〈書籍4巻重版出来・感謝話〉張り詰め王女は提案し、
2021/9/2に出版して頂いた書籍4巻が重版して頂けることとなりました……!
感謝を込め、特別話を急ぎ書き下ろさせて頂きました。少しでも楽しんで頂いて感謝の気持ちが伝われば幸いです。
IFストーリー。
〝もし、第二部最中がクリスマスだったら〟
今回は諸事情により、今までとは少し異なるIFで書かせて頂きます。
「なら、交換会なんてどうかしら?」
それを、最初に言い出したのは私だった。
正確にはティアラの提案に私が案を提示したと言った方が良いだろうか。
我がフリージア王国には……というよりも、この世界には一応共通概念としてクリスマスというものはある。キミヒカにもシリーズによってはクリスマスというイベントもあったからその所為だろう。
ただし私の前世と同じ何方様の誕生日とか、実在した心優しいお爺様が恵まれない子ども達にプレゼントを贈って回ったのが発祥ですということはない。
一般的に「家族や恋人など大切な人と過ごす日」だ。
「良い子にしていたら空飛ぶトナカイにソリを引かせた赤い服をきたサンタクロースというお爺さんが子どもに贈り物を届けてくれる」という超絶有名な逸話の元、子どもに大人気な日でもある。
一応定説としては、前者の「家族恋人イベント」日へ、大陸でどの国にも伝承され有名になった「サンタクロースさんの逸話」が乗っかったというのが有力らしい。だからといって我が国ではサンタの仮装したイベント商売とかはこれといってないし、市場や店にサンタやトナカイ系統商品が並びやすくなるくらいだろうか。
我がフリージア王国は信仰も深くなければ、サンタクロースさんとお祭りしましょうと国で大々的に命じることもない。
基本的に本来の「恋人・家族と過ごしましょう」を推奨して、大人が子どもの夢を叶えてサンタ風にプレゼントを贈ってあげているという、……まぁまぁ日本の乙女ゲームだからこその私の前世日本と同じようなクリスマスの過ごし方だ。
城でも大々的なクリスマスパーティーとかは特に開かず、毎年私も家族で食事会を行うくらいだ。年明けパーティーの方が盛大で来賓も呼ぶしずっと行事らしい感覚がある。寧ろ城で住む私達には装飾が煌びやかになる以外はこれといって地味な印象すらある。
子どもの頃はプレゼントが貰えて嬉しかったけれど、今はもうこの年でとっくに成人しちゃったからそういうのも今はない。今年のクリスマスケーキはどんなのかしらとわくわくするくらい。……だったのだけれども。
『なるほど、フリージアではそうなのか』
我が国へと移住したセドリック。
クリスマスが近くなって我が城全体がクリスマスらしい装飾が増えたところで、彼が教えてくれたのがきっかけだった。
我が国についての文化は図書館の本で勉強したらしいけれど、それとは別に最近はどういう過ごし方なのか確認も含めて雑談の中で尋ねてくれた。話に聞くと、同じ大陸ではあっても国が違うハナズオとフリージアでは少しクリスマスの過ごし方も違うらしい。
更にはもともと別の国だったサーシス王国とチャイネンシス王国も元来の過ごし方が異なるらしく、セドリックは我が国で三種類目のクリスマスを過ごすことになっていた。
信仰深いチャイネンシス王国では、世界中で聖なる夜とされたクリスマスを信仰深い夜として一年で最も国を挙げて盛大に祈り、大規模な礼拝を行って全国民が一丸となって信仰を新たにする厳かな日。その為、ヨアン国王も含めチャイネンシス王国の歴代国王が戴冠式を行うのも基本この期間らしい。サンタさんの逸話は知れ渡っているけれど、主役は神様か新生国王様のどちらかだ。
そしてサーシス王国は我が国と同じくサンタの伝承はあるけれど、フリージアとは比べ物にならないほど国を挙げて〝サンタクロース〟の伝承を前出しにプレゼントを子どもも家族も恋人も誰でも贈り合おうのどんちゃん騒ぎ。お金のある王侯貴族が積極的に民に施しや贈り物にご馳走もを配布するから、本当に国中がお祭り状態らしい。
チャイネンシス王国との温度差。というか、……もともとは仲が良くなかったチャイネンシス王国への当てつけの部分もあったのかなぁと邪推してしまう。今は仲良しハナズオ連合王国だけれど、こういうの聞くと本当にもとは相いれない国同士だったのだと思う。お隣さんが清い心に祈ってる時に国中で大騒ぎとか、本当に嫌がらせ凄まじい。
ハナズオ連合王国となってからは少しずつクリスマスの過ごし方もお互いに民同士でも折衷してきて、現在のハナズオ連合王国ではチャイネンシス王国の様式は崩さないまでも、プラスで両国とも家族や恋人を含む親しい相手に贈り物をする日となっているらしい。
今ではサーシスでもクリスマスになると里帰りとか以外でもチャイネンシス王国の礼拝へと参列しに行く人もいれば、チャイネンシス王国でも礼拝の後には大事な人に贈り物をするという習慣は広まっているとか。
特にランス国王が王座についてからは、クリスマスには絶対チャイネンシス王国に迷惑がかかるような騒ぎはしないよいに禁じてくれたから、チャイネンシス王国もクリスマスはサーシスの影響なく静かなクリスマスを過ごせているらしい。本当ランス国王偉大。
それをセドリックから聞いたのは今日の午後。そして、夕食でティアラとステイルにその話をしたところで、ティアラが目を輝かせた。子どもだけでなく家族や親しい人にも贈り物を贈り合えるなんて素敵だと、なら私達もこっそりやりませんかと提案してくれた。あくまで公式にという形ではなく、私達で個人的にお遊び程度の感覚で。
私達三人だけでなくアーサーも、いっそ近衛騎士全員も。それにヴァル達も、ジルベール宰相やレオンと仲良くなった皆に私達三人で贈り物を贈りたいと声を跳ねさせるティアラだったけれど、そこにステイルと近衛中だったアラン隊長カラム隊長が待ったをかけた。
『待てティアラ。贈ることは一向に構わないが、贈られた側の負担も考えろ。ケメトとセフェクはまだしも、後はジルベールとレオン王子くらいにしておけ』
『エリートのカラムはまだしも、俺らじゃ王族の方々に返せるような贈り物を用意できるかどうか……』
『とてもお気持ちは嬉しいですが、アーサーやエリック、ハリソンも恐らく遠慮するかと思います』
その通りだった。
王族である私達からすれば贈るのは全然楽しいけれど、王族から贈り物は結構な大ごとでもある。誕生日とか昇進祝いとかみたいにその人個人へのお祝いなら一応目上の立場である私達が贈ってもそこまで受け取る側にも負担にはならない。お返し前提ではないから。
けれど、クリスマスプレゼントだと言ってしまえばイベントだ。贈ったら相手に贈り返すのが礼儀という空気は免れない。目上の立場の人から貰えば余計に。
私達三人から一つでも、ましてや私達から一つずつプレゼントでも彼らはきっと困ってしまうだろう。クリスマスプレゼントを自分達側は用意していない、お返しに相応の品が渡せないと寧ろありがた迷惑の可能性もある。
ティアラは「お返しなんかいりませんっ!」と言ったけれど、騎士であるアーサー達の立場を考えると難しい。しかも一気に王族三人へのお返しとなるとかなりの出費だ。
私だってお返しに悩まれる心配がなかったら毎年皆に贈り物を配って回ってサンタさん気分になりたい。けどセドリックもクリスマスの贈り合いは結局ランス国王とヨアン国王とだけだと話していたし、やっぱり王族以外の人にやると逆に困らせるのだろう。
そのまま、じゃあせめて王族同士とジルベール宰相達に贈るくらいで留めておこうと話が進んだ時。……前世の記憶でうっかり私が思いついたまま提案し、今に至る。
「全員分用意してもお返しを用意しても大変でしょう?だから贈り物を用意するのは一つだけ。それをわからないように全部混ぜて、皆で交換するの」
つまりは前世でよくあったプレゼント交換会だ。
それなら誰に当たるかもわからないから王族相手とか身分なんて気にせずそれぞれクリスマスらしい贈り物だけ考えて用意できる。それに負担は一人分で済んで、全員が全員贈り物もできればお返しもできる。……ティアラの思い描いた、大好きな皆に贈り物をしたいとは少し違っちゃうかもしれないけれど。でも、少なくとも仲良しの皆で贈り物をし合うという目的には叶う筈だ。
一人一つ。値段の上限は決めて、誰かわからないように侍女達に協力して貰う。
細かくプレゼント交換ルールを説明しながら提案すれば、ティアラが顔いっぱいをきらっきらに光らせて大賛成してくれた。
「~~っっすっっっごく楽しそうで素敵ですっっ‼︎流石お姉様です‼︎是非っ‼︎」
両手の指を組んで椅子から身を乗り出す勢いで絶賛してくれたティアラに少しくすぐったくなる。
「どうかしら?」とステイルやアラン隊長達へも尋ねれば、三人もそれならと賛成してくれた。……ただ、贈り物がそれぞれ用意したのが誰かは本人が明かすのも問い正すのも禁止という条件付きで。
まぁそうじゃないと、王族相手にプレゼントを受け取られた時のサンタ捜しゲームを恐れて萎縮しちゃうからそこは仕方がない。ティアラが「推理するのも楽しそうですねっ!」と前向きに受け取ってくれたから、その方向で決まった。
「ならば行うのはクリスマス当日として、準備もありますし今の内に参加者は決めておきましょうか。都合もありますし全員一斉には難しいので、前日までに各々用意し当日にそれぞれ回収という形ならば参加もしやすいかと。プライドとティアラ、俺とアーサー、レオン王子と……」
「セドリックも誘って良いかしら。今回のきっかけも彼がハナズオのクリスマスを教えてくれたからだから。それに、せっかく我が国の民になってくれたのだもの」
「!わ、……私はあとヴァル達も!お姉様から今度配達に来る時にお願いして頂けますかっ?ジルベール宰相は私が誘ってみますっ!」
「近衛騎士は、私とアランからこの後伝えておきます。アーサーとエリックに、……」
「…………ハリソンなぁ。あいつにクリスマスって一番想像つかねぇなぁ……」
万が一に何か問題を起こしてしまわないよう今回は内内だけというステイルの提案に、私達も参加して欲しい人達を上げていく。
専属侍女のマリーやロッテ、近衛兵のジャックもと提案したけれどその途端マリーに「私共は贈り物交換の手伝い側で充分です」と断られてしまった。ティアラやステイルの専属侍女達もそうだし、やっぱり使用人という立場の人達にはプレゼント交換は少し敷居が高いらしい。……それ以上に別の意味で敷居が高そうなのはハリソン副隊長だけれど。あとヴァルも。
あの二人にクリスマスという単語は確かに合わせにくい。
ヴァルなんて、この時期になる度クリスマスイベントが盛んな国への配達はケメトとセフェクが物凄く大はしゃぎするからと嫌がるくらいなのに。……プレゼントパーティーなんて和気あいあいイベントに参加してくれるだろうか。
ハリソン副隊長の名前にカラム隊長は途中で口を止めてしまうし、アラン隊長に至ってはなかなかの苦笑いだ。最終的には「まぁアーサーからプライド様からのお誘いって言えばなんとかなると思います」と言ってくれたけれど。
「楽しみですねっ!」と鈴の音のような声を跳ねさせるティアラに続き、今はステイルも少し楽しみらしく口元が笑っていた。
プレゼント交換自体はしないロッテとマリーも、イベント自体にわくわくなのか無言で頷いては笑顔だ。
そして来るクリスマス当日。
私の知るプレゼント交換会とは別の意味でドッキドキになりそうなクリスマスプレゼント交換会が始まった。