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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス

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困り、


「セフェクのお部屋、僕も昨日初めて見ましたけどすっごく可愛かったんですよ!」


女子寮に住むようになったセフェクの部屋に、ケメトも今までは入ったことがなかったが昨日はステイルの瞬間移動の関係で一時的に訪問できた。

もともと住む場所を持たなかったセフェクも、ケメトと同様私物は少なかったが、今は部屋を持てた分置きたいものも増えていた。年頃の女性である彼女は、今は私物を持つことにも興味はある。

なるほど、と。三人のやり取りを聞きながらレオンとセドリックも自身の考えを改める。てっきり列以外の混雑はテント裏目当てと優良席の獲得だけかと思ったが、左側にずらりと並んだ出店も関係しているのだと理解する。

ケルメシアナサーカス本体だけでなく、その周囲にももたらす経済効果も興味深かった。祭りは時期や理由がなければ行われないが、サーカスは祭りがなくても興行できるのだから。


「二部にはディオスとクロイも誘って良いかフィリップ殿に伺ってみるべきか……」

「それって君のとこの使用人だっけ?やめておいた方が良いよ。奴隷はいるんだから」

ほら、と。軽く首を回すような仕草でレオンが示す。

その言葉のとおりセドリックも改めて周囲に注意を向ければ、確かに一部奴隷らしき影もある。

ヴァル達が釣られた出店の列やテントの裏方向、そしてレオン達のいる雑踏の中は一般人が多い。しかし、整頓された列の中には明らかに奴隷がまじり並んでいた。恐らく主人に代わりに並んでおけと命じられたのだろうとレオンも検討づけながら肩を竦める。


パッと見はサーカスだけでなく、その周囲も取り巻く賑やかな祭りにも似た空気に、ディオスとクロイも喜ぶだろうかと思い浮かんだセドリックだったが、すぐに考えを変えた。

自分が最初に目にした時から気分を悪くしたのと同じように、奴隷反対国であるフリージアの民である二人も平然としていられるわけがないと理解する。

しかしそうなるとセフェク殿とケメト殿は……、と二人の顔色を窺うセドリックだが、すぐに杞憂だったと息を吐いた。奴隷の存在に気付いた後もセフェクもケメトも買った菓子を二人で分け合い食べている余裕ぶりだ。

フリージアの民ではあるが、ヴァルと共に配達で各国を渡る二人もまた奴隷は見慣れている。配達の経由地でも奴隷狩りや人狩りを警戒して滞在は避けることは多いが、買い出しなどの為に足を踏み入れることはある。

自分より遥かに年下の二人が見事にどんと構えていることに、セドリックはひそかに畏敬を覚えてしまう。決して慣れて良いとは思わないが、それでも自分より現実を直視できている証拠でもある。


「ヴァル殿は一体どのようにしてここまで立派に二人を育てておられるのでしょうか……!?」

「育てた覚えはねぇ」

ぐっと拳を握り尊敬の眼差しを注いでくるセドリックに、ヴァルは目も向けずに眉間の皺だけを深くした。

肩にかけていた荷袋を乱暴に地面に降ろし、セドリックにこれ以上近づかれまいと物理的に遮蔽物を置く。自分に対し無駄に好感を向けてくるセドリックは、同じ空気も吸いたくない相手でもある。国際郵便機関が動き出している今、余計に彼との接点が深められているのもまた不快だった。

なんと!とヴァルの言葉をそのまま受け止めるセドリックが声を上げれば、レオンも小さく笑ってしまう。念のためも考えて一時間前に到着するように宿を出たレオン達だったが、意外とその一時間も暇をせずに済みそうだと思った。


「でも意外だな。ダリオはてっきり別の人を呼びたがると思ったよ。ほら、こういうのって女性を誘うのにも喜ばれるから」

「じょっ……いえ!私はあくまで今は!!」

レオンからの的確な指摘にセドリックの顔が分かりやすく赤らんでいく。

名前こそ伏せたままだが、レオンが誰のことを指しているかはセドリックも当然理解してしまう。自身の恋心はレオンにはとっくにバレている。まさかこんな場所でさらりと言われてしまうとは思わなかったが、大きく首と両手を交互に振った。

確かに、セドリックも彼女の存在が全く過らなかったわけではない。昨晩当日席を埋める為にセフェクとケメトも宿へ招かれた時から、ヴァルの近親者を呼ぶならばステイルがティアラを呼ぶことも大いに可能性として期待した。

しかし、結果として呼ばれたのはセフェクとケメトのみ。幸か不幸か、セドリック自身が残りのチケットを全て貧困街へ譲る為に根こそぎ買い取った為、ティアラどころか現地にいる女王や騎士すらも必要以上の出席はなくなった。そしてレオンとヴァル達とそれぞれ別室で仮眠を取ることになった際も、……その間にティアラを誘う理由を五十は考えた。


「わ、私はあくまで今回はジャンヌの力になれればと同行したにすぎず道楽ではありません。それに彼女も、今は向き合いたい課題が山積みでしょう」

名前を伏し遠回しに告げた気配りも無かったかのようにティアラ前提で話を進めるセドリックに、レオンは「まぁそうだね」とやんわり流す。

レオンも今が道楽や旅行ではないことはよくわかっている。これが単なる遊び目的の旅行であれば、間違ってもラジヤなどは選ばない。そして明らかにティアラが喜びそうな姉達の晴れ舞台にも関わらずティアラを呼ばないのも同じ理由だとも理解する。サーカスの演目もあくまでラルクを理詰めで合法的に正面から扉をこじ開けさせる為。何より、こんな物騒で危険な地にプライドと女王だけでなくティアラまでと三大女性権力者を連れてくることなどできる筈がない。

軽い雑談のつもりの投げかけだったが、セドリックもちゃんと考えているのだなと少し関心する。彼の優秀さはレオンもある程度察してはいるが、それでも昔の彼も知っている分何度でも関心させられてしまう。……のも、束の間に。


「勿論、彼女自身もこういった地で見識を広めることも必要ではないかとは思います。個人的にはこのような知ることすら悍ましい現実を目にして傷付いて欲しくないとも思いますが、……私よりも遥かに強く賢明なる女性です。やはり知識として知るのと、この目に焼き付けるのとでは価値観や今後見るべき方針や未来も変わる。〝他国も導引している奴隷という制度〟と〝己が民の倫理観すらも狂わせ人が人を貶め辱める行為の合法化制度〟とでは、今後奴隷制度を拒むことへの意思の強さも異なります」

痛々しげに表情を歪め燃える瞳は真っすぐと整列する奴隷達へと刺さる。

ちょっとしたセドリックの恋心への悪戯くらいの気持ちだったレオンだが、逆に自分の方が虚をつかれてしまう。

ぱちりと大きな翡翠色の瞳を瞬きさせ、まさか国を動かす身としての意見まで聞けるなんてと驚かされた。王族とはいえあくまで〝王弟〟であり彼自身はフリージア王国に根を下ろした、国王にならざる立場だが考え方は賞賛すべき統率者の思考そのものだ。

奴隷制度に対して否定的なのは一貫して変わらないが、たったこの数日でその意思は更に磨きがかかり確固たるものになったと思う。たとえ世界の九割が奴隷制を推奨したとしても彼は変わらないのだろうなとまで確信してしまう。


更にはティアラに対しての意外な評価も興味深かった。レオンにとっては心の強さはあってもどちらかというと淑やかな印象の方があるティアラを、セドリックは自分よりも遥かにと断言している。

しかも彼女が奴隷の現実に傷付くことを恐れながらも〝知った方が良い〟と語る彼は、いっそ兄であるステイルよりも彼女を理解しているのではないかとまで思えてしまう。ちょっと可愛い惚気を聞くくらいのつもりの軽口が随分と彼から重い言葉を引き出してしまった。


「うん……うん。…………本当に、その通りだと思うよ……」

なんかごめん。その言葉を飲み込み、レオンは半分笑った口で視線を逃がした。

セドリックの大いなる熱量を受けているのは自分だけである。王族二人のやり取りを見守るエリック達も会話に入れるような権限はない。そっぽを向いたヴァルは酒をあおぎ、セフェクとケメトも菓子をつみま合っている中、レオンは明るい話題へと出店を遠目に指差した。

自分達のいる位置からは出店が具体的に何を売っているのかまでは分からないが、少なくとも今はヴァル達が買ってきた判断材料がある。


「じゃあ君もサーカスの後にお土産でも買うのはどうだい?サーカス関連なら喜ばれると思うな」

「!確かに。ご助言感謝致します。そうなるとやはり保存性に問題のない……、……セフェク殿、そちらの人形は他にどのような種類を取り扱っておりましたでしょうか」

レオンの良案に目を輝かせながら、一度示された先を見つめたセドリックはそこでセフェクの抱える人形に目を向ける。

彼女の抱えている狼の人形は少し狂暴そうに歯を剥いてはいるが顔つき自体は可愛らしい。狼とも犬とも見えるデフォルメも見えれば、ティアラも喜んでくれるかもしれないと思う。


しかし、サーカスで実際にそのような演目が待っているかは幕が開かれるまでわからない。できるだけサーカスの記念らしく、プライド達との土産話の引き出しにもなるような人形にしたい。今から再び人の波に頭から突っ切ることもできない今、せめて彼女達の記憶が新しいうちに情報をと求める。

突然セドリックに話しかけられたセフェクは、顔を上げた直後反射的にびくりと肩を上下した。前夜にステイルからもヴァルだけでなく姿を変えたレオンやセドリックも紹介されたが、やはりまだ顔を向けると知らない男の人の印象が強い。

声だけ聞けばいつもヴァルに妙に慣れ慣れしい王族だと感じるが、顔を上げれば別人が自分へ前のめりになっているのが少し心臓に悪い。

無意識に人形を抱く腕に力を込め軽く背中を向けながら、振り返るような首でセドリックを見つめ返す。頭の中では相手は知らない奴じゃないと三回繰り返した。


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