表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
頤使少女とショウシツ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1259/2210

Ⅱ255.頤使少女は再来し、



「ジャンヌ。今度は何かあった時はすぐ避難しますから」


レイの屋敷が見えてきてから、ステイルがはっきりと私達に宣言した。

午後が過ぎ、アーサーとカラム隊長が交代で近衛任務に訪れた後、それぞれ着替えとジルベール宰相による特殊能力を受けた私達は昨日と全く同じ道を歩いた。

エリック副隊長の家からレイ・カレンの屋敷へ続くまでの道だ。

ステイルとアーサー三人と、そして何処かで護衛してくれているハリソン副隊長と面面も昨日と全く一緒だ。


「ありがとう、フィリップ。だけどそれは昨日と同じで本当に奥の手で良いわ。レイが今も裏稼業と繋がっているかどうかも確証はないし、……なるべく攻撃されるなんてことがないように気をつけるから」

ステイルの特殊能力があれば大抵の攻撃は避けられる。

確かに昨日みたいなレイからの猛攻があった場合は、大怪我する前にステイルの瞬間移動に頼ることも必要だろう。けれど、もし裏稼業の人間に特殊能力を見られたら今度は〝フィリップ〟が学校にいる間も狙われるかもしれない。最善はやっぱりレイに今度こそ攻撃をされる前に説得することだ。

ステイルもアーサーもそこには同意見らしく、それぞれ大きく目を合わせて頷いてくれた。アーサーが「あっても次は絶ッ対避けきります」と断言してくれるから更に心強い。昨日の火傷も今は全然痛まないらしく、私もステイルもそれを聞いてすごくほっとした。できれば怪我の状態も確認したかったのだけれど、アーサーに「ほんっっとに大したことないンで!」と思い切り断られてしまった。

王女の私が無理矢理異性の衣服を引っぺがすなんてできるわけもないし諦めたけど、ステイルは若干ジトリとアーサーを睨んでいた。


─ ぱちん。


「すみません、昨日の今日ですがレイに会わせて貰えませんか?」

屋敷の前まで辿り着けば、また遠目からずっと睨んでいた衛兵に正面から迎えられ、こちらから呼び掛ける。昨日と同じ衛兵だ。

当然ながら私達の顔を覚えているらしい彼は、私の視力で表情が捉えられた時には既に口を結んだまま険しい表情をしていた。まだ衛兵の職務についているということは、彼はアンカーソン家ではなくカレン家の人間なのだろうか。

昨日の時点でレイがあんなに激怒していたし、私達を捕まえろとまで叫んでいたから彼も同じ命令を受けていてもおかしくない。最悪の場合は正面突破か忍び込むことも視野にいれながら、取り敢えずは一番平和的な方法を試みる。ここで彼が私達を捕えようとしても逃げれば良い。

三人揃って身構えながらあくまで一般人のふりで笑い掛ける私達に、衛兵は眉間に刻んだほど皺を寄せてから口を開いた。


「……見逃してやるから今すぐ逃げろ」

抑えた声色でそう良いながら、槍を持ったとは反対の手で小さく私達を払う仕草をした。

邪険にする、というよりも禁止区域に迷い込んだ子どもを追い返すような仕草だ。その意味にある程度検討をつけながら、敢えて黙したまま続きを待つと衛兵は一度首だけで屋敷の方へ振り返った。


「レイ様はお前達を見かけ次第捕まえろと昨日からお怒りだ。しかも今は間が悪すぎる。学校の生徒だったな?なら、あとひと月は学校も避けろ」

レイと会わないようにと警告をしっかりと鳴らしてくれる衛兵は、どうやら昨日何があったかも知らされているらしい。

しかも、間が悪いという言葉から考えてもやはりアンカーソンの知らせは早々にレイにも届いたのだろう。ひと月、と衛兵の口から断定されたのを考えるとレイの家は思った通り切迫している。

勿論、ここで退くわけにはいかない私達は親切とはわかりつつも首を横に振る。むしろこの機会を逃すわけにはいかない。


「お願いします。レイにもう一度話しをさせて下さい。貴方にはご迷惑をかけないようにしますから」

力尽くではなく、あくまで真摯にお願いする。

その場で衛兵に頭を下げる私と一緒にステイルも礼儀正しく深々と、そしてアーサーも括った三つ編みを背中に払い勢いよく頭を下げてくれた。

返事がない衛兵に十秒以上してからそっと頭を上げて覗いてみると、眉を寄せたまま難しそうに視線を四方に散らしていた。独り言のような声で小さく「せっかく逃がそうとしてるのに……」と嘆くように呟かれた。彼としては私達を助けようとしてくれているのに、無碍にされたのだから良く思わないのも当然だ。


それでも大きく溜息を吐いた後は仕方なさそうに、門の向こう側へと確認に言ってくれた。

昨日と同じように扉の向こうにいる侍女とこちらを何度も振り返りながら話してくれる。今回は、扉の向こうから話しをしていた侍女までわざわざこちらに顔を覗かせていた。まだ屋敷内にレイ以外もいたことに、彼女らもカレン家の使用人だろうかと考える。それ以外で彼らが屋敷に留まる理由が見つからない。

暫く待ちぼうけた後、戻って来た衛兵が門を開けて通してくれた。「入れ」と言いながら、今度は屋敷の前まで私達を連れるように先導してくれる。大人の背中に黙して続く私に、衛兵がまた独り言のような声で言葉を落とした。


「昨日のようにレイ様を刺激するな。もし何かあれば逃げるか屋敷の者達をすぐに呼べ。……間違ってもレイ様を人殺しにはさせるな」

「……それは、レイの為ですか。それともカレン家の為でしょうか」

衛兵の警告に、ステイルが同じくらい低めた声で問いを投げ返した。

ここまでのことがあっても屋敷から去らないどころか、彼や私達の身すら心配してくれるのを不思議に思えたのだろう。レイを快く思っていないなら屋敷から去る筈だし、レイ側の人間なら私達にここまで警告してくれるのも妙だ。

黒縁眼鏡の向こうからじっと上目で覗くステイルに、衛兵は目だけで睨むように視線を落としてから今度ははっきりと口を開いた。


「どちらでもない」


少なくとも俺は、と。濁すのでは無くはっきり意思を込めた断言に、ステイルもそれ以上は口を噤んだ。

衛兵が玄関の扉を叩いた直後、内側から開かれてやはりさっきと同じ侍女が私達を通してくれた。顔の筋肉という筋肉全てを強張らせた顔で私達を見た侍女は「こちらになります」と昨日よりずっと低い声で言ってから屋敷の奥へと私達を案内した。

見覚えのない間取りに、今日は客間につれていかれるのではないのだと理解する。

侍女に続きながら周囲を首だけで見回すと、やっぱり気配が殆どない。振り返ればステイルも同じ考えだったのか私と同じようにアーサーへ顔を向けていた。周囲へ張り詰めていたアーサーも私達の視線に首を横に振ったから、やっぱり裏稼業の人間達は隠れているわけでもなさそうだ。……城に目をつけられた屋敷に、彼らが寛げる筈もない。


─ ぱちん。ぱちん。


「……階段を降り、南方向にある裏口から出て行かれるのをお勧めします」

ぽそっ、と侍女がまた小さく呟いた声は静けきった廊下では充分耳に届いた。

今度もまた遠回しに逃亡を進められている。やっぱり衛兵と同じ理由だろうか。裏口を教えてくれるとなると、本当に本格的な逃走経路だ。

けれどやっぱり逃げるわけにはいかずお礼と一緒に断った。昨日も消火活動に苦労させた筈だし、それも追い出したい要因の一つかもしれない。

ゲームではレイの家族以外の身の回りなんて語られなかったけれど、こうして残ってくれる人達も居たんだなと思う。アムレットと恋に落ちるまでは大勢の中で天涯孤独な印象だったのに。


昨日とは反対方向に交差する階段を上りきった先で、侍女は足を止めた。扉の装飾から見ても、家主の部屋だということが一目瞭然だ。部屋の向こうから、単調な音が聞こえてくる。

扉を叩いた侍女が私達が居ることを伝えれば、その音も一度止まった。扉越しに「入れ」と低めた声が返ってくる。

一応部屋の向こうにも物騒な気配は感じられないけれど、私を守るようにステイルとアーサーが半歩前に出て身構えた。ステイルが私の手を握り、腕で私達を下がらせようとするアーサーの背中に手を添えた。部屋の中には誰もいないのか、侍女の手でそのままゆっくりと扉が開かれた。小刻みに震える細い侍女の手が、彼女もまた扉を開けた途端黒い火が噴き出してくるのでは無いかと警戒しているのだとわかる。


「お前達の差し金か?」


…開かれてすぐ、レイの低い声が何も遮蔽物のない部屋の中から放たれた。

ぱちん、と一人顔の前で手を叩く彼はそこで両手を膝に下ろした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ