そして酔っ払う。
「?!いけませんプライド様!!!」
「プライド様!!!」
バタン!と、一度は慎重に音もなく数センチ開かれた扉が、次の瞬間には勢い良く全開された。
廊下で万が一の時の為に耳を立てて控えていた専属侍女のマリーと、そして続いてロッテも声を上げ部屋に飛び込む。
最初は良かった。部屋からは何も目立った音はせず、そして転倒音も聞こえなかった。指定の時間が経過すれば、あとは部屋に入り、眠るプライドに毛布をかけるかもしくは近衛兵のジャックの手を借りてベッドに運ぶだけだ。しかし、指定の時間が経つ前に部屋の様子を窺わざるを得なかった。廊下で黙し、部屋の物音を微かでもと拾うまでもなく
「ッ主!!!!!いい加減放しやがれッ!!!」
だああああああ!!!と、大声で怒号を上げるヴァルで第一王女の部屋は混乱を極めていた。
マリーとロッテも、まさかの惨状とそしてある意味の無事の両方に一度立ち止まり、目を丸くする。ロッテは思わず口を両手で覆ってしまう中、マリーは早々に扉を開きっぱなしにしてしまったことへと後悔した。怒声が響いた今急いで閉じても無駄だと理解し諦める。それよりも今は
ヴァルにしがみつき泣きじゃくる妙齢の第一王女をなんとかしなければならない。
「ひっぐ………えっぐっ……う゛ええええ゛え゛えっ゛……」
両腕をヴァルの首に回し密着する姿は見る者によっては決定的瞬間だったが、プライドのあまりの泣きじゃくりように一周回ってマリーは冷静になった。
色気どころか、幼児化したと思えるほどの泣き顔は目からだけでなく鼻からも口からも顔を塗らし、それをよりによって配達人の衣服と肌に結果としてなすりつけている。ぐずぐずズズッと鼻をすすり、びえびえと泣きを漏らすプライドに、いつもプライドを口説くような下世話な言葉を選ぶ配達人の方が顔を引き攣らせ、今も引き剥がしたがる被害者だ。
どうみてもプライドが〝泣かされた〟ではなく〝泣き絡んで〟いると、彼女からの命令を受けた上で廊下に深夜まで控えていたマリーは冷静に理解する。見れば、テーブルの置かれたワインの瓶が見事に空瓶となっていた。
始まりは、窓からのノックの音だった。
城門の門兵を配達人の特権で通過し、そのまま直接窓からヴァル達が訪問した時には、既にプライドが美味しさと酔いに負けて酒を完飲した後のことだった。
部屋の明かりがついていることに気づき、ならプライドも起きているだろと直接訪問したヴァルだが今回は見誤ったと後悔する。カーテンが開かれた瞬間、あまりにも酷い顔になっていたプライドを見た時にすぐ逃げるべきだった。
最初は何かあったかとも思ったが、窓を開けられ部屋に踏み入った途端、どうしたと質問に答えることもなくドロドロに濡れた顔でしがみつかれた。真っ赤な顔で蕩けた瞼、そしてテーブルに置かれた一本のワイン瓶を見れば、嫌でも状況をヴァルは理解した。
一度はどうしたと手と掴み返し軽く剥がそうとしたが、途端に子どものように「いや」と拒絶を言われれば、隷属の契約である主に逆らえない。自分からはプライドを力尽くで引き剥がすどころか、抵抗することも指一本できなくなった。
寝衣のプライドに抱き着かれるなど、状況によっては悪くもない筈だが今回は最悪すぎる。プライドがぐずっている理由とあまりにも色気もへったくれもないドロドロの泣き顔を見れば、今は自分の服を最低の形で汚すプライドを引き剥がしたくて仕方が無い。
隷属の契約で、色事もあくまでお互いの合意のみである自分は〝泥酔した相手〟を襲うことはできないのもまた、ヴァルにとっては腹立たしく今は厄介だった。しかも、疑いによっては自分が今度こそ死刑の事案であるのも迷惑だった。
自分に抱き着いてきた瞬間、廊下にも聞こえる声でびええええと声を上げ泣き出したのだから。
今も、マリーとロッテそしてジャックが駆け込んできたところで、ヴァルも険しく怒りのままに顔を険しく歪める。
彼らが飛び込んでしたところで、今まで抑えていた声も遠慮無く荒げて怒鳴ったヴァルは立ち止まったマリー達を睨みつけた。立ち止まっている暇があればさっさとこっちにきて引き剥がせと思うまま、今度は自分の意志でプライドを抱きかかえ歩き出す。びえびえと泣く成人女性を出会った頃のセフェクやケメトにさえやったことのない手で持ち抱え、大股でジャックの方へなすりつけるべく動いたその時。
「ッ姉君に何をしている?!!!」
ヴァル!!!と、ちょうど瞬間移動で現れた寝起きのステイルが、目撃と同時に声を張る。
しかし気が立っていたヴァルもまた「してねぇ!!」「うぜぇ!!!」と鬱憤を晴らすように怒鳴り返した。
ヴァルが抱きかかえ始めたと同時に駆け寄ってきたジャックが、そのまま両手を伸ばし「プライド様」と呼びかける。ぐずぐずと泣き声を漏らし自分の泣き声と喉の音で周囲の音も聞こえないまま目を絞り泣きじゃくるプライドに、最初の一声は聞こえなかった。もう一度、二度目を大きめの声で呼びかけながらジャックがヴァルから引き剥がそうとプライドに触れたところでようやく気付かれる。
顔を上げたプライドが、次の瞬間にどろどろの顔で今度はジャックへとそのまま乗り移るかのように腕を伸ばし抱き着いた。突然プライドがヴァルから剥がれるどころか、完全に飛び込んできたことにジャックも流石に少し慌て、急ぎ手足に力を込めて受け止めた。両手で抱き着くだけでは宙ぶらりんになりそうなプライドの足も腕で抱き持ち上げ、今度は自分が同じように抱きかかえることになる。
ひっぐ、えっぐ……と泣きじゃくるプライドに、ジャックも困惑の表情のままうっすらと懐かしさも覚えた。まさかこの年のプライドをまた抱っこすることになるとは思わなかった。
「ヴァル!!姉君になにをやった!!?」
「アァ?!!襲われたのはこっちだ!!」
「ステイル様、ステイル様、これには少々事情がありまして……!」
しかしレオンの酒のことも知らないステイルには、完全にヴァルが犯人だった。
黒い覇気を放ち殺気まで抱くステイルへ、マリーが慌てて説明に駆け寄り説明に努める。ヴァルが大声を荒げた時点で、廊下から騒ぎになりステイルが遅かれ早かれ駆けつけると予想した分、行動は早い。なにより、こんなことでプライドの配達人を極刑にするわけにはいかない。
とうの酔っ払った本人は、今はジャックの腕の中でまるで被害者かのようにぐずぐず泣きじゃくるだけだ。ジャックとそして駆け寄ったロッテが呼びかけても、ジャックに手足でしがみついたままセミのように離れない。
「ジャッグっ……じゃっぐじゃっく……~っ……わたしのごどすき……?」
「!はい、お慕いしております?」
「プライド様、私もプライド様のことをお慕いしていますよ」
う゛ええぇええええぇっと、途端にまた泣きじゃくるプライドと、兄姉のように宥めるジャックとロッテのやり取りが耳に入った途端、ヴァルから舌打ちがチィッ!!と鳴らされた。つい数十秒前に自分に絡み尋ねてきた質問と同じだからではない、隷属の契約でそれに強制的に答えさせられたことを思い出し殺意を抱く。
視界からもプライドの姿が入らないように顔ごと逸らした時には、ちょうどプライドがロッテにまた両手を伸ばし前のめったのをジャックが慌てて止めたところだった。近衛兵のジャックならまだしも、プライドよりも背の低いロッテにプライドを抱きかかえることは難しい。
ステイルに事情をいちから説明し始めたマリーも、そこで気付く。プライドが飲んだ酒は特別なものでアネモネのレオン王子からとまで説明したところだがこのまま配達人の無実を晴らすのに自分の説明よりも遙かに速く確実だと思う。
第一王子を前に無礼とはわかりつつ説明を自らぴたりと口を閉じ中断し、プライドへと一度振り返り、手で示した。
「どうぞステイル様、プライド様に直接お尋ねされれば答えも早いかと」
「?ッ姉君。大丈夫ですか一体ヴァルと何ッ、が?!」
ずでい゛る。と、ドロドロに濁った声で、プライドが歩み寄ってきたステイルに両手を伸ばしたのはすぐだった。
既にロッテに抱き着こうとしたせいで体勢を崩し気味だったプライドが、そのままジャックの腕からもバランスを崩しまるで液体かのようにこぼれ落ち掛けたところでステイルも受け止めないわけにはいかない。
抱き着いてくるプライドを両腕で受け止め、やはりだらしなく床へと垂れてしまいそうなプライドの両足をも反対の腕で持ち上げ抱きかかえるしかない。
ひっぐ、えっぐ!う゛う゛う゛う゛ぇぇ……と泣きじゃくるプライドに、上等な寝衣に涙も鼻水も涎もなすりつけられるステイルも、服の汚れを気にするどころではなくなった。プライドを抱きかかえるのは今回が初めてではないが、それでも自分の首に両腕を巻き付けべったりとくっつき泣きじゃくるプライドに、一気に目が回る。「プ、ライド?!」と思わず声を上げて呼べば、またジャックと同じ質問まで投げかけられた。しかも明確に返事をしないと、びえびえと泣きじゃくりながら抱き着く腕に力を込めてまた同じ質問を繰り返してくる。
ようやく問題にならない程度の答えをなんとか返したところで、またプライドがまた泣き声を溢し出す。
マリーから冷静な声で「プライド様は泥酔しておられます」と言われても、それどころではなくなった。なるほどヴァルの状況はこれかと、天才策士としての頭脳の一部が納得と共にヴァルへの潔白だけは理解する。今、第三者に見られたら現行犯は自分になる。それほどにプライドは泣きじゃくり続けたままだ。
「じゃあな。うぜぇ絡み酒はテメェらで処理しろ」
これ以上プライドに泣きつかれたくもないヴァルは、もうプライドとステイルからも充分な距離を取った。荷袋の砂を操り、蛇のような砂の塊に手紙のついた小さな包みを取らせ、砂の蛇が配達物を咥えたままステイルの足に巻きつき登りそのままプライドの胸元へポトリと落としてから砂になった。
両手が塞がったまま一方的に配達物と砂をプライドに上に置かれ、不安定にそのままポトリと床に落ちた手紙と小包にステイルも眉をつり上げる。急いだせいで黒縁の眼鏡もかけ忘れたままはっきりとした視界でヴァルを睨んだ。
「待て!!姉君がどうなってるのかお前からも説明しろ!!」
「アァ?レオンが仕入れた厄介な酒で酔っ払っただけだろ。どんな奴でも酔う、薬より厄介なブツだ。泣き絡み酒なんざ二度とクソガキに飲ませんじゃねぇぞ」
配達代金は明日取りに来ると、一方的に告げたヴァルはそのまま窓に足をかけ、飛び降りた。
つい最近レオンからお披露目され興味本位で試した酒は、自分にとっても良い思い出はない。自分でも酔ったのだから、プライドが酔うのも別段驚かず、嫌でも見覚えのあるワインに結論が繋がるのは当然だった。
レオンから「できればプライドの就寝時間より前に届けてほしい」と配達物を預かった時から良い予感はしなかったが、よりによってあの酒をプライドにまで仕込んだことに呆れを通り超して今は憤りを覚える。いっそ今夜ということもわかって仕掛けられたんじゃ無いかとさえレオンに思いつつ、泣いたプライドを放置して逃亡した。
「ッお姉様?!どうなさったのですか!!」
騒ぐだけ騒いで窓から逃げていったヴァルにステイルが歯噛みしたところで、今度は入れ替わるように扉からティアラが駆け込んできた。
廊下の騒ぎに目を覚ましたティアラもまた、プライドに何かあったのではないかと寝衣姿のまま駆けつけた。部屋に入った途端「兄様?!」と思わず声を上げる妹に、ステイルも「違う!!!!」と思わず第一に叫んでしまう。自分が最初にヴァルを目撃したような疑いを妹に持たれたくない一心だった。
「姉君は少々酔いすぎているだけだ。どうやら酔うと誰にでもこうなるらしい」
「お姉様……甘えっこになっちゃうのですか……?」
早口で必要な情報だけ告げるステイルに、肯定するようにマリーとロッテ、ジャックも深々と頭を下げてみせた。
兄がプライドが泣くほど酷いことをするわけがないと信じているティアラも、さらに専属侍女と近衛兵の証言もあれば素直に信じられた。今もヴァルが去ったことにも気付かずびえびえと泣きじゃくるプライドに、金色の目を丸くして凝視してしまう。ただ酔っているだけと思えば、泣いているプライドも可愛く見えた。
しかし、今もプライドに泣きつかれたまま両手が塞がったステイルは、この症状を「甘え」で済ませて良いのかと現実逃避のように考える。
「まぁ……まったくの意外というわけではないが……」
自分も以前、アーサーとの雑談でそんなことを予想したなと遠い昔の気分で思い出す。
プライドが酔ったら、確かに自分も「甘える」方向の人間かとは思ったし言った。十六才になったばかりのプライドが寝ぼけている時に抱き着いてきたことを思い出せば、そういう一面が隠れているのではないかと考えての予想だった。
だからこそ酔っているだけとわかった今は、彼女の紅潮した肌にもとろけた眼差しにもそしてまるで甘えたい盛りの幼子のように抱き着いてくることもわかる。しかし、ここまで幼い泣きじゃくりをして、意図のわからない質問で迫って来るとは思いもしなかった。可愛い女性の甘えと呼ぶよりも、大昔幼いアムレットがフィリップと離れたがらずに珍しくぐずった時を彷彿とさせられる。
甘え上戸と泣き上戸と絡み酒の混合したプライドは、国一番の天才と呼ばれるステイルにも理解不能の生物に達していた。
「お姉様っ。大丈夫ですか!お酒飲んだら兄様にいっぱい甘えたくなっちゃったんですね!」
「でぃあら……」
ぴょこぴょこと小鳥のように心配し接近してくるティアラに、ステイルは早くも安堵と共に若干の惜しさも感じながら一秒目を閉じる。
両腕にかかる重心に意識を向ければ、ぐらりとプライドの体重が傾きそしてティアラにまた両腕を広げて飛びこもうとしていることもわかった。ティアラが驚き声を上げ、か弱い妹をプライドが意図せず押し倒してしまう、……前に。プライドがステイルの腕からぼふんとベッドに瞬間移動で着地した。
前のめりになっていた上体もべちゃんと着地し思わず突っ伏すプライドに、ティアラもあわあわしながらすぐ駆け寄った。ティアラに抱き着こうとするプライドを一瞬でも放り出すのはステイルも悪いと思ったが、酔っ払ったプライドにティアラが潰されてお互い倒れどちらかが怪我をした時の方が後で引き摺ることになる。
「お姉様!」とベッドに駆け寄るティアラは、両手を伸ばしたままのプライドに自分から飛び込み抱き着いた。ぼふん!と二人目の着地音がベッドから溢れる。
「〜〜〜〜〜だいっっっっっっ好きです!!!!」
う゛ぅっ…う゛えええ゛え゛え゛、と泣きじゃくりベッドにうつ伏せの状態でティアラに抱き着き膝に顔を埋めるプライドと、きゃあああああああああ!!と黄色い悲鳴で可愛い可愛いとそれを受け止めながら深紅の髪を何度も撫でるティアラに、ようやくそこで落ち着いたとマリーはひと息吐く。
プライドからの同じ質問に丁寧に何度も答えるティアラに流石だと思いつつ、心の中で拍手を送った。
「兄様っ!!今夜はお姉様と一緒に寝て良い?!」
「許可は任せろ……」
ハァ……と、ステイルは力無く項垂れながら溜息を吐いた。父親達には翌朝に上手く説明と許可を貰うことは自分が請け負い、珍しく甘えてくれる姉に目をきらきら輝かせる妹に全面的に託すことを決めた。
ふと、足下に転がったままの配達物気づき、思い出したまま拾えばレオンからの品だった。プライド宛ての品を開けるわけにはいかないと、一度テーブルに置こうとしたステイルだが差出人が酒と同じレオンであることとこの時間帯とヴァルを使ってまで届けられたことに考え直し、開く。
「……ティアラ。寝る前に、これを姉君に飲ませられるか?」
できれば酒を飲む前を推奨する説明書きがレオンの直筆で書かれた〝酔い覚まし〟の薬を手に、ステイルはマリーとロッテにも視線を配った。
………………
「なるほど。それで、ですか」
翌朝。ジルバールは俄に切れ長な目を開きながら、納得の息音を漏らした。
今朝、ステイルから王配である父親にプライドの強い希望でティアラが一緒に部屋で就寝したことを報告された場面に立ち会っていたジルベールが、ちょうど国際郵便機関の現状報告の為にプライドのもとに訪問してきていた。
てっきり何か問題が起きたのか、悪夢でも見たのかと心配してのジルベールの問いに、プライドも羞じらいのまま素直に答えるしかなかった。
「本当、本当に恥ずかしいわ……」
言いながら、また両手で顔を覆ってしまう。自分の部屋で小さくなる背中のプライドに、アランとエリックも無言のまま目を互いに合わせた。結局なにごともなく終えた飲み会だったが、プライドの方は全くなにもないわけではなかったと知る。
今朝、目を覚ましたプライドだが酒があまりに美味しかったこと以外、殆ど覚えていなかった。しかし目を覚ませば何故か自分のベッドに妹が眠っていて、しかも妹をひっしと抱きしめた自分の両手を見れば完全に血の気が引いた。
記憶がない分、完全に自分がティアラに迷惑をかけさらに絡み酒をした可能性だけは最短距離で理解した。しかもティアラからは「可愛かったですっ!」と言われ、ステイルもマリーもロッテもジャックも誰もが明確な答えは言わずに口を噤む事態に、一体どれだけ自分は酒癖が悪かったのかと目眩さえ覚えた。
しかも、テーブルに置かれた見覚えのない包みと手紙に気づき、マリーに尋ねればまさかのヴァルにまで自分は絡み酒をしていたことが判明した。もう恥ずかしくて仕方が無い。しかも記憶がないのが余計にタチが悪いと自分に思う。
「まぁ、そういう効能のお酒を飲まれたのですから。決してプライド様が自制を怠ったわけでもありませんし、ステイル様方の仰る通り忘れられた方が宜しいかと」
「ジルベール宰相の仰る通りだ。むしろ、プライドをそこまで酔わせる酒など俺も興味深い」
プライドが気にしないようにと言葉を選び宥めるジルベールの隣で、同じく国際郵便機関の報告と相談に訪問していたセドリックもそこで僅かにプライドへ前のめった。
プライドの顔色が悪いことは、会った時から気になっていたが、まさか酔いでの恥だと聞けばいっそ意外と思う。二日酔いになっていないだけ幸いだと考えながらもそのレオンの用意した酒は純然に気になった。自分もまた、今まで羽目を外すほど酔ったことはない。特に記憶が飛ぶほどとなれば、興味もあった。
「残りはないだろうか?レオン王子に俺も依頼すれば取り寄せて頂けるだろうか……」
「どうかしら……あまりお勧めはしないけれど。私も、昨夜のことは全員に口止めしないといけなくなったくらいだし……」
絶対的記憶力の持つセドリックが、また更に大恥の記憶を増やす可能性をプライドも黙ってはいられない。今でさえ、過去の愚行に頭を抱え機能停止することもあるセドリックに、立派な王弟になった今まだ恥の重ね塗りなどさせたくない。
酔うか酔わないかの酒ではない、ラスボスチートの、酔っ払う設定そのものが皆無だった自分すらボロ酔い大恥の代物だ。
弱々しく眉を下げながら首を横に振るプライドに、セドリックも「そうか」とそこで姿勢を戻した。まだ興味は尽きないが、それでもあまり話したがらない様子のプライドにこの話題自体避けるべきだと判断する。プライドの体調不良でも問題発生でもないただの酔いの一夜であれば、深掘りする必要はないと考え直した。
セドリックからも追求が静まったところで、ジルベールも優雅な笑みで「そうですねぇ」と柔らかく二人の会話を締め括るべく口を開いた。
「一説によると、酔った姿とは自身が最も抑えている一面とも言いますから。今後とも一切酔わずに済むならそれが尤も最善でしょう」
「!ジルベール宰相殿は何かー……、……いえ」
覚えでもあるのですか、と、また新たな興味を、今度は最後まで言い切る前にセドリックは喉の奥にしまった。
にっこりと笑んだジルべールの切れ長な眼差しと目が合った瞬間に、そこを深掘りするのもまた禁忌だと背筋の冷たさとともに勘付いた。
そしてセドリックと同じく興味が沸いたプライドも、そこで苦笑いのまま話を本題の国際郵便機関に戻す方向に考える。ジルベールが泥酔したところもセドリックが泥酔したところも見たことはない。しかし、………ラスボスの自分と違い第一作目の特典ドラマCDでは間違い無く彼らには〝乙女ゲームらしい〟酔い方が秘められているのだろうことを静かに確信した。
二度とレオンにあの酒の発注はしないことを心に誓い、プライドは昨夜のやらかしそのものを忘れることに一日の殆どの努力を費やした。
今まで何度か質問に頂きました「プライドは酔ったことはあるか?」「どれくらい酒に強いか」「酔うとどうなるか」の回答話でした。
「純粋培養すぎる聖女の逆行~闇堕ちしかけたけど死んだ仲間に会えて幸せなので今度は尊い彼らを最善最優先で…って思ったのになんで追いかけてくるんですか?!~ 」
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毎日20時更新連載中です。
略称は「ぴゅあ堕ち」になります。
よろしくお願い致します。




