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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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Ⅱ546.摂政は思案する。


「ヴェスト摂政。プラデストについての報告書を王配殿下から預かって参りました」


ああ、ありがとう。

そう言葉を返しながら摂政ヴェストはいつもの机に向けて書類を睨み続けていた。顔を上げた先に父親である王配への使いを終えた甥が立っていることも理解した上で、書類から目を離さない。ヴェスト本人もつい先ほど女王であるローザの元から戻ってきたばかりだ。

ローザから直接今後の予定を再確認し終えたヴェストは、彼女の補佐としてまた予定の再構築に務めていた。女王である彼女の予定は年単位で先まで決まっているが、それでも頻繁にひと月先の予定が更に追加される。

単純に女王の業務として城下の視察や執務室でのサインや判を押すだけの日もあるにはあるが、それよりも遥かに今予定として埋まり続けているのが外交だった。


もともとローザが女王として着任してから周辺諸国との和平・同盟の手を広げるべく外交は積極的に増やしていた。しかし、今ではフリージア王国からではなく周辺諸国や近隣国の方からフリージアとの交友を求める国が増え続けている。関係を求められている以上、なるべく早急に外交を検討することは当然。しかも学校についての話を、学校見学に我が国を是非という要望も増え続けるばかりだ。

その為、もともと暇な日がないほどに多忙な女王の予定を効率的に再構築する必要がある。今のように城内での業務ならばまだ文官や秘書官達、そして補佐である自分も時には王配にも仕事を避けられるが外交に必要な女王の身はたった一つしかない。

更には、国だけでなく例年通り王族との密接な関係を維持すべく社交としてパーティーや夜会に招待する国内貴族も多い。王族と密接な関係を保ちたい上層部や上流貴族もおざなりにはできない。

頻度こそ極少ないが、王族が彼らとの親交の証として社交に招かれるべき時もある。国内の政治や統治は主に王配に任せることはできても、王族の代表として女王にしかできない社交も当然ある。

あくまでフリージア王国の女王である以上、そのフリージア王国の民に支持を受けるべき務めるのは女王必須の公務だ。


「お茶を新しく淹れさせましょうか。こちらの報告書はもう纏まっているので、必要あればこの場で読み上げますが」

「後で良い。紅茶は直ちに頼もう」

ペンを握ったまま珍しく眉間を抑えるヴェストは、音は立てずに息を深く吐き出した。

摂政としての業務はもう慣れきったものだが、この外交の数ばかりは年々増えている為未だに慣れきらない。もともと多忙な女王を外交の為に国外へ出さなければならなくなれば、たった一日開けるどころの手間ではないのだから。馬車の手配から護衛に騎士団の手配、女王不在の間の王配による統治確保。そんな数日もしくはそれ以上の期間を一気にこじ開けるのは流石のヴェストも楽ではなかった。

いつもなら書類作業を進めながらステイルの読み上げる報告書の内容も頭に入れられるヴェストだが、今は多忙なローザをどう効率的に外交へ回すかに思考を回したい。それがなくとも今はステイルに話すべきことも、ある。


ヴェストに一言返したステイルは、早速扉の向こうに控える侍女へと紅茶の準備を指示した。再び扉を閉め、それからヴェストの机へ更に報告書の書類を積み上げた。

各国に散りばめられた使者からの報告書も今は珍しく束で積み上がっているのを確認し、早速ステイルも自分がすべき仕事を判断する。報告書を纏め、緊急の内容がないかの確認も目を通しましょうかと提案すればヴェストも一言で任せた。既に摂政としての業務を殆ど完璧にこなしているステイルを、今日はこのままジルベールの元へも預けられそうにないと考える。今は自分の方が優秀な手が欲しい。

特に最近はステイルも極秘視察で留守が多かった分、任せたい仕事も多かった。ステイルが入るまでは自分と文官を含む補佐達に任せて上手く回していたが、仕事を覚えたステイルによる作業効率が高すぎた為今はそれに慣れている。


「報告書の方、僕も軽くだけ目を通しましたが、学校は順調に進んでいるようです。ジルベール宰相の話では奨学生も予想人数を大幅に上回り、大勢の生徒が勉学にも積極的だと。開校から体験入学中の特別教室生徒もそろそろ入れ替えの為絞り込みを行うそうです」

読み上げが後回しになった以上、せめて最低限の報告は伝えようとヴェストへ告げるステイルは自分の分の仕事書類を手に机に着いた。

新理事長も報告書は詳細で、城への要望にも応えやすいとジルベールやアルバートが評していたことも続けて伝えればヴェストも柔らかな目元が少しだけ戻った。

ヴェストとローザの業務を増やしている一つがその学校ではあるが、新機関として設立したそれが順調に軌道に乗っていることは嬉しく思う。外交を進ませる側としても、その方が胸を張り安心して次の学校見学国の来賓も定められる。アネモネ王国を優先した以上、次に招く同盟国も殆ど決まっていた。あくまで生徒や教師に負担にならない頻度にとそこは王配との打ち合わせも必要だと考える。


そうか良かった、と。ヴェストも先ほどよりも落ち着いた声でそれに答えた。ペンで一番近い外交先の国へ下線を引いてから、そこで一息吐く。

殆どの国は、学校の新体制と多忙を理由にこちらからではなく向こうから自国へ訪問させるべく調整ができそうだが、その国でのみ行われる催し招待については避けられそうにないと確定する。

そしてその遠征の時こそ、恐らく新体制となったもう一つの効果を確かめる時なのだろうとも。


「……女王付き近衛騎士も、近々任務を任せることになるだろう。初任務になるが、同行する私もしっかりと見させてもらう予定だ」

「!はい。是非、厳しい目でお見定め下さい。プライド第一王女が誇る近衛騎士が推薦する精鋭達です」

騎士団長も優秀な騎士だと申していました、と。そう続けながらステイルは胸を張って笑んでみせる。

ケネス以外、他の近衛騎士の実力は具体的に目には覚えがないが、アーサー達が推薦する以上間違いないと思う。いっそ自分も共に近衛騎士達の実力をその目で確認したい。

プライドと異なり、女王ローザの近衛騎士が着くのは初期の近衛騎士アーサーと同じように外出時のみ。近衛騎士発足から未だに城下視察にも降りていないローザは、まだ自分の近衛騎士達と顔合わせ以上のものはしていない。

ステイルと会話をしながら、自然とヴェストの手は順調に動き頭も回る。報告は後で良いと言ったのは自分だが、それとは別に甥との雑談はそれだけでも紅茶と同程度の気晴らしにはなった。特に最近は、ステイルの調子もすこぶる良い。


「確か、お前も選抜には関わったのだったな」

「はい。といっても僕はあくまで情報収集に努めただけです。騎士である彼らを最もよく知るのは王族である僕ではなく、同じ騎士だと判断致しました」

「ならば次は近衛兵か。そちらも目星はついているのか」

「いえ、そちらはまだ……。しかし衛兵にも優秀な者は大勢いますから、先ずは姉君の近衛兵を増員する方向で考えてはいます。現近衛兵のジャックにも話を聞いて鑑みようかと」

「ティアラはどうだ。あの子も次期王妹として近衛をつける時がくるだろう。恐らくはアルバートの次に」

あくまで業務内の打ち合わせ程度だが、それでも答えられる内容もまだ未定の返答も全てすらすらと詰まりなく答えるステイルを確かめながらヴェストは会話を楽しむ。

忙しそうなヴェストが、それに反していつもより会話を向けてくれることにステイルも少しだけ気持ちが浮かんだ。ふ、と音になく口元だけを緩めながら自分もまた負けずと報告書を開き目を通す。

纏める前に、先ずは使者からの報告に緊急事項はないかと速読で文字を追いながらヴェストに言葉を返す。

そうですね、父上にも是非、母上と伯父様に近衛騎士の有用性を実感して頂けたれば早々にでも、と。そう紡ぎながら順調に川の流れがせせらいでいる感覚が心地良い。この場が仕事場でなければ鼻歌を交えたくなるような身軽さだ。

ヴェストが「ところで」とまだ別の話題を投げようとしてくれる中、アーサーの誕生日を一週間前に問題なく祝えて一山こえたステイルは全く身構えることも




「例の〝従者候補〟の採用が決まったらしい」




パララ……、と。

唐突に告げられたその言葉に、ステイルは思わず報告書をめくっていた指を離した。

ひとまとめにされていた報告書が再び最初の一枚が閉じた状態に戻る中、先ほどまで紙面から視線を離さなかった漆黒の目が上げられる。瞬きも忘れヴェストを捉えれば、いつの間にかヴェストも青色の瞳を甥へと向けていた。


先ほどまで落ち着き払っていたステイルの瞳が微弱に揺れていることを確かめながら、ヴェストは敢えてその場で目を逸らさない。

聡い彼が、自分の発言で全てを汲み取り理解していることは知っている。今も意味を探っているのではなく、ただその事実に向き合っているだけということも。

極秘視察直後と変わり表情も明るいステイルだが、彼が一度は陰鬱に沈んだ表情で自分に相談をしたことを昨日のようにヴェストは覚えている。

どうすれば良いのかと。当時の彼に自分は可能な限りの言葉を尽くして答えを示したが、その後に彼が取った行動はあまりに早くそして挑戦的だった。


『優秀な特殊能力を持つ従者を一人、僕につけさせては頂けませんでしょうか』


相談がある、今後の人事に関わる、そして何よりも先日の相談の〝続き〟だと。そう告げたステイルからの申し出があったのは彼を諭してから本当に間もなくのことだった。

落ち込めば沈むのも深いが、同時に浮上すればそこから突き抜けるのも早い、とヴェストは思った。それほどにステイルの復活は早かった。

あまりの速さにもし間違った方向で空回っていたらと注意深く話を聞いたが、予想をはるかに上回る言い分にうっかり瞼が上がってしまった。


過去の自分の過ちについてそれをそのまま辿っているようにも錯覚したが、よくよく聞けば信じられないほどの理論武装を施されていた。若かった自分のような危うさを一つ残らず潰した上での提案だ。

しかも、自分はあの日ステイルを諭した後に、過去の過ちに関して城へと招き入れたその人物について僅かな情報すら彼から消し去っていたのだから参考にできるわけもない。

過去の関係者。決して王族に養子になった者が私情で関わってはいけない人物。しかし、〝有力な人材〟に覚えがあるならば口にすることも咎められない。

しかもステイルからその人物の特殊能力を聞けば、王族としても見逃すには惜しかった。たった一日二日程度しか経たない内に、ステイルがあそこまでの勝機をもって自分に挑んできたことはヴェストにも驚きを隠せなかった。

そして結果、自分もそして女王であるローザも王配アルバートの許可も得て彼は公的に勝ち取ったのだから。


「つい先ほど報告が来た。……これで、一つ受ける必要のない報告を減らせる」

城の使用人採用報告。

本来であれば摂政であるヴェストの耳に届ける報告ではない。使用人の名簿を全て把握している人物などそれこそジルベールくらいのものだ。

しかし、ヴェストは〝ある人物〟の採用が決まるまで敢えて暫くはと決め、全ての人材採用を自分の元へ報告するように各使用人の責任者に命じていた。

ステイルがあそこまで自信満々に採用許可を求めた青年であれば、きっと現実になるのも早いことは予想できていた。幼い頃には、未来の聖騎士となる青年を〝稽古相手〟として城に招き手合わせを重ねていた王子の見立てだ。


そしてヴェストの読み通り、その時は早々に来た。

あの一件からひと月も経っていないにも関わらず、今日届けられた人材採用報告書へ目を通せばそこにはステイルから聞いていた〝フィリップ〟という人物が使用人として採用されたことが記載されていた。

敢えて採用されるまではその人物の名前のみ、家名も一体何者なのかも詳細をステイルは語らなかった。もし城での採用が叶わなかったら、特殊能力目当てに自分以外の人間に彼が狙われるのは嫌だった。

しかし、その名前とステイルと同年の青年が使用人として採用されたとなればそれは間違いない。


「その報告書を纏め終えたら、少し早いが休息時間を与えよう。今頃は恐らく使用人としての業務説明を受けている頃だ」

はい……!と、僅かに上擦った声でステイルはその一言を返した。

ヴェストが何事もなかったかのように、再びローザの予定表を構築し直す中でステイルも瞬きを忘れた目のままカクカクと顔の角度を書類へと戻した。呼吸が浅くなっていることを自覚しつつ、指の先が途中まで捲っていた箇所まで紙をめくり出す。

まさかこんなにももう、胸の奥で叫びながら一秒でも早く仕事を終わらすべく集中力を研ぎ澄ました。

先ほどの余裕の表情が嘘のように必死の形相で報告書に目を通し始めるステイルを上目でちらりと確認したヴェストは、やはりまだそういうところは青いと思う。

本来であれば別に今日会えずとも、今後使用人として城に訪れるその青年に会う機会もこれから〝任命〟する機会もいつでもあるというのにと。そして同時に。



─ この子はあといくつ間違え、そして越えるのか。



挫け、伏し、その度に必ず更なる躍進へと繋げる甥の今後に。

懸念と期待が均等に重なった。今回の抜け道をすぐ見つけた彼が自分をも越える才を持ち、そしてプライドとも似た危うさも併せ持つと考える。

フリージア王国が変わっていく中、次期最上層部になる彼らもまた変わるべき時期なのだと。時代の流れを肌で感じ取った。


紅茶を用意した侍女がノックを鳴らすのは、それからすぐのことだった。


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