そして否定される。
「ブラッドはどうっすか。文字読めるなら本とか暇潰せるもんも折角ですし」
「普通に読み書きはできますけど、掃除か洗濯用具があれば暇も潰せます。読書より家事の方が慣れてるんで」
「他に行きたいところあれば行ってください。保護所とか学校は遠いから難しいっすけど……」
「どっちも今は大丈夫ですー。ライラにはこの前会ったけど僕が城下にいるのもまだ秘密だし、母さんには会いたいけど村の人には絶っ対会いたくないので」
「………………すみません」
何がですか?と嫌味なく笑い飛ばすブラッドに、アーサーは一人首を窄めた。
さらりとブラッドの奥底を引っ掻いてしまった気がして胃まで縮こまる。そういえばさっきも村ではのんびり肉の解体も見ていられなかったというのも、もしかしたら周囲に気を遣ったのかなと遅れて気付く。彼が村人に会いたくない理由もそれなりにはわかっている。
保護所にいる母親を心配しているだろうと思って言ったつもりだが、よくよく考えれば周囲にそれだけ自分の特殊能力で遠慮する理由になった原因が何かもわかる。外に出るのも億劫な理由が、自分の特殊能力で怪我をさせたくないであればきっと村でもそういうことがあったのだろうと思う。
『だって僕、あの時村の人らがどうなっても良いと本気で思ったもん』
そして彼女に吐露した言葉を思い出せば、余計に。
自分の所為で村人がどうなっても良いと本気で思ったと語った時の彼には、何の偽りの表情もなかったことをよく覚えている。
プライドの予知通りであれば、彼は自身の特殊能力を暴走させて村ごと焼野原にしている。まさか意思を持って焼こうとしたわけじゃないだろうとは思うが、もしかしてあんまり仲は良くないのかなとあたりをつける。
気まずさを感じるアーサーが口を結べば、ブラッドは気にしてないと言わんばかりにパンをまた一口齧り口に含んだままもごりと伸びやかな声を放った。
「でも学校は綺麗でしたよね。ライラもすっごく楽しんでいるそうでしたし」
「……ブラッドは行ってみたいとかありますか?」
「人の集まるところだしあんまり。でも授業は楽しいかもなぁ、特殊能力の授業もあってライラが僕の為に取ろうと意気込んでました」
せっかく話題を変えてくれたのに、またしくじった気がする。
もぐもぐと租借まじりに返すブラッドに、藪に足を突っ込んだじゃないかとアーサーはそこで再び口を閉じた。五秒以上沈黙後、厳選した言葉で「良い妹さんですね」と返す。
妹のライラもきっと兄のことを心配しているのだろうと思う。もともと外にすら出たくない理由を考えれば、生徒が集まる学校にも行きたいわけがない。だが、授業に興味があると聞けば、それだけでも学校に行きたい理由で良いんじゃないかなとアーサーは思う。それこそ
『予知しました。心の安定さえ得れば貴方の能力は完全な制御も難しくはありません』
「…………」
「僕のことなんかよりライラが受けたい授業で良いと思うんですけどねー」
あの時のプライドの言葉は、今も彼に届いているのだろうかと。
そう思考が過るが、呑気に笑う彼に安易に聞けない。彼女の正体にブラッドはどこまで気付いているのかも確信を持てない今は、自分からプライドの話題にも触れられない。
もともと探りを入れるつもりはなく、単にブラッドの気晴らしの為だけに連れ出したアーサーはそのまま聞くのは止めた。
市場が食べ物から無機物ばかりの並びが増えたところで一度歩みを緩める。片手に大ぶり肉、もう片手にブラッドの水を持ちながら良い生活用品はないかと当初の目的を目で探す。今度は形や用途の違う品々に、またブラッドが声を漏らして目を輝かせた。こんなに色々な物があるんだと最後一口分だけ残ったパンを握る手を降ろしぐるりと首を回したと同時に、……興味の散らばったまま足元が、地面に躓いた。
あっ、と声に出そうになるより前に身体がつんのめり倒れる。瞬時に地面に手を突くべく反射的にパンを手放した次の瞬間。
「大丈夫っすか?」
ぱしっ、と。
ブラッドの身体が、背後から大ぶり肉を掴む腕を回す形で支えられる。更に手放されたパンを水の入った革袋と一緒に大きな手で落ちる前に掴み取り、落ち着いた声を掛けるアーサーにブラッドは返事よりも前に大きく二度瞬きをした。
ほんの一瞬のことで反応ができない。遅れて「ありがとうございます」と言えたが、手放した筈のパンを「どうぞ」と渡された時には何が起こったのかわからなかった。
体勢を立て直し改めてアーサーを見れば、確かに両手が埋まっている。なのに平然とした顔でどの店から見て回ろうかと気を取り直すように話題を投げてくる。
転べば、痛みによって特殊能力を抑えられるかもわからないブラッドにとっては今の大したことないつまずきすら額に汗が滲んだ。
しかし、今こうして無傷どころかパンすら地面に落ちていないのを確認すると唖然としてしまう。店や商品をどれにとアーサーに投げかけられても返事の代わりに口から出たのは単純な感想だった。
「…………すごいなぁ」
「?これぐらい普通ですよ」
心からの気持ちを言葉にするブラッドにアーサーは首を捻った。
ブラッドを支えたところを言っているのはわかったが、自分にとってはただ転びそうなところをちょっと止めただけだ。動きにくいドレスと長距離を歩くのに適さない靴を履く王女の護衛と比べればこの程度はできて当然だった。
むしろ、あの一瞬でパンを手放し受け身を取ろうとしたブラッドの方が判断が早かったと思う。学校で潜入視察時、男子の選択授業では両手が空いていても同年齢の男子生徒は転んだまま足を挫いていたのだから。
謙遜のつもりすらないアーサーの言葉にブラッドは首を振る。
騎士である自分の兄でもこういう時に支えてくれることはよくあるが、両手に物が埋まっているのにパンまで受け止めてくれるかはわからない。
自分の片手を埋めていたパンを完全に口へ放り込み、アーサーから受け取った水で流し込んだ。ぷはっ、と思ったよりも多く残っていた水を飲み干した後に店よりも今は目の前の騎士へと笑顔を向けた。
「……ほんっと僕の能力不便ですよね。蝶や花みたいに扱われてこんな風に迷惑かけちゃうし」
迷惑なんかじゃありませんよ。すかさずアーサーが言葉を返したが、ブラッドは笑顔のまま受け流す。
そういうことをアーサーが言ってくれることはわかっていた上、兄を含む家族からも言われ慣れている。しかし、村の人間に迷惑がられていた彼にはその優しい言葉までは届かない。
事実今も迷惑をかけていることは変わらない。真面目な眼差しで言ってくれるアーサーへ目を合わせそのまま「こんなんだから僕は村でもずっと引き籠っていたんです」とすんなり告白すれば、自分を見つめる蒼の瞳が険しく細められた。
「……兄ちゃんや母さんは、気にしなくて良いって言ってくれてたんです。外に出るのを止めるって決めたのも僕の意思ですし」
その言葉にアーサーは音に出ないように小さく息を丸く吐き出した。いくら厳しいノーマンでも、弟に家から出るなと縛り付けるようなことは言わないと思ったがそれでも言葉にされると安心する。
だが同時に自分から遮断を選んだとわかれば、その事実も遅れてアーサーの胸に刺さった。何があったかはわからなくても、確実にそう行動に移す何かが村人とあったんだと確信する。
彼が避けると決めたのは家の〝中〟ではなく〝外〟だったのだから。もし家の誰かを能力で傷つけたのならば、彼はむしろ家を避けている。
ぼんやりと進行先だけに視線を置くブラッドに、アーサーも店ではなく彼を注視する。
「でも僕が迷惑をかける度に兄ちゃんも母さんも村中に謝り回ってくれて。二人は悪くないのに頭下げさせて村の人に怒られるのが嫌で、なら僕は家出なければ良いやーって」
きっかけはあの事故だ。
しかしその前から、申し訳ありません。ブラッドはまだ特殊能力を制御できないんです。ご迷惑をおかけしたお詫びは致します。悪気はなくても許されるわけがないとはわかっています。修理します。怪我の薬代は払います。……そんな風に謝り続けてくれた兄と母親の横顔や声を思い出す度に今でもブラッドは内側が締め付けられるように痛んだ。
時には「ブラッドは連れてくるな」「二度と近づけるな」「また怪我をさせられる」「また家の柱に傷が増える」と村人に言われ自分だけ家で留守番させられたこともある。怒鳴られずには済んだが、代わりに自分の代わりに兄達が怒鳴られているのを待つのはもっと嫌だった。
あははっと軽く笑い飛ばすブラッドに、陰りが浮かべば余計にアーサーの顔は険しくなる。
ブラッドや母親へもそうだが、騎士団では正論で厳しく言葉を向けてくるノーマンが〝正論で言い返せなかった〟事実に黙したまま口の中を噛んだ。つまりはノーマンも、弟が悪気がないとはいえ〝自分達が謝るのが正しい〟と受け入れていたということになる。本人の意思はどうあれ、相手を傷つけたことに変わりはないからと。
さらにブラッドから「二人とも全然僕のことは責めなくて」と眉を垂らした笑みで続けられれば、…………ノーマンが〝弟も悪くない〟とも思っていたのだろうとも。
単純に身内だから子どもだからという理由で叱責を遠慮する人とも思わない。
「友達だった子もいるけど皆離れちゃってたし、家族がいればもうどうでも良かったなぁ。……あっ。だからその頃には誰とも波風立てなくなりましたよ。向こうも僕が何かしなければ嫌なことしてこなくなったし」
喧嘩を売ったところで、ブラッドが能力を使えば被害を受けるのは自分達の方だった。
だからこそ睨み、腫物のように扱いこそしたが無駄に争おうとも思わない。一度痛い目を見てからは、ただ彼が無駄に能力を暴走させるなと警告し続けるだけだった。
村人が態度だけで物理的には自分に下手に手が出せなくなったとわかってからは、自分も比較過ごしやすくなったなとブラッドは思い返す。
そして、自分が疎まれながらも無事に村で過ごしてこれた理由がそれだけでないことも知っている。
「あとは父ちゃんと兄ちゃんとかのお陰かなぁ。ずっと騎士の家系で、代々村の人達を色々助けていて誉れ扱いされてたらしいから」
山に囲まれた村に、唯一の騎士の家系。
そう考えれば、重宝されるのはアーサーもすぐに納得できた。騎士になれる人間など一握り、その中で代々騎士として繋いだ家系であれば尊敬の目を向けられる。
騎士としていくらか村に貢献してきたのならば、余計にブラッドの家を虐げにくかったのだろうとも。子孫は疎んでも、代々村を助けてくれていた先代に免じた可能性は大いにある。
ノーマンから以前に代々騎士の家系とは聞いていたアーサーは、当時の会話も少しだけ思い出し視線を空に浮かせた。
「本当騎士ってすごいですよね」とそこで明るい笑みを取り戻し言葉を続けたブラッドだったが、直後には「でも」と半分以下の声量で呟きを落とした。
「もう、帰らないかもしれないなぁ……」
「?村にっすか」
小さな声にも拾ったアーサーは、そこで視線をブラッドへ戻す。
つい出た独り言まで拾われるとは思わなかったブラッドは、肩を短く上下してから「こっちの話です」とアーサーへ笑顔で返した。
突然取り繕いの笑みを自分に向けてくるブラッドにアーサーも眉を顰めた。だが自ら閉ざしたブラッドの意思を組み、口にはせず胸にだけとどめた。
口の中を飲み込み、全身で大きく息を吸い上げ深く吐き出した。
言及することができないならば、と。店どころか行き場も考えずただ無意味に互いに足を前後させながら静かに目を合わす。
「………………取り敢えず、大事なら家族からは逃げない方が良いですよ」
「……。何の話ですかぁ?」
突然向けられた、脈絡がないと思える言葉にぴくりと身体を揺らしたブラッドから薄ぺらい笑顔が張り付くのをアーサーは見逃さない。
笑顔で誤魔化しながら、やっぱりあの時に居た少年はアーサーだったのだと改めて確信するブラッドは間の抜けた声でわざと返した。本当はアーサーが何を指して言っているのかもわかった上で気付かない振りをする。
当時のことを思い出せば、本気で消えてしまいたかった気持ちも一緒に戻ってきそうになる。
蓋をするように〝ジャンヌ〟の言葉が止めてくれるが、降ろした手が微弱に震え意識的に強く拳を作った。
せっかくの貴重な城下散歩に、あんな気持ちになりたくない。感情が荒ぶり波立てば立つほど少しの刺激も広範囲になると思えば、必死に抑えた。
色濃くなる薄気味悪ささえ感じるブラッドの笑顔に、アーサーは一度口の中を飲み込んだ。踏み込まれたくないのだとわかる。だが、これは言わないと駄目だとやはり発言を選んだ。
「後悔します、絶対。特にノーマンさんは騎士ですから、……一生会えなくなったら二度とやり直せません」
残酷にも聞こえる事実を告げるアーサーの言葉に、貼り付けられたブラッドの笑顔が強張り固まる。
差していることは、わかる。ブラッド自身父親に一生会えなくなった理由も〝騎士〟であれば、自分が騎士になりたくない理由もそれなのだから。
そしていつ死ぬかもわからない場所に兄は立っている。そう思えば拳ごと今度は震えた。
「やっぱり騎士ってすごいですよね」という軽口も今は言えずに唇を絞る。ブラッドの表情にも拳の震えにも気付きながら、アーサーはそれでも止めない。むしろ抉るとわかりながら、はっきりと核心を言葉にする。
「ノーマンさんが死んだ後に後悔するようなことは駄目です」
ピシリ、と。とうとう足も止まり全身が凍ったように固まった。
はっきりと提示されてしまった兄の死という可能性に息が止まる。自分にとって大事な家族である兄が死んだらと、嫌でも様々な未来が頭に駆け巡り目を限界まで見開いた。
母親が泣くライラが泣くそして自分も死ぬほど泣いて、そして〝後悔〟する。それがどんな後悔かと思えば一気に血まで凍りつくかのように寒くなった。
嫌だ、いやだ、嫌だ、と溺れる水面を掻くように思えばその後に自分がどういう選択肢を選ぶかまで考え、…………〝今の〟自分の薄情さに手足が重くなった。まるで自分が兄を身代わりにしているようだと、今までも何度も考えた思考に支配されそうになる。
後悔しても良い、それでも絶対嫌だと全身から脳まで拒絶する。
記憶にない筈の父親の死に顔と墓が浮かび、その場にしゃがみこみたくなった。視界が明滅し、思い出した呼吸が今までになく苦しくなった。
今日までも何度も考えたことの筈なのに、憧れの騎士にそれを突き付けられたことが斧を振るい落とされたように重く鋭い。表情が強張り引き攣り出そうとする中、「ですから」と続ける憧れの象徴の言葉を今だけは塞ぎたくなる。なのに強く拳を握ったままの手が震えるだけで上手く動かない、続きを聞く前に耳を押さえたいのに上手く動かず間に合わな
「騎士になる必要〝なんか〟ありませんよ」
……………………?と。
ブラッドの思考が柔らかな白になる。
自分の想像していた言葉と正反対だった言葉に、混乱した自分の妄想での聞き違いかと思った。
いつのまにか目に涙が溜まったことにも気付かずに、ぎこちなく顎がアーサーへと向いていく。水色の瞳も潤みながら上げられれば、深みのある蒼とすぐに目が合った。
その途端、聞き違いじゃないと理解すれば自分でも驚くほど呼吸がすーっと通って行った。
どういう意味ですかと、言いたくても舌が痺れたようにまだ動かない。自分も兄も憧れて、稀代の聖騎士にもなった彼がそんなことを言うなんて信じられない。それでもただただ見つめ続ければ、まるで心を読んだかのようにアーサーは言葉を続ける。
「ノーマンさんは騎士の血を継ぐに相応しい誇り高い騎士で、自分の意思でこっち側に居ます。もし何か自分にあっても、……弟にそれを引き継いで欲しいとまでは思っていません」
本人に聞いたから間違いありません。そう言葉を切れば、ブラッドも思い出す。
自分も確かに兄には何度もそう言われた。しかし、それを情けとして自分が言われているのと、第三者から聞くのとでは全く違う。
そして兄が憧れの騎士であるアーサーにそういう嘘は言わないことも、自分達の憧れたアーサーがそういう嘘を慰めでも言う人間でもないと知っている。瞬きをした瞬間、ぽろりと大粒が落ちた。
せっかくの気晴らしのつもりなのに泣かせてしまった、と少なからずの罪悪感に口の中が苦くなりながらもアーサーは空いている方の手で自分の胸を叩いて示す。
「俺ら騎士団が求めているのは優れた特殊能力でも血筋でもありません。少なくとも今の貴方にこっちへ来いと望む騎士は絶対いませんから」
そして容易になれるものでも中途半端な覚悟で叶う称号でもないとアーサーは知っている。
まるで突き放されたようにも、縄を解かれたようにも感じるブラッドは強張っていた顔の筋肉全てから力が抜ける。たまらずふらつけば、すかさずアーサーに腕で受け止め支えられた。
兄とは全然違う逞しさで、……兄と同じ鍛え抜かれた腕に目が留まる。自分の細腕と違うと今更思い知れば、なにを思い上がっていたのだろうと胸が不意に軽くなった。
驚くほど視界が広くなる。さっきまで筒を覗いていたくらいの狭さになっていたと今気が付いた。蒼の瞳だけでなく、束ねられた長い銀髪も兄と同じ白の団服も全てが見える。深く吸い上げ、肩が上がり胸が膨らんだ。
自分を責めているように見えた騎士の眼差しが、いまはただただ鎮まり温かい。
「望まず強くなる必要はありません、その為に俺らがいるンで。一人じゃどうにもならない時はいつでも頼って下さい。ノーマンさんだって頼れば応えてくれます」
『そんな民を護る為に私達がいるのだから』
つい最近、そう言って自分に手を差し伸べてくれた少女と重なった。
正体は知っている筈なのに、まるで同一人物を見ているような気分になる。肩から全部の力が抜け、足の先まで緊張感がなくなればやっと不出来にだがいつもと近い表情で笑い返せた。
「そうですね……」と自然と肯定が出れば、ポンと今度は優しく背中を叩かれる。
「買い物の続きしましょうか。今日は近場ですけど、今度来る時は馬も借りてきます」
促され、そういえば兄への買い物にここまで歩いていたんだったと思い出す。
気が付けば全く見覚えのない店ばかりに囲まれていた。さっきまで歩いてきた道脇の店にも目当ての商品があったかどうかもわからない。しかし背中を押された感覚の所為か、自分でもわからないが不思議と今は振り返りたいと思わない。
あっちにあるの箒じゃないですか、と自分の視力では捉えられない距離を指さし投げかけてくるアーサーにふにゃりと屈託のない笑みで今度は返した。
「……別に歩きでも良いですよぉ。僕、体力はわりとある方ですし」
─ 今はどこにでも行ける気がするから。
既に数日ぶりに長距離を歩いていた筈なのに、逆に足が軽い感覚を心地よく思いながらブラッドはさらに宿から遠のく距離へと地面を蹴った。




