表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
私欲少女とさぼり魔

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1180/2210

そして逃げる。


「それで!ジャックって本当に山で鍛えてたんですか?!」

「騎士の訓練受ければあれだけ跳べるようになりますか?!」

「ジャンヌってジャックとフィリップとは……!!」

「ジャックは騎士団に入れると思いますか?!」


あああ、と近付いてみた私達は全員口をあんぐり開けたまま足が止まり掛けてしまう。

特に私やステイルよりも先に耳と目でしっかり捉えていたらしいアーサーは私が振り返った時には頭を抱えていた。遠目だとわからなかったけれど、近付いてよく見れば全員私達のクラスの生徒だ。

しかも話し声を聞きとるに、大体がアーサー関連の質問コーナーになっている。緩んだ足でよろよろ近付いていけば、エリック副隊長が半笑いの顔が見えた。私達に一瞬視線を向けて気がついた様子だったけど、すぐに逸らして何事もないように彼らへ対応し続けてくれている。

質問一つ一つ丁寧に答えてくれている様子に、今日ばかりは待たせてしまったことを心の底から反省する。もう、聞かなくても状況が手に取るようにわかった。


アーサーや私達をエリック副隊長が迎えに来てくれていることは、クラスの子達は殆ど知っている。しかも一部の男子達には直接紹介したこともあるくらいだ。

そこで、今日職員室に早々に呼び出されたアーサーの代わりに待たされているエリック副隊長に質問すべく彼らが総結集したのだろう。……エリック副隊長は建前上〝上司の親戚の面倒を見ているだけ〟なのだから、聞いても知らなくて当然なのに。

それならその横にいる〝親戚ご本人〟ということになっているアラン隊長に聞く方が理に適っている。……まぁ、その設定を知っていたとして王族が横にいるのに暢気に話しかけられる勇者なんていないだろうけれども。

それにアーサーだけじゃなくて騎士相手に色々まだ話したいという欲求もあったのだろう。前回のことで、エリック副隊長がすごく良い人だと男子達が知ってしまったから余計に話しかけやすくなってしまったのもある。

アーサーはいつも私達と一緒だ。けれどここ数日で身体能力の凄まじさとか、今日も高等部二名を運んだどころか倒したという誤解まで生じ始めてしまったから居ても立ってもいられなくなった気持ちもまぁわかる。まだ中学生の彼らはそんな面白い噂は深く知りたいと思ってしまう。

しかも男子だけでなく女子も混ざっているのをみると、アーサー個人の人気もあるのだろうなぁと思う。一度フラグを叩き折ったアーサーだけど、それでもアーサーにときめいたままの女子は何人もいたもの。


「エリック副隊長……」

うああ゛……、と背後からアーサーの呻く声が聞こえる。

自分の所為でエリック副隊長に苦労を掛けているのが胃が痛む思いなのだろう。私も気持ちはわかる。

このままご本人登場しない方が良いかしらとも思ったけれど、それではエリック副隊長にずっと質問コーナーを担当させることになってしまう。ここは気持ちを強くもってエリック副隊長の救出にと、私達は足に改めて力を込めて爆心地へ飛び込むことにした。


近付けば近付くほど、彼らの質問は止まない。

それをエリック副隊長が「俺も詳しくは知らないけど」と言いながら、当たり障り無く受け流してくれている。敢えてここですぐそこにいるアラン隊長に「聞くなら親戚のあの人に」と振って生徒達の心を折らないのは本当に優しさだなと思う。

とうとう足音が届くほど彼らの背後に近付けば、最後尾に立っていた女子から「!ジャンヌ」と最初に私が声を掛けられた。更にその言葉に気付くように他の生徒達も振り返れば「フィリップ」「ジャック!!」と注意がまるごと私達に行く。何とか強張りそうな肩を押さえながら笑みを作っていると、ステイルが「どうも」とにっこりとした笑みで一歩前に出た。


「エリック副隊長、すみませんお待たせしました。皆さんはどうかしたんですか?」

「ジャック達が先に職員室に呼ばれたからここで待ってたんだよ」

「それで騎士様に色々お話してもらってて」

やっぱり私達の所為だ。

そうそう、と他の子達も頷く中エリック副隊長が笑いながら、青い顔をするアーサーに手を振ってくれた。気にしてない、という意思表示にそれでもアーサーの頭が深々と下がってしまう。

私も首を窄めながら、アーサーと同じ気持ちで反省の意思を示す。ステイルが、そうですかでは僕らはこれでと帰る流れを作ってくれる中、不意に女子が一人、二人と私に駆け寄ってくる。どちらも一度一緒に昇降口まで降りた女の子達グループの子だ。

「ねぇ」と明るい声で左右に挟まれ、失礼ながら一瞬だけ反射的に逃げたくなる。憧れの的であるアーサーを置いて何故私に?と思いながら喉か枯れていくと、二人は輝く眼差しで私に笑い掛けてきた。


「ジャンヌも、ジャックなら絶対に騎士になれると思うよね?」

「だってあんなに強いし足も速いし運動神経も普通じゃないし。ね、ジャンヌも騎士になって欲しいよね!」

思ったよりも物騒じゃない話題に胸をなで下ろしながらも、顔がまだ引き攣ってしまう。

両側に挟んだまま、女の子同士特有の感覚でしっかりと片腕つつ組むようにして掴まってしまった。もう逃げられない。腕を仲良く組んでくれるのは嬉しいけれど、今は逃げられない感の方が強い。

アーサーも敵意がない女の子達を阻むわけにはいかずに、すぐそこで私を瞬きのしない目で凝視している。ステイルも気になったように振り返ったけれど、今は早々にエリック副隊長とアーサーへの質問コーナーを切り上げるように場を収めることに忙しい。

明らかに同意を求めている彼女に私も「ええ」と何とか答えを絞り出す。なれるも何もアーサーはもう立派な騎士だし、ずっと彼には騎士になって欲しいと思っていたからどちらにせよ答えは間違いない。

すると、彼女達の目が嬉しそうに輝き出す。「だってー!」と弾むような声ですぐそこにいるアーサーに笑い掛ける彼女達の横顔に、そういえばこの子達はアーサーがフラグ折った時にも肩を落とさず、むしろ嬉嬉として目が輝かせていたと思い出す。……というか、なんだろうこの空気。前世でどこか見たことがある気がする。女子同士の光属性会話は前世の学生時代は遠巻きに見ていたけれど。

そのまま「良かったね!」とアーサーに笑い掛ける彼女に、彼も丸い目で頷くしかない。「は、はい」と言いながら、ぱちりぱちりとやっと瞬きを二度思い出してきた。


「ジャックって、山育ちなだけであれだけ凄いんでしょ⁈」

「ジャンヌが体調崩した時もすぐに運んであげていたし優しいよね」

……取り敢えずアーサーを褒める方向の話題に、やっと詰まっていた息が解れる。

ほっと息を吐き出しながら、今度は自然な笑みで「ええ、そうね」と言葉を返せた。どういう理由であれ、アーサーが褒められるのは素直に嬉しい。

そのまま収めてくれているステイルの背後で、流れるように彼女達から今度は私への質問コーナーが繰り出される。

質問の殆どがアーサー関連なのを聞くに、本人には恥ずかしくて聞けないからこれ幸いと私越しで尋ねているのかなと結論づける。親戚兼幼なじみ設定だし、こればかりはしかたない。人気の高いアーサーに、女の子が色々知りたいと思うのは可愛い性だ。

「ジャックって」「昔からジャックは」「ジャンヌも鍛錬手伝ってあげたりとか」と質問に、アーサーの顔色を確認しつつ私が答えていく。

段々と質問を重ねるごとに他の女の子達もエリック副隊長から私側に集まってくるし、更にはステイルが対応してくれる男子達もアーサーの新情報が気になるのか何人かのチラチラとした視線を感じてくる。

流石にアーサーも目の前で実質自分のことで大注目を浴びているのが恥ずかしいのか、それともエリック副隊長に続けて私が質問を答えているのが申しわけなくなったのか次第に顔色が茹だってきた。でもその様子を見ると、余計に彼女達の質問コーナーの矛先をアーサーにしちゃ駄目だなと思う。直接インタビューなんてそれこそ緊張してしまうに違いない。


「良いなぁ、ジャックやフィリップみたいに格好良い親戚なんて羨ましい」

「ジャックみたいに強い男の子がいたらジャンヌも安心でしょ」

「ええ、とても心強いわ。二人には迷惑をかけてばかりで」

特に現在進行形で‼︎と心の中で叫びながら言葉を返す。本当にエリック副隊長もステイルもアーサーもごめんなさい。

何事もなさそうな安全な空気にセドリック達はそっと馬車へ去って行くのを視界の隅で確認しながら、未だに立ち往生させてしまっている彼らに思う。

ステイルがやっと話しを切り上げさせてくれて、「ジャンヌ、ジャック。そろそろ帰りましょうか」とエリック副隊長の前で私達に呼びかけた。

ええ、と言葉を返しながらそろそろ彼女達にもお別れを言おうとしたら、最後の質問とばかりに一度だけぐいっと腕にしがみつく力が強められ「ジャンヌは」と言葉を一度切られた。

なにかしら、と自分でも目が丸くなってしまうのを感じながら私を捕まえている彼女達を左右交互に見比べる。すると、一度言葉を切った子が目の奥にキラリと強い光を一際輝かせて問いを放った。


「ジャックって一番格好良いと思わない⁇」


…………これは。

は、と今更ながらにさっき引っかかった既視感の正体に気付く。顔が笑みのまま口端だけをヒクつかせてしまう私は必死にこれ以上表情が崩れないようにと顔の筋肉に神経を集中させる。

思い出した。これって片思いの友達を無理矢理くっつけようとする女子特有現象だ。ちょっと前世よりもあからさま感がある誘導尋問に、どちらかというとお見合いおばさんの感覚にも似ているかもしれないと思う。

この世界で十四才とはいえ、彼女達は成人まであとたった二年の大人社会予備軍だし、前世と違ってこれくらい極端なのも無理はない。社交界では立場上こんなにぐいぐい周囲から押せ押せとこられたことがなかったけれど。

数秒の沈黙の中、頭の中では凄まじく高速で悪賢い優秀なラスボス頭脳が回転してくれる。多分彼女達、この前の私を医務室にアーサーが運んでくれたのを見て色々と盛り上がっちゃったのだろう。

ただでさえアーサーとステイルは格好良いし、そこに同い年の従姉妹なんていれば想像を膨らますには十分な要因だ。その後に彼自身からフラグ叩き折り事件を起こしていてもやっぱり身近な女子とくっつけたがる子はいる。そして今回私に白羽の矢が当たったと。

取り敢えず今のところは嫉妬の対象にされていないだけ、幸いと考えるべきだろうか。取り敢えず第一に巻き込みごめんなさいアーサー。

そこまで考えた私はやっと、目の前の現状を正しく理解する。ここで同意したら、明日にでも熱の籠もった噂に拍車がかかるのだろうなぁと思う。これ以上アーサーに迷惑はかけたくない。

とはいっても、以前はそれで「二人は全然私の好みじゃないもの!」」発言で全否定した結果ステイルとアーサーを怒らせている。もう、嘘でも悪く言うようなことはしたくない。なら、……。


「…………うーん、一番……ではない、かしら?」

彼女らの希望する答えじゃないと分かりながら、正直に苦笑する。

えっ!と言わんばかりに両側から息を飲む音が聞こえてきた。更にエリック副隊長やステイル達まで私を凝視する。驚愕に近く目を見開くステイルに、また私が大親友相手に失礼なことを言わないかと心配しているのかなと思いながら、私は彼女らに嘘にならない正直な答えを返す。






「私にとって〝強くて格好良い人〟一番はジャックじゃなくて、噂の聖騎士様だから」






ボンッ‼︎‼︎と。

次の瞬間、至近距離から小爆発する音が聞こえた。驚いて顔を向けるとアーサーがぐらりっと身体の軸から大きくふらついているのが見えた。

あまりのふらつきに私だけでなく、周囲の子達も短く悲鳴を上げる。思わずアーサー!と叫びそうなのを喉の手前で堪え、私は手を伸ばす。両側に立っていた女の子達もアーサーがふらつきにびっくりして手が緩んだ分、するりと抜けた。

大丈夫⁈と声を掛けながら背の高いアーサーを私が正面から支える。ジュワッと服越しでもわかるくらい尋常じゃない熱を感じて、熱気がはっきりと私の肌に届いた。銀縁の眼鏡が完全に白く曇ってしまっている。

アーサーのことだから風邪ではないし、つまりは知恵熱を出させるほど怒らせたか謙虚なアーサーを照れさせたかのどちらかだ。


「じゃっ、ジャック⁈ジャック⁈ごめんなさい!その、今のは……」

とにかく慌てて謝罪をしながら、そこで気付く。

どうしようこれはこれで駄目だった!この場で何を言っても他の子達には〝男女ともに人気筆頭のジャックがジャンヌに振られた〟という解釈と不名誉極まりない噂が広がってしまう‼︎

擦れる声でパクパクと口を動かしながら「大丈夫です……」と言ってくれるアーサーは、それでもジュワジュワと明らかに熱を沸騰させている。更には周囲の子達からも確実に同情の視線が注がれていた。

あわあわとアーサーを支えながら、今だけは誤解を更に生みかねない謝罪をそれ以上は止める。代わりに助けを求めるようにステイルとエリック副隊長へ視線を投げれば、最初にステイルが私達から顔を逸らしながら背中を丸めているのが目に入った。遠目からでも分かるくらいに肩を震わせてもう間違いなく爆笑している。自分で自分を抱き締めるようにお腹を抱えている姿は、完全にやらかした姉と巻き込み事故を起こしたアーサーに大ヒットした様子だ。

フィリップ‼︎と、笑っている場合じゃないと意思を込めて叫べば、微かに咳き込みながらの笑い声が漏れてきた。いや確かに全面的に私の自己責任なのだけれども助けて‼︎

最善回答をした筈が、大間違いをしてしまったことに段々泣きそうになりながらエリック副隊長へ視線を注ぐ。こちらはこちらで半笑い状態のまま固まっていた。口が半分開いたまま私とアーサーを見比べるエリック副隊長に、唇を絞り泣きそうな目だけで助けを求めれば、ハッと肩を揺らした後にすぐ「ジャック、疲れたなら肩貸してやるからジャンヌと一緒にこっち来い」と手招きで助け船を出してくれた。

アーサーもエリック副隊長の声を道しるべにふらりふらりと私に支えられながら校門の外へと進む。


「~っ、そ、れでは僕らはこれで失礼しますね。先ほどもお伝えした通り、エリック副隊長はこの後に演習が控えていてお忙しいので」

本当にすみません、と。くくくっと震わした肩のまま、苦しそうな声でステイルが話を切ってくれた。

エリック副隊長に、よろめくアーサーを受け取ってもらってから私からも「本当にごめんなさい‼︎」と何度も平謝りしてその場を去った。

盛大な誤解をさせたままの退場に明日からの学校が気が重くなりそうだと思いながら逃げるように校門を後にする。

ちょっと未だに楽しそうなステイルと、苦笑いのままアーサーに肩を貸してくれるエリック副隊長に連れられながら、私は悶々とあの時の最適解について反省と考察を続けた。


前世でもう少し、こういうイベントの受け流し方を学んで置けば良かったと後悔した。


Ⅱ44

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] これはプライドは最適な返答をしたのにアーサーが初心すぎるのがいけない
[気になる点] こんな反応されたらプライドまじで一生気付かへんやろもうええ歳で付き合い長いねんからそろそろ慣れろよw
[一言] プライドの罪な天然っぷり発揮!(笑) プライドはヘタな受け流し方なんて覚えないで、是非そのまま大きくなって下さい!(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ