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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
頤使少女とショウシツ

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Ⅱ263.頤使少女は言い難い。


「よーし、これで授業終了だ。用具はちゃんと返すように」


二限終了後。

座学や室内での授業が主である女子生徒と違い、男子生徒は教室移動後もすぐ校庭に出されることが多い。授業内容にもよるが、土木関連を始めとする力仕事や技術などの男性だからこそ求められる職種や技能に当て嵌められた科目である。

身を守る為、家や家財の修復の為の授業もあるがそれ以外は彼らが卒業後もしくは在学中に、より収入の高い職種と即戦力へ後押しする為の重要な科目だ。

そして今日も例に漏れず、彼らの授業は肉体労働だった。しかも今回は炭鉱業。実際に城下から離れた炭鉱で行うわけではないが、用具の使用方法による実体験と同量の重さを荷車で運ぶ作業実習などを行えば限られた時間でも充分な疲労度だった。

家での仕事を手伝っている生徒も多いが、肉体労働として厳しい仕事の上位に食い込む仕事である。一端に触れただけでも陽の下で行う労働に汗をかけば、労働に慣れた身体も明日の筋肉痛を予告するように悲鳴を上げる。

講師に授業終了を言い渡された後も、いつものように昼休憩へ急ごうと気力が出ない生徒も多い。用具を教師の横に元通り立てかけるべく足を動かしながら、今はこのまま地面で転がりたい者も


「ッお疲れ様でした‼︎」

「待てジャック‼︎俺を置いていくな‼︎」


ガチャンガチャンッッ‼︎と、教師が号令を掛けてすぐ二名の生徒が素早くツルハシを戻し全速力で駆け抜けて行く。

全く疲労の欠片も見せないアーサーに、ステイルも負けじと追いかけながら口の中を噛む。十四歳の頃には既に剣の腕を磨き続けていた彼も平均男子よりは体力もある。だが、王族で且つ瞬間移動の特殊能力者である彼は、滅多に重量のある物を運んだことはない。

騎士として鍛える前から農作業に慣れていたアーサーと違い、身体は鍛えていても耐えれる重さは平均に近い。その為、正直今回の授業は彼にも疲労は濃かった。


しかしそれでも全力で足を駆けさせる。


何故今日に限ってこんな体力を使う科目をと思ったが、こればかりはどうしようもない。結果として、もともと足の速さでもアーサーに敵わない彼は、余計に距離差を離されてしまう。アーサーが自分に合わせて速度をいつもより落としてくれたのがわかれば安心する反面悔しい。

苛立ちを誤魔化すように自身の急ぐ理由を考えれば、自然と地面を蹴る足は強まった。既に何度もプライドに無礼且つ横暴な発言や危険な特殊能力を見せているレイを思い出せば、今こうしている間にもレイがまた何かやらかしているんじゃないかと気が気でない。外に出ている自分達と違ってレイは階段を二階分降りるだけなのだから。

しかも、二限前に訪れたであろうことを考えれば、その間に何があったかプライドから話を聞くまで完全には安心できない。同性であるアムレットそしてディオスとクロイが同席しハリソンも控えているのだから大きな事故はない筈だとも思う。

プライドが本気を出せば、実力行使でレイを無力化できる。が、彼が特殊能力を暴走させれば話は変わる。少なくともまだ小火騒ぎが出ていない以上、レイが特殊能力を使うような暴挙はなかったのだろうということだけが今現在の安心材料だった。


疲労した足とはいえ、アーサーと共に他の男子達を寄せ付けずに走り抜いたステイルは、中等部の校舎から階段まで駆け上がる。

移動教室のお陰で少し早めに授業終了を得られた二人だが、そこでとうとう鐘も鳴る。一秒でも早くレイより先に教室へ辿り着くべく急げば、すれ違った教師から「廊下は走らないように」と声を掛けられまた遠くなった。

アーサーが廊下中に響く声で「すみません‼︎」と元気よく叫んだが、二人とも一向に足を緩める気にはなれなかった。

階段を上り切り、廊下に出ればもうゴールは近い。教室から女子生徒が出てくるところを確認すれば、時間通りに授業が終わったことも確信する。そのまま滑り込むように自分達の教室へと帰還を果たした。すると


「ジャンヌ!それでさっきの本当⁉︎いつから⁈」

「脅されてるとかじゃ⁉︎」

「でも結構格好良いよね、あの仮面の下とか見たことある⁇」

「フィリップとジャックは知ってるの⁈何も言われなかった⁈」


ガヤガヤガヤと、プライドの周囲に女子生徒が殺到していた。

あまりの密集ぷりにステイルとアーサーは一目ではプライドを確認することもできなかった。ぽかんと口を開けたまま扉の前で一度足を止めてしまう。

やはり何か起こったのか、とそれだけは興奮した女子達の様子から見て理解した。荒れた息を肩で整えたステイルが、扉枠に手をかけながら教室へと足を踏み入れる。

アーサーも女子ばかりの密集地に自分達も突入しても良いのかと迷うように、銀縁眼鏡の蔓位置を両指で直した。一方的に集中砲火を受けているプライドの声だけが拾えない。やらかしたのがレイなのかプライドなのかも判断がつかないまま、一度喉を鳴らしたステイルは覚悟を決めて最初に口を動かした。


「ジャンヌ?」

「すみません、お待たせしました」

ステイルに続き、アーサーも声を掛ける。

彼ら二人の言葉が放たれた途端、ピキンと空気は一瞬で固まった。プライドだけではなく、ステイルとアーサーが目で捉えきれる範囲の女子達全員が口を噤み最初は振り返ることすらしなかった。

プライド一人以上の数からの気まずい空気を感じ取り、二人は無言もまま首を小さく傾ける。どう見てもプライドが彼女らに心無い扱いを受けていたようには見えない。なのに何故この気まずさなのか。

そう考えている間に、彼女達の中心からガタリと椅子を引く音がきこえた。フィリップ!ジャック!と彼女が高々とその名を呼ぶ声も僅かに裏返った。そのまま慌ただしい様子で「ごめんなさい」「またあとで」と女子の間をこそこそ腰を低くし抜けるように現れたプライドは、自分達のサンドウィッチが入ったリュックを両手で抱えていた。

彼女達もプライドを引き止めたい気持ちはあるが、それ以上に気まずさと女性独特の修羅場を感じとる危機管理能力が口を閉じさせた。

今この場で余計なことを言えば、フィリップとジャックがもし何も知らなかったらと考えれば血の雨が降る気がしてならない。少なくともその火蓋を自分の口で開けたいとは誰も思いはしなかった。


女子の集団を抜け、リュックを両手に駆け寄るプライドは明らかに顔色が悪かった。笑顔もステイルがわかるほどに強張り固まり、まるで自分達と同じ肉体労働でもしたかのように冷や汗が酷く滲んでいる。そして何よりも


「ジャンヌ、何かレイと」

「ッさあ行きましょう⁉︎先ずはパウエルよね⁈とにかく!とにかく急ぎましょう⁇後で説明するからごめんなさい‼︎」

きゃああああああああ!と、心の中で悲鳴を上げながらプライドは突進するように二人を扉へ押し出す。

彼女達の口からうっかり耳に入る前に自分から話さないと大変なことになると、それだけは彼女でも理解できた。

顔を青くしながら、無駄に大声で教室から自分達を追い出すプライドにステイルもアーサーも目を丸くする。

リュックこそそのままプライドから預かったアーサーも、強すぎるプライドの意思と慌てように彼女の意思のまま押し流される。

ジャンヌ⁈とステイルも驚きのあまり聞き返すが、それでも今はプライドも答えない。せめてこれは人目のない場所で話さないと!と人通りの少ないパウエルとの待ち合わせ場所でもある渡り廊下を所望する。一瞬、また二人の手を掴もうと伸びかかったが、前回それで怒らせてしまったことを思い出し、途中で止まった。代わりに両手を使って二人の背中を押し足に力を込め続ける。

非力な彼女より力の強い二人が、抗うことも満足にできず歩かされていく。背中を反った状態で歩き、渡り廊下に辿り着いてからやっと彼女も足を緩めた。


「フィリップ!ジャンヌ、ジャック。どうかしたのか?」

遠目から気付いたパウエルが目を大きく見開き、首を傾げながら歩み寄る。

それにプライドも大きく息を吐きながら、深呼吸を繰り返した。すぐにでもレイの元へ急がなければならないが先にパウエルへも事情を話さないといけない。何よりも話がこじれる前にレイのやらかしを彼らに言っておかなければ、レイの不用意発言から次の瞬間に王女への不敬罪でステイルとアーサーが青筋を立てるところまで想像できた。


あのねパウエル、と最初にレイの元へと事情を伝えれば快い即答が返ってきた。

毎回すんなりとこちらの事情に合わせてくれるパウエルに心から感謝しつつ、このまま二人もすんなりと受け入れてくれたらどんなにかと都合の良いことを考える。

自身の現実逃避を自覚しながらプライドは、二人の背中に添えた手で自分の胸を押さえた。背中から小さな手の感触が引いたことで、二人もパウエルと同じように背後にいる彼女へと向き直る。一体どうしたのかと、それを自分達が聞きたいのは言葉にせずともプライドがわかっていることも理解した上で真っ直ぐと両目で捉えた。

するとプライドは言い始めを考えあぐねながら目を泳がせた。ええと……と、続きの出ない言葉を漏らしそうになったところで、先に口を開いたのはパウエルだった。


「特別教室かぁ。まさかそんなとこにも知り合いがいるなんてジャンヌ達ってすげぇな。一体どういう関係なんだ?」

まるで天啓かと言いたくなるようなパウエルの問いに、プライドは引きつりそうな唇に力を込める。

これは言う機会にするしかないと自分自身に言い聞かせ、震えそうな声を絞り出す。ざわざわと形の掴めない方向から殺気まで溢れてくるのを肌で感じ、既に約一名はお怒り継続中なのだと胃を縮ませながら。



「……私の、……恋人?ということに、勝手になった人……かしら……?」



あはは……と、枯れた笑いと絞り出された言葉の直後。

一人分だけだった殺気が、三つになったのをプライドは目を合わせられない内から肌で感じ取った。


その出所が、目の前にいることも。


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― 新着の感想 ―
[一言] うーん…、地雷!(苦笑)
[一言] ハリソン副隊長に置かれましてはナイフよりチョークを装備させられればとオモイマスヨ?
[一言] これは純情ボーイズがお怒りになられるのも致し方ないですね笑
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