表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
見かぎり少女と爪弾き

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1517/2210

Ⅱ418.見かぎり少女は予定する。


「それでジルベール、その〝情報提供者〟はどうした」


執務室で書類を睨むアルバートは、低めた声で尋ねる。

ティアラがレオンの学校見学案内で不在の為、今は二人だけの執務室だ。宰相として経過も含めた報告を告げたジルベールに、アルバートは鋭い目で見返す。

つい今しがた終えたその報告は、アルバートにも軽く聞き流せるものではなかった。



フリージア国内の村一つを狙った、人身売買組織による密入国。



フリージア王国が人身売買の狙いに遭うことは昔からだ。

近年は激減していたが、それでも大国であるフリージアで周辺諸国全てから守り切れているわけではない。城下を中心に掃討が行われた後も、国外からも離れた郊外や地方でも管理の目が届きにくくなった場所では行方不明者も出る。

しかし今回は行方不明になるはずだった人数が桁違いだ。

フリージア王国内に外部から入るには検問がある。その検問を突破し、国内へと潜入した人身売買組織がまんまと村を急襲までは成功させた。国内の人間が密かに人攫いを犯し国外に連れ出すのとはわけが違う。それだけの規模に国内への進入を許し、あまつさえ連れ出されかけた。……第一王女と女王の〝予知〟がなければ。

その事実は王配にも到底平然としていられることではなかった。

たった一日で事件についての情報を得たジルベールの手腕には舌を巻いたが、その情報提供者についても見過ごせるわけがない。



「自白した分でも〝教唆〟アンカーソン家の〝情報流出〟……見方によっては〝反逆罪〟も適応されるだろう」



裏稼業として数えても良いくらいだ、と。書類を机に置き腕を組むアルバートに、ジルベールは仰る通りですと深々頷いた。

ジルベールにより昨日明かされただけでも、彼女は〝身の安全と引き換えに〟貴族であったレイの情報を裏稼業に提供。アンカーソンと直接の関係や計画性こそなかったが、レイ・カレンの留守から現在地まで、その情報が悪用されることもわかった上で裏稼業に協力。

そしてその前日捕らえられた裏稼業とも密接な関わりがあり、〝脅された結果〟〝一般人〟を売り渡そうとまで裏稼業に教唆した。

それもあくまでグレシルから聞き出した内容であり、彼女に優位な情報に捏造されている可能性もある。


目撃談や証言を元にした自白した犯罪も全て計画教唆や情報提供のみであり、彼女自身はどれ一つ実行犯ではない。

裏稼業が下級層の子どもを使って情報を集めたり下働きさせるなどよくある手口だ。全て〝脅されて仕方なく〟で軽罪に落とせる域でもある。ただし



〝己が身と引き換えに村の抜け道を他国の人身売買組織へ売り渡した〟罪は、軽罪にはならない。



どんな形であれ村一つを売り渡し、密入国させる抜け穴を他国に教えたのだから。

被害に遭った村は国境付近に位置し山に囲まれ国外からは見つかりにくい位置だったが、複数の抜け道があった。

一本は、村に災害や非常事態が起こった際の避難経路として村人しか知らない筈の道。そしてそれ以外の複数の内の一本は、国外にも流出する抜け穴だった。

川の向こう岸、さわら奥の抜け穴を使えば国外に位置する向こう側まで抜けられた。

グレシルもその抜け道を見つけたのは偶然。城下や郊外にも足を頻繁に伸ばしていた彼女は人の出入りが少ない道や場所を探り歩いた結果、その国外へ抜ける道へ行き着いた。

フリージア王国内への抜け道。その記憶を代償に彼女は己が身の保身に走った。


「……だが、今回その封鎖の為に我々にも抜け道の位置提供と、更には自身が襲われた地区と人身売買組織についての情報にも協力をと名乗り出ている。騎士や衛兵の見回りを強化すれば今後はある程度防げる。話を聞く限り裏稼業に都合良く利用されていただけのようだし、何より人身売買に関しては。……最初に彼女を他国へ拐かしを許した我々の落ち度もある」

ピクリと、アルバートの眉がさらに釣り上がる。

もともと睨んでいるような鋭い眼光がさらに鋭さを増した。十代の少女であり、更には後ろ盾も何もない下級層の住民。奴隷になるか、それとも情報を売り渡すかと天秤に掛けられればどちらかを選ぶなど目に見えている。

前科も全て結局は裏稼業達の小間使い。実行犯ではなく、情報提供もしくは教唆のみ。更には今後のフリージア王国の利となる情報を持ち込んだ上での自首自供。

司法上での取引となれば、釣り合いは取れる。


「既に有意義な情報も得られてる。人身売買の元がどこの国か国外かは確定できないが……。どちらにせよ、村一つ損壊させたそれなりの罰は身に受けて貰うつもりだ。こちらの罰を受けて尚、元の生活に戻れるかは彼女の今後の生き方次第だが……まぁ裏切者として人身売買組織の大元に報復を受けるよりは遥かにマシだろう」

冷ややかにそう言いながら、ジルベールはさらに一枚の書類をアルバートに差し出した。頭の隅では彼女から与えられた情報とまだ頃合いを待つ入学前からのプライドの予知が過る。


「城の独房でひと月……?わざわざひと月も牢を使うのか。確かに大罪という形では投獄も相応しいが、しかしそれならたったひと月というのも」

「人身売買組織の大元に狙われると怯えていてね。城の牢獄であれば絶対的に安全だし、先ず見つからないだろう。流石に一度国内に逃した小魚の為にひと月も探し回るほど執着もしていないだろう」

暗に保護も兼ねてだと告げるジルベールにアルバートも静かに納得する。

投獄は基本的に余罪を吐かせるか裁判を待たせるまで等の一時留置、もしくは大罪人を永く苦しめる為の長期もしくは永久投獄の為である。その中で保護の為に独房を使うことは些か異質だが、少女の罪状も踏まえれば納得できた。

改めて渡された書類を端から読み進めればそこには人名と罪状、刑罰の言い渡し。特例に〝情報提供〟〝城内独房での禁錮一ヶ月〟

正式な刑罰としてはそれに加えて─


「…………今までの生活から察するが。下級層の少女が〝これ〟でこの先も今まで通り生きていけると思うか?ジルベール」

「首を落とさないように努力した結果だ。元々軽犯罪とはいえ常習犯。今回は反逆罪にも触れる要素も無視できない。私にできるのは彼女が生き直す為に強制的に道を狭めることくらいだ」

処刑や隷属の契約よりは遥かに軽罰だよと、フリージア王国最大刑罰の二つ並べて告げるジルベールにアルバートも今度は息を吐いて返した。


村一つ売り渡した罪としては多少情状酌量の余地を残し、十代の天涯孤独の少女が今後生きて背負うには重過ぎる刑罰。

それを王配アルバートは飲み込み、同意のサインのみを書き込んだ。


……




「ジャンヌッ!先生すっごく喜んでいたよ!」


昼休みが終わり、パウエルと昇降口で別れて戻った私達を満面の笑顔でアムレットが迎えてくれた。

一足先に教室に戻っていたらしい彼女が駆け寄ってきてくれた途端、逃げ場のないステイルがそっと距離を取って一足先に自分の席に戻る。アーサーもステイルを背中に隠すように配置を変えてくれ、アムレットの死角になるように立った。

アムレット、と笑い掛けながら彼女を正面から向かえれば跳ねるように飛び込んでくるアムレットは私の両手を取った。

にこにこと嬉しそうな笑顔を向けてくれるアムレットにそれだけで癒やされる。


「早速今日の放課後宜しく、だって。本当に、私も一緒に行ければ良かったんだけど……」

「いいのよ、アムレットも忙しいのだから。それよりも伝言ありがとう、ディオスとクロイにもきちんと伝えて置くわね」

アムレットが伝言してくれたって。そう続けながら彼女の両手を握り返す。

ネル先生へのファーナム家下見提案。どうやら無事にネル先生も好反応だったらしい。まさか攻略対象者が解決した後にも二日連続で放課後イベントが起こることになるとは思いもしなかった。

後で早速ステイルに帰りが遅くなりますの知らせをジルベール宰相に送って貰わないと。昼休み前に合流した時にも軽く放課後にも予定が入るかもしれないと二人には伝えたけれど、これでもう確定だ。

私は良いの、もうできたんだしと言いながら自分のことのように笑うアムレットは一度結んだ手を解いて身を引いた。私と傍に立つアーサー、そしてその背後にいるであろうステイルを目だけで視線を配る。「そういえば」とさっきまでの声から打って変わった潜めた声になった。


「あのレイって人達。ディオス達のお向かいさんらしいしジャンヌも気をつけてね。また意地悪されそうになったらジャック達に守って貰ってね?!」

私からも一緒に行って文句を言えれば良いんだけれど、と心配そうに眉を垂らしてくれるアムレットについ私も苦笑してしまう。

大丈夫よ、と言いながら肩を竦めて返す。レイのことはアムレットも知っているし、更にはディオス達のあの苦情を聞いていれば心配してくれるのも無理はない。折角だしファーナム家とレイ達のご近所トラブルを少しでも解決できれば良いのだけれども。


それに、残念ながら恐らくアーサーは今回不参加だ。

ステイルにとってアムレットを遠ざけたいのと同じように、アーサーはネルがいま一番恐ろしい相手だもの。しかも一回城で再会してしまっているから危険度も高い。どちらにせよ、もうライアーとも再会できたレイに危険性はない……と思いたい。あと問題はあの俺様過ぎる傍若無人な言動だけだ。

そう思うと、もしかしたら今回私達を家に招いてくれたのは対レイに何か言って欲しいのもあったのかなと考える。いやディオス達のことだから純粋に私達をお客さんとして招きたいと思ってくれた可能性も充分にあるけれども。


「先生にもお向かいさんのことは相談しておいたから。安心してね」

突然行ってからじゃ驚くと思うから、と。事情をしっかり伝えておいてくれたらしい。

ネルも先生だし確かに頼れる。大人代表としてぴしっと仲良くするように言ってくれるかもしれない。

レイはともかくライアーは比較話も通じる……と思いたい。いやでも昨日の話だとそのライアーがファーナムお姉様に色目を使っていて困るという話だったと思うし。それを考えると寧ろ私がネルを守らなくちゃいけなくなる可能性もある。

ネルは大人だけど可愛いし、大人しそうな外見だもの。

ファーナムお姉様を口説いているのならネルも危うい。しかもネルは大人の女性だ。ライアーの女性の好みは知らないけれど、私もしっかり目を光らせておこうと気持ちを改める。


授業開始の鐘が鳴り始めると、「じゃあね!」と教師が来る前にアムレットも席へ戻った。

私とアーサーも改めて自分の席に戻れば、既に避難して座っていたステイルが早速こちらに顔を向けてきた。


「ジャンヌ。先生、とはもしや被服の……?」

ぎくり。

私の肩が正直に上下に揺れるのとほとんど同時にアーサーの肩も揺れた。まだ放課後の予定としか伝えていなかったのだから当然だ。

察しの良いステイルとアーサーに首をギギギと回しながら振り返る。ええ、その……と言葉を濁らせながら私は改めて二人に放課後の予定確定を打ち明けた。

もう、ネルの一言が出た時点でアーサーは顔が引き攣っていたし、ステイルも額を押さえてしまう。


「で、でも大丈夫よ。ジャックは午後の予定を優先して。一度エリック副隊長の家に帰ってから向かいましょう?ジャックは交代をお願いして……」

「ッいえ行きます‼︎‼︎午後休には間に合わせますし、ただ……その…………あんま、前に出れねぇかもしれませんが」

緊急事態以外は、と。

最後はぼそぼそ唱えるアーサーが小さく顔を俯けた。身の危険が迫った時以外はという意味だろう。ネルに正体が気付かれたくないのだから当然だ。……だからこそ交代を提案したのだけれども。

少し申し訳なさそうに言うアーサーにステイルが「問題ない」と一言断ってから眼鏡の黒縁を押さえ顎を上げた。


「お前は喋るな、俺が倍話す。レイが不穏な動きをした時だけ守ってくれ」

最悪の場合喉を痛めたことにでもしておけ、と。

そう言いながら早速カードを懐から取り出すステイルが心強い。悪い、と呟くアーサーに続いて私からも二人に謝罪する。

これでアムレットも同行することになっていたらステイルも封じられて文字通り八方塞がりだっただろう。

ペンを握ったステイルは「まぁ残り二日ですから」と寛大な返答をしながらカードに走らせた。放課後遅れる旨に、ジルベール宰相宛だろうとわかれば、そこでふと大事なことを思い出す。

あっ、と一音漏らした後に、ステイルへ向けて追記をお願いすれば若干訝しむ表情でペンが止まった。


「ジャンヌ。……まさかまた何か問題があったのでは?」

「‼︎い、いいえ問題はないわ!本当よ⁈ただ、やっぱり最後くらい思い出を作れたらなぁって」

本当の、本当に問題があったわけではありません‼︎

そう意思を込めて両手の平を見せながら弁明する私はステイル、そしてアーサーへの順番に身体ごと向き直る。アーサーからは目が合った瞬間「ほんとっすか……?」とまじまじ声まで低められてしまう。どうしよう鋭い‼︎

だけど今言うわけにもいかず、言い訳を探しているととうとう講師が入ってきた。

ぎりぎりまで立っていた生徒も、慌ただしく席に着く。授業を始めますと講師が科目名を告げる中、ステイルの溜息が隣から聞こえた。


「……わかりました。ここまで来たのですから最後までお付き合いします。俺も、ジャックも」

困った姉だと言わんばかりの声色に、私も枯れた笑いで返した。

書き綴ったカードがステイルの手元から懐で消えたのを確認してから前を向く。


……それから間もなく、ティアラとレオンによる最後の凱旋に教室は再び騒然とすることになったけれど。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あと2日もしたらプライドもステイルも溜まってる仕事に忙殺されるのかねー?
[気になる点] アーサーもついていくのか。 ネイトのゴーグルをアーサーが使ったら… んでも、「そこにいる」とわかってたら一緒か。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ