用意され、
おおおおおおぉぉぉぉ……と。
クリスマス当日。朝からプライドとティアラ、そしてステイルは感嘆の声を上げることになった。
「すごい……。本当に見るだけじゃ見分けもつかないわね……」
「良いと思います。俺達は一番最後に選ぶのですよね」
「どれが残ってもどきどきしちゃいますっ‼︎」
両手を合わせて自分でも目が丸くなるのがわかるプライドに、ステイルも眼鏡の黒縁を押さえた。ティアラが今から待ちきれないようにぴょんぴょん跳ねる。
今日この日の為に用意した、客間の一つ。
ソファーもテーブルの備え付けの家具全てが今は壁の端に寄せられ、中央に合計十二個の箱が等間隔に並んでいる。協力者であるマリーが用意した、どれもが全く同じ形大きさの箱だ。
子ども一人が余裕で入れる大きな箱の中には、今回の参加者が各自用意したプレゼントが入っている。全員がその箱に見合った大きさ品を用意したわけではないが、一番大きな品に全ての箱を合わせた結果だった。
今日までの間各自用意できた者からこの部屋へ運び控えている侍女と従者に預ける形の為、主催者のプライド達すらも誰がどんなプレゼントかはわからない。自分達と会う前に客間へ寄って預けた者ばかりだ。預かったプレゼントを侍女が順不同で箱にいれ、つい昨日とうとう全員分のプレゼントが揃った。
プライドとティアラ、ステイルは主催者の為今回は一番最後に余った三つを選ぶ為今はまだ選べない。
がんばって見事にプレゼント交換準備をしてくれた侍女達にプライド達から感謝を伝えれば、全員が笑顔で返した。今日この日の為に客間専属で控えた侍女もいる。専属侍女として彼女らと共に協力し合ったロッテが「とても楽しめました」と言えば、仕掛け人側も楽しそうだなとプライドも思う。彼女達は彼女達で全員がどんな贈り物を用意したのか大体を把握しているのだから。
「じゃあ早速アーサー、エリック副隊長。どうぞ好きなのを選んで」
自分のが当たったら中身を出す前に選び直して良いから。と、そう続けるプライドに午前の近衛任を任せられたアーサーとエリックは大きく肩を上下した。
いえ、自分達は後でと、僅かに背を喉を反らして手を横に振る。プレゼント交換自体はアランとカラムに聞いてから差出人不明の上限も決まっているのならと承諾した二人だが、王族や上官を置いてよりによって自分達が最初に選ぶなどできない。
しかしプライドやティアラからすれば、早くどんな贈り物が用意されたか推理することも含めて楽しみたい為むしろ開けて欲しい。兄弟姉妹同士すら、お互いが何を用意したかは知らないままこの日を迎えた為余計にだ。
近衛騎士二人に断られ、がっかりと目に見えて肩を落とし落胆を隠せない姉妹にステイルが腕を組む。
「アーサー、お前だけでも良いから選べ。姉君もティアラも昨日からとっくに我慢の限界だ」
「ッいや近衛終わった後で良いって‼︎どうせずっと持って歩けねぇだろォが」
「安心しろ、俺が一瞬でお前の部屋に運んでやる」
いつものように運び役を買って出るステイルに、アーサーも唇を結ぶ。
まさか一番最初を俺が、とは思うが確かにどれがどれかもわからない。ステイルが示す通りプライドとティアラをちらりと見やれば、二人も期待いっぱいの眼差しに熱まで帯びさせている。いっそ断る方が悪い気がしてしまう熱視線に、アーサーは口の中を飲み込むと一度エリックを見た。「先に良いンすか……?」と、本当にエリックも先に選ばないのか確かめた上で、第一投の覚悟を決める。
「……えっと、じゃあ……あれで」
重さを確認するのも禁止、叩いてみるのも隙間を覗こうと試みるのも禁止というルールの元。アーサーは三列に並べられた十二個の内、一番後ろ端の箱を指差した。
どうせ近づいてもわからないし探るのも反則以上、一番離れた隅を選ぶ。どうぞ、とプライドとティアラが声を合わせる中でアーサーはゆっくりとその足をそろりそろりと動かした。心配がないとわかっていても他の箱にぶつかってしまわないか、蹴ってしまわないかと慎重に歩き歩み寄る。
プライド達も一緒に近付く中、二歩手前で止まった彼女達を置いてアーサーが自ら箱を開けた。
ぱかりと開かれたそれに、中身が自分のものではないことを最初に確認してから、腕を伸ばし中身を取り出す。大箱の中にはまた別の包装された箱が収められていた。
両手で持ったそれを、最初にプライド達に見えるように見せたところで早速中身を確かめる。端に寄せられたテーブルの上に乗せ、クリスマスらしい包装を丁寧取り払えばアーサーも大きく目を開いた。
「マフラーと、……酒っすね。あとこっちは焼き菓子とチーズみたいです」
美味そう、と。手に取りながらアーサーは僅かに顔が綻んだ。自分が用意した物に自信がない為もし分不相応にとんでもない品が当たってしまったらと考えたが、思ったよりも遥かに嬉しいものだった。
最初に目についたマフラーはクリスマスらしい落ち着いた赤色で、男性でも女性でも違和感なく使える。しかも手に取れば、思わず声が漏れるほど良い手触りだ。軽く両手の平にとって見るだけでも温かい。かなり上等なものだろうなと思えば、触ってみて良いかと確認をとったティアラやプライド、ステイルまでもが「良いマフラー」だと褒めてくれる。
更に他は食品なのもありがたい。
「すげぇ美味そうです。大事に食べさせてもらいます」
「……そうね!このお菓子もすごく美味しいから、悪くなる前に絶対食べた方が良いわ」
「……ワインの方は保存方法に気を付けろ。今夜明日に飲むのも良い」
「このチーズ!私も好きな……ッもご」
途中、ステイルとプライドに同時にティアラが口を押さえられた。
さっきまで自分の引いたプレゼントを褒めてくれたプライドとステイルが、なにも悪いことを言ってないのにティアラを口留めしたことにアーサーは首を捻る。顔を見れば、何故か二人揃ってなにかを隠しているような違和感のある顔だ。もしかしてティアラからの品なのかなと思いながら、取り合えずは全て綺麗に包装に包み直した。本人から自分の用意したと言うのは有りだと聞いたのに何故かなと疑問は残った直後、……手が止まる。
「…………もしかして、これ結構高いやつっすか……?」
ティアラが用意したのなら、と。そこで思考が止まったアーサーは顔色を変えてもう一度ワインから菓子とチーズを見直す。
どれも自分が普段口にしたことがない店の品ばかりだ。アーサー自身、小料理屋で食品には慣れているがどれも初めて目にする。チーズも菓子もそれ自体は知っているものだから気にしなかったが、まさかとんでもない高級品なんじゃないかと手のひらが湿る。
見事アーサーがニヤピンを獲得したことに、プライドとステイルも心の中だけで「しまった」と叫ぶ。自分達の反応が原因でバレたのだろうとそれぞれ察しながら、そうでなければちゃんとバレないような品だったのにと思う。
「だ、大丈夫よアーサー。ちゃんと決めていた上限値段は切っていない筈だから」
「それって上限ギリギリってことっすか?!ッあれ⁈もしかしてこれって上限近くまでの値段じゃないと駄目だったとか……」
「そんなわけないだろう。そうだったら下限も最初から決めている」
「あっ、あのごめんなさい私がつい余計なこと言っちゃって……⁈」
高級品だった事実に慌て出すアーサーに、プライドもステイルも全力でフォローに入る。更に、自分が発端だと気付いたティアラもあわあわと唇を震わせた。
アーサーが引いたチーズも、そして焼き菓子も酒も全て、王族であるプライド達〝に〟見覚えのある品だった。ざっと目利きした分ではきっかり上限値段に合わせたのだろうとプライドもステイルも読めたが、もともと王族も参加する上限値段はそれなりの額に設定している。
しかもこの品を用意した主は、あからさまな高級品ではなくきちんとどれも見た目は派手ではないが〝実は質の良い品〟で統一している。この食品を〝見慣れている立場〟じゃなければ気付かず気負う必要もなく受け取れた品だ。事実、アーサーは勿論のこと隣にいたエリックも「良さそうな品」としか思わなかった。
上等なワインも、その酒の味に合わせたのだろうチーズも。そして可愛らしい形の焼き菓子も、どれもクリスマスの夜を楽しむのにぴったりの取り合わせだ。受け取った側が気負わず美味しい夜を過ごせる気遣いの固まりを自分達が台無しにしてしまったと、王族三人が等しく額まで湿った。
「まぁ、……当たりを引いたってことで良いんじゃないか?アーサーの日頃の行いってことで」
ははは、と半分笑いながらエリックが宥めるようにアーサーの肩へ手を置く。
〝日頃の行い〟というアーサーにこそ仕える必殺発言に、次の瞬間プライド達も全力で乗っかった。そうね!そうですっ‼︎確かに、と。とにかく送り主の気遣いとアーサーのクリスマスを台無しにしないように全肯定を口にする三人に、アーサーもやっと耳を傾けた。
自分に日頃の行いが良いかどうかなどわからないが、当たりをと言えば確かにそうかもしれない。更にステイルから「どうせ王族が五人は含まれているんだ諦めろ」と強めの口調で言われれば、少し腑に落ちた。
「どれもすごく美味しいものよ。食べたら感想聞かせてね」
「は、い……。……すげぇ、大事に食べます」
気持ちを取り直すようにプライドが手を合わせて笑いかければ、大きく頷いて飲み込む。
取り敢えず自分が貰って嬉しいものであるのは変わらないと、改めて包装しなおした。これ以上背中が冷たくなる前に、誰の品かは敢えて考えないようにする。プライドからでも他の誰からでも、今はこんな良い品という事実だけで頭がいっぱいだった。
ステイルに瞬間移動され、取り合えず獲得品の安全を確保したアーサーはそのままエリックと共にプライド達の朝食へと向かった。