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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス

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そして錯綜する。


「アーサー、ジャンヌ頼むぞ。納得いくまで無事かも確認してくれ」

「おう」


「とにかくここは邪魔になりますしもっと奥に」と舞台裏の深奥へ誘導するステイルの言葉と共に、全体も集団移動した。

矢面にステイルが立ち、それらしい理由で誤魔化す中、プライドの隣に立ったアーサーが改めるようにアランへ頭を深々下げた。お疲れ様です!!と騎士の習慣のまま声を出してしまい、逆にアランに口元で人差し指を立てられた。離れていてもここは舞台裏だと思い出し、アーサーも慌てて口を絞る。今度は無言のまま再び深々頭を下げる。

怪我はありませんか、本当にと。言葉を重ねるアーサーにプライドも笑って返す。ライオンの乱入には色々な意味で焦ったが、自分はかすり傷一つしていない。ハリソンのナイフのお陰だと笑いながら天井を指差しそうになったところで、意識的に指をしまい拳で隠した。今はハリソンの存在も示唆してはいけないと言葉も隠す。


「あの、ナイフの、牽制?のお陰で近づいてもこなかったもの。ええとアレは……どう説明しているのかしら……?」

「いやマジで牽制っつーより宣告でした。ナイフについてはフィリップが「魔術で降らせました」で通してます」

実際ステイルならナイフを天井から降らすことぐらいならば可能だろうと思いながらプライドは苦笑う。

敢えて自分が仕掛けた、罠を張ったとは言わないのに魔術で〝降下〟とナイフを落としただけのように言うところがまたステイルらしい。先ほどのヴァルの介入もそうだが、全てを〝魔術〟の言葉で観客だけでなく団員にも通そうとしている。

もともと人体脱出自体その種は明かせない方向で押し通したステイルだったが、瞬間移動だけでなくナイフ降下に土の柱や螺旋階段まで被るなら本当の魔術師になってしまうのではないかとプライドは考える。

今も視線を向ければ団員達へ向けて平然とした口調で「どうやったかは言えません」「仕掛けを知られたら真似されてしまいますし」と言いのけている。あくまで持ち技の一環と言う以上、手の内を隠すことが許されているサーカス団ではそれ以上の糾弾もできない。ただでさえ予定外にライオンを放ったのも、トランポリンを使用不可にしたのも、演目を大きく変更せざるをえない状況を作ったのも、その犯人が明白な上でフィリップ達はあくまで被害者だ。


「そういえばラルクは?こっちには現れていない??鞭の音が何度か聞こえた気がしたのだけれど……」

「いたけど逃げました。フィリップに鞭没収されたンで予備でも探しに行ってンじゃないすかね」

ライオンも檻に戻せるのあいつだけでしょうし、と。アーサーの切り返しはいつもより少しだけ冷ややかにプライドは感じた。

まぁライオンをけしかけてきた本人なのだから当然かとプライドもアランも思いつつ、その蒼い目の奥が鈍く光ったことにも気がついた。アーサーにとっては未だに腹立たしさは収まっていない。

単純にプライドの舞台に危険な猛獣を放ったこともそうだが、自分の手ではなく動物を使ったことも卑怯に思える。あそこで無理にでも止めなければ、息の根を止められていたのはプライドを狙ったラルク本人ではなく命令に従ったライオンだ。

一度は思いとどまってくれたハリソンも、二度目はなかっただろうこともアーサーは理解する。結局自分が一度締め上げステイルに鞭を没収された後は自分の拳で殴りかかってくる度胸もなかった男に、いくら操られていようとも現段階で良く思うことはできない。


「それより驚きました。まさかあの、土の。……こうなるとは俺らも全然思ってなかったんで」

「あーあれな。俺も驚いた。すっげぇよなあ、階段のやつはとくに見てるだけで面白かった」

アーサーとアランの言葉に、プライドも百言いたい言葉を堪えて細かい頷きで何度も返した。

本っっ当にと。その言葉は二人にもしっかり伝わった。トランポリンが使用不能になってから、裏舞台ではジャンヌを下げるかという意見以外にステイルからも大換案をいくつか提示したが流石にヴァルの協力は全く視野に入れていなかった。しかも柱を築くだけでなく土に戻し崩す演出や螺旋階段も、ヴァルが考えたとはとても思えず途中からは唖然とするばかりだった。

互いに決定的な単語は伏せながら、情報交換する。ステイルも驚いていたという言葉にならばヴァルの独断だろうかとプライドは考える。演出についてはレオンが噛んでいるのかもと考えながら、改めて無事に締めくくられたことに胸をなで下ろした。

「!それを言えばアランさんも、一体いつあんなものまで……」


「アラン……!!」


ふと思い出した疑問にプライドが顔を上げたのも束の間だった。

意図せず重なった低い声に、プライド達も一斉に振り返る。見せ場舞台とは正反対方向でもある裏口から見覚えのある陰が姿を現していた。カラムだ。


カラム隊長、と。アーサーもプライドも思わずいつもの呼び方を呟きそうになる中でアランだけが「おっ!カラム」と大きく手を振った。共に演目を行うアンジェリカと共に現れたカラムもまた、今はアラン達と同様に演者としての衣装に着替え終えていた。

つかつかつかとアンジェリカを置き早足で突入するカラムに、アランもすぐに「あー見られたな」と確信する。どう見てもカラムの眼差しは事情を聞いた程度のものではない、確証を持った上でも説教顔だった。

お疲れ様です!と声を抑えたアーサーが頭を下げるのに片手で応えたカラムは、一度両足を揃えて止めると一番にプライドへと向き直る。


「ジャンヌさん、お怪我はありませんか。何もご助力敵わず申し訳ありませんでした」

「!い、いいえ。アランさん達のお陰で私はこの通り何もありません……。ええと、見ておられましたか……?」

勿論です。と、断言するカラムにプライドは少しだけ背筋が張る。

今までアンジェリカとの練習の為に舞台裏には姿を現さなかったカラムだが、当然プライドの演目は気にかかった。アーサーやアラン達がいるのだから大丈夫だとは思いつつも確認すべく一時中断して確認に訪れていた。

アンジェリカから穴場を聞き、舞台裏でも観客席でもない下働きが使う幕張り用の窓に控えていた。

それまでは訓練所にいたことと、ステイル達の演目が全て事故として処理されなかった為にカラムの元まで騒ぎは届いてきていなかった。


ライオンが退場して外に出たのを確認してからは、観客や一般人に被害が出ないように一度はライオン確保に走ったカラムだが、回りこめばライオンも退場口からすぐ前で大人しく座り込んでいた。

他の団員達が檻へ確保したのを確認してからすぐに舞台を見に戻れば、今度はアランがプライドを螺旋階段の上で攫う瞬間だった。ライオンの次に目眩を覚えたと、カラムは今でも思う。


「いやー本当に役得でした。ジャンヌさんと一緒に舞台出たいなーと思ってたらこんな形で叶うとは流石に思いませんでしたし」

「アラン。お前は本当に……。いや、よくやってくれたことは認めよう。流石の迅速な判断だ。私は何もできなかった。しかし、あの空中浮遊はお前も初日に一度習っただけだろう」

え?!!と、直後にはプライドとアーサーの声が重なった。

アランが何故担当ではない演目をできたのかは二人も不思議だったが、まさかたった一回で習得していたのかと顎が外れてしまう。ぽかんと口を開けたままのアーサーと、口を両手で隠すプライドも皿のような目をアランから離せない。

三人からの視線を受け、アランも頭を掻いて一度目を逸らした。いやー、と言葉を繋ぎながらもあっさりバラされてしまったなと思う。


カラムとしてもアランがこれ幸いと言わんばかりに舞台へ飛びだしたことに呆れはあるが、柔軟な対応だったと思う。いつもの騎士の救助任務とは違う。あくまで潜入中のサーカス団員として自然にプライドの窮地に駆けつけることができたのは、アランだけだ。しかし、……たった一回やって成功して終わった団員の演目技を使ったことには、指摘せざるをえない。万が一にでも失敗や事故に繋がればそれこそ大惨事だ。


しかしアランからすれば、最悪失敗してもその時はプライドを抱えてかもしくは一緒に着地すればそれで良いかと考えていた。

アーサーやプライドほど常軌を逸した高所からは無理でも、サーカスの高台程度であればアランも無事に着地できる自信があった。

だがここでそれを言えば間違いなくカラムから怒られるだろうとわかれば、敢えて唇を一度閉じた。素直にプライドへ向き直り、改めて「すみませんでした」と頭を下げる。

アランに謝られ、プライドはブンブンと首を振る。結果としては良い演目として締め括られたのですしと続けながら、話を変えるべく話題を探す。


「そっそれよりカラム隊、さん。衣装お披露目初めて拝見しましたが、とてもお似合いですね。そろそろ出番も近いですし、このままこちらに?」

着替えの前後から今の今まで時間を惜しんで自分達の中の誰よりも練習に取り組んでいたカラムの衣装姿を見るのは、今が初めてだった。

アンジェリカに合わせた黒の衣装に身を包むカラムは、薔薇と銀色の装飾で輝いてはいたが、比較的シックで落ち着いていた。プライドに改めて衣装姿を見られ、カラムも覇気が削がれる。「恐縮です」と深々頭を下げた後には前髪を指先で押さえつけた。

アランを庇う為の話題変えだろうも理解しながらも、恥ずかしい衣装に配慮の届いた言葉を返してくれるプライドに感謝する。


同じように「似合う似合う」「格好良いです!」とそれぞれカラムの衣装を褒めるアランとアーサーだが、二人の視線は自然とカラムの胸の薔薇にいってしまう。造花とはわかるが、がばりと開けられた胸板を見せるデザインも合わせて普段のカラムともそして式典の貴族としてのカラムとも全く別の系統だった。

カラム自身二人の視線にも自覚していれば、アランも腹を抱えて笑わないでくれただけ親切だと思う。鏡を見た時の自分の姿を思い出せば今も顔が熱くなるが、あくまで任務中だと自分に言い聞かせ続けた。なるべくプライド達の目に晒したくなかったから、アンジェリカからの穴場での観覧提案もありがたく受け取ったほどだ。


「お察しの通りもう出番も近いのでこちらで待たせて頂くつもりです。アンジェリカさんも心の整理が着いたようなので、このままの調子で本番を迎えられれば幸いなのですが」

「カラム〜!噂聞いた?!団長客席で見てるんだって!!本番絶対手抜かないでよ?一瞬でも躊躇したらぶん殴るから!!」


ハァ……。と、先程まで団員達と雑談をしていたアンジェリカからの興奮した様子の投げかけに、カラムから深い溜息が溢された。

わかりました。私は構いません。本当に宜しいのですね?と繰り返しアンジェリカに尋ねるカラムに、今日一日だけで彼が何度それを尋ねては裏切られたのかをプライド達は唇を結んだまま察した。


ラルクからの妨害の可能性を示唆する前に、アンジェリカの存在の方がカラムには足枷のように思えたことを全員が胸の底にとどめた。


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