Ⅱ505.双子は迎え、
「ええ⁈これもそんな子どもの頃に⁈すっごくよくできてるのに!」
「小さい頃から細かい作業とかとても好きで……」
まだ、夢の中みたいだなと思う。
「ネル、この箱は商品と私物とどっちで良い?」
「オリヴィア、それはこっちで大丈夫。ネルが気を取られてる間にさっさと終わらせちゃいましょ」
昨日からずっとずっと頭も足元もふわふわして、寝て覚めてもまだ夢みたい。
「ちょっとディオス邪魔。扉の真ん中で立ち止まらないで」
ごめん。
両腕に抱える箱の角で僕の背中を突くクロイにそう謝りながら、慌てて僕は足を動かした。
クロイのと同じ大きさの箱を両手に、居間とは違う部屋でぼんやり立ち尽くしてた。つい昨日まで空き部屋だったそこに、今はたくさんの荷物と姉さん以外の人が詰まっている。
クロイにせっつかれるまま部屋に入って、さっき置いた箱の上に積む。
ずっと繰り返しのそれは、ダドリーさんのとこの荷物運びと同じような作業なのに全然辛くない。荷物もそこまで重くないのもあるけど、それ以上に繰り返せば繰り返すほどわくわくした。昨日はすごく色々あってどきどきして眠れなくて睡眠も浅いのに今は楽しくって逆に目が冴えている。こんなに楽しくて特別なことばかりで良いのかな。
荷物を置いた後もクロイの邪魔にならないように端に寄ったら、またぐるりと部屋を見回しちゃう。
たった一つの部屋は広いだけでちょっと前まではただの物置部屋だった。雨漏りの酷かった部屋の物とか二階に運べない物とかなんでもかんでも移していたそこに、今はきらきらした女の人と荷物が敷き詰まってる。
最初に運び込んだベッドの上にはドレスみたいに可愛い服がたくさん広げて重ねられた。次に運び込んだ棚類も今は引き出しが全部開けられて、そこに女の人達が箱から取り出した服を丁寧にしまっていた。
部屋の隅では姉さんがネル先生とお話してる。本当はお茶を淹れたついでに手伝いに来た姉さんだったけど、ネル先生といつの間にか話が弾んでいた。
荷物の出し入れに邪魔だからってネル先生達が来る前に廊下から片付けた小物とか飾りを一度片付けておいてたら、ネル先生が「この前のあの可愛い小物は?」って姉さんに尋ねたのがきっかけだった。
今は仕舞ってる、姉さんが昔作ってくれたんだって話したらネル先生は嬉しそうに姉さんの手作り全部を褒めてくれた。
それまではずっと手伝いに来てくれたお姉さん達に「手伝わなくても私達だけで充分だから」ってネル先生言ってたのに、今は忘れたみたいに姉さんとのお喋りに夢中だ。姉さんも友達ができたみたいでずっと楽しそう。
荷物入れをして一時間ぐらいしてるのにまだ楽しそうな姉さんとネル先生を眺めながら後ろ足でまた部屋の外に向かう。まだまだ荷物はあるし、クロイが先に行っちゃった。
僕の方が兄なんだしちゃんと働かなきゃと、今日で十回目以上のことを思って地面を蹴って振り返った瞬間。
「おぉ?大丈夫か。よそ見してると危ないぞ」
どんっ、て。
いつの間にか背後まで来ていた男の人に思いっきり鼻からぶつかった。
鼻を押さえながら慌てて謝ると、男の人は僕とクロイの何倍も重そうな荷物を抱えてにこにこ笑っていた。すごく勢い良くぶつかった筈なのに全然ふらついていない。まるで柔らかい壁にぶつかったみたいに僕だけが跳ね返った。
ネル先生や女の人達と一緒に、今日僕らの家に来てくれた男の人。姉さんは初対面だったけれど、僕とクロイは昨日もこの人に会っている。クラーク副団長さんだ。
金色の髪を結んで銀色の目をにこにこさせているクラーク副団長さんは、今日は騎士の服を着ていない。
お城で会った時から騎士団長さんと比べても柔らかい雰囲気で優しそうな人だなぁって思ったけど、団服を着ていないともっと普通の人だった。でも荷物運びを一緒に始めてみると手に古そうな傷痕があったり、腕まくりをしたらやっぱりそこにも傷痕があって騎士なんだなって思った。昨日の半分結んでるのと違って一個纏めて髪縛った途端、首元にも傷痕が見えたのはちょっと痛そうでびっくりしたけど。
でもやっぱり中身はにこにこの優しいお兄さんだ。副団長さんだったけどもしかして戦うのは弱いのかなとか、それとも強くなる前の怪我かなとかいろいろ想像したけど聞こうとは思わない。もしかしたら嫌な思い出かもしれないし。
昨日のクラーク副団長さんと同じ人が現れると、ネル先生は本当に副団長さんの妹なんだなぁって実感する。
なんかこんなに凄い人達とばっかり会えて、近い人になって、それが全部今でも嘘みたいだ。
急いで今度はよそ見せずに馬車へ向かいながら、やっぱり夢みたいだなとまた思う。
昨日はセドリック様のお城に行った。正確にはフリージア王国のお城で、セドリック様の宮殿だけど僕らにとってはあんまり変わらない。
そこでティアラ様達王族に会えただけでも驚いたけれど、もっとびっくりしたのがフィリップ達だった。フィリップが王子様で、ジャンヌが王女様。しかもクロイの初恋のプライド第一王女。
それでジャックはジャンヌの近衛兵の名前で、本当のジャックは騎士だった。有名な聖騎士アーサー。ちょっと前にあった奪還戦の英雄と、王女様王子様と僕らはずっと友達だった。
正体がわかった後もずっと友達でいてくれるって言ってくれてティアラ様も友達になってくれて、セドリック様の宮殿に行くのが最初から一番楽しみだったのにもっと楽しみになった。
初恋の人に会えちゃったからかクロイは変な態度が多かったけど、でもやっぱりジャンヌ達とお別れにならなかったのは喜んでた。同調をしなくてもそれくらいはわかる。……家に帰った後も暫くぼーっとしてたけど。
僕が姉さんにお城が綺麗だったとか騎士団演習場も見学できたことを話した時は会話に入ってたけど、それ以外になると頬杖を突いて何もない壁とか天井ばっかり見てた。寝る時なんていつもは寝言も言わないクロイが「ジャンヌ……プライド様……プライド様……ジャンヌ……」ってぶつぶつ暫く呟いてた。
クロイは僕より大人だからきっと相手が王族だからってまだ遠慮してるのかなと思う。
でも王族でも神様でも何でも友達になったら友達なんだから良いじゃんか。そりゃ僕だってまだセドリック様に「友人」って言われると緊張するけど。でもジャンヌ達は最初がジャンヌ達だったし。
ドレス姿のジャンヌも綺麗で、フィリップはすごい大人の人で、ジャックは格好良かった。
今度からセドリック様の宮殿内だけでも会えたらまた昨日みたいに話せるのかなと期待しちゃう。
姉さんにも、プライド様達のことは全部秘密。騎士団演習場の話でもエリック副隊長達のことは話したけど、ジャックのことは秘密だった。
僕は「聖騎士に会えた」だけでも話して良いだろって言ったけど、クロイが「ディオスは口が滑っちゃうでしょ」って言うから全部我慢した。確かにそうかもしれないし、僕らの所為でジャック達に迷惑をかけたくないから。
ジャンヌ達がプライド様達っていうのはびっくりしたけど、ちょっと納得もした。
セドリック様と知り合いなのも、ジャックがあんなに強いのもフィリップとジャンヌが頭良いのも当たり前だった。
僕らのこともジャンヌは〝弱みを知る〟特殊能力じゃなくて予知をしたって教えて貰った。それで助けてくれて、セドリック様を紹介してくれて、……王族が僕らみたいな庶民の為に全部してくれた。
フィリップ達の正体よりもそっちの方がびっくりだなと思うけど、それが噂のプライド様って考えたらすごく納得できた。
特待生のことも、だから知ってたんだねってクロイに話したら「知ってた以上でしょ」って言われてそれはまだどういう意味かわからない。一人で「そういうことは確かにジャンヌっぽい」とか言ってただけでクロイは教えてくれなかった。




