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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
頤使少女と融和

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Ⅱ318.頤使少女は披露し、


「それではジャンヌ。……本当に宜しいのですね?」


ええ、いってらっしゃい。とプライドはいつものように選択授業へ向かっていくステイルとアーサーを見送った。

探るように尋ねてきたステイルと同じように、アーサーも表情が曇っている。それでも彼女の意思を尊重するべく二人は教室を後にした。一限終了から少し後を引き摺る会話をしてしまったことを反省しながらも、プライドはその場を動かなかった。

二人の背中が廊下へ消えていってから、ふぅ……と短い息を吐く。意識的に力を抜くように一度目を閉じ深呼吸をすれば、先ほどよりも視界が開いた気がした。

ジャンヌ、と透明感のある声で呼びかけられ、顔を上げれば予想通りの人物が春風のようなさわやかな笑みで歩み寄ってくる。胡桃色の髪を小さく跳ねさせた少女がプライドの向かい席に腰を下ろした。

そして今度は扉の方から同じく彼女を呼ぶ声が飛び込んだ。


「ジャンヌ!おまたせっ‼︎」

「……今日は、あの仮面の人いないんだね」

ディオス、クロイと彼女達がそれぞれ呼びながら笑い掛ける。

この数日で散々やらかしているレイへの警戒も残っている二人に、思わず笑顔が苦くなる。特にディオスはクロイの言葉を聞いた途端に分かりやすく肩を跳ねさせていた。

あはは……と枯れた笑いを零しながら、彼らが定位置に着席するのをプライドは見届ける。それぞれノートとペンを広げながら勉強会の準備をする流れは今では自然な動作だった。


「!あ、そうそうディオス。これ、まだ見せてなかったなと思って」

早々に話題を切り替えるべくプライドが明るい声で鞄に手を回す。

いつもはペンくらいしか出さない彼女が鞄から何を出そうとするのかと、双子は同時に首を傾けた。更にアムレットも気になるように席の向かい側から顎を上げて覗いてしまう。なになに?とまるで手品でも見るかのような胸持ちで待てば、彼女が取り出したのは


「これ!前に話した刺繍よ。見せるのが遅れちゃってごめんなさいね」


ピラッと両手で広げて見せたそのハンカチに、わっとディオスの目が輝いた。

少し照れ笑いを浮かべながら広げたそれは、補習授業の際にネルの手腕により叶った刺繍のハンカチだった。アムレットもそれを見れば納得したように頷きながら「本当に上手よね!」とディオス達に声をかけた。彼女自身は見るのも二度目だが、それでも友人であるジャンヌの力作なら何度見ても飽きない。

ディオスもジャンヌが本当に見せてくれた喜びに声を弾ませた。


「わっ!ちゃんと読める!やっぱりジャンヌ裁縫もできるんだ!」

「……それは良いけど、なんで自分の名前と一緒にジャックとフィリップも入れてるの」

続けるクロイの平坦な声に思わずプライドも肩を竦めて返す。

だがすぐに「良いでしょ?」と胸を張って見せればクロイも息を吐きながら頷いた。「良いんじゃない?」とどこか投げやりにも聞こえる声色ではあったが、それ以上は重箱の隅を突こうとも思わない。

十四歳にもなって嬉しそうにハンカチを広げてみせるジャンヌにも、見せてもらえたことに大はしゃぎして絶賛するディオスにも、そして自分のことのように嬉しそうにするアムレットにも、これ以上クロイは水を差す気にもなれなかった。まるで自分が一番年長者にでもなった気分で腕を組み、改めての事実を言葉にする。


「ジャンヌって本当にあの二人好きだよね」

ハンカチの刺繍にわざわざジャックとフィリップの名前を自分の名と一緒に連ねるなど、家族かよぽど好きな相手でなければなかなかやることではない。

クロイのクラスでも女子同士で仲良し同士が名前を揃えたり、家族の名前や、そして好きな男子の名前をこっそり入れるなど工夫を凝らしていたことは知っている。だが、どうどうと自分と一緒に家族以外の異性の名前を入れてみせる女子生徒などクロイが知る限りジャンヌくらいのものだった。

クロイの言葉に目をパチリと一度だけ瞬きをしたプライドはそこで笑んだ。ふふっ、と口元を隠しながら笑えばその時だけは大人の眼差しに目が緩む。


「ええ、大好きよ。子どもの頃からずっと一緒の二人だもの」

隠すことなく、余裕の笑みで返されてしまいクロイの唇が少しだけ尖った。

更にはジャンヌの大人びた笑みを見た瞬間、顔もはっきり知らない筈の王女を連想させられる。自分の頭の中がそう判断した瞬間、思考を消すようにそのまま顔ごとジャンヌから目を逸らした。

それに反しディオスは嬉しそうなプライドの笑みにニコニコと笑ってしまう。自分もきっと裁縫の授業があればクロイとヘレネの名前を書くのだろうなと思えば、ジャンヌと発想が一緒だと思う。そして今なら、そこにジャンヌやセドリックの名前も並べたいとも考える。

どちらにせよ、ディオスにとって見事にジャンヌらしい刺繍に改めて素敵だねとそう言おうとしたその時。


「いいなぁ…………」


ぽそり、と小さな呟きが先に落ちた。

ちょうど全員が口を閉じていた間だった為、独り言で済んだ呟きは綺麗に耳に届いてしまった。プライドも目を丸くして声の主へと目を向ければ、言った本人だけが視線も浮いたまま今だけは心ここにあらずの表情を浮かべていた。


「?アムレット⁇」

呟きの落とし主にプライドが声を掛ける。

更には彼女の隣に座っていたディオスも首を捻って覗き込んだ。目はジャンヌのハンカチへと向いている筈なのに、焦点がどこか合っていない。クロイも目だけで睨むようにアムレットを見れば、先程の満面の笑みからどこか憂いを帯びたような表情の彼女が両肘をついていた。

呆けた彼女はプライドからの細い呼びかけも耳を通っていない。


「?アムレットは刺繍上手くいかなかったの⁇」

ディオスの淀みない疑問とはっきりとした声に、今度こそアムレットも気がついた。

はっ‼︎と息を飲み、まるでうたた寝から目を覚ましたかのように瞬きを繰り返す。目の前でハンカチを手に掲げているジャンヌ、そしてディオスとクロイへと首を動かしてから「えっ、あ!うん‼︎」とあたふたとした口調で切り返す。

「わっ、私はまだちょっぴり苦手で!ネル先生のお陰で見れるようにはなったけど、ジャンヌみたいに上手くできなかったの!だっ、だから恥ずかしくて二人にも見せられないなぁって!」


……そうだったかしら⁇


胸の前で両手を振る彼女の顔が、ぽっぽと薄く紅潮していくのを眺めながらプライドは頭の中だけで首を捻る。

少なくとも逆チートで裁縫が壊滅的な自分よりもただ苦手なだけのアムレットの方が救いもあった。その上で自分と同じようにネルの手解きを受けた彼女なら、間違いなく良い仕上がりだったと思う。

しかし、思い出そうとしてみれば自分はアムレットの刺繍をちゃんとは見ていないことに気付く。ネルが上手上手と最初に声を掛けていた時点では見守っていたが、ただでさえ裁縫に苦手意識がある彼女が自分にじっと見られたらやりにくいだろうと思った。だが、少なくともアムレットが自分の名前を刺繍していた時は上手だったと思う。

しかし目の前ではアムレットにディオスとクロイが「頑張ってやったなら恥ずかしがることなんてないよ!」「裁縫の先生ってそういう名前なんだ」と追及することなく返しているところである。

アムレットの言葉を純粋に信じたディオスと違いクロイは当然ながら怪しんでいるが、あげ足を取ろうとは思わない。下手な嘘にも、それへの流し方もディオスで充分に慣れている。……ただし、わざわざディオスのおねだりから彼女を助けようともしない。

そしてプライドはここで彼女を追い込むようなことはしたくないと、一度唇を意識的に絞る。二秒以上の間を作り、それからアムレットと呼吸を合わせて静かな声を形成した。


「今日はどこから復習しましょうか?」

私から脱線させちゃってごめんなさい、と謝りながら手の中で折り畳んだハンカチを鞄にしまう。

直後には「!あっ、私実は昨日の四限をちょっと確認したくって!」とジャンヌからの助け舟に心から感謝しながらアムレットも飛び乗った。

彼女にしては珍しく大きな声ではあったが、ディオスもクロイも気にしなかった。改めて自分達が持ってきたノートを広げ合いながら、いつもの流れで勉強会を始め出す。

既に三人だけでの教え合いにも慣れ始めてきた彼らは自然な流れでお互いの理解を深め合う。プライドも、最初は自分主導だった勉強会が殆ど見守るだけで済んでいることに、彼らの成長の早さを感じた。

音に出ないようにほっと息を吐き、彼らを見守っていると……不意にアムレットの上目が向けられた。


予想していなかった彼女からの眼差しに肩が揺れてしまいながら「どうしたの?」と尋ねれば彼女からは答えではなく〝質問〟が返された。

その瞬間、ディオスとクロイまでも同時にプライドへ顔を上げる。

そうなの?と声まで重なって尋ねてくる双子にプライドも嘘はつけず苦笑で返した。

頭ではステイル達が去っていく前のことを思い出す。目の前で眉を寄せるアムレットに、流石主人公と称賛の言葉を飲みこんでから言葉を返した。

一限に入る前、アムレットが言いそびれていたのはこれだったのだなと理解する。


「ジャンヌ、因みにお昼休みは何か用事とかは……?」

「いつも通りパウエルと四人で約束しているだけよ。……あっ、あとネル先生にちょっと渡すものがあるくらい」


渡す物……?と首を傾げるアムレットにプライドは、一言答える。別段そのこと自体は隠すことでもない。

どうしてそんなことをとファーナム兄弟が同時に尋ねれば、それだけは「ちょっとね」と小さく笑って返した。しかしその笑みに対し、アムレットの表情は薄暗い。


「あの、……もし良かったら私が渡しておくよ?今日、ちょうど私もネル先生と約束があるから」

伝言もあったら伝えて置くわと言ってくれるアムレットに、プライドも「本当?」と抑揚が上がる。

頼むのが申し訳ないとも思うが、それ以上についでであればお願いしようかしらと考える。アムレットも用事があるのなら、自分が一緒にいけばその分ネルの時間もアムレットの用事の時間も削ってしまうことになるのだから。渡して伝言だけなら、アムレットに頼んだ方が確実に長くもならない。


じゃあお願いできるかしら……、とプライドは恐る恐る鞄から一枚の封筒を取り出した。庶民らしい素朴な封筒に閉じられたそれをアムレットは笑顔で受け取った。

無くさないようにノートの間に挟む彼女とプライドとのやり取りにクロイは気付けば頬杖を付いてしまう。別に自分も頼まれればついでじゃなくてもやらないこともないのに、と考えても仕方の無い文句を頭の隅で並べてしまう。

今日は昼休みもいつもの予定があるが、明日明後日は何もない。そして今日だって昼休み以外ならちょっと足を伸ばすくらいはやぶさかでもなかった。

しかし、そこで口に出してむくれるほどクロイは子どもでもない。

そういえばさ、と気持ちを切り替えるように話題を変える。自分でもつい口についてしまったかのように出た言葉で、クロイは思いついたままに教室に入って来てからずっと残っていた疑問を彼女達に投げかけた。


「あの仮面の人。今日はまだジャンヌ達も会ってないの?それとも朝とかに来た?」


Ⅱ270

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― 新着の感想 ―
[良い点] クロイのツンデレな感じ好きです! ジャンヌに自分達の名前を刺繍してもらえなくてちょっと拗ねたかもですね。 [気になる点] プライドはどうしたのかな? レイの判決の事気になってしょうがないと…
[良い点] あー クロイかわいい…勉強会の回を心待ちにしてる自分がいます [一言] ジャンヌどうしたんだろ、風邪?
2022/04/27 08:05 退会済み
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