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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
嘲り少女と拝辞

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そして向かう。


「こらっ!ジャンヌ達が来ているんだちゃんとしろ。あとソファーじゃなくて寝るならベッドだ!」

「手帳返してくれたら一発で元気に……。…………やべ、……兄貴温か過ぎて寝れる……」


寝・る・な!と二度目のお叱りが早々に入るけれど、次の瞬間には本当に寝息が聞こえてきた。

エリック副隊長に全体重預けたまま踵も浮いている。ぐーーー……というほのぼのした音になんだか微笑ましく見えてしまう。

仕方がなさそうにエリック副隊長はキースさんに肩を貸す形で運ぶと、そのまま手近にあるソファーへと放り出した。ぼとり、と本当に生きているか心配になるくらいに無抵抗にソファーへ垂れ落ちるキースさんに毎回のことながら心配になる。お仕事が本当にお忙しいんだなとわかる。


まったく、と呟くエリック副隊長が少し眉を吊り上げながらこちらに振り返る。

今日初めて見上げる顔はやっぱりいつもより赤い。私と目が合った瞬間肩を上下させたエリック副隊長は、唇を絞ったままぷるぷる震わしたと思った途端、自分の頬を両手で挟むように叩いた。

ばっちん‼︎となかなか凄まじい音がしたと思って私まで肩が大きく上下した。けれど、もう頬が叩いた所為か発熱かわからないエリック副隊長は「とにかく学校へ」と覇気のある声で言い切った。珍しく広い歩幅で玄関に戻り、私達に扉を開けてくれる。

何度も弟さんの爆睡を見られたのが恥ずかしかったのかなと思いつつ、私も気付かなかったふりをした。「いってきます」とお母様と爆睡のキースさんに挨拶をかけ、私達は外に出る。玄関がエリック副隊長の手により閉められた。

いつものように家から数メートル離れて人影がなくなったところで、私達は互いに力を抜く。


「……申し訳ありません。こう何度も何度も最後まで……。良いとは言ったのですが、弟は絶対に今日はバーナーズ家に挨拶をすると聞かなくて」

最初に重々しい面持ちで謝ってくれたエリック副隊長は、声もちょっと低かった。

やっぱりそれを気にしてくれていたんだなと思いつつ、笑って返す。私達を見送る為に休みをもぎ取ってくれたのなら怒るなんてできるわけもない。それにキースさんと仲良しのエリック副隊長も世話を焼いてあげていた姿も素敵だったと思う。

それよりもまだじんじんと熱そうな頬が気になりながら、お気になさらないでくださいと伝える。ステイルとアーサーも続いてくれたけれど、それでもエリック副隊長の丸い肩は治っていなかった。こちらこそ最終日まで気を遣わせてしまって申し訳ない。


「それよりキースさんは大丈夫っすか?また一段と疲れてるみたいでしたけど……やっぱ二日前の⁇」

アーサーが話題を選んでエリック副隊長を下から自分の顔を傾け覗く。同時にいつもより重いリュックの一つがぐらりと担いでいるアーサーの肩から傾きずれた。こういう時に一番にキースさんを心配をしてくれるのが流石アーサーだ。

ああ、たぶん。とエリック副隊長も苦笑気味にアーサーへ返した。村襲撃と盗賊の大掃討だからなかなかの特ダネだろう。しかも城下に保護所があるのだから、取材も兼ねて忙しかったのかもしれない。

そう考えると、もしかしたらノーマンとキースさんも鉢合わせしたりしちゃっているのかなと想像してしまう。


「まぁジャック達が帰ってくる頃には一度起きてるよ。……。……あの。ところでプ、……ジャンヌ」

ははは、と軽く笑った顔が急に引き攣ったように見えた瞬間、エリック副隊長の眼差しがこちらに向いた。

何かしら、と首を傾げれば強張った表情のエリック副隊長の顔色がまたぶわりと火照りだした。

なにかまたキースさんのことかしらと考えながら、私から聞き返す。少し歩く速度が緩んだと同時にまた唇を絞って俯いてしまうエリック副隊長は、それでもまた意を決したように顔を上げてくれた。勢いよくあげた所為で栗色の前髪が一瞬ふわりと浮かぶ。無理やり開けたような唇がゆっくり言葉を紡ぐ。



「そのお召し物、とてもお似合いでっ……‼︎」



本当に、本当にと。

繰り返し続けながら顔色がさらに鮮やかになっていくエリック副隊長は、拳を身体の横で握りながら絞り出すように褒めてくれた。額の汗までわずかに滲んでいる。

そういえば瞬間移動してからすぐにお母様と話してばかりで、まだエリック副隊長からの感想を聞いていなかった。もしかしてずっと言おうとしてくれていたのかなと思うと、なんだか少しくすぐったくなってしまう。

もう十分過ぎるほどお母様が手放しで褒めてくれたのに、タイミングを逃したところでそれでもわざわざ改めて感想をくれるのがエリック副隊長らしい。女性に時間が経ってから改めて言うなんてそれこそハードルが高いのに、と思うと今も顔が緊張で赤らんでいるのも納得した。

エリック副隊長にまで褒めて貰えて、ふにゃりと柔らいだ顔のまま「ありがとうございます」と返してしまう。


「すごく嬉しいわ。……なんだか照れちゃいますね」


言葉にしたら顔の部分全てが緩みきったのを自覚する。

両手で口元を押さえて直したけれど、エリック副隊長はもっと大変になった。私を照れさせるとは思わなかったのか、もともと火照っていた顔が急激に赤に塗られてしまった。

エリック副隊長⁈とステイルとアーサーが大慌てで声を掛けるけれど、もうフラフラと左右に揺れたまま気のせいか湯気が立って見えた。

有頂天になりかけていた私も慌てて大丈夫ですかと支えるべく手を伸ばしたけれど、エリック副隊長の唇があわあわと震えるだけだった。心なしか目が回っているようにも見える。


「ッエリック副隊長にもお褒め頂けて良かったですねジャンヌ。確かにそのゴーグルにもよく調和していると思います」

真っ赤なエリック副隊長を背中で守るように間に入り、慌てた口調で話題を変えるステイルに私も自分の額を指先で確かめる。

とんとん、と昨日と同じ感覚が確かにある。昨日ネイトが贈ってくれた特殊能力込みのゴーグルだ。

昨日ギルクリスト家へ帰った時もデザインを褒めて貰えた自慢のもう一品だ。こうやってみると、今日の私は装備が貰い物ばかりだなと思う。照れた上でさらにコーディネートまで褒められちゃうからまた顔が緩む。

両手で今度は頬を押さえたけれど、口角に力が入ってしまうのがよくわかる。だめだまた大人げなくはしゃいだ姿を見せるわけにはいかない。きゅっと意識的に絞ってから、きちんと女性らしく「ありがとう」とステイルに返した。

ぱしぱしと音がして目を向ければ、アーサーに揺らされたエリック副隊長が片手で自分の頬を叩いていた。さっきよりは痛そうじゃないけれど、もしかして熱があるだけだったのだろうかと心配になる。アーサーが触れたしもう大丈夫だとは思うけれども。

エリック副隊長の足並みが戻ったところで、私はステイルへの返事を続ける。


「昨日カラム隊長もとても褒めてくれたから嬉しかったわ。ネイトもきっと喜ぶでしょうね」

ネイトから頼まれた通り、昨日城に帰った後私は着替える前に早速扉前に控えていたカラム隊長にこのゴーグルをお披露目した。

きちんと、〝ネイトが作ったもの〟でしかも〝以前と同じ特殊能力込み〟で、さらにはわざわざ〝私に合わせて〟且つ〝素敵なデザイン〟にしてくれたことを順序立ててプレゼンテーションすれば、カラム隊長も真剣に耳を傾けてくれた。最後まで聞き終えれば感心したように「短期間とは思えない出来ですね」「プライド様には相応しい素晴らしい装備かと」とゆっくり頷いてくれた。温かな声色に私を通してネイトが褒められた気分になって私まで嬉しくなった。

私から少し遠回しにふんわりとネイトが感想を知りたがっていたことを伝えれば、納得したように視線を一度浮かせていた。

もしかしたらすでにネイトが我慢できずにカラム隊長に感想を尋ねていたのかなと思う。すごく自慢したがっていたもの。

私からカラム隊長が褒めていたとネイトに伝えると言えば「いえ、それには及びません」ときっちり断られた。



『明日、私から声をかけてみようと思います』



そう言ってくれた。

今日はカラム隊長も講師最終日ということも鑑みて、騎士団から放課後まで学校に割く時間を多めに貰えている。今回は私達より早く部屋前で待つ必要はないからと私からも断った。その分きちんと衛兵は増やしてもらっている。最後の日くらいお互い気兼ねなく過ごせるようにしたかった。

放課後に余裕があれば、どこかしらネイトとなら時間も合わせられるだろう。……もし見つからなくてもカラム隊長なら余裕で見つけられるだろうけれども。ネイトが雲隠れをしていた頃からきっちり発見していたもの。


ネイトも私から言われるより大好きなカラム隊長に褒められた方が嬉しいに決まっている。

ゴーグルの色も、それとなくカラム隊長を意識したのではと私から名推理を言ってみたら目を丸くしていた。まさか自分と揃えられたというのはカラム隊長も予想をしなかったらしく、口元を隠しながらほんのり照れていた。

部下に慕われ慣れている筈のカラム隊長の反応はちょっと私も発見気分だった。まぁ偶然と言われれば偶然とか、ネイトも無意識だったのかもしれないけれど。カラム隊長の瞳の色って普通に綺麗だもの。

どちらにせよ、きっとカラム隊長ならネイトが飛び上がるくらいしっかり褒めて喜ばせてくれるだろう。


「今朝も会ったらどうします?カラム隊長に伝えたことだけ言えば良いですかね」

「充分だろう。もともとネイトからの希望はゴーグルの出来をしっかり伝えることだけだ」

アーサーの問いに間髪いれないステイルに私もすかさず肯定で返す。

ここはサプライズの方が嬉しさも倍増だろう。とりあえず会ったらカラム隊長が感心していたことを伝えれば良いかなと軽く三人で打ち合わせた。今までの遭遇率から考えても朝に会う可能性はなかなか高い。

すでに一度待ちきれずにカラム隊長へ感想を聞きに特攻しているのなら、余計に私達へ「まだ言ってねぇのか⁈」とクレームが入る可能性も高い。

もう攻略対象者もラスボスも全員見つかったし、一限前にネイトと時間を過ごしても問題はないけれど苦情を言われた時のことも覚悟しておかないと。

心だけしっかり身構えて、私は斜め後ろに視線を投げる。「そういえばブラッドはどうだった?」と昨晩彼に会った筈のアーサーに尋ねれば、ちょっとだけ苦笑いが返ってきた。


「暫く、ブラッドとは何度か会うことにしました」


……流石アーサー。

「どんな話をしたかはあんま言えないンすけど」と前置きながら首を後ろを摩る彼に、私は聞き始める前から胸の中で賞賛の拍手を送った。

たった一度の面談できっと打ち解けたのだろうと、明確な理由はなく確信できた。


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[一言] 実年齢 プライドが19、ステイルは18、アーサーが21 カラムとアランは、たぶんだけども、プライドより10くらい上?29くらい? エリックは、アーサーとカラムたちの間だから、25くらい? 騎…
[良い点] エリック可愛い! エリックは可愛い雰囲気の子が好きなんだろうなって思う。 団長助けた時もプライドの可愛いとこで好感度上がってたし。 もちろん色々尊敬してるのもあるだろうけど。 ゲーム版で早…
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