表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
嘲り少女と拝辞

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1576/2210

Ⅱ459.騎士は応える。


「すみません!!」


プライド達から離れ、全力疾走で駆け出すアーサーが向かう先は女子寮から出てきた少女だった。

ステイルと母親との再会という目的も果たせたことで、このまま校門へ向かおうとしていたアーサーだが、広い視野で見つけてしまったその少女を見なかったことにはできなかった。プライド達から離れ、何処かで見張っているであろうハリソンに任せて少女へ急ぐ。


大きく手を振り向かってくる銀髪の青年に、少女もすぐに気が付いた。

びくりと肩を上下に揺らし、立ち尽くしたまま怖じけて後退することもできない。ちょうど一人で外に出たばかりの少女は、慌てて助けを求めるように首を左右に振って味方を探したが、知り合いどころかジャンヌ達以外は人影もなかった。ついさっきまで女子寮の外に集っていた生徒達も、今は全員女子寮裏手にいるリネットの様子を見に向かったばかりだ。

凄まじい速さで駆け込んでくるジャックに、少女の足が早くも震える。どうしよう……とやっと半歩足が下がったところで、もう彼は眼前だった。


すみません、とまた同じ言葉で自分に引き留めたことを謝罪されればもう逃げられない。同年にも関わらず、自分より遥かに背の高い青年に余計縮こまってしまう。

彼女自身、自分に何の用なのかある程度察しは付いている。だからこそ逃げたくもあり、そして逃げたくもなかった。今までになく至近距離まで近づいた青年に、まるで今から恐喝でも受けるかのように小さくなった少女はそれでもぎゅっと自分の裾を握りながらか細い声で返事をした。

一音にも近い返しに、アーサーは戸惑わせてしまったことも理解しながら意識的に声を抑える。


「あの、手紙。……ありがとうございました」


やっぱりー!と、少女は心の中でただ叫ぶ。

自分が引き止められる理由などたかが知れている。周囲に人影が無いとはいえ、こんな開けた場所で返事をされるなんてと思考だけは流暢に嘆いた。

まさか他の女子の手紙に乗じた今日、その今日が学校最後だと知らされるとは思わなかった。いつもは友人達と並びそれなりに明るく大声で笑って過ごす彼女だが、今はその味方である友人が一人もいない。

友人達は自分が手紙を置いたのを目撃していることも考えれば、いっそこの後の返事でも一緒にいて欲しかった。今からでも女子寮にいる友人を呼び出そうかと机上で終わることまで考えてしまう。

顔だけが最大限まで蒸気し真っ赤に茹だる中、真っ直ぐに自分を見つめてくるジャックから目が話せない。肩が酷く上がるほど強張る中で、ひいひいと心の中で早くも泣き叫んだ。バクバクと心臓が煩すぎてジャックの声も聞き逃しそうになる。


「気持ち、すっげー嬉しいです。けど、すみません。お応えすることはできません」

学校とか、山とか、そういうの全部関係なく。と、それは言われなくても少女は最初から理解していた。

こくこくと連続で頷きながら、十度目でやっと口の中を飲み込んだ。「気にしないで良いよー」といつもの口調で明るく笑いながら誤魔化そうとするが、相手は全くそれに乗じる気配もない。それどころかより一層真剣な眼差しで蒼に映してくる。


「すみません、こういうお別れになって。自分も本当にどうしようもないことで。けど、気持ち教えてくれてありがとうございました」

良いってば。と、少女はやはり明るく返した。

あまりにも真剣な声色で謝罪され、早く切り上げたくなる。明るく振ってくれればこちらも気楽に返せるのに、そんな風に言われたら自分の気持ちまで重たくなってしまう。

恋文の内容自体は本音だったが、相手にされないことも少女は最初からわかっていた。むしろこうしてわざわざ返事を言いにきてくれたことが律儀過ぎる上、名前を覚えてくれていたことも意外だった。

そしてアーサー自身、彼女のことは覚えていなかった。クラスに居たことくらいは顔を見れば何となくわかるが、名前までは覚えていなかった。直接会話した記憶すら全くない。


手紙の内容を見ても自分との接点について書かれておらず、何故恋文をくれたのか自体わからない。

男女別の選択授業で何度か接点を持った男子生徒と違い、女子生徒とは仲良くなれた気もしない。ステイルに説明して貰うまで、名前と顔の照合すらできなかった。

しかも自分達が学校を去ると発表された後に別れにきてくれた他の差出人と違い、彼女は挨拶する間もなくわりとすぐに教室から出ていってしまった。まさかアムレットと同じ女子寮の生徒だと発覚したのもつい今さっきだ。そうでなければ、後は間違いなく返事の手紙を書くしか方法はなかった。

しかし、手紙には好意だけでなく「付き合えたら良いなと思います」と書かれていた以上、できる限りはきちんと返したかった。そんな中でちょうど女子寮から現れてきてくれた彼女を、引き止めないわけがない。


「私こそ、追いかけてくれて嬉しかったから。……因みに、聞いて良い?」

また改めて深々と頭を下げるアーサーに、少女もそれ以上の謝罪を断りながら話を変える。

彼女の投げかけに一言で応じるアーサーも、そこでぴっしりと頭を上げた。銀色の長い三つ編みが跳ね、銀縁眼鏡の奥が未だ真剣に光っている。ここまで律儀に一から百まで断ってくれた彼ならと、自分が振られたこと自体には大してショックを受けていない彼女は少しだけそこで一呼吸を吐いた。

ここでどう考えても断れないはぐらかせないであろう彼に聞くのは意地悪だとわかりながら。もう二度と会えないなら良いかと、自分に甘くする。


「結局、噂通りジャンヌのこと好きなの?」


えっ!!と、次の瞬間少女の鼓膜を破りかねない声が上がった。

まさかそう来るとは全く思っていなかった少女の変化球に、アーサーも思わず声が出た。慌てて振り返ってみれば、離れた位置でプライドとステイルの肩が揃って上がっている。話し声が聞こえるような距離ではないが、少なくとも自分の大声は聞こえたなと思えばそれだけで取り乱したことが恥ずかしくなった。


じわりと既に頬が紅潮して見えるジャックに、やっぱりそうなんだと少女は先に見当付ける。背後手に指を結び、自分から指摘しようかと思えば今度は先にアーサーが言葉を返す。

大声を上げてしまったことを謝罪すべく「すみません……」と零し、初めて彼女から視線を外すように目を閉じてからまた開いた。

彼女が、そして今日までクラスメイト達が期待してる言葉自体はアーサーも察しがついている。そして目の前で十四歳という年齢でありながら気持ちを伝えてくれた少女への最大限の誠意として自分が嘘偽りなく誠意で返すとするならば。


「……命懸けれるくらい、大事な人です」


『命を懸けても良いくらい大事な人ですから!』

ついさっき、リネットへプライドが告げていた言葉を思い出しながらそう告げる。

あまりにも今の自分の状況と返事にぴったり過ぎたことと、嘘偽りない気持ちを言えたことの両方に思わずアーサーは言いながら一人微笑んだ。

目の前であまりにも幸せそうに笑うジャックに、少女も小さく胸が刺さり、それ以上に顔が熱った。ジャックのことを遠巻きに見ているだけだった彼女だが、こんな表情までするなんてと振られたそばからまた好きになりかける。

無謀だ落ち着けと自分に言い聞かせながら、今は胸の痛みの方に集中した。たった今さっき自分は振られ、彼が蒼の向こうで想っているのは自分じゃないのだと思い……過ぎった。


「あの、……今日で会うのも最後なら、……一つだけお願い聞いてもらえる?」

……最後くらい良いよね?

遠目にジャンヌとフィリップがこちらを見ていると気付きながら、少女は少しだけ眼差しを変える。

ジャックの本命がやっぱりジャンヌなら、そしてこの一ヶ月間学校生活で間違いなく彼を独り占め状態だったのも、この後も山に彼を連れて行ってしまうのもジャンヌなら、と。ジャック越しに真紅の少女を見つめながらそうねだった。

アーサーもまた、最後だと思えば「自分にできることなら」とあまりにも簡単に請け負った。……と、同時に思い出す。ここに来る前に、ステイルに自分は何と言われたか。

そう考えている間にも、少女が自分で言っておいてじわじわ顔を紅潮させている。言いにくそうに下唇を食べ、視線も泳がせ俯いている。背中に結んだ手のまま足元が落ち着きなくもじもじ動かせながら彼女が小さな唇で唱えたのは。




「……手、握っても良い……ですか……〜〜」




カァーーーーッ……と言葉にしながらも顔を更に赤面させながらの願いに、アーサーは一瞬だけ目を丸くした。

ついさっきプライドの特別サービスとステイルから釘を刺された所為で、もっと別のことを考えてしまった。目の前でぎゅっと目を瞑り照れを隠す少女に、自分の方が恥ずかしくなる。

手を握って欲しいという願いだけで、まるで大告白のように苦しげに眉を寄せて言葉まで整える少女を前に指先で頬を掻く。


……やべぇ、俺プライド様のこと言えねぇ……!


そう自分を省みながら。

もし、目の前の少女が最後のお願いにとこのまま頬に口付けくらいを願ってきていたら、一度受けた以上自分もそれくらいはやっぱり自覚する。今更になって、あの時にステイルが念を押してくれた本当の理由がわかった。

頬くらいなら、と。確実に思う。唇には無理だが、目の前で気持ちを告白してくれた相手に名前も年齢も正体も隠した上でそれくらいのお返しと誠意を返したくなる気持ちをいま理解する。

今回は自分は相手が良い子だっただけだ。ここで恋心に浮かされてとんでもないことを所望されていたら大変だったなと一人背中が遅れて冷たくなった。

今自分は仮にもプライドの婚約者候補なのだから。選ぶ側であるプライドなら未だしも、自分にそんな行為は許されない。

今まで自分には縁のない心配だったと考えてこなかったアーサーだが、今更になってこういう配慮や身の振り方も考える必要があると痛感した。たった今、安易に「なんでも」と言ってしまった自分を殴りたくなる。

それを言ってから断って傷付くのは相手なのだから。


「だ、だめかな?やっぱ……」

ジャンヌ見てるし……と。やはり高望みだったかと声を顰める少女に、アーサーもそこではっと意識が戻る。

見れば、さっきまで背中に隠していた両手を小さく控えめにだが自分へ差し出している。女性相手にこの状態で放置させていた事実に焦りながらアーサーは「駄目じゃないですよ!」とまた大声が出た。


「勿論、です。それくらいで良ければ喜んで」

失礼します。そう続けながら迷わず少女の手を取った。

笑顔を見せながらさっきまでの放心が嘘のように躊躇いなく手を触れられ、少女の喉がひっくり返りかけた。

ひぇっ、と声を漏らしてしまう。今にも引っ込め下ろそうとしていた手を目の前でぱしりと握られただけでも、実家も学校もずっと女友達に囲まれてきた彼女の心臓には悪かった。

にも関わらずアーサーは最初こそ握手をするくらいの気軽さで右手左手それぞれを片手ずつ掴み、



するりと指を絡めた。



「?!?!?!!!!!!」

あまりの唐突な展開に少女は声も出ない。

てっきり両手で握手をして貰えるくらいを期待していたのに、まさか片手ずつ掴まれ指まで交差するとは思わなかった。

自分よりも遥かに大きく、長く鍛えられた指が擦れ合う感覚にぱくぱくと魚のように口を開いては閉じてしまう。憧れた恋人繋ぎが両手で叶ってしまい、声も出なくなる。


若干涙目になりながら顔の熱が悪化した少女に、アーサーは全く気付かない。自分に触れている限り体調不良でもないと確信があれば、そういう心配すらしない。

あくまでこれも他意はない。ただ、精一杯気持ちを伝えてきた相手に対し自分からもしっかり手を握るとなれば、この密着が一番だと考えただけだった。

当然、他の女性に安易にそんな繋ぎ方などしない。妹のように想ってきたティアラにも手を引かれたことや手を貸したことはあっても、そんな繋ぎ方を意図的にしようとは思わなかった。

ただただ、今この場でアーサーにとって最大級の手の握り方で応えた結果だ。


「勉強、頑張ってください。俺らの分も、やりたいこと学校で見つけて下さい」

「ぁっ、いやでもそのほら、私は勉強なんかも全然だし……。その、ジャンヌとかアムレットみたいなのはちょっと無理っていうか得意なものなんかも別に……」

あわわと唇も舌も震わせながら動揺のあまり、つい正直に返してしまう。

本当なら「うんありがとう元気でね」と言えた少女だが、手の部位全てから伝達される情報でそれどころではなかった。思い付く思考をそのまま深く考えず口に出してしまう。


学年上位のジャンヌやアムレットと違い、彼女はクラスでも一般的より低いくらいの成績だ。

文字も自分の名前が書ける程度からやっと綴りを気にしなければ書けるようになった程度。計算も得意でなく、歴史や法律にもあまり興味はない。身体も一般女子よりは丈夫程度で運動も得意ではない。

選択授業も一通りやってみて好きになったのは手紙の需要を含めた極一部だけ。そのどれもが別段周囲より秀でているわけでもなければ、自分自身も得意というわけでもない。

だからこそ一度も話したことがないにも関わらず、誰よりも運動神経が良くて背が高くて男女共に人気も注目も浴びて、その上で鼻にかけず可愛いクラスメイトを前にしても「他は考えてません」と言い切ったジャックが好きになったのだから。

自分にはどれを取っても到底叶わない相手だからこそ彼女は



「字、すげー綺麗でしたよ」



……今度は数秒も反応ができなかった。

すとんと、あまりにもはっきり言いきられてしまい受け入れるのにも時間がかかった。まるで告白をされたような錯覚を覚えてしまいながら息も止める。

その間も照れたように笑うジャックから「本当に羨ましいくらいでした」と言われれば現実感もなくなった。

彼女のことを全く名前と顔すらも覚えていなかったアーサーだが、今日見た受け取った手紙の字体は覚えていた。十人近くの手紙を貰ったアーサーだったが、彼女の字はその中でも特に綺麗だったと本気で思う。王族であるプライド達と比べれば別だが、それでも綴られた文字はどれも自分には真似ができない女性らしい整頓さだった。


意中の相手からのトドメとも呼べる賞賛に、彼女の掴まれていた手がふにゃりと脱力した。突然力が抜けた彼女に合わせるべくアーサーもそこで自分からも指を解く。両手が離され、自分よりも何故か熱の高い少女の体温が少し気になりながらもアーサーは「それじゃ」と言葉を切った。

そのままもう一度礼をし、踵を返し背中を向けるアーサーにそこでやっと「字は‼︎」と慌てるように彼女は声を上げた。

突然声を張る少女にアーサーも背中を向けたまま振り返った顔で見返せば、彼女は胸の前で自分の指を組みながら口を動かした。自分のではない指の温もりは十指全てから感じて擽られるようだった。


「字、……アムレットが時々教えてくれたの。寮でも勉強見てくれる時があって、まだ綴りは間違えるけど字は、アムレットも褒めてくれてて……」

ぽそぽそといつもの彼女を知る者には驚くような小声で唱える少女に、アーサーは静かに笑った。「そうっすか」と短い言葉に温かみを乗せて彼女に返す。

こくりと一度だけそれに頷く少女に、今度こそ最後になるであろう締めくくりの言葉でアーサーは別れを告げる。


「ララ、さん。これからもアムレット達と仲良くして下さい。どうかお元気で」

失礼します!と、そう告げ今度こそアーサーは振り返らずにプライド達の元へ走った。



アムレットの親しい友人の一人、ララ・アリソンの初恋はこうして幕を閉じた。


Ⅱ210-2.450

Ⅱ164

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 初恋!って感じがひしひしと伝わってきて、読んでるこちらもドキドキでした [気になる点] 恋人繋ぎをするよりも、女の子は片手の握手のつもりだったのにアーサーは両手でぎゅっと握りしめてきたとい…
[一言] あ、甘酸っぺえぇえ〜
[気になる点] 恋人繋ぎまでする必要あったのか? どうしてただ握手するだけでなく恋人繋ぎにしたのか意味がわからない… アーサーって一応プライドの婚約者候補だよな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ