Ⅱ348.嘘吐き男は嘘にした。
『〝黒炎の特殊能力者〟……こんな美味しい奴、なんでずっと換金もせずに懐に入れてやがった?』
……まさかこんなことでしくじっちまうとはなぁ。
ぐらつく頭と視界の中で、苦笑う。ヘヘッと笑えねぇ筈が勝手に口から零れれば、ついでに切った口から血も垂れた。
アンカーソン侯爵から流れてきた、人捜し。
殺しでも売りでもなけりゃあ、手を汚すことでもねぇ今の俺様には良い仕事だった。しかも本人を直接届けりゃあ馬鹿みてぇな額が賞金としてかけられていると聞けば飛びつかねぇわけがねぇ。
どうせ下らねぇことで家出した馬鹿ガキか、盗みをした使用人か女だろうと思った。いつものように仕事の情報をもっとくれと同業者に頼んでおけば、……まさかの標的はレイちゃんだ。
しかも裏稼業を舐め腐った仕事依頼をしたお貴族サマは、そのガキが特殊能力者っつー情報までバラしやがった。殺しの依頼なら未だしも、連れ戻したい人間が希少な特殊能力者だって情報まで裏稼業に流すなんざ「どうぞ売るなり人質になりして下さい」って言っているようなもんだ。お陰でレイちゃんを誘拐したわけでもねぇ俺様までこのザマだ。
別に同業者や群れにも情なんざハナから持っていなかったが、お陰で俺様まで逃げる為に特殊能力を使う羽目になった。……こういう馬鹿やることになるから、女以外には深入りしねぇで生きてきたってのに。
まぁ、後悔してももう遅い。連中丸焦げにしてやった時から、レイちゃんをアンカーソン家に逃がすことしか考えていなかった俺様にはもう退路なんざなかった。
出し惜しみせず火に巻いて逃げ続ければ、片道くらいはなんとかなった。だが、俺様の特殊能力まで広まればもう終わりだ。レイちゃん家みてぇに後ろ盾がない俺様は遅かれ早かれ捕まる。
昔みてぇな地方の安市場とはわけが違う、城下には凄腕の人身売買連中が潜んでいる。特殊能力がバレた時点で下級層や裏稼業の人間なんざ〝同類〟から良い標的だ。狙われれば最後、どう足掻こうと奴らから
「ああ、〝特上〟で間違いねぇ。たかが火の特殊能力者だったが、あんな火力を操れる奴なんざ見たことねぇ」
逃げきれるわけもねぇ。
…汚れきった冷たい床に転がった向こうで、愉しげに笑う連中の声が聞こえてくる。さっきまで意識が飛んでたが、目が覚めれば意外でもねぇ場所に居た。
ぐらつく視界で視界が部分部分見えなかったのも、俺様の目がイカれたわけじゃなく鉄格子越しだったからだと後から気付く。寝ていると思われている間に逃げるかと動かしてみれば金属の小さく擦れる音が聞こえた。
身体の重さの原因が、怪我だけじゃなく全身に鎖を巻き付けられているからだと理解する。ぶっとい鎖でぐるぐる巻きで虫みてぇな姿のまま檻に入れられて、あまりにもテメェに似合い過ぎた最期だとまた笑えてくる。
鉄でも能力で溶かし切ることはできるが、偶然かわざとか縛られた手の平は両方俺様の身体にぴったりくっついた状態で巻かれている。このまま火を出せば、鎖じゃなくて俺様の身体が焼き切れる。……ま、それもイイんだけどよ、別に。
……レイちゃんは、逃げ切ったか?
目を凝らして周囲を探るが、それらしき影も気配もねぇ。
鉄格子の向こうで嗤い合っている連中の話に耳を立てていれば「流石は鎖の」「あの化け物を一撃で」「お陰で大儲けだ」と俺様を捕まえたんだろう男への世辞の山だ。「あのガキを逃がしたのは惜しかったが」「アンカーソンを敵には回せねぇ」「せめて中級層相手だったら」とも聞こえてきた。
どうやらレイちゃんはあのまま逃げられたらしい。馬鹿のアンカーソンはクソだが、侯爵家のお陰で連中も深追いするつもりもねぇようだ。
やっと息を吐き、連中で馬鹿騒ぎに興味も失せる。
褒めるも愚痴もどうでも良いが、〝商品〟サマはもう目が覚めちまってるんだよなぁと暢気に思う。お目当てのレイちゃんは逃がしたくせに祝杯に酒を仰いでいるのについては、いっそ俺様からもおめでとさんと口から出そうになる。捕まった身としては全然めでたくねぇし寧ろ逃がしてくれと思うがこのままレイちゃんのことは酒と一緒に流してくれりゃあ一番良い。
レイちゃんが逃げ切ったと思えば比較的気も楽で、転がって目を開けたまま記憶を探る。
レイちゃんをアンカーソンの屋敷へ行かせて暫くは裏稼業連中と順調に殺し合っていたが……派手にやりすぎて火の手がとんでもない規模になった。
俺様としてはいっそ火事を聞きつけて騎士団でも来てくれりゃあ儲けだったんだが、先に煙の吸い過ぎでしんどくなった。林ごと蒸し焼きにされる前に逃げてくれた連中もいたが、状況もわからず飛びかかってくる馬鹿共の相手もしていた所為だ。
俺様も火を出せるだけで燃えねぇわけでも耐性があるわけでもねぇし、いっそこのままテメェの火に焼かれて死ぬかーとも大火事の中ヤケクソに考えた。
その場合は元がわかんねぇほど墨にならねぇとレイちゃんにバレるなと考える余裕もわりとあった。
それでも咳き込んで全身ボロボロになりながら、かかってくる連中を焼き殺しまくっていた途中で……ガツンだ。
煙に巻かれて息も視界もやべぇ時に背後から脳天にやられた。後ろはレイちゃん以外は火の壁だったし周り込まれるわけもねぇと完全に油断していた。
結構な衝撃だったし、今は確認できねぇが頭がいくらか割れちまってんだろうなと思う。口の回りを舐めればちゃんと血の味がする。レイちゃん逃がす前にも殴られてんのに二発目とか勘弁してくれ。
「!どうやら目が覚めたみてぇだなぁ?」
おっそ。
そう思いながら、俺様に気付いてニヤ笑う野郎共を見返す。ヘラッとおかしくもねぇのにいつもの調子で笑い返しちまう。散々褒めちぎられていた男だけを椅子に残し、他の連中がのそのそと俺様の方に歩み寄ってくる。一人だけ大柄な身体をしたデカブツが両肩に鎖を掛けながら歩いてくるからジャラジャラうるせぇ。
檻の傍に置いていたバケツを手に取ったかと思えば、大振りで俺様へ中身をぶちまけてきた。
顔が檻ごと濡らされ、流石に咳き込む。普通起こす為に水かけるならわかるが起きてからするかと思えば、口の中に入った不味さと臭さに納得した。水じゃねぇ、油だ。
「逃げようなんて思うんじゃねぇぞ?少しでも能力を使って見ろ、テメェが一番に丸焼けだ」
あーはいはい、そういうコトね。
俺様が起きるまで待っていた理由を理解して、何度も口の中に入った油を吐き出し咳込む。そりゃあ脅さねぇとわかんねぇわ。
もともと悪臭の酷い檻の中じゃ、油の臭いも大して気にならねぇ。せめてぶちまけるなら酒にして欲しかったと思いながら舌をしまう。下手なことを言った奴隷や商品がどうなるかは俺様もよくわかってる。いくら〝特上〟だからって何もされないわけじゃねぇ。立場をわからせる為に何でもしようはある。
油塗れになる俺様を指差して笑う連中から押し黙る。命乞いなんざしたところで意味もねぇ。
目の前でつらつらと俺様をこれからどうするつもりだの、手下をよくも減らしてくれただの、お前の為に鉄格子まで用意してやっただの、逃げられると思うなだのお決まりの能書きを聞いているふりしながら耳で流す。
喚いても駄目だし、無視しても駄目。連中が喜ぶ怯えるような反応が一番無難で安全だ。正直、客引き売女の百倍ご機嫌取りがめんどくせぇ。
散々反応を返し続けてから、俺様も一応念のため聞いて見る。
「……そんなに俺様の特殊能力を評価してくれんならいっそアンタらが買ってくれねぇか?俺様なら仕事でも役に立てると思うんだけどなぁ、頼むよ兄弟」
「生憎だが、俺より弱い特殊能力者に興味はねぇ」
ま、そうだわな。
目の前のデカブツ連中じゃなく、椅子に座ったままの男の答えに音は出さず息を吐く。〝俺より〟ってことはコイツも特殊能力者なのか。
そういやぁ巷で鎖を使う特殊能力者の噂も聞いたことがある。人狩りの専門家として名も売れた奴だ。……そういう名が半端に売れている奴だとどうせ俺様の実力が上だったとしても助けねぇだろう。仲間にするどころか、テメェより上級者だったらだったで立場を守る為にさっさと処分するのが常套手段だ。
まぁ考えといてくれ、と返しながら首を窄めてみせる。
交換条件だの、とにかくこの鎖さえなんとかしてもらえりゃあ逃げる方法もあったんだがそうもいかねぇ。
その後もゲラゲラと俺様を嘲笑いながら、特上商品が手に入ったことにご機嫌な連中は「楽しみにしていろ」と言って最終的には部屋から去っていった。出口はどこかと思えば、奥の通路へ引っ込んでいった先から「梯子を支えていろ」と命令する声が聞こえてきた。一体どこに居るのかはわかんねぇが、取り敢えず地下っていうことだけは理解した。
見張りも残さず灯りごと持っていかれ、全員いなくなった直後はあの世みてぇに真っ暗だ。目を覚ますまでは火の中に居た所為で、余計に暗さに息が詰まる。
連中の相手をしねぇで良い分は楽だが、自分の身動きも封じられた上に何も見えねぇなんざ常人なら頭がおかしくなるだろうなと思う。
「ぁーー、あーーー。……檻の内側の方がわりと気も楽なもんだな」
無意味に声を出しながら、音の反響する感覚に少し頭を落ち着ける。
独り言でも言ってみりゃあ、わりとまともな声だった。市場で死んだ〝商品〟連中も、檻の中じゃこんな感じだったのかと思う。檻の外からみりゃあ惨めで酷い有様だったが、中から外を見る分は大して思うところもねぇ。
視界に邪魔な鉄格子越しに見れば、外は一枚隔てた別世界だ。自由な立場が羨みたくもなるかもしれねぇが、今の俺様にはただ単純に「こっち側の世界」に来たという感覚しかねぇ。惚れた女達に見られてなけりゃあ大して惨めにも思わねぇ。どうせ今は序の口だ。
この後の方が遥かにクソな人生が待っているんだろう。さっき連中の一人がラジヤに高く売りつけるっつってたし、奴隷大国ならさぞかし盛大に見世物にされるんだろう。
流石の俺様もラジヤで特殊能力者の奴隷がどんな扱いをされているかは知らねぇ、まぁどうせ家畜以下なことだけはわかる。それだけわかりゃあ充分だ。
「死んどくかぁ……」
はぁ……、と溜息交じりでまた声に出す。
人身売買の大手らしいとはいえ、流石に特殊能力者用の枷は持っていなかったことは幸運だった。
いっそ売られる為に地上へ出された時にでも道連れにしてやろうかとも考えたが、また意識奪ってから運ばれたらどうしようもねぇ。ラジヤ帝国が特殊能力者をどこまで知って売ってるかは知らねぇが、今の機会を逃がして今度こそ特殊能力を封じられたことを考えれば賭けに出る気も失せた。確実に死ねる時に死ぬのが一番良い。
邪魔が入らねぇ一人の今が絶好の機会だ。奴隷用の薬を使われねぇようにする為にわざわざつまんねぇ芝居打って〝生きたい〟と思わせた。
人攫い用の薬を使われちゃ、それこそ特殊能力を使うどころか舌を噛むことすらできなくなる。テメェでくたばる覚悟なんざとっくにできていた。
『さぁ〜て!俺様に殺されるかレイちゃん逃してとんずらするか三秒で決めろ兄弟!』
最初から。場合によっちゃあ明日の陽を浴びることもねぇだろうと、レイちゃんの手を取った瞬間にはわかりきっていた。
殺されるか、売られるか、運が向いてりゃあ騎士団に捕まるくらいかと。
俺様の特殊能力がバレた時点で、八割方もう死ぬとわかっていた。レイちゃんが無事だとわかったんならもうこの世に未練もねぇ。どうせこの世界で生きる限りまともな死に方なんざとっくに諦めていた。ちょうど燃えやすくしてくれたんだしどうせなら今が良い。……特殊能力を使えば一瞬だ。
いっそこれ以上ねぇ俺様らしい死に方だなとすら思う。
ガキの頃に奴隷を一人残らず焼き殺した俺様が、今度はテメェが檻に入って売られる前に焼き死ぬ。そう考えればレイちゃんと出逢っちまったのもこうして代わりに捕まったのも今度は別の意味で運命ってもんだったのかなと思う。っつーことはレイちゃんは俺様の死神か。どうりで俺様好みの女顔だったわけだ。
ハハッ、と枯れた笑いがまた一人で零れた。あんな単純で騙されやすい尻尾振るガキんちょ死神がいて堪るかよ。どうせならボインな姉ちゃん死神にやられたかった。っていうか寧ろ死ぬ前にあと一度ぐれぇは女と……
『なんでだよ‼︎‼︎』
…………泣かせちまったなぁ。
どうせなら今まで付き合った女のどれかを思い出したかったのに、浮かんだのはガキんちょの怒鳴り声と泣き顔だ。
直後には顔も見てねぇ筈なのにわんわん泣くレイちゃんの顔が嫌でも頭に浮かぶ。殺し合い中も炎の向こうでうっすら聞こえてきていた喚き声の所為だ。
間は悪かったが、何はともあれ最後までレイちゃんには手を汚させずに済んだ。このまま大人しく貴族の坊ちゃんとして生きてくれればそれで良い。頼むから俺様みてぇな生き方は二度としねぇで、……こんな死に方しねぇでくれと本気で祈る。炙られるのも焼かれるのも、あの綺麗な顔半分だけで一生充分だ。
そう思いながらとうとう特殊能力を、と思えば矢先にまたレイちゃんのツラが頭に過ぎる。同時にまたぎゃあぎゃあと泣きわめいていた最後の声まで思い出す。
せめて死ぬ時ぐらい心安らかにさせてくれと頭の中のレイちゃんへ唸った。まさか俺様が宥めに行くまで一生泣き続けるつもりじゃねぇだろうな。あんだけ懐いちまっていたレイちゃんならやりかねねぇ。
……アンカーソンは、マトモじゃねぇ。
裏にまで大々的に手を伸ばしたのが今回が初めてかどうかはしれねぇが、少なくともそれまでも雇われた奴はいる。最初からツテがなければ裏稼業に仕事依頼なんざできるわけもねぇ。
それなりに信用や関係がどっかしらにあるから、裏稼業も提示条件を守られると思って仕事をする。そうじゃなけりゃあ違法でもねぇ仕事依頼があんだけの数まで広がるわけもねぇ。
大体、レイちゃんの話通りならアンカーソン侯爵は下級貴族の人妻寝取って捨てた男だ。
裏稼業を雇って手当たり次第探させる馬鹿だが、同時にそれだけ裏稼業に顔が利く証拠でもある。……まぁ、そんな親でも人攫い連中に捕まるよりはずっと良い人生の筈だ。
生きて、生きて、生きて、……生き続けられりゃあそれだけで間違いなく良い人生だ。たかが二年の下級層生活なんざガキの悪い夢だと思っちまえば良い。俺様ごと忘れちまえ。だから、……忘れちまっていいからもう頼むから
こんな世界に二度と近づかねぇでくれ。
……あんな台詞だって、言うつもりじゃなかった。
あばよと言ってこれが最後だと思い知らせてから別れるつもりだった。なのに本気でこれがレイちゃんとの最期になると思えば勝手に嘘が溢れ出た。
今まで嘘ばっか吐いてきたツケか因果か、最期の最後までレイちゃんに嘘を吐いちまった。もう会えるわけもねぇんだと、死ぬつもりで特殊能力も使いまくった。なのに、……願うみてぇに。
『大嘘つき』
ああ俺様は大嘘つきだ。
今まで本当のことを言った数の方が少ねぇくらいの嘘つきだ。息を吐くみてぇに嘘を吐いて、レイちゃんにだって誰にだって嘘を言ってきた。だからあの言葉だって当然嘘だ。嘘つきライアー様の最後の最後の
『ア゛い゛ァ゛あ゛ぁぁあああ゛っっ‼︎‼︎』
「…………」
泣く声がうるせぇ。
鎖の中で拳を握りきれずテメェに爪を立てる。衝動に任せて手足にこれ以上ねぇくらい力を込めて暴れてみたが、鎖はびくともしなかった。
死ぬつもりだった筈なのに今は逃げようと必死なことがテメェでも信じられねぇ。怒鳴り荒らげてぇ欲を堪えて口の中を噛めば、ガリッと思った以上の音がして鉄の味がまた満ちた。
散々嘘ばっか吐いてきた俺様に、最後にまだしねぇといけねぇ未練ができた。
『いつかタダ飯食いに会いに行ってやるからせいぜい取り入っとけ!』
嘘だ。
『足手纏いのテメェを厄介払いできたらまた平和ないつもの生活に戻るだけだ‼︎』
嘘だ
『この俺様が助け呼んでくれっつってんだよ!』
大嘘だ。
大して長くもねぇ人生で、レイちゃんにも誰にも散々嘘を吐いてきた。……だから。
「…………〝本当〟にしてやる」
最後の最後のアレだけは、死ぬまで絶対嘘にしねぇ。
暗闇に目を凝らし睨みながら、叫ぶでもねぇ低めた掠れた声をそこに置く。
何が何でも生き延びる。ラジヤだろうが大陸外だろうが世界の裏側だろうが絶対逃げて絶対にまたフリージアに帰ってやる。
アイツが無事楽しく俺様を忘れて生きてることを確認するまでは諦めねぇ。この目で俺様自らレイちゃんの無事を確認できるまでは何があっても生きてやる。
晒しでも家畜でもなんでもかまわねぇ。絶対にレイちゃんの無事を見るまでは諦めねぇ。俺様の中であいつに最後に残した言葉を嘘にしねぇ。最後の大噓をあんな言葉で終わらせねぇ。
何年後でも何十年後でも絶対に。……だからよ、レイちゃんそん時はほんとに頼むから
マトモな人生、送っててくれ。
「今更現れても遅い」って、命からがら戻って来た俺様を邪険に追い返してくれ。そんくらいが、大噓吐きの俺様はちょうど良い。
俺様は要らねぇって思い知らされるくらい、ちゃんとテメェで幸せ掴んでくれ。歪んでも拗れてても構わねぇから、そんぐらい強くなれ。
俺様は俺様でライアー様の一世一代の大噓を本当にする為生きてやる。お前に残す最期の言葉だけは嘘にしねぇ。……今、決めた。
次会う時には今度こそ「あばよ」と言ってやる、本当の言葉を次こそ最後にいってやる。もしその時にもまだあの時みてぇにうじうじグズグズ泣いてたら……ちゃんと、迎えに行ってやる。どっちにしろ、あの言葉を嘘にしねぇ。
『またな』
俺様の大噓は、あんなもんじゃ終わらねぇんだ。
Ⅰ103




