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Ⅲ141.観客達は追い出される。


「本当にすごかったです!!あのっ地面のとかびっくりして格好良くて!!主が何倍も格好良く見えました!」

「ねぇ!やるんだったら先に言っといてくれれば良かったのに!いつから決めてたの?」


終幕後、一度観客全員が舞台のある大型テントから退場させられた。

第二部の公演も観覧予定であるヴァル達も当然同様だった。誘導係により退場を呼びかけられてすぐに席を立ったレオン達だが、やっとセフェク達が話したい話題を掛けられたのは今が初めてだった。回収に来るまで常に自分たちの傍にいた団長の存在のせいで、セフェクもケメトもそれまでは意識的に話題を避けていた。

普段から必要以上特殊能力について明かさないようにヴァルに言われている二人も、わざわざ団長の前でヴァル の特殊能力を明かすことはなかった。ほんの少し話せる機会があったのも、演目後に衣装を隠す上着を羽織ったカラムが数分間団長を連れ去ったくれた間だけである。


しかもその間はサーカスの新たな演目に夢中になるので忙しく、じっくり振り返り話す余裕はなかった。

その後に再びステイルと共に戻ってきた団長が第二部の打合せを始めたこと自体は大して気にならなかったが、ヴァルと話すのに常に邪魔だったことは間違い無い。早く話したいのにいつまで経っても自分たちの傍を離れない存在が去るのを今か今かと待ちわびていた。


そしてやっとついさっき、ステイルとアランと共にサーカス団の元へと団長が回収されたことでセフェクもケメトものびのびと今は話ができる。

周囲にはサーカスを見終わったばかりの観客が興奮のままに語り合い噂や評判も周囲へ広げている中、セフェクとケメトの掛け声も耳を傾けなければ至近距離の他人にすら届かない。

特殊能力、という言葉を敢えて口には出さずヴァルを見上げる二人は、今だけは褐色に見えない腕にしがみ付き引っ張る。顔を見ると他人だが、自分達からの投げかけにチッと舌打ちを溢して面倒そうに顔を歪める反応は間違いなく自分たちの知るヴァルだ。

更にはその口から「うぜぇ」と聞き慣れたなじみのある声が放たれる。


「決めてるわけねぇだろ。跳ねてるガキ観に来ただけでなんで俺様が協力なんざしてやらなきゃならねぇ?」

「でも好きで手伝ったんだろう?」

ア゛ァ゛?と直後にヴァルがレオンへ唸る。

ヴァル自身協力したくて協力したわけではない。ただあのまま失敗されれば面倒ごとが回りに回って倍になって自分にも降りかかってくるから手を打っただけだ。それをまるで自分が嬉嬉として協力したかのように言われては不快でしかない。

牙のような歯を剥きレオンを睨むヴァルはセフェク達にはあくまで素朴な男性が強面を相手に果敢にも威嚇しているようにしか見えないが、正しい姿の通りに目に映っているエリックは苦笑したくなる気持ちを噛み殺した。

今までも何度か目にした二人の会話だ。が、よくレオン王子はヴァルを相手にそこまで言えるものだと、こっそり思う。単なる会話だけでなく、本当に遠慮がない。

更には正面からヴァルの眼光を受けた上で「ちょっとはサーカスに興味沸いたかい?」と尋ね出す。当然沸くわけもない。


ケッと吐き捨てた後には荷袋を背負い直すヴァルは、言うまでもなく視線を逸らした。

演目中もステイルと主に団長の声で二部についての相談が耳には入っていたが、主にカラムとプライドの演目相談。しかもしきりに「さっきの柱と螺旋階段をまたやりたいな」と団長の声で聞こえれば、尋ねられずとも肩ごと背けて顔を顰めた。あの時は手段が限られていたから手を貸しただけで、そうでなければ事前に参加を受けるなど死んでもごめんだった。


結果、ヴァルの態度に出した反応をステイルも返事と受け取り「あれは一度だけと決めてますので」と断った。いくら団長に猫撫で声でせがまれようとも、本人がやらないと意思を示すならば仕方がない。一度無条件にプライドへ手を貸してくれた時点で、ヴァルへ命令権を酷使するわけにもいかなかった。


「でも結構楽しそうだったじゃないか」

「目玉腐ってやがんのか。散々遊びやがって」

敢えてのように肩を竦めるレオンへ、今度ははっきりと言葉で否定する。最初に手を出したのは自分だが、途中から指示をレオンに投げた結果、良いように自分の特殊能力を扱われたと思う。扱っていた自分よりもあの時土壁の特殊能力で楽しんでいたのは間違いなくレオンだとヴァルは思う。

いっそプライド本人もアランも全員がレオンの手のひらで遊ばれていたように見えたほどだった。


ヴァルの言葉へ「ごめん」と滑らかな笑みで肯定しながらレオンも確かにあの時は楽しかったと振り返る。プライドをどれだけ輝かせられるか、そしてヴァルの特殊能力にこんな応用もできるのかと考え試すのがどちらも遊び心を刺激させられた。


「ジャンヌにも会いたいけど、カラムと忙しいようだし合流できるのは二部の後かな」

「!はい。二部の後も片付け等は演者は免除されているので、時間がいくらか自由にしても構わないかと団長にも確認をとっておられました」

ステイルが団長と共に自分達の元で相談を始めたのも、暗に情報共有の為もあったのだろうとレオンとセドリックは理解する。

最初は団長だけならばまだしもステイルまで訪れた時は二人も驚いたが、自分達の傍で「ジャンヌは」「カラムさんの演目の時間を延ばして」という話し合いがいくらか聞こえれば、二部での動きも大幅にでも察することはできた。特にセドリックに至っては、ステイルが訪れてからは舞台よりも身を乗り出してまでステイルと団長の会話を注視していた。団長にこの後のサーカス団の予定と流れをステイルが尋ねる形で、二部の演目順も変更点も終演後の客払いから清掃と打ち上げの段取りも予定まで確認できた。


「よく聞こえていたね」とレオンもセドリックの言葉に僅かに両眉が上がる。

ヴァルに二部参加の意思を確かめる為にもステイルと団長は揃ってレオン側の端の段差に掛けて会話をしていたのに、自分すら舞台や観客の喧騒で聞こえなかった会話を反対端のセドリックが拾えていたのは不思議だった。


「二部まで……あと三時間くらいかな。ジャンヌ達も忙しいならどこで時間を潰そうか。屋台でもみるかい?」

「どうせ金が時間もあるなら高い店食わせやがれ」

「!待ってヴァル!!ケメトがまだ人形買えてない!」

サーカスへと並べられた出店を指差しながら提案するレオンに、ヴァルは興味ないとばかりに背を向けるがセフェクに掴まれ止められる。

更にはケメトからも「そうでした‼︎」と声が上げられた。サーカスに並んだ際セフェクが買っていた人形シリーズをケメトもまた手に入れたい。

うんざりと息を吐くヴァルをそのまま二人揃って腕を引き出した。あっち!僕見えないです!!と叫ぶセフェクとケメトに、金はあるんだから二人で行ってこいと言いたいが、視界に広がる人波を見れば諦めた。


「……二部の後に買えば良いじゃねぇか」

「その時には売り切れてるかもしれないよ?さっきのライオン、結構観客に評判だったみたいだから」

代わりに後回しを選ぼうとするヴァルにレオンが背を止める。

本来の演目である猛獣芸だけでなく、観客にとってはサプライズゲストでも現れたライオンは特に好評を博していた。どうせなら記憶に残った動物の記念品が欲しいのは当然だった。

今もサーカスとは関係のない土産屋ではサーカスの象徴的人形や記念品が飛ぶように売れ、客が列をなしごった返している。

だからこそ今並ぶのが嫌だったヴァルだが、レオンの余計な助言に更にセフェクとケメトから必死さが滲み出す。ほら!急ぎましょう!!とぐいぐい引っ張ってくる二人の意志のまま、身動きすら面倒になりそうな人混みの最前線に向かわされた。

人混みに揉まれるなど、盗みをする時か闇討ちする時かもしくは追手を振り切る時でしかやりたくない。だが、ここで小柄なケメトと女であるセフェクだけを放り込めば、容易に人攫いの餌であることも自分がよく理解できた。騎士も守るのはあくまで王族であるレオンとセドリックだけである。


「そうだダリオ。君も彼女に人形、買わなくて良いのかい?多分一番の人気だよ」

「はっ……いえ、しかしジャンヌを襲った猛獣を模った人形を彼女が喜ぶのかと思うと……ジャンヌとフィリップ殿の心境を考えても……」

「それは大丈夫だと思います。むしろ、ライオンの方がナイフに襲われましたから……」

ははは……と、レオンとセドリックの会話にエリックもやんわり入る。

あのナイフの出所など考えるまでもない。姉がライオンに襲われた件を案じて贈り物を改め直そうとするセドリックの気持ちはわかるが、結果としてあれはライオンも可哀想だったとエリックは密かに思う。裏にラルクがいるのは当然。そしてジャンヌではなくトランポリン破壊を命じられた動物が、猛獣以上の殺意をハリソンから向けられたのだから。

本当に命まで取られなくて良かったと、心の底からエリックは思う。血みどろの劇場など、来ていた観客には目に毒過ぎる。特に自分が確認できただけでも子どもの客も多かったことを思えば余計にだ。

セドリックが気を利かせた貧困街の子どもも混ざっているのならば、任務を置いてもサーカスは健全な幕引きで成功して欲しかった。


「そうでしょうか……」とセドリックもエリックの言葉に息を吐く。自分よりも前からティアラを知っているのであろう彼の言うことならばと考え、改めてヴァル達が向かう出店を見据えた。セフェクが買った出店へ自分も、……と思ったところで別の店に目が引っかかる。

隣の店を見れば、次の瞬間にはそちらの方へ足早に突入した。護衛のエリック達も彼から離れず進行方向へ従う。レオンも護衛と共にどちらに行くか悩んだが、護衛の数から判断しても五歩遅れた位置からヴァル達の後に続いた。


「ヴァル!あの串焼きもあとで食べたいです!!」

「ちょっと!!列あるのに割り込んじゃ駄目でしょ!」

ふざけんな二度と並ぶか知るか列なんざどこにあると、ケメトとセフェクに言葉を返しながらズンズン進んで終わらせようとするヴァルに当然出だしが遅れたレオンは追いつかない。割り込みなどしようとも思わない。

しかし少し離れた位置から彼らを見れば、ヴァル達だけでなくセドリックの背中も確認できた。人よりも背が高いだけでなくレオンの目には彼本来の金色の髪が靡く姿で余計にみつかりやすい。パッと見た時は、てっきりヴァル達と同じような系統の人形店に並んでいるのかと考えたがすぐに認識を改めた。


「彼、……ちゃんとわかって並んでいるのかな……」

ふと心配になりセドリックを今から追いかけようかと考えたレオンだが、彼のことを思い出せばまぁ平気かと思う。

取り敢えずヴァル達が先頭へと不当にも早々辿り着いたのを見守った。人波に揉まれ、ただでさえ今は強面の顔が周囲には見えていない為遠慮なく押し返されるが、セドリック以上に背の高いヴァルはものともしなかった。寧ろ小柄なケメトが最終的にヴァルの足元から両肩へと乗せられた。

セフェクは良いが、ケメトはいまだに人混みの中では埋もれやすい。ここで人攫いに遭うのも面倒であれば、人混みに紛れてはぐれられるくらいならばもう乗せた方がヴァルにとってマシだった。


レオンが離れた位置からヒラヒラと手を振れば、ケメトも振り返った首のままヴァルの肩から手を振り返した。

そのまま銀貨を台へ八つ当たりまじりに叩き付けるヴァルとセフェクと、お揃いを含め三体の人形を受け取ったケメトをレオン達も後方から見守った。

踵を返し人混みの中を押し進み戻ってくるヴァル達にそこで自分達もそっと人の列から抜けた。もともと興味本位でついていっただけで、レオンは買う予定もない。

おかえり、と滑らかに笑いかけるレオンにヴァルは返事をしない。不快この上なく顔を歪めながらも、人混みの抜けたところでケメトを下ろした。「ありがとうございます!」と声を跳ねさせるケメトも無視し、さっさと食いに出るぞと飲食店街報告へ足を向けた。しかし、まだセドリックが合流していない。

まだだよ待たないと、と。レオンに指摘され苛々と足を揺らしながら更に十分待たされる。


「遅れて申し訳ありません!列がなかなか進まずっ……!!」

「君、やっぱりそれが欲しくて並んだのかい?」

よく手に入れたね、と。レオンは少し関心を覚えながら焦燥のセドリックを見返した。

レオン達を任せたことに焦りながら人混みをエリック達に掻き分けられ戻ったセドリックの小脇にはケメトの身長の半分近くはある巨大なライオンのぬいぐるみだった。構造の単純な人形と違い、上等な布や綿を使って製作されたぬいぐるみは極めて珍しく、制作の手も掛かる分に価値も高い。

そのぬいぐるみを前にセフェクとケメトも揃って「あっ!」と声を上げた。彼女達もまた店を見た時にそのぬいぐるみが棚に置かれているのも目にしている。セフェクに至っては欲しいとも思った品でもある。しかし欲しいと思うだけで、選ばなかったのは。


「それ、矢を命中させないといけなかっただろう?よく当てられたね」

難易度も高くされている筈なのに、と。言いながらレオンは首を傾けた。

単純に代金を払えば手に入る品ではない。誰もが欲しがる質と大きさのぬいぐるみは、高額販売より遥かに稼げる方法で棚に置かれていた。

手描きの多重円の板を的にしたダーツである。しかも使用する矢も古びてもろく、的に当たったところで力がしっかり加わっていなければ刺さらず落ちるか壊れてしまう。

挑戦代金が安い分、金のない者か並び腕試しに狙う者は多いが、叶うことは少ない。今も、セドリックが獲得したライオンは補充されることもなく、残りの動物である虎と狼と象のぬいぐるみだけが飾られたままである。


「私も不安でしたが、幸いにもエリック殿達が見本を見せて下さりましたお陰で無事獲得できました」

ティアラの為ならば店ごと買っても良いと思ったセドリックだが、結果として実力でもぎ取れた。

それも自分の護衛としてついてきてくれた騎士三人に頼んで手並みを観察できたお陰だと本気で今もエリック達へ感謝する。ダーツは知っていたが、実際にこんな形でやるのはセドリックも初めてだった。

しかし言葉を受けたエリック達はそれぞれが首を横に振る。「いえいえ」と苦笑を禁じられないままエリックが代表として口を開く。


「自分達は先にやらせていただいただけで、お恥ずかしながら高額命中は叶いませんでしたから……ダリオ様の完全勝利です」

エリックの言葉に同意するように重く頷くジェイルとマートも今は少し表情も苦かった。

騎士ならば命中率は高い筈と、金を払い先に手本だけを見せて欲しいとセドリックの頼みに従った騎士三人だが、その騎士ですら高得点獲得は難しかった。

最初に挑んだ七番隊騎士のジェイルは、投げたダーツが力加減のせいで的にぶつかる前に折れた。放った時点でパキリと指の力にダーツが負けた。三本中的に辿り着き刺さったのは一本だけだ。しかも真ん中から三センチ逸れた位置だった。

同じく七番隊でありジェイルの先輩でもあるマートは矢は折れずに的の真ん中に三回中二度もぶつかったが、今度は固い板相手に刺さらなかった。残りの一回はなんとか刺さりはしたが、代わりに力加減を苦労させられた分やはり真ん中には至らなかった。

この時点で騎士三人は店の詐欺を静かに疑い、半分諦めた。

三人の中では射撃の腕も高い方であるエリックは、一本目の矢こそ的にぶつけて壊したが、残りの二回はちゃんと的に刺すことはできた。……しかし、真ん中は取れなかった。

銃だったら全て真ん中を撃ち抜けた自信もあったが、ダーツはエリックもそしてジェイルとマートも始めてである。同じ射的系統でも握る物も扱い方も全てが違い過ぎた。

射撃など、騎士団では主流の銃火器か、補助程度の弓矢や爆弾くらいである。ダーツのような小さな矢は扱わない。

結果、見事に脆いダーツ矢と強固で粗雑な的を相手に一発で真ん中を射ることができたのは最後に挑戦したセドリック一人だけだった。

セドリックの腕前を讃えるように、エリック達はそれぞれ一度は服や手にしまったそれぞれの景品を晒して示す。自分達はこのレベルしか取れなかったとわかりやすく示す三人に、それでもセドリックは「いえ本当に皆様が見せて下さったお陰で」と訴える。

三人の腕前をそれぞれ目にできたからこその結果であることは、誰よりも自分が自覚している。

しかしセドリックの銃の腕は知っていたレオンも騎士三人を上回った結果には目を丸くした。


「ねぇヴァル!私達にも取って!!」

「あー?できるわけねぇだろ。取った本人にねだりやがれ」

「も、申し訳ありません……店主に二度と来るなと言われたので恐らく私は門前払いかと……」

「ヴァルなら取れると思います!僕もやってみて欲しいです!!」

ふざけんな!と直後にヴァルが怒声を上げる。もう二度も人混みに揉まれながら並びたくない。

しかしセドリックの手から間近で上等なぬいぐるみを目にしたセフェクは勿論のこと、ヴァルのナイフ投げの腕を知るケメトもそんなに難しいならやってみて欲しかった。

しかしヴァルにとっても、こんな安い街の出店の賭けまがいの景品など取れないに決まっていると既に思う。高額商品の中身が偽物だったり獲得後の相手を後で襲い景品を奪い返す、そもそも取ることが不可能であるように仕掛けがあるのが当然だと知っている。

最高景品を手に入れたセドリックは当然のこと、王族を褒め謙りながらちゃっかり景品を手にはしているエリック達も充分挑戦者としては例外。本来ならば他の客と同じように一つも手にいれられずに肩を落とすか唾を吐くかのどちらかである。

取れるわけねぇだろ時間と金の無駄だと続ける中、セフェクに引っ張られケメトに背中を押され出す。しかし今回はヴァルも本気で抵抗し進まない。


「フォークでもできるんだから簡単でしょ!!ナイフ投げ上手いんだから取って!」

「小せぇボロ矢でできるわけねぇだろ!」

「!失礼。あの、ヴァル殿はナイフ投げならば可能なのでしょうか……?持参したナイフであれば使用も可能でしたようなので、それならば是非」

余計なことを、と。次の瞬間ヴァルはセドリックからの助言に「アァ?!」と喉を荒げた。まさかナイフ使用可能なのは予想しなかったが、それを聞けば自分が断る理由が一つなくなる。

人に向けて武器を扱えないヴァル自身はもう持ち歩かないが、ちらりと目を向ければケメトが爛々と目を輝かせて服の袖を引っ張りナイフを見せてきた。ケメトにねだられたことと自己防衛させる為とはいえ、彼にナイフを持ち歩かせたことをヴァルはたった今初めて後悔した。三本以上持っていることもよく知っている。

しかもナイフ使用可能と知った途端、ケメトまで今度は自分もやってみたいと声を上げ出した。

ナイフ投げには覚えがあっても護衛の騎士達も含め、ナイフの持ち合わせがなかったセドリックもこれには「なんと?!」と目を剥いた。まさかティアラのような装備をケメトまで持っているとは想像もしなかった。


せっかくなんとか終わった筈の人並みに、再び入らなければなくなるヴァルは凶悪な顔を険しく牙立てたが今の二人には寧ろいつもより怖くない。

どうせ並ぶなら酒の店が良いと思いながらも、レオンまで今度は乗り気に自分達の背後にぴったり続いた。待たせたセドリックも当然ヴァル達にも付き合うと並べば、護衛も含め全員が詐欺ダーツ屋へ並ぶことなる。

酒も昼食もお預けのまま不機嫌最高潮のヴァルと、上機嫌のケメトが目玉景品二つを捥ぎ取り終わるのは、更にきちんと並び終えた一時間後のことだった。


「せっかくだし僕もやろうかな?普通にダーツで」


……興味本位のレオンが最後の目玉商品も三本目の矢で見事撃ち取るのもまた、同刻だった。


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