
もしあの時に呼びに出るというのはアーサーではなく自分でもプライドの反応に大差はなかっただろうとエリックは思う。聖騎士が離れるから、昔から信頼している騎士が離れるから、エリックでは頼れないから、そんな理屈のある理由であれば寧ろ良かった。
あのプライドが、戦場を一人で駆けることもできるプライドが〝正しい判断〟よりも〝衝動〟を優先するほどに怯えていたということがエリックには何よりも深刻に思えた。彼女にとってティペット、敷いてはアダムが戦場以上の恐怖の対象ということだ。
理屈抜きの恐怖心ほどどうしようもないものはない。
「なので、自分も……反対です。本当にティペットに遭遇した時にジャンヌさんが……平然としていられるとは、思いません」
彼女の恐怖も、怯えも到底塗り替えられるものでも、忘れられるものでもないのだと。そう今度こそ正しく告げるエリックに、全員が言葉を失った。
駆けつけた時に彼女がどれほど怯えていたか垣間見ていた筈のカラムとアランさえも、エリックの話には表情が固く、苦しくなる。そもそも彼女は、ティペットに対しての怯えは本物だった。
今まで裏家業にも戦争にも怯え一つ見せずに向き合った彼女が、人間一人を相手にそれほどまでに怯えたのだと。その事実をより深刻に理解する。目的が変わったから目処がついたからノアに対して落ち着いていられたのではない。自分を誘拐した相手が〝アダムでもティペットでもないから〟落ち着いていられただけだと再認識する。
いくら普段平然としていても、彼女の中でも奪還戦の傷は癒えていない。
あまりにわかりきっていた再認識は、彼らの心臓を二度突き刺した。
「純粋培養すぎる聖女の逆行~闇堕ちしかけたけど死んだ仲間に会えて幸せなので今度は尊い彼らを最善最優先で…って思ったのになんで追いかけてくるんですか?!~ 」
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こちらは引き続き毎日20時更新連載中です。
略称は「ぴゅあ堕ち」になります。
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