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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
無頓着少女と水面下

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Ⅱ386.無頓着少女は聞く。


「ジャンヌ、今日もよろしくね」


一限を終え、ステイルとアーサーが男子の選択授業へ向かってからいつものようにアムレットが私の席へ訪れた。

ええよろしく、と言葉を返しながら机を挟んで向かいに座る。彼女とこうしていられるのもあとほんの少しだと思うと名残惜しい。一番学生らしい気分を味わえるこの瞬間は何度でも輝いて見えてしまう。

順調?ええお陰で、と言葉を交わしながら顔を近付けて笑い合う。今日はどこがわからないかと尋ねてみればアムレットは既に栞代わりにペンを挟んでいたノートを開いた。いつも通りの苦手教科に、大きく丸で囲われているのがそうだろう。もうしっかり勉強会用に印をつけているのが偉い。

すると、ノートを見つめていたアムレットの顔が別方向へと上がった。

教室の扉に向けて軽く挨拶代わりに手を上げる彼女に、振り返らなくても誰だかわかる。ディオス、クロイ。そう顔を向ける前から彼らへと呼びかけてみれば


「「………………」」


まさかの、二人揃って顔が死んでいた。

げんなり。とその言葉が相応しい。クロイだけでなくディオスまで目がじとりと据わっていて、肩が内側へ丸くなって姿勢も悪い。特待生になってからこんな顔をみるのは初めてというぐらい顔色まで悪い。彼らの白髪と同じくらいの白さにまるで、体調が悪かった頃のファーナムお姉様のようだと思ってしまう。

どうしたの?と直後には私とアムレットの言葉が殆ど同時に重なった。

とぼとぼとゆっくりとした歩速で歩みよって来る彼らは表情まで淀んでいた。一体何があったのか、まさか同調か、お姉様に何かと心配になって席を立てばアムレットも飛び出した。大丈夫⁈と声を掛けながら二人の顔を覗く。


「体調が悪いなら無理せずに医務室に……!」

「なんでもない。ほら……さっさと勉強始めようよ」

アムレットが顔色をよく見るようにクロイの頬へ手を添えた途端、やんわりとだけど彼がその手を払う。

ぷいっと顔を逸らす仕草は相変わらずのクロイだ。私からもディオスに「大丈夫⁇」と確認して覗き込めば、ぱちりと大きく瞬きした彼からも「大丈夫だよ」と弱々しい笑顔で返された。少なくとも同調の弊害ではなさそうだ。

四人で改めていつもの席に座ってもクロイは話題も嫌なように眉間に皺を寄せながらノートを開き出す彼は隣に座っていても苛々が伝わってくるようだった。お姉様に何か?と言葉を選んで尋ねてみたけれど「姉さんは元気だけど」と若干怒り気味の返答だけだ。

向かいの席ではアムレットが疲れた表情のディオスの肩へ手を添えている。アムレットの優しさに応えるように「なんでもないよ」とまた力なく笑った。どうみても大丈夫にも何でもなさそうにも見えない。


「二人とも休み中何かあったの?ちゃんと睡眠取れてる?」

「寝てはいるよ。ただっ、すっっごくむかつくことがあっただけで」

「ディオス。それは良いからさっさと勉強。ジャンヌ達に愚痴りに来たわけじゃないでしょ」

表情筋に力が入ったディオスに、ピシャリとクロイが釘を刺す。

むかつくに愚痴……ということは、どうやら体調不良というわけではなさそうだ。クロイに言われて唇を絞ったディオスはまた首を萎ませながらノートを机に開いた。いやそんな状態じゃ私もアムレットも集中なんてできないのだけれども‼︎

アムレットも同意見らしく、開いたノートを睨みつける二人に「私達で良かったら話を聞くよ?」と眉を垂らして尋ねた。流石心優しきアムレット。

確認するように私にも目配せが来れば、もちろんよとこちらからも応戦する。


「私もとても気になるわ。悩みも話した方が楽になるしどうかしら?」

強制しないけれど。と断りながら二人に笑みを返す。

すると二人も、互いに無言で目を合わせだした。同調せずともやはり双子の仲良し兄弟。言葉を交わさずにお互いの意思疎通を確認すると前振りもなく、同時に頷いた。

「別に大したことじゃないんだけど……」と控えめに口を開きだすクロイに、勉強会を中断することを気にしてくれたのかなと思う。「たいした事ない」と言えるくらいには深刻じゃないのなら良かった、と小さく胸を撫で下ろしながら耳を傾ける。

現れた時から不機嫌この上ないクロイだったけれど、口を開けば余計に〝不快〟そのものを表現するような低い声だった。



「あのレイって人、うちの近所に来て」



へ⁇

一瞬、どういう意味かを色々考える。

口がぽかりと空いたまま、瞬きも忘れて思考を回す。

レイが来た⁇つまりはファーナム兄弟にわざわざ会いに来たと言うことか。いやでも彼がファーナム兄弟の家を知っているとは思えない。まさか付けてきたとか?いやいくらお気に入りだからってそこまで……するかもしれないけれども。

今朝聞いたライアーへのがっちり執着と、ゲームでのアムレットへの絡み方を思い出せば否定はできない。でもいやまさかを考える間に、今度はアムレットが「来たって⁇」と言葉を絞って聞いてくれる。


「引越して来たんだよ‼︎うちの近所!それも向かいの家‼︎」

最悪だよ!と次に答えたのはディオスだ。

引越し……と、ある意味一番恐ろしいイベントに気が付けば肩が上がった。ファーナム家には私も何度か言ったことがある。

今までご近所さんに会ったことがない近所は、大人も仕事に出ていて人影もない簡素な地帯だ。確かにお向かいは空席だった気はする。

中級層でも端の方で、城下といっても土地代はまぁ安いだろう。現在、アンカーソン家の支援を全て失って残った財産だけで生きていかないといけないレイにとってはちょうど良い物件かもしれない。もともと下級層で暮らした彼は住む場所に拘りなんかない。

思い出したのか顔を真っ赤にして話し出そうとするディオスに、クロイが「落ち着いて。教室中に言うつもり?」と冷ややかな声をかける。それでもムムッと若葉色の目を尖らせるディオスに、もしかしたらこれをわかっていたからクロイも話したくなかったのもあるのかと考える。


その後ディオスの主観とクロイの捕捉をいれて話を聞けば、二人がどうしてこんなにげんなりしているのかがよくわかった。

もともと仲は良くなかったレイがご近所さんにというだけでも二人は嫌だったのに、その上を超えたのがライアーだ。

まさかの彼、ファーナムお姉様を初対面から口説き始めたらしい。しかもその後もがっつり関わってきていくら追い払おうとしてもファーナムお姉様と距離を詰め、今では毎晩食材を持って家にレイと共に上がりこんでくると。毎晩夕食をレイとライアーと取っていると聞けば、彼らの顔色の悪さは気疲れの表れなのだなとわかった。


「しかも姉さんどんどんあの人達を甘やかすから。夕食一緒ってだけでもムカつくのに、掃除しに行こうとしたり洗濯まで請け負おうとしたり簡単にあの人家に上げちゃうし……もうレイがどうでも良くなるくらいムカついてきた」

「僕らは友達じゃないって何度も言ってるのに‼︎それにあのライアーって奴いつも姉さんにべたついて‼︎」

ダン!と直後にはディオスが叫んだままに机を両手で叩いた。

どうしよう。思った以上に二人から怨嗟が堪っている。まさかのレイを凌ぐライアーのやらかしだ。

しかもちょくちょく話の中で「あの変態」「変態が」とすごい悪口まで飛び交っている。文脈的にライアーのことっぽいけれど、誰がそんな言葉をこの子達に教えたのかしら。

ディオスとクロイのことだし、お姉様を口説いているというのだけは意識過剰の可能性がある。でもどちらにせよこれ以上無い心労だろう。


ライアーのことは私も詳しく知らないけれど、確かに軽い印象はあった。ファーナムお姉様は美人だし、好きになったとしても驚きはしない。

もともとセドリックやパウエルに対してもお姉様のこととなると警戒していたファーナム兄弟だ。あんな絵に描いたような〝悪い男〟に見えるライアーにお姉様が火傷させられないか心配になる気持ちはよくわかる。レイもレイでライアーの言動をどこまで止めてくれるかわからないし、この二人の言い方だとそれも望み薄なのだろう。

熱……というか殺意を放つ双子から視線が逃げるようにアムレットへ顔が向く。すると彼女も表情が強張ったままだった。

半笑いのような、引き攣っているような表情で私と目を合わす。第二作主人公にすら手に負えないご近所トラブルだ。


「姉さん、最近身体動かすの慣れてきたからって……」

「僕ら絶対嫌だよ?姉さんをあんな人には死んでも渡さない」

「ねぇジャンヌ!ジャンヌからお願いしてまた」

「ディオス。それ以上は言っちゃ駄目だから」

席から立ち上がるディオスに、またクロイが止める。

何か言いたげなディオスに「私にできることなら」とすぐ言ってみたけれど二人とも首を横に振った。まさか私からレイを説得するか引越させて欲しいとかだろうか。二人にとってはレイと私は一応知り合い同士だ。


そう考えると、二人が言いづらくしてくれたのも私とレイの関係も鑑みてくれたのかなと思う。

まぁレイと大して友好的な姿を見せた覚えはないけれども。あの子が問題児なのは私も痛いほどよくわかっている。

それにしても、ライアーもなかなか恐ろしい人だ。引っ越してこのたった数日で食事から全てファーナムお姉様とがっつり関係を築いているのだから。友好的、というか社交性が高いといえば聞こえはいいけれども。流石あのレイが何年も探し求めるほど懐くだけある。


最後には皮切りにぶすっと二人同じポーズで頬杖をつくディオスとクロイに、アムレットと私でそれぞれ彼らの背中を擦って労った。

大変だったわね、心配よね、と声を掛けながら取り敢えず鬱憤は吐き出せたようだと思う。


「お姉様のことが心配なのすごくわかるわ‼︎そうよね、三人とも家で勉強もあるから集中もしたいわよね!」

「私もすっごいわかる!家の中で煩くとか慌ただしくされるとそれだけで落ち着かないし……!良かったら今からレイに文句言いに行こうか⁈びしっと言ってあげる!」

「二人も、お姉様が喜んでいるから強く怒れないのよね、本当に優しいわ。ご近所問題は大変よね」

「きっと空き家が少ないのよ。ほら、城下って人が多いし!ネル先生だって大変って言ってたし」

私とアムレットで交互に元気づける。

気が付けば私はクロイの背中、アムレットはディオスの頭をそれぞれ撫でて宥めていた。ねっ、そうよね!と会話を力一杯弾ませれば次第に二人も会話に少しずつ入ってくれた。

ネル先生って誰?被服?大変って何、ていうかなんで先生とまで仲良いの、とクロイが自然と話を逸らし出せばディオスも明るい話題にちょっとだけ気を持ち直した。

アムレットが最近は昼休みにネル先生に手解きを受けているのだと話せば「えらいね!」と目を輝かせてくれた。流石アムレット効果。

ディオスから明るい笑顔が浮かべば、クロイも影響されるようにさっきまで丸くなっていた背中がすっと元に戻った。……直後、「いつまでやってるの」と背中に手を添えていた私の手を上体を捻って拒まれたけれど。頭は子ども扱いで怒ると思ったから善処したのだけれど、これも馴れ馴れしかったかしら。

いやでもさっきまでは嫌がらないでいてくれたし、と思いながらクロイの横顔を見ればちょっと唇が尖っていた。

白熱した会話が思った以上に長引いたのに気付いたのは、授業開始の予鈴が鳴ってからだった。


「……ありがと。聞いてくれて」

ぼそっ。と本当に独り言のような呟きが尖らせたままの口から聞こえてきた。

クロイへ振り向いたけれど、顔は変わらず私に横を向けたままだ。でも、ちらっと一瞬だけ目をこっちに向けてくれたから多分私達に向けてで間違いはないだろう。ちょっと声が小さすぎてアムレットに聞こえたか不安だけれども。

ディオスが「あ!ごめん‼︎」と天井を仰いで謝った時には「遅すぎ」といつもの表情で兄を見返していた。


「ほら、やっぱり話したら勉強どころじゃなくなった」

「ックロイだって話したから一緒だろ‼︎ごめんジャンヌもアムレットも!明日は絶対ちゃんと勉強しようね‼︎」

開いたままのノートを閉じて、二人が教室へ戻るべく立ち上がる。

勉強する気満々だったアムレットも、二人が調子を取り戻したことの方を安心してくれたらしく「良いの」と明るい笑顔で返していた。


「二人とも大変だったのに来てくれてありがとう。今日も二人に会えただけで嬉しい。ディオス、クロイ、またいつでも話なら聞くからね!」

「うん!ありがとうアムレット!ごめんね!」

「…………ありがと」

夏の日射しのようなアムレットの優しい笑顔に、ディオスに続いてクロイが今度こそアムレットに聞こえる声で柔らかい言葉を返した。表情はいつもの冷ややかに見える顔だけど、ちょっとだけまたアムレットと打ち解けたのかなと思う。

すると席を立ってパタパタとノートを脇に抱えてディオスがこちらに回り込んできた。


「ジャンヌもごめんね‼︎せっかく勉強教えてくれてるのに!でもジャンヌ達に聞いてもらってすっとした!絶対あんな奴らに負けないから!」

力一杯細い眉をつり上げてそう宣言したディオスは両手でぎゅっと私の手を握ってくれた。

あまりにも力強いレイとライアーへの宣戦布告に笑ってしまいながら「気にしないで」と返す。こうしてアムレットにも私にも一人一人しっかりお詫びしてくれるのはディオスらしいなぁと思う。弟の分も気持ちを込めてくれているのかもしれない。

クロイが「もう行くよ」とディオスの腕を掴む。去って行く二人に私も席から手を振った。

アムレットにも改めて私からも勉強会できなかったお詫びを言ったけれど、彼女は「ううん」とやっぱり陰りのない笑顔で首を横に振った。


「ちょっとずつディオスともクロイとも仲良くなれて嬉しいから!そんなことよりあのレイにもう一回文句言ってやりたいくらい」

どこをとっても主人公この上ない台詞でぐっと拳を握るアムレットは、そのままノートを手に足早に席へ戻っていった。

私からも、学校を去る前にちょっとレイとご近所トラブルについて話はしておこうかしらと思い。なにせ彼自身は今朝



ファーナム姉弟へ何の不満も私に話さなかったのだから。



ただ一つ、ライアーへの愚痴だけで。

……ファーナムお姉様の負担も鑑みて、ご近所総意円満解決を目指したい。


溜息を一個だけ吐いてから、私は講師の授業開始に背を伸ばした。


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[一言] 王女さまも大変だ
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