表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
見かぎり少女と爪弾き

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1502/2210

そして息を吐く。


「状況から鑑みて……確かに、プライド様の御身を守る上でも騎士と共に最善の行動であったと頷きましょう。……最良は早々にステイル様と共に帰還されることでしたが」


騎士団長の重い言葉にぐうの音も出ない。

でもそんなことをしたら確実にブラッドの拡散か、もしくはパウエルの大技で村全体に大規模な被害が出ていた。

騎士団長もそれをわかってくれているからこそ、いつもよりお咎めが柔らかい方なのだろう。やっぱりアーサー達と離れなかったことも正解だった。私自身心強かったし助けられたのもあるけれど、騎士団長からしても護衛無しで大暴れしてしまった頃と比べればマシだという判断だろう。


騎士団演習場には私やティアラだけでなく説得のプロであるステイルとジルベール宰相も居てくれたお陰でか、波風はあまり立たせずに騎士団長に了承を得ることができた。

騎士団の方は被害も少なく村人の救出と、盗賊の掃討に事情を吐かせる為の捕虜も確保できたらしい。騎士達も殆ど怪我はなく、あったとしても盗賊にではなくパウエルの雷撃被害だ。

一応パウエルのことは被害者ということで特殊能力の暴走も逮捕までには至らなかった。今は移送されながら馬車の中でカラム隊長が話を聞いてくれている。


「予知についても……無事、防げたことは幸いに思います」

ブラッドの暴走。

それが防げただけでもブラッドにとっては大きい。ゲームではラスボスであるグレシルが原因だったけれど、今回はどうかわからない。どちらにせよゲーム通りの日付に盗賊に襲われるなんて、やっぱりゲームの強制力は恐ろしい。ゲームと違って治安も良い筈なのに。

これも騎士団のお陰です、とジルベール宰相達に続き私からも感謝を示す。同じタイミングにはなっても同じ結末にはならなくて本当に良かった。


ブラッド。そう呼ばれていた彼は、ゲームでは家名も語られなかった。

……いや、最後攻略後半には「ブラッド・ゲイル。それが僕の本当の名前」とアムレットに語った気がするけど、やっぱり二作目では駄目だ覚えていなかった。

アムレットと同じクラスでありながら、殆ど授業をさぼって屋上に入り浸っていた彼は学校ではラスボスの〝お気に入り〟の一人という認識だった。

へらへら笑いながら学校でも苦も無く平穏を過ごしていた彼をアムレットだけが「ちゃんと授業に出なさい!」と見つけて怒っていた。

次第に打ち解け合い、寂しげな笑顔を浮かべるブラッドにアムレットは心引かれていく。そしてブラッドが隠していた腕の無数の傷跡を皮切りに、とうとう彼の背負う過去が語られた。



『僕、アレ嫌いなんだよね』



そうレイの炎の特殊能力について語る彼は、三年後も心の傷は全く癒えていなかった。

妹の十才の誕生日。住んでいた村が人身売買組織に襲われ焼き討ちされた。騎士だった父親を亡くした彼は母親と妹と一緒に住んでいたけれど、その時は頼りの兄がいなかった。妹の誕生日祝いをする為にケーキを買いに行っている兄の帰りを待っている間の出来事だった。

燃える家の中で母親と妹を連れ出そうとしたブラッドだけれど、押し入ってきた男達に襲われてしまう。特殊能力を使って必死に抵抗したけれど、とうとう殴り飛ばされた。目の前では母親と妹が連れ去られそうになり、更にはぶつかった拍子に燃えている本棚が背後から倒れ込んできたことに気付かなかったブラッドは



村全土を火の海にしてしまう。



山も、盗賊も、村人も、……家族も。

拡散の特殊能力は、受けた衝撃をその形のまま綺麗に全てへ拡散させてしまう。家だけに火をつけられた筈の村で、人も建物も関係なく、壁や隔てすら意味をなさずブラッドの背中と同じように範囲内の全てが激しく燃え盛った。

棚の下敷きから身動きが取れない間、盗賊達だけでなく母親と妹が焼け焦げる様を目の当たりにすることになった。やっと棚の下から這い出た時には、家の中にいる誰も息をしていなかった。

小さな妹の亡骸だけでも抱え助けを呼びに外を出れば今度は家の傍に兄の亡骸も見つけ、村に帰ったばかりだろう兄は燃える家のどこからも離れていたのにそれでも燃え焦げていたという。……理由は、明白だった。

既に焼け死んでいた人身売買と村人からも悲鳴は聞こえず村どころか周囲の山すら火の海になった光景に、もう茫然とすることしかできなかったとブラッドが語っていた。


それからは人と関わることも避け、問題にも関わらないようになるべく平穏に生きてきた。だからこそ自分を気に入ったと、私の部下にしてあげると手元に呼ぶラスボスにも逆らわず寧ろ友好的に接し続けていた。

屋上にずっと居ても成績さえ守ればなんとかしてもらえるから、僕は教室にいない方が皆も安全だしと語るブラッドは笑いながらも哀しげだった。


「あの、今ブラッドは……?ノーマンから何か言付けなどはありませんでしたか」

「いえ、ご希望の通り家族と合流させただけです。急遽八番隊として任務に参加しておりましたが、もともと今日は非番なのでそのまま帰還を許可しました」

騎士団長の話によると、ハリソン副隊長から遅れてブラッドも騎士団演習場に訪れていた。

足止めをしてくれていたハリソン副隊長に、ステイルが「緊急事態。ノーマンにも伝え騎士団演習場へ」と指示を出してくれたお陰だ。

私達の正体にも気取ったノーマンもハリソン副隊長から伝言を聞いて急ぎライラちゃんを寮へ帰らせ、ひと足先のハリソン副隊長を追って騎士団演習場まで戻ってすぐ作戦参加を志願したらしい。八番隊として盗賊包囲に加わったノーマンに、通信兵を介して騎士団長がブラッドへの合流の許可を与えてくれた。現場で私が騎士団長と通信を繋げていた時にお願いしたことだ。


あの場でブラッドが誰よりも頼れて逃げないでいてくれる相手はノーマンしか思いつかなかった。何より家族に会えただけでも気持ちは落ち着くものだと思う。

そうですか……と一言だけ返し、口の中を飲み込む。今頃ブラッドもノーマンの元で落ち着いていると良いけれど。村全焼は免れても、これまでの彼の心にも少なからず傷はあった。


「ところでプライド様、残り二日はどうなさるおつもりでしょうか。目的を果たされたのであれば、今日をもって撤収されることも一つも考えますが」

「!いえ、パウエルに正体を知られてしまったことに関しては処置の確認も含め報告しないとなりませんが……。私から交渉してみます。申し訳ありませんが、あと二日このままお付き合い願いたいと思います」

アムレットや残してきた子もいるし、パウエルのことも気になる。グレシルがこれからどう出るかもわからないし、まだやり残したこともある。

学校全体に知られたのなら約束通り抗いようもなく即撤収だったけれど、生徒一名なら何とか交渉の余地もある。

ここで終えられない。と、はっきりと意思を示せば騎士団長から深く長い溜息混じりの言葉が返ってきた。「承知致しました」の声が既に疲労を帯びている。


「パウエルの処置については、僕から頼んでみます。たった一人の生徒であればある程度お任せ戴けるかと。交渉と条件についてもヴェスト叔父様にお願いしてみます」

もうパウエルのことも考え済みというのが彼らしい。確かにパウエルならステイルの方がお願いも聞いてくれるだろう。


私からパウエルにも素性がバレてしまったと話した時は頭を抱えていたけれど、母上達にはあくまで騎士と話していたところを聞かれたということにした。その後にパウエルが村で特殊能力を暴走させたことを踏まえても恐らく被害者扱いで検挙はされないし、その生徒に口止めをお願いするくらいの時間なら叔父様も許してくれる筈だ。……多分。


「それでは、パウエルという青年はステイル様にお任せすると致しましょう。ブラッドという青年の方も、騎士の身内であれば口止めも難しくないかと」

兄君の立場を悪くしたい筈がありませんから、と。にこやかに笑うジルベール宰相に騎士団長の眉間の皺が深くなる。

やんわりとだけど部下を脅すような口調が聞き捨てならないのだろう。腕を組み、強い眼差しでジルベール宰相を見つめ返す騎士団長から「明日、私からも聞いてみましょう」と告げられれば、やっと取り敢えずの息が私も吐けた。



パウエル、そしてブラッド。



二人の現状が気になりながら、一人首を窄めた。


Ⅱ246

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] たまに従来ルートを考えた作者さんに「人の心ぉ!」って言いたくなるよね……よく思い付くなあ……
[一言] キミヒカシリーズ…実際にあればR指定高そうですよね。 泣きゲーまたは鬱ゲーとしても有名かもしれない。
[一言] リアルにこんな乙女ゲームあったら鬱過ぎてやりたくないなぁ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ