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15.最低王女は妹を想う。

城に来た時から物覚えが恐ろしいほど早くて出来る子だったステイルだけど、最近は余計それに磨きが掛かっていた。


特に風邪が治ってからは、もの凄く加速して王族に必要な知識を吸収していっている。無理をしていないか心配になって声を掛けたこともあるが、「御心配頂きありがとうございます。でも最近は色々な事を学べるのが楽しいので」と言って、私の教科書数冊分はあるであろう辞書のような物体を両手に笑っていた。

最近は、庭園よりも一緒に城内の図書館に行く事が増えた。追いかけっこで倒れたことがトラウマで庭園から遠退いたのではと心配だったけど、ステイルは「色々知りたいことが増えてしまいまして。」と言ってにっこり笑っていた。そうして〝帝王学〟や〝人心掌握術〟などの関連書物を中心に恐ろしいほどの数を読み進めている。…帝王学とかは私も最近になって教師に教わり始めたばかりなんだけれど。


やっぱり、風邪が治った日の翌日からステイルは雰囲気が変わった気がする。落ち着きというか、影というか…ゲーム攻略時にかなり近い腹黒さを醸し出している。この前も二人でいる時に摂政になったら何をしたいかと尋ねたら「城内の人員と役職を徹底的に見直すのが楽しみですね。」と黒い笑みを浮かべていた。

…いや、でもゲームのステイルはティアラの前や腹黒いことをする時以外はむしろ誰にも笑わないクールキャラだったし。今のステイルはむしろ愛想が良いから城内の人からの評判も上々なくらいだもの。そう往生際悪く思いながら、負けじとステイルの横で私も王族の歴史関連の書物に目を通す。

前世でもゲームや漫画、アニメ関連で歴史の授業が好きだったからそれに影響を受けてしまっている。前世を思い出す前は教師の授業を丸覚えしたら歴史関連も満足していたのだけれど、こうして国の第一王女として紐解く歴史はなかなか面白いし興味深い。

〝キミヒカ〟のゲームの中でもズル賢い戦略や外道な方法で主人公達を追い詰めたり、設定でも性格以外は完璧な女王とされていただけあって、プライドも物覚えは我ながらすごい良かった。知能派攻略対象者のステイル程じゃないにしても流石ゲームのラスボスといったところだろうか。一回教えられたことは基本忘れないし、前世の記憶を取り戻す前からかなり理解力もあった。

それなのに何故、周りの人の気持ちだけはあんなに無理解だったのか、思い出すと黒歴史になって恥ずかしくなる。

そうやってわりと、いやかなり平和に暫くはゲームの攻略対象者でもあり、10年後には私を殺すかもしれないステイルとの日常は過ぎていったのだけれど…


「ハァ…」

憂鬱だ。

早朝から侍女のロッテに身嗜みを整えて貰いながら、私は大きくため息をする。

「どうかなさいましたか、プライド様。なにか今日の生誕祭に不安なことでも?」

心配そうにロッテが鏡越しに私を覗きこんでくれる。

「いいえ、そんなことないわ。妹や母上に会えるのは楽しみだもの。ただ、少し緊張してしまって。」

嘘ではない。妹であるティアラや、母上に会えるのは楽しみだ。ただ…前世の記憶を持ってしまっている今は素直に喜べないところもある。


ティアラ・ロイヤル・アイビー。

彼女もまた、プライドに酷い目にあわされた被害者なのだから。

父上が亡くなってから憔悴し始めた母上。その母上の前では良き姉に振る舞いながら、影では突然現れた第二王女であるティアラに冷たく当たるプライド。役立たず、王族の面汚しと毎日毎日言われ、自分に自信をなくしてしまうティアラ。王位をプライドが継いだ後には離れの塔に閉じ込められてしまいながら、それでも生まれ持っての優しい心は失わず、健気に生きていく主人公。小さい頃から虐められたせいで、プライドのことは「プライド様」や「女王陛下」と呼び、萎縮する描写ばかりだった。最後、断罪されて亡骸になったプライドには毎回どのルートでも「お姉様…」と呟いていたけれど。優しい心が災いして最後までプライドを憎みきれずに、姉に愛されたかったと、姉妹としての関係を持つことにずっと憧れていたと、泣きながら語っていた。

正直、プレイヤー側だった時はこんな悪役に同情するのは流石に天使過ぎないかと思った。


勿論ステイルに隷属の契約をしなかったのと同じく、ティアラを虐めるつもりもない。

ゲームのティアラはゲームが始まるまでは父上も母上も居なくて味方は義兄のステイルだけだったけど、この世界では父上も母上も生きている。きっと私が余計なことさえしなければティアラは普通に生きていける筈…と思いたい。でもステイルの変わりようといい、またゲームルート通りになってしまったら…と思うと今から罪悪感が重い。

せめて余計なことだけはしないように。

あの子に辛い想いや傷付けたりはしないように。

「君と一筋の光を」のゲームでプライドは最低最悪のラスボス。

私が十年後に犯す大罪、それを終息させてくれるのは主人公のティアラと、ルートごとに彼女が心を癒した攻略対象者。


私の妹は攻略対象者の、この国の唯一の光なのだから。


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