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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス

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Ⅲ126.観覧者達は戸惑う。


「いやぁびっくりしたね」


そう今は笑い混じりに呟くレオンに、セドリックは深く頷いた。

目の前では次なる演目として玉乗りが披露されている中、視線はそのままにセドリック達は今ではない演目を思い出していた。

ステイルによる脱出手品。彼の特殊能力を知らなければ、心臓がはやるどころではなかった。脱出する時間もほぼ与えられることなく箱が沈んだのだから。

しかし事前にラルクによる妨害工作を示唆されていた彼らにとって一番の驚きはそこではない。フリージア王国第一王子がまさかよずぶ濡れで登場したことだ。目の前で大玉の上で逆立ちする男などそれと比べれば全く驚きにも及ばない。

今まで戦場を含んで様々なステイルの姿を見てきた彼らだが、奇抜な格好でずぶぬれなど見れることはまずない。


「まさかフィリップ殿が濡れて帰還されるとは……。やはり二秒では流石に水は避けられなかったのでしょうか」

「いや、たぶん濡れたのはわざとだと思うよ。あのままじゃ箱に入る前に脱出したんじゃないかと疑われちゃうから」

決死の大脱出を演じるにも良かったのだろうと、レオンは理解しながら反対端に座るセドリックへ言葉を返す。

隣ではまだヴァルがニヤニヤと思い出すように笑んでいた。濡れ鼠状態のステイルは充分愉快なものだった。

へらへら客前で笑ってこそいたが、こちらに気付いた瞬間に黒い気配で鋭く睨んできたのもわかった。


ヴァルの上機嫌に反し、セドリックは今も眉の間を寄せ険しい顔で舞台の幕向こうへ視線を注ぐ。

レオンの言葉に、なるほど確かにと思いつつもステイルの体調が気にかかる。風邪など引かれなければ良いがと案じながら、こういう時必要あらばフリージアの城の医者へいつでもかかれるステイルの特殊能力は素晴らしいとも思う。一番は風邪を引かないことだが、もしものことがあってもラジヤの医者にかからず安心できる。

あくまで手品に見せる為、敢えて水を被ったステイルの完璧ぶりは流石だとは思うが同時にあまり自身のことを粗末に扱わないで欲しいと胸の底で願う。己程度がそのような進言ができる立場とは思わないが、彼に何かあればプライドは当然のことフリージアで待つティアラも心を痛めるに決まっているのだから。

今はステイルとティアラの関係は誤解していないセドリックだが、やはりティアラにとって大事な兄であることは変わらない。


「!ナイフ!!」

「見てヴァル!ナイフ投げだって!!」

純粋に案じた思考も、ケメトとセフェクの声に打ち消された。

身動ぎ一つせず、ただ燃えるように赤い目だけ丸く見開かれセドリックの焦点を変える。先ほどまでの舞台向こうの幕から、今は舞台に設置された的と両手の指にいくつもナイフを挟み掲げる男に視線を合わす。補助役の女性が的の側でにこやかに笑う中、セフェクとケメトは当然ながらナイフを持つ男に夢中だ。


ほら見て!僕もやってみたいです!と指を差し、ヴァルの袖を引っ張り声を上げる。

面倒そうに顔を歪めるヴァルも、低い声で一音を漏らしながら仕方なく目を向けた。ドラムの音と共に、何度も離れた的の真ん中をナイフで命中させれば喝采が鳴り響く。

ヴァルもできるわよね?!できますよね!と二人が声を揃えれば、肯定を返す気にもならなかった。あの程度の距離ならば確かに自分も的を当てる自信はある。しかし大衆の見せ物になっているナイフ〝芸〟と自分のナイフ投げを同じにされたくもない。


ケッと、一人吐き捨て足を組む。セフェク達の投げかけに興味深そうにレオンもヴァルを覗き込んだが、無視された。貴重な得意技披露もレオンは意識を手放す前だった為、覚えていない。そしてヴァルも今更自分の特技など話す気もない。


ヴァル達の会話を耳に通しながら、セドリックは自分ならばと思考する。しかし生憎自分にはサーカスの演者達のように人を魅了する演目も思いつかない。

ナイフ投げならばティアラが披露してくれたお陰でいくらかの自信はあるが、それも元は自分の磨いたものではない。あくまで自分ができるのは人の模倣だと考える。

今も目の前で繰り広げられた芸当全てを観覧だけで可能な限りは飲み込み、自分の物にしている神子だがそれを自分の持ち芸とは思いたくない。むしろ見せてくれた演者達への申し訳なさもある。

王族として不必要な民衆の前で芸などするわけにはいかない。しかしそうでなくとも、あくまで真似で飲み込む自分には彼らと同じ舞台に立つ権利も、そして同じ喝采を浴びる権利もない。そう思えば無意識に肩が丸まった。


目の前では観衆の感嘆の声の中、今度は女性の頭の上に林檎が乗せられる。

その林檎だけを狙ってみせると男が豪語するのを眺めながら、セドリックは別のナイフの名手を思い出した。

標的だけをどんな体勢からでも正確に狙い、障害物をかわすこともできた彼女ならば頭の上の林檎も可能だろうと確信する。しかし、プライドの力になる為に磨いたその腕を見せ物として考えること自体が彼女に対しての侮辱行為になるのではないかと考える。

プライドやステイル達の無事を常に祈り、共にありたいと考える彼女ならば今も姉兄達と舞台に立ちたいと思ったのではないかとも思う。

それこそ自分が彼女の立場であればそう考えると思うから余計にだ。

今目の前でナイフ投げを披露する演者は派手ではあるが、男性だ。しかし今ここでドレスを纏いナイフを掲げているのが彼女であればそれはそれでさぞかし美しいだろうとセドリックは確信する。

一見では線も細く、抱き締めれば折れてしまいそうな彼女だが、実際はフリージアの騎士にも目を見張られるほどの腕前だ。きっと彼女の姿からは想像できない腕前とその技量に観客の誰もが目も心も奪われるだろうとまで想像し、……止まる。


『最初に断っておきますとこれは明日演目に出なければならなくなった為必須であり善意ある女性団員の協力あって最低限肌を見せない衣装を得られた結果です』


昨日のプライドの衣装に対するステイルの言い分、そして今の今まで舞台に演者として姿を現した女性達の衣装が鮮明に頭を駆け巡り総合する。

どのような衣装も、間違いなく美しく可憐な彼女には似合う。似合うとは思うがしかし解せない。あのような露出やむやみやたらに誘惑げな衣装などで人前に出て欲しくはないと思ってしまう。

彼女自身が好ましいと思って望みその衣装を選んだのならばまだ耐えられる。しかしプライドのようにいくらか思うところがあるにも関わらずであれば、自分は直視できる自信がない。彼女が舞台に上がること自体へ異を唱えてしまうかもしれないと考える。

自分にそのようなことを言う権利はないと思った上で、いやしかしと机上の空論相手に葛藤する。片手で頭を押さえ、男性的に整った顔を歪ませる。

その横では今もケメトが呑気にセフェクと声を跳ねさせた。

「僕もあれできるかもです!」とナイフ投げを指差せば、ヴァルからも「あんな見せ物になるのの何が良い」と両断が返さ



「なんだなんだ!もしやのまさか君達もナイフ投げに心得でもあるのか?!」



ぴたり、と。

直後に唇が同時に結ばれた。悪態を吐きかけていたヴァルも、そして目を輝かせ笑いかけていたケメトも、表情こそ違うが綺麗に口を閉じ同じ動作とタイミングで黙し固まった。

二人が急に黙したことと明るい男の声にレオンも肩で振り返りながら両眉を上げる。ちょうどヴァルとケメトの肩へ背後から手を置こうとしていた団長が、アネモネの騎士とエリックに止められたところだった。王族のレオンと異なり軽く触れようと不敬にはならない相手であるヴァルだが、自国の王子の友人相手にはとアネモネの騎士が止めた。更には初対面の相手に突然背後から肩を叩かれればケメトが怯えるか、もしくはその横の姉で配達人の尾を踏むことになることはエリックも容易に想像できた。


騎士二人に止められながらも笑顔のままに目をギラギラに輝かせる男に、触れる触れられないに関わらずヴァルは顔を不快に歪ませケメトは身体ごと振り返り距離を取る。遅れてセフェクがケメトを抱き寄せ団長を睨んだ。

先ほどから自分達の背後にいることはヴァルもわかっていたが、初対面の相手にまさか直接話しかけられるとは思わなかった。しかも親しげな馴れ馴れしい声が余計にセフェクの警戒心を煽ぐ。今も自分達を嬉々として順々に見比べる初老の男だ。


「我がサーカス団はいつでも才能ある有志を歓迎するぞ!しかも君達ほど若ければ言うことない!」

取り押さえられていなければ肩を抱いていた。

歯を輝かせ笑いかける団長に、ケメト以上にセフェクが怯える。話しかけてもいないのに一方的に会話に加わりしかもケメトを狙うような発言に不安しかない。

弟を抱き締める腕と指に微弱ながらも力が増す中、ケメトはきょとんと目を丸くした。ヴァルの方を見れば、目も合わせたくないと言わんばかりに今は頬杖に肘をつきそっぽを向いている。

どうせ騎士二人に取り押さえられているのならば何ができるわけでもない。ならば自分はできる限り関わりたくない。……しかし。


「なあヴァルキリー!この子達は君の弟妹か?良ければどうだ?!君達三人も我がサーカス団に!いやすぐにとは言わないがナイフ投げを是非ともみてみたいものだ良ければこの後にでも」

「ふざけんな消えろくたばれ話しかけんじゃねぇ話進ませんな」

ふざけたあだ名を我慢したが、それでも不快な団長の一方的な発言に敵意で上塗る。

隣の席でレオンが「わぁ口悪い」とやんわり笑いながら言葉を返した。ヴァルの口の悪さなど今更だが、なかなかの拒絶ぶりだと顔が笑ってしまう。

ヴァルは仕方なく腕を伸ばし、くっつくセフェクごとケメトを自分の方へと掴み寄せる。これ以上こちらは話す気がないと態度で示す。セフェクも掴まれた肩に従うままケメトと共にヴァルの方向へと傾く。細い眉を寄せたままフンッと鼻息強く団長へと後頭部を向けた。


幼い子どもがナイフ投げなど、それこそ技術がいくらか拙くとも観客が喜ぶ演目である。

なんなら今のナイフ投げ演者の弟子として売り出しても子どもがいるだけで評判はぐっと上がる。彼だけでなく少女とヴァルまでナイフ投げができるのならばナイフ投げ親子というのもまた一興だ。そう、ほんの数秒でいくつも夢を膨らませた団長だったが、三人の頑なな態度にそこで肩を落とした。

そうか、残念だ……と呟き脱力する団長に、騎士も様子を見つつ拘束を緩める。団長にとって金の卵は逃すのは何度でも口惜しいが、無理やりは本意ではない。

まだナイフ投げ少年達本人からは何も聞いていないが、二人に挟まれにこにこの満面である彼に聞いても自分の望む返事は得られないことは確信できる。

まず、今彼は自分の方を見ていない。眼中にないというその言葉のままだった。仕方なく再び背後の席へと腰を下ろし、低くなる。姿勢を正し、改めて自分達の舞台と観客の反応を楽しむことにする。


無事気が済んだらしい団長に、ヴァルもそこで静かに二人から手を離した。

舞台のナイフ投げには興味を向けていたケメトだが、やりとり中は一度も「やりたいです」と言わなかったあたり、結局やりたかったのは見せ物ではなく的当ての方かと頭の中だけで見当づける。

溜息の代わりに舌打ちを鳴らし、下ろした足を小刻みに揺らした。膝の上で指先をトントンと鳴らすヴァルに、ケメトは抱き寄せられた体勢のまま寄りかかり首を傾けた。機嫌が正真正銘悪そうなヴァルに、さっきの呼び名が嫌なのかなと考える。ナイフ投げよりもそちらの方が気になった。


「さあご覧下さい!我がケルメシアナサーカス一番の奇跡!冬の魔術師の登場です‼︎」


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