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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
嘲り少女と拝辞

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そして突きつけられる。


もともとプライド達三人が一緒に固まって横並びに座ることは、同じクラスであれば全員が把握していることだった。


しかし、いつもは必ずプライドの左右には固く親戚二人が陣取ってしまう。休息時間も殆ど教室から荷物を追いて飛び出し校内を回っているジャンヌに、二人きりで話す機会などない。

鉄壁と呼べる布陣に、このひと月間ジャンヌに話しかけたくても話しかけられず機会を逃し続けていた生徒が殆どだった。思いを寄せても密接になる手段がない。

放課後に一緒にせめて校門までと何度か試みたが、それも途中からは彼女の多忙さ故に断られることが増えてしまった。しかも日を重ねれば重ねるほど、特待生の双子や一年生の騒がしくも遠慮なしの少年や最近特別教室から降りてきた仮面の上級生など謎の人物ばかりが進出している。

そんな中で、彼らが策を講じるのは時間の問題だった。


そして今日、珍しく教室に入ってくるのが遅れたジャンヌ達へ決断の時は来た。

三人分の席が空いている今、その席をわざと分断すればい良い。三人固まっての席がなければ、ジャンヌが二人から離れて誰かの隣になることは必須である。

……そしてその作戦が思いついても、仲の良い三人の間にわざわざ割って入る度胸を持って文字通り身体を張ったのが勇者マルク・ポワソンだった。

ジャンヌが隣を座る可能性は三分の二。そして賭けに見事大勝利を収め、最初から考えていた通りにジャンヌが使っているノートを有効利用して二人だけの筆談までできた。


「………ほんっとに、一か月で良かったな」

「奇遇だな」

ぼそりと声を潜めてステイルだけに聞こえるよう投げかけるアーサーに、ステイルも即答で同意を返す。

極秘視察がこれ以上の期間であれば、確実にこの先は彼らの人海戦術に苦戦させられていただろうと痛感させられる。もし明日から故意に席を埋められれば、毎回自分達はプライドの筆談に肝を冷やすことになるのだから。

今こうして耳を傾けているだけでも「字が綺麗だって」「いいなぁ」「ジャンヌって頭良いし物知りだよな」「あ、じゃあ俺も」「クリシアに誤解されるぞ」と興味が大きく動いている。

プライドの護衛として離れるのが不安に関わらず、今まで必死に守ってきた彼女と彼らの距離感すら危ぶまれてはたまらない。


そこまで思考を回していると、やっと気が付いたように何人かがステイルとアーサーに振り返った。

「あ」と口の形が変わるが、そこからは大して悪びれない。むしろ「どうだ」と言わんばかりに悪戯っぽく笑ってくる彼らを前に、アーサーは苦笑気味に潜入初期にエリックに言われた言葉を思い出した。

しかし苦くも笑うアーサーと違い、ステイルは表情がまだ腹立たしさを隠しきれていなかった。無表情にもなれなかった顔をそのまま彼らに確認されたステイルは、気まずい空気だけは回避するべく「やられました」と口を動かす。

ステイル自身、腹立たしさはあるが彼らとの仲を後味悪くしたいとは思わない。十四歳の彼らを相手に本気でムキになるほど子どもでもなかった。


素直に負けを認めるフィリップの言葉に、振り返った彼らも声に出して笑った。

「ごめんごめん」「悪かった」「お前らジャンヌのこと任されてるのは知ってるけど」「お爺さん厳しいもんな」「あ、騎士様に言いつけるなよ?」「ジャンヌには絶対!」と冗談交じりに返す彼らも、罪悪感がないわけではない。しかし、やったことは正攻法。そしてただ隣の席になっただけである。

つい、「ジャンヌの勉強の邪魔は」と言いたくなったステイルだがすぐに飲み込んだ。今日で最後になるのに勉強も何もない。

そしてプライド自身が筆談を楽しんでいたのならそこで自分が勝手に断りをいれることはできない。無意味にまた眼鏡の黒縁を指で押さえつけ、アーサーと違い未だ人垣で見えないマルクへも含めて彼らに胸を突き出した。


「ジャンヌにも誰にも言いふらしませんよ。僕らだけ除け者にされたのは残念でしたが。もっと色々と手段はあったかと……」

「お前らが一番ジャンヌにべったりだろ‼︎」

「女子にもモテるくせに‼︎」

「フィリップなんか彼女いる分際で!」

「ジャックは振られたから仲間だけどな‼︎」

「フィリップも友達ではあるけどな⁈」

ちょっと意趣返ししたい気持ちで罪悪感を付いてみたら、まさかの猛反撃を受けたことにステイルの目が丸くなる。

てっきりちょっと肩を落とさせるか軽い謝罪を繰り返される程度だと思った。なのに今度は逆に自分達が責められてしまい、思わず半歩足が下がる。

巻き込まれて槍玉を受けるアーサーもこれには背を僅かに反らす。男子の選択授業が校庭での活動が多いこともあり彼らともそれなりに友好を深めてきた為、とんがった目で猛攻されると流石に怯む。


女子にモテる、という言葉もステイルはまだしもアーサーに至っては自覚もない。

「振られたから仲間」とまで言われれば、その誤解もやっぱり残っていたのかと思う。騎士団でもプライド談義で時々受ける猛攻の為、ステイルよりは受け慣れていたがそれでも誤解が多すぎて唇を絞ってしまう。

そして女子に人気の自覚のあるステイルも、恋人設定をまだ根に持たれていたと少しだけ笑いそうになった。自分も自分だが、アーサーの誤解はそれ以上である。


なんともいえない反応をする二人に、「お前らは親戚だから良いよな!」「ジャンヌは他の学級でも有名で」「せっかくあの怖い貴族と別れたんだから!」「選択授業を合わせる機会が」とざわめきの中、今度は密集地の中心からもまた別の声が上がりだす。

「お前らだって俺らと同じ立場なら手段選ばずこれぐらいしたろ‼︎」



「いやそりゃァしましたけど」



「ッジャック⁈」

ステイルの叫びと、マジで!!?と複数の男子達からも直後に声が上がる。

アーサーのまさかの返答にステイルもぐるりと首が痛みそうなほど勢いをつけて振り向いた。

ステイルにも目を逸らして後ろ首を摩るアーサーは、嘘が吐くことが苦手な為ここで「しません」と言うのは少し難しかった。

プライドやステイルの正体にも任務にも関わらなければ、別にこんなところで見栄を張る必要もないと思う。


まさかの彼らを肯定する発言に、ステイルは無言でアーサーの裾を引く。

どういう意味だ、と確かめるべく摘まむ指に力を籠めるステイルにアーサーもそこで少しだけ発言を後悔した。ただでさえ機嫌が不安定になっているステイルを振り回してしまったと反省しつつ、逸らしても感じる相棒の熱視線に仕方なく口を開いた。


「……十三の時に、自分も父にすげーーーー無理言いましたから」

はっ!!!とアーサーの発言にステイルも一瞬で息を飲む。

彼らが「だよな~!」「十三って最近だろ」と合いの手をいれる中、ステイルだけが正確に発言の意味を理解する。

アーサーが本当に十三歳の頃にもともとどうしてプライドと謁見の間で語らうことになったのかを思い出せば、もうそれ以上の疑問はない。当時、騎士団からアーサーの同席を望まれた依頼がプライドに来た際に自分もいたのだから。

今思えばあの厳格な騎士団長がよく許したものだとは思うが、今はそのアーサーの行動力に感謝すら覚える。お陰で自分は無二の相棒を得られたのだから。

アーサーにとっては自分が父親を脅した数少ない記憶でもある。重症を負って目を覚ましたばかりの父親に、母親への秘密をぶら下げて第一王女に会わせろなど今思えば手段を択ばなかったにもほどがあると思う。後悔はしていないが、反省は少しある。

あの時の自分の行動の選ばなさと比べれば十四歳の彼らは充分正攻法且つ常識の範囲内である。

「やっぱ仲間だ仲間」と彼らに囲まれ出すアーサーを見ながら、素直に自分の過去を振り返り認める横顔にステイルの方が負けた気分になる。自分はつい打ち返しに何も考えず「ありませんね」と言おうとしたところだったから余計にだ。

唇を絞り、自分も見習い今度は発言の前に振り返る。しかし自分はプライドとは最初から義弟として接触が認められていた。やはりそんなことはないと、堂々と笑顔で言い返せると思考を整理した瞬間。




「……………………。……すみません。僕もありました……」




絞り出すように自供する寸前、耐えきれずステイルは口を片手で覆った。

アーサーのように堂々と言うこともできず、彼らへ直視もできないまま俯き気味に背中が丸まってしまう。「え」と、まさかの大人しい方のフィリップまで覚えがあるのかと思えばジャック以上の衝撃に全員の目が丸くなる。

「謝罪します……」と自分を棚に上げてしまったことを正直に認めるステイルに、想定内と言わんばかりの眼差しを向けるのはアーサーだけである。

アーサーと違い、彼らに「なんだよ!」「いつ⁈」「なに照れてんだこいつ」と言われてもそれ以上は口を割らない。まさか十三どころか十五の年にやらかしていたなどと言えない。しかも相手は友人や父親どころか、プライドの元婚約者である。



『申し訳ありません、レオン第一王子。今晩はティアラが姉君と過ごしたいと』



当時、プライドの婚約者だったレオンに妹のティアラを引き合いに出して邪魔をした自分に、彼らへ腹立たつ権利などないと思い知る。自分の方がずっと手段を選んでいない。

席を取るなど可愛いものだ。今思えば、レオンにとって貴重なプライドとの婚約者としての時間を奪ったのだから。

当時はあれが間違いなく最善であったことに自信はあるが、今では親しい相手の一人であるレオンとその人間性を知って振り返れば本当にすまなかったと思う。

一人俯き黙するステイルにどれを思い出したかまではわからないが、アーサーも彼なら間違いなく思い浮かぶだろうとわかっていた。

肩まで丸いステイルに、しまいには眼鏡まで曇らせているのに気づけば彼らに気付かれる前にそっと背中に隠した。言葉の駆け引きは苦手なアーサーだが、男同士のやり取りであれば騎士団でステイルよりも遥かに場数は踏んでいる。

なにもンなになるなら自白までしなくて良かったのに、と思いながらもステイルに詳細をいたずらに聞きたがる彼らへ今度はアーサーから投げかけた。




「ンで、皆さんは今までどんな覚えあります?」




矛先をそのままくるりと自分達に向けられた十四歳達は、一気に互いに目くばせし合う。

まぁ……あるよな!だよな!!と、どことなくぎこちなく同意しあう彼らの顔が見事に取り繕い一色になるのをアーサーはその目で確認した。

ははははっ!と乾いた笑い声が広がる中、に彼らに油断はできないと思いながら鐘の音を待った。過去の自分達の行いを振り返れば余計に。



彼らも自分達と同じ〝男〟なのだから。


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