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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
嘲り少女と拝辞

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そして悩ます。


「ジャンヌちゃんもジュリエット先生に恋文書きましょうって言われなかった?それとも高等部だけだったのかしら……?」

「いえ、……はい。そう言われました」


顔が半分引き攣りながら仕方なく自供まじりの肯定を返すプライドは、背中を摩る手が少しだけ止まりかけて脱力した。

服の中に今もしまったままの手紙を反対の手でそっと押さえた。人波にもみくちゃにされたせいで少し折り目がついてしまったであろう手紙を思い出し、気づかれないように肩を落とした。まぁ気持ちさえ籠っていれば良いわよねと、自分で自分を慰める。


「へ、ヘレネさんもセドリック王弟に書いたんですか?」

二人が背中を丸めている間にせめて話題を変えようと無駄な努力を試みる。

自分も書いたことは事実だが、それならヘレネも書いたに違いない。しかも弟達二人が世話になっていることも考えれば、書いていることもなんら不思議ではない。

もしかするとあの人波に渡すのも諦めたのだろうかと、後から考えながら返事を待てばヘレネは照れたように眉を垂らして笑った。

女子の選択授業で他の女子と同じくセドリックへ書こうかとも考えたヘレネだが、結局はそうしなかった。これから弟達が世話になるのなら、その時に弟達伝てに渡して貰えれば良い。むしろこれからお世話になるのなら手紙だけで済ませるのも躊躇った。

何より、まだあのギラギラと輝いた黄金の王子には手紙一枚すら渡すために近づけないと思う。食堂で遠目に見るだけでも目が眩むのだから。今は弟達からセドリックの話を聞くのが一番ちょうど良かった。

首をゆっくり振り、最後に小首をかしげて笑うヘレネは無言でネイトから返された半分以下になった皿を手だけで丁寧に受け取った。


「私は天国にいるお父さんに書いたわ」

先生にも家族でも気持ちが籠っていれば良いと言ってもらったから、と。そう柔らかい声で続けるヘレネに、プライドもなんとも会話が広げにくくなる。家族相手でも良かったのなら堂々と書きようも別にあったのに‼︎と頭の隅でこっそり思った。


ヘレネ自身は全く気にせず寧ろ「最近は嬉しいことがたくさんあったから」と語るが、とてもデリケートな部分に踏み込んでしまった気がしてプライドも「素敵ですね」としか言えない。

亡き父親に手紙を書くこと自体は心優しい長女のヘレネらしくて良いと思う。彼女にそれくらい嬉しいことがいろいろあったのだと語られたことも純粋に嬉しい。しかし、ここで「たとえばどんな⁇」と深堀することは難しい。手紙に書かれたのは、ヘレネと父親とだけの大事な会話なのだから。


ヘレネへと話を予想外に広げることに失敗した内にとうとうハァ、とステイルとアーサーも息が整う。

うっかり食べ物と一緒に噎せ過ぎた所為で喉が荒れたステイルとアーサーは、それぞれ同時に水筒を手に取り喉を潤した。

二人が復帰したところでパウエルもプライドもその背中から手を引いた。いまだに赤みが抜けない顔で、口元を押さえながら最初にステイルがプライドを上目で刺す。


「…………それで。ジャンヌは誰に、書いたのですか……?」

そんな危険物。

そう、心の中だけで唱えつつステイルは言葉を選ぶ。丸めたまま覗き上げてしまった目が鋭くなってしまったことを自覚しつつ、必死に熱を吐き出すべく深く呼吸を繰り返す。

それを聞き、アーサーも目を合わせられないままこくこくと同意だけを示した。


セドリックに書いたわけがないと、それくらいはステイルもアーサーもわかっている。

しかし、今のヘレネの言い方からして授業内容が〝手紙〟ではなく〝恋文〟だったのならと考えれば嫌な予感しかしなかった。

ただでさえ一限では明らかに隣の席の男子とノートで文通をしていた彼女である。二限で明らかに男子生徒からの人気も再確認させられ、今日までたったのひと月の間に様々な男女の噂をものにした彼女にこれ以上のスキャンダルはご免被りたい。

しかもプライドの義弟と騎士である二人は、プライドからの〝恋文〟がどれほど希少な一品か痛いほどよくわかっている。婚約者候補の自分達すら〝恋文〟は貰ったことがないと思えば、理由なく無自覚に少なからず胃が小火を起こす。


ハリエットが難解がっていた理由はわからないが、今はとにかく受取人である。

顔の赤みがステイル以上に抜けないアーサーも口元を押さえつけた腕に力を込めながら、ゆっくりプライドに視線の照準を合わせる。やっと彼女の顔にまで視界を入れられれば、この上なく狼狽し笑顔が貼り付け強張った様子が目に入った。

ええと、その……と口ごもり、冷たい汗が頬まで伝い落ちた。


「…………お、お爺様……?」


誰ですか。

疑問形につい言ってしまいたくなる言葉を二人は同時に飲み込んだ。

実際は存在しない山に住むジャンヌ溺愛お爺様をここで出してこられるとは思わなかった。遠回しにプライドからの黙秘意思に、ステイルもそれ以上糾弾できず首を垂らした。

アーサーが内側から覚まそうと一気に自分の分の水を空にする。「そうですか」としか今は言い返せない。

自分の席に戻りながら、プライド達の正体を知っているパウエルもお爺様がどういう意味かと首を傾げたかったが目をぱちくりさせるだけで我慢した。自分のどんな言動がジャンヌ達を追い詰めるかまだわからない。


「じ、……お爺さんと、仲良いんだな?」

「⁇ジャンヌの爺さんってどんな奴だよ?俺会ったことねぇぞ。死んでんの?」

「確かー……ご存命ですごく厳しい人だったかしら?」

なんとか必死に言葉を合わせるパウエルに、パンを頬張った口でネイトも続く。最後に一番お爺様情報を把握しているヘレネも首を傾けた。

亡き父親に書くならば未だしも、あくまで〝恋文〟を父親から飛ばして生きている祖父に書いているという発言にプライドも後から少しだけ後悔した。しかしもう戻せない。

ええ実家の山で、とても私には優しくて、厳しいけれど心配してくれてと。今までステイルや自分でも構築してきた仮想のバーナーズ祖父の情報を並べながら三人へ順々に目を合わせた。

今はステイルとアーサーと目を合わせて平然としていられる自信がない。パウエルへこうして嘘とわかる人物像を語るだけでも心苦しいのだから。

語り、ごまかしながらプライドはゆっくりとそのまま話題を語るべき本題へと移行することを思考の中で段取り始めた。


問いただせない歯痒さと、女性相手にそこまで踏み入るべきでないと己を律する二人の心境も知らずに。





……






「ハリエット、大丈夫?」


零してるよ。と、声をかける友人へ女生徒は慌てて手元を確かめた。

つい先ほどまでセドリックへの手紙提出戦争に参加していた彼女達は、やっと食事にありつけていた。人に揉まれ、押され、仲良し五人で全員が髪までぐしゃぐしゃに乱れすぐ直さなければならなくなった。

なんとか一人はセドリックに、そして残り四人もセドリックの傍らにいた騎士に代理で受け取ってもらえたことだけが幸いである。


手紙だけ提出できたところで持参の昼食を中庭で食べ始めた彼女達だが、大分遅れての出だしにも関わらずいつもより中庭の人口が少ないことも重ねて幸いした。手紙を渡して満足した彼女達と違い、最後まで王弟を目に焼き付けようと未だ食堂に張り付いている生徒が圧倒的に多い。

柔らかな芝生に座り込み、食事をしながらセドリックの話題に盛り上がる中でハリエットだけが一人ぼんやりとしたままだった。

せっかくの盛り上がる話題にも食いついてこないハリエットに疑問を浮かべる友人達だが、何を考えているかは大体想像もついた。噂の王族よりも彼女が気になる話題など決まっている。


「ねぇハリエット、そんなに頭悩ませるなら教えてよ。ジャンヌの恋文ってどんなんだったの?」

「まさかジャック宛じゃなかったら落ち込んでるとか?」


学年でも有名な人気女子ジャンヌである。

特にハリエットがずいぶん前からジャックが気になっていて、途中からはジャンヌとジャックの仲を楽しみにしていたことを友人達も知っている。

ジャンヌが誰と付き合うのか、誰が最初に告白するのかを密かに楽しみにしている彼女達にとっては、ハリエットだけが目を通した手紙は充分興味の対象だった。

しかし、「自分達で聞いて……」とハリエットもまた返答は変わらない。

女子にとって神聖な存在でもある恋文をここで明らかにすれば、お互いの信頼にも関わることは少し考えればわかることである。

しかし、同時に未だ謎が解けないハリエットは食事を食べる手も未だ止まり気味だった。


ちょっとだけ、じゃあどんな文体なの、きちんと内容は言わなくていいから、とどんな形でも良いから教えてとねだる友人にハリエットもだんだん揺らいでくる。しかし、言えない、だめ、ジャンヌに悪いからと頑なに首を振る彼女は、いっそ見せて貰わなければ聞かなければ良かったと後悔までしてしまう。

本当なら聞きたい、友人達の意見を、尋ねて解説までされなくても自分と同じく首を傾げて欲しい。「そうよね?」とその一言を誰かに言って安心したい。

もしここで自分が言った言葉を次の瞬間全員が忘れてくれるなら、記憶してる限りジャンヌの恋文の内容を語り聞かせた後に間違いなく



─ そんな人存在すると思う⁇



そう、尋ねたくて堪らなかったのだから。

いま冷静に考えても、講師が朗読してくれた一節を参考して書かれたのであろう文体のそれは失礼ながらジャンヌの妄想にしか思えなかった。しかし、照れもなく苦笑だけで返してきたジャンヌに全く真意がハリエットには読めなかった。


まさかあそこまで男子に人気で、格好良い親戚二人に大事にされている成績優秀なジャンヌがそんな夢見がちだとは思いたくない。講師も絶対妄想だと思った筈だと確信する。

しかし授業内容自体が最初に朗読された恋文の続きを想像しても良いと言われた時点で、たとえあれがジャンヌの妄想でも講師が却下するわけもない。ただでさえ下書きには宛先の名前が書かれていなかった彼女の恋文は、ハリエットがどう考えても今までジャンヌと親し気だった人物へ綺麗に当てはまるとは思えなかった。何故なら思い返せば


─ ジャンヌもジャンヌで惚け過ぎだし……


そんな、自分達の知るジャンヌからは考えられない、妄想と自慢に思える言葉の山盛りだったのだから。

いっそ恋文の中身を知ろうとした自分が頭の良いジャンヌに上手くあしらわれたんじゃないかと思いたくなる。もし、あれが実在の人物を主観で語られていたとしたら確実に愛するあまりの過剰表現か、現実が見えていない妄想女子の譫言のどちらかだと思う。


料理以外非の付け所がないと思ったジャンヌの意外な側面に、ハリエットは昼休み中ずっと頭を悩まされ続けた。


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― 新着の感想 ―
[一言] いい人探し、で入学してきた設定には合致していそうなのかねw
[気になる点] ハリエットとユーリ 同一人物でしょうか? [一言] 愛するフリージアの国民あて…とか?
[一言] んー、誰宛だろう ティアラかな?
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