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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
頤使少女と融和

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Ⅱ339.頤使少女は受ける。


「大丈夫ですかジャンヌ、やはり足元は少し濡れてしまいましたね」

「寒くないっすか?」


ええ、大丈夫よと返しながら、私の頭の旋毛から爪先まで心配してくれる二人に笑い掛ける。

エリック副隊長に校門まで送って貰った後はアーサーの傘に入れて貰ったけれど、やはりどちらの傘でも足元は少し跳ねてしまった。

肩は濡れずに済んだけれど、校門からは自分で傘を差したステイルの方が湿り気も少ない。それを見ると単純に自分が相合い傘の歩き方が下手だったのかなと思う。一応、歩いた時は傘からはみ出さないようにアーサーにぴったりくっついたのだけれど。今回はちゃんと人前の許可も得て。


以前、生徒達の前で腕に私がしがみついた所為でアーサーに迷惑な噂が立ってしまった反省を生かし今回は事前許可済みだ。

傘から離れないようにくっついて良いか聞いたら「ンなことしなくても俺は濡れて良いンで‼︎」と叫ばれたけど、いくら風邪引かないからってずぶ濡れにするわけにはいかない。

濡れるより二度目のスキャンダルを心配するモテ男子アーサーだったけれど、最終的にはお互い濡れない為と納得してくれた。

私が個人で傘を持つとも言ったけれど、それはそれで騎士のアーサーも補佐兼のステイルも見逃せなかったらしい。私自身は傘を持つことにも抵抗はないのだけれど。


お陰で私を濡らすまいと緊張したのか、校門から校舎に辿り着くまでの短い間でアーサーは見事にガチガチだった。

しかも十歩進む間に自然と傘が私の方に半分以上傾いてくるから、その度に私からアーサーに肩が触れるくらいぴっとりくっついてまたアーサーの肩が揺れて緊張が跳ね上がるの繰り返しだ。緊張で熱が上がりすぎて銀縁の眼鏡が曇っていたのもあるかもしれない。

いっそ腕にしがみついた方が傘から離れないくらい密着できるしアーサーも傘を差しやすいと思ったけれど、スキャンダル防止でそこは自重した。いっそ元の姿同士だったらステイルもアーサーも婚約者候補同士だしそれくらい許されたかもなのにとこっそり思う。そういえば同じ傘に入るってステイルやティアラともまだしていないかも。


「ジャックこそ雨粒が頭にかかったままじゃない。……フィリップもこんなに手が冷えてるわ」

校舎に入った途端、傘を閉じて自分よりも私のことばかり心配してくれる二人にこちらからも手を伸ばす。

アーサーは何度も私に傘を傾けていた所為で頭に雨粒が光っているし、肩なんて片方びっしゃりだ。私は靴とスカートの裾ぐらいだけど、アーサーは身体を冷やしかねない。

ハンカチを取り出して取り敢えず払うようにアーサーの頭頂部から拭く。「あっいえ!こンぐらい……‼︎」と声を上げて半歩引いたアーサーだけれど、ハタハタとはたくようにハンカチを掛ければ唇を絞って受け入れてくれた。

頭の滴がはたき落とした拍子に頬に落ちたから最後に頬の滴もそっと拭き取る。目を見開いたまま顔が紅潮しているアーサーに、やっぱり風邪は引かなくても一時的な体調不良はあるんじゃないかと心配になる。……それとも単純に子ども扱いみたいで恥ずかしいだけか。


そのまま肩も拭こうと思ったけれど、その前に私の服が湿ってないか軽く摩って確認したステイルの手が布越しでもわかるくらい冷えてたのが気になった。

アーサーにハンカチを渡し、確かめるべくステイルの手を取る。まだ右手だけなのに私のどちらの手よりずっとひんやりしていた。

ぎゅっと挟むように包んだら、途端にステイルの肩が大きく上下した。アーサーと同じように唇を絞った後包まれた手を凝視しだす。私の手と比べた温度差にびっくりしたのだろう。

両手で挟み続ければ、あっという間にステイルの手も急上昇で温まった。さらに反対の手をまた両手で包んだ時にはいつの間にかステイルまで眼鏡が曇っていた。

二人揃って眼鏡が白いと、なんどか兄弟みたいだなと少し面白くなる。それともわりとすぐ温めたつもりなのに実際は時間がかかったのか。

そう思うとのんびりしてもいられず包んだステイルの手に、ほっと息を掛ける。はぁー……と熱が篭るように息を吐き掛ければ、みるみる内にステイルも熱くなった。無事彼の温度が取り戻せたのに安堵して、すると今度はアーサーの手の方も心配になる。

私が確かめようと手を伸ばしたら、何をするつもりかわかったらしいアーサーが「ッ大丈夫です‼︎」と万歳の体勢で断った。……確かに見上げれば、顔色まで見事に熱の塊だ。昔からアーサーは熱量が高いから納得する。


直後にありがとうございましたとハンカチだけを恭しく返してくれたアーサーに促され、私達はそのまま校舎に向かう。傘立てもないし、前世みたいに置きっ放しなんてしたら混ざるか盗まれるかがオチだから傘を持って来た子は教室まで持参だ。その所為で室内に入っても足元はわりと湿って滑りやすそうだった。

気をつけて下さいと三本の傘を持ったアーサーが転んでも支えられるように背後に立ってくれる中、私は片方を手すりに置き反対の手をステイルに取っ……て貰おうとして逆に引っ込められた。


「っ〜す、みません‼︎失礼しました‼︎」

振り返れば、思わずといった表情で手を引っ込めたステイルが慌てて再び私に手を貸してくれた。

ついいつも段差が危うい時は手を貸してくれるから伸びたけど、……よく考えれば身分を隠してる中じゃ不自然だったかもしりれない。今ステイルは私の補佐でも弟でもなくただの庶民の親戚なのだから。

それでもつい手を貸して貰えると思ってしまった私が甘かった。


「いえ、私こそごめんなさい。大丈夫、ちゃんと自分で上がれるわ」

「ッいえ!水で滑って危ないので。俺かジャックの手はどうか取って下さい」

そう言って一度離そうとした手をしっかり掴み直してくれる。

甘えたが抜けない私に構わず手を貸してくれるステイルは相変わらず優しいなと胸が温かくなる。既に大勢の生徒の靴で湿った足元に気を付けながら、今度こそステイルの手を取り登る。

二階、三階と上がれば見慣れた生徒と廊下がそこにあった。おはようと挨拶を交わし合いながら先ずは教室に向かう。荷物を置いたら早速また他のクラスを覗きにいきたい。……もしくは。



「おっせーよジャンヌ」



ブラブラと。いつもはアーサーが座るその席で、一人の少年が足を交互に揺らしながらこちらを睨んでいた。

ネイトだ。

容量範囲内に詰まったリュックをどっさりと私がいつも座る席に置いたまま、机に頬をくっつけて顔を向ける彼は既に待ち惚けの様子だった。

つんつんの金髪ごと半分つぶれた顔のまま狐色の目を私に向ける彼に、私も小さく手を振って歩み寄る。


「おはよう、ネイト。今日はどうしたのかしら?」

「理由なかったら来ちゃだめなのかよ。…………あるけど」

むっと唇を尖らせたネイトが、そう言いながらリュックからガサゴソと手だけを入れて探り出した。

リュックの置き場がなくなったアーサーが代わりにステイルの席に置く中、まさかここでまた発明のお披露目かしらと私からも前のめる。

今までの見事な発明を思い出すと、期待半分心配半分だ。今ここで人前で出して良いものだろうか。

べったり座り込むネイトを前に、そこでふと彼まで髪が濡れていることに気付く。リュックは綺麗に無事なところを見ると、自分よりも荷物を優先したのだろう。なんとも彼らしい。


荷物を置いたアーサーそしてステイルも気になるようにネイトを囲む中、彼はやっとお目当てが見つかったようにリュックから手を引いた。

眉間にぐっと皺が入ったまま「これ」と取り出すそれに、……いろいろ理解した。


「全然わかんねーし。ジャンヌなら俺より年上だしわかるだろ?必修だけでも教えてくれよ」

どっさりと手袋の小さな手で鷲掴んだのは、数冊のノートと本だ。分厚い本は恐らく家のものだろうか。我が学校のものと比べると表紙からして古びている。

「父ちゃんから貰った」と言う本を手に取れば、見覚えのある題目だった。確か中等部一年の読解問題で題材にされている本だ。

ステイルがバラバラと確認したノートにはそれぞれ表紙に手書きで科目名が書かれている。そして中を開けば殆ど箇条書き以外真っ白だ。


「毎日授業進むし……他の奴らはなんでアレわかるんだよ馬鹿じゃねーの……」

「当然っすよ。他の人はアンタがさぼっている間も真面目に授業受けてたんすから」

ちょっと手厳しいアーサーの正論に、ゔ〜とそのまま唸り出すネイトになんだか気の毒と思いながらも笑ってしまう。

本当に真面目に授業へ向き合っている。そう思うと手伝いたくなってしまう。

どうかしら、と視線で二人にも意見を尋ねてみるとアーサーの苦笑いにステイルからは肩を竦められた。私に合わせる、という彼らの意思表示に私もここは甘えさせてもらうことにする。


「今日は雨で生徒も登校自体遅れているでしょうし、二人とも良いかしら……?」

「みーろーよー」

本当はちょっと別に行きたい場所もあったのだけれど。

でも、どうせ今日は朝に行っても生徒がいつもより遅れて登校してくる可能性が高い。どうせ確認するなら晴れている日の方が生徒も揃っているだろう。

わざわざ勉強に意欲的なネイトを置いていくわけにもいかずそう言えば、ネイトから伸びた声で留めを受けた。

はいはい、と笑いまじりに言葉を返しながら私達は席に着く。ネイトの荷物をアーサーの机に、私の席にネイトのノートと本を置いての勉強だ。

どこがわからない?との問いに「全部!」と勢いよく答える彼に、私は先ずは彼のノートを開き直した。その日の授業内容を一応は聞き取れた分を雑に記載した箇条書きを手がかりに、基本から教えていくことにする。


「ネイト。言っておきますが、今日は特別です。基本的に一限前は僕らもジャンヌも用事があります。次からは一限後か昼休みにお願いします」

「一限後は白い奴らいたし、昼休みはデカイのいるからやだ。デカイのは絶対俺のこと嫌いだし」

ファーナム兄弟とパウエルだ。

このままだと本当に来週も平然とした顔で教室に来そうだなと不安が過りながら思わず顔が苦くなる。


ファーナム兄弟については初対面はやっぱり苦手なのかなと思うけど、パウエルに対してはまぁなかなかハードだったものね。彼自身は以前にもうネイトのことは怒ってないし寧ろ友好的になりたいと話していたのだけれど、やっぱりネイト本人は一度怒られたのを引きずっている。

私から「そんなことないわよ」と笑ってみせるけど、ネイトは黙りこくったままジロッと疑りの眼差しを私に突きつけてきた。

もう今はネイトも勉強に意欲的だし、パウエルもわかってくれているのになんだかお互い掛け違ってしまいそうで勿体ない。だからといって交友関係に無理強いも違う気がするし、今は一つ一つ授業内容をネイトに解説することにする。

せめてパウエルが彼をもう悪く思っていないことだけでもわかってもらえる機会をいつか作れればなと、頭の隅で考える。


「……それに、俺が一限前に居る方がジャンヌだって助かるだろ」


「え?」

ぼそっ、と独り言のように呟いたネイトの言葉に私はペンを止めて聞き返す。

アーサーとステイルも気になるように両眉を上げる中、ネイトは頰杖をつきながらタコの唇でまた続けた。


「この前いた偉そうな貴族……また出たら俺が喧嘩できるし、あいつも俺が居たら絶対嫌がるし、俺なら上手く逃げれるし……」

いじける様な声でそう言いながら、リュックの中から飛び出した傘を目で示した。

どうやらレイが現れたら今度は傘で逃げるつもりらしい。それはそれで靴と同じく特殊能力使用なのだからバレたら怒られるのだけれど、……それより今はネイトに気持ちが嬉しい。

自分が居たらレイを、という言葉にきっと彼なりに私を助けようとしてくれたのかなと思う。目だけをステイルとアーサーと合わせれば、二人も察しがついたように言葉にせず小さく笑っていた。


「ありがとう、ネイト。すごく心強いわ」

もしかして勉強だけでなく、そっちで気を遣ってくれたのもあるのかな。

擽ったくなって、彼なりの優しさへの感謝も込めてゴーグルのかかった頭を撫でる。雨のせいでつんつん髪が僅かに柔らかくなった頭を乱れないように撫でれば、指の間に水滴がついた。

レイに喧嘩を売ったのも元はと言えば私を庇ってくれたのもあるし、やっぱり根は優しい子だなと思う。


フフッと思わず音に出して笑いながら撫でれば、一度だけプイッと顔だけ背けられたけれど手は退けられなかった。

それどころか頭に乗ったまま「べっ、べっつにあんな奴俺なら余裕だし⁈怖くもねぇし‼︎‼︎」と半分裏返った声を上げ出した。舌をまわすと同時に照れだして耳まで真っ赤になるのが可愛いらしい。ステイルとアーサーも微笑ましそうだ。

そのままペンごと握り拳を作って強そうに胸を前に張って見せてくれるネイトだけど、対貴族のレイについてはもう問題ないとここは伝えておこうと言葉を決める。


「だけどね、もうお陰で大丈夫よネイト。実はね、カラム隊長から聞いたのだけれど」

先ずは一番彼にとって身近な騎士であるカラム隊長の名前を出せば、わかりやすくピクリと肩が跳ねた。

今後もネイトが心配してくれることを考えても、もう不安因子はないことを伝えるべきだろう。だってレイは




「レイはもう」






……




ざわり、と。

その人物に周囲の誰もが口を開け、振り返る。あれはと言葉を漏らし、殆どは飲み込みながら彼を見る。

雨で足元が濡れた彼は、先ずはと迷いなく階段を登り続け、そして止まった。傘も荷物も抱えたまま、既に告げられていたそこへと歩き出す。

進めば進むほど誰もが道を開き端へと寄る中で、彼は堂々と真ん中を歩み続けた。そして、……とうとう一つの扉に手をかける。



「ここか」



ガチャッと、一度閉ざされていた扉を躊躇なく開いた彼に誰もが息を飲み振り返った。

目立つ服に目立つ頭と目立つ顔。一目で自分達と風貌が違い過ぎる彼に、誰もが目を疑う。

しかしズカズカと我が物顔で入ってきた青年は、一番背後の空き席を選ぶと当然のようにそこへ腰掛けた。周囲の誰もが言葉を無くし硬直して凝視する中で彼だけが悠々と動き、傘を端に立て掛ける。机の上に置いた鞄から本を取り出し、開いた。

無言で黙々と読書に耽りだす彼に、水を打っていた教室で一人の少女が確認するように目の前の友人へと囁きかけた。




「セフェク。……あの人、どう見ても貴族だよね……?」




中等部三年レイ・カレン。

馬車もなく徒歩と傘で登校した貴族の青年は、今までと同じように教室で本を読み始めた。


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