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〈コミカライズ2巻発売前日‼︎・感謝話〉現代王女は賑わう。

コミカライズ二巻発売記念。本編と一切関係はありません。


IFストーリー。

〝キミヒカの舞台が、現代学園物風だった場合〟


※あくまでIFです。

登場人物達は本編と同じような経過を経て同じような関係性を築いていますが、一部呼び方を含む関係性や親密性が本編と異なります。

本編で描かれる登場人物達の関係性は、あくまで本編の世界と舞台だからこそ成り立っているという作者の解釈です。

友人、師弟、主従、恋愛等においても本編と全く同じ感情の種類や強さとは限りません。


※現代をモデルにした、和洋折衷の世界観です。

特殊能力は存在せず、日本をベースに王族・騎士が存在します。年齢も違います。


※時間軸は第一作目解決後です。


※あくまでIFです。

簡単に現パロの感覚でお楽しみ下さい。


プライド・ロイヤル・アイビー、高校二年生。


「遅れてごめんなさい……!詰めるのに時間が掛かっちゃって……!」

「でも代わりにたくさん作れましたっ!」

「ティアラそれ以上振り回すな!!だから俺が持つと言っただろう!」


待ち合わせ場所に急いだ私達に、先に待っていた彼らが手を振ってくれる。

大丈夫、待ってないと言いながら笑い掛けられ、私も切れた息をふっと吐く。近くまでタクシーで来たけれど、そこからは全力疾走だった。かれこれ待ち合わせから十五分以上の遅刻だ。気合いを入れてティアラが抱えた保冷バックの手持ちを私も半分握りながらやっと彼らに追いついた。

晴れ渡る公園。絶景の桜に広がるシートの上で足を崩しジュースや食べ物を囲む光景は、待ちわびていたイベントそのものだった。


春到来。まさに花見日和の晴れ渡った昼時だ。


「こんな綺麗な桜でなんて……皆、場所取り大変だったでしょう?」

ドスンと持ってきた保冷バックを少し雑にシートの中央に着地させながら、場所取りをしてくれていた彼らに改めてお礼をする。

私達が暢気にお弁当を作っている間、人気スポットである桜の場所取りをしてくれていたのが彼らだった。周囲を軽く見回すだけでも競合相手だったであろう団体さんがいくつも見れる。そんな中、花見の中央にどっかりと人数分のシートで場所を確保してくれた彼らには感謝しかない。


「それに重い飲み物までありがとうございます!色々な種類を用意して下さったのですねっ」

「菓子までお任せして申し訳ありません。後でちゃんと代金はお支払いしますので」

私の左右にティアラとステイルも座りながら、改めてシートの中央を眺める。

ジュースにお茶に炭酸。そしてしょっぱいのから甘いお菓子にジャンクフードまで幅広く揃えられている。今回お弁当担当だった私とティアラも人数分分けると大した量は作れていないから本当にありがたい。

この面面で初めてのお花見会だったから張り切ってお弁当担当をさせて貰ったけれど、張り切りすぎたせいでどれも時間のかかる料理ばっかりにしてしまった。普段料理しない人の典型のような時間配分ミスだ。


「とんでもありません、こちらは買ってきただけですから。むしろお手数をお掛け致しました」

「俺らは早起きも慣れてるしな」

「安物の菓子ばかりですが、遠慮無く召し上がってください」

「プライド様、こっちカップと手ふきです‼︎」

ありがとう、と受け取りながら優しい彼らに笑みで返す。

大学部のカラム先輩、エリック先輩、アラン先輩。そしてアーサーは今朝の早い時間から場所取りに買い物まで全部請け負ってくれた。受け取ったカップをそれぞれティアラとステイルも受け取れば、エリック先輩が順番に好きな飲み物を尋ねてくれる。


「?この箱は……セドリック王弟お前か?流石、良い店を知っている」

「花見といえば和菓子と思いましたので……、以前食してとても美味だったので是非この機会にと」

コンビニお菓子シリーズの横にちょこりと置かれた小箱にステイルが目を向ける。

私も気付いて見れば、高級老舗の和菓子だ。もう箱を開ける前から包装の重厚感で高さが想像できる。私も一度機会があって食べたこともあるけれど、凄く美味しかったお店のお菓子だ。特に道明寺がティアラも大絶賛でまた食べたいと話していた。まさかここで食べられるなんてと感激してしまう。


「特に道明寺が美味でした。そちらは人数分あるので是非皆さんにもお召しがり頂ければ幸いです」

ありがとうございます、と。騎士科の皆がお礼を言う中、ぷるぷると隣で震えている肩に気付く。

さっきまでにこにこご機嫌だったティアラがいつの間にか耳を火照らしてそっぽを向いていた。まさかセドリックと同じ好みだったことが嫌だったのだろうか。明らかに顔をぐるりと自分から背けるティアラにセドリックも「嫌いだったか……?」と弱々しく尋ねた。その途端、私の鼓膜が破けそうな大声で「大好物ですけど‼︎」と怒り気味の返答が響かされた。……やっぱりセドリックと同じ趣向なのが不満らしい。相変わらずセドリックが不憫だ。

でも、セドリックの方はティアラの大好物発言にほっとしたように笑っていた。「良かった」ともうティアラの態度も気にならないように胸を撫で下ろす彼に、今すぐにでも席順を変えてあげたくなってしまう。いえそんなお節介おばさんなことティアラに怒られるからやらないけれども‼︎


「あと十分程度でレオン王子も来るでしょうし、その時まで和菓子と姉君達の弁当は取っておきましょうか。取り敢えずお菓子と乾杯で」

ステイルの提案に私達も賛成する。

先に初めていて良いよと言ってくれたレオンだけど、折角なら皆で広げたいもの。……私達が十五分も遅れたこともあるけれど。

私達三人にも飲み物が行き渡り、先ずは乾杯をとコップを掲げる。すると、直前にアーサ-が慌てた様子で待ったをかけた。


「ッハリソンさんもうコップ空じゃねぇっすか!言ってくれれば注ぎますから!」

「必要ない」

乾杯の時くらいは必要です!とアーサーが言い返しながらジャバリとペットボトルの中身を注いでいく。

アーサーの鶴の一声で花見に参加してくれたハリソン先輩だけれど、シートの隅に座って一人お地蔵さんみたいになっていた。参加してくれたのは嬉しい反面、もの凄く楽しんでいない感が始める前から申し訳なくなる。

ハリソン先輩のコップがアーサーのお陰で満杯になったところで、改めて乾杯が行われた。飲み物片手にお菓子を摘めば、新作や期間限定のお菓子もたくさんあって手が止まらなくなる。王族とはいえ、学校でもちょくちょくコンビニで買っている私達だけれど新作はまた別だ。セドリックも凄く楽しそうに一つ一つ味わっている。


「は……ハリソン先輩はどのお菓子がお好みですか?甘いのとかしょっぱいのとか……」

「どれでも食せます」

ぐう。

ちょっとでも楽しんで貰えたらとお菓子プレゼンを試みたけれど駄目だった。

学校の先輩とはいえ、王族として敬語を使ってくれるハリソン先輩だけれどなかなか話す機会がない。アラン先輩とかは気さくに話してくれるけど、ハリソン先輩は一言二言で毎回去ってしまう。嫌われているわけではない……というか、一応好かれているとアラン先輩は言っていたけれど相変わらず読めない。


「ハリソンは本当好き嫌いしねぇよなぁ。この間激辛スナック食わせた時も顔色一つ変えなかったし」

「アラン、ハリソンで遊ぶな」

「あのスナック、騎士部の全員が火を吐いていましたよ……」

「そんなに辛い菓子とは……商品名をお聞かせ願えますでしょうか」

「〝激震辛さ十倍ハバネロ増し増し地獄キムチスナック〟だ。俺もアーサーに道連れにされた」

騎士部の皆に続いてセドリックの疑問に答えるステイルに思わずに苦笑する。

確かあれもアラン先輩に貰ったとアーサーが言っていた。辛くて残りが食べられないからと言うアーサーに、ステイルも挑戦心もあったのか食べたけれど一口でダウンだった。速効でお茶を飲んで追加で自販機から珍しく激甘タピオカキャラメルヨーグルトを一気飲みしていたもの。あまりのステイルの反応に、私と辛いの不得意なティアラも怖いもの見たさで挑戦しようとしたけど全力で二人に止められた。

長いお菓子の商品名もきっかり覚えているあたり、ステイルもちょっと根に持っているのかなと思う。アーサーもちゃんと辛いと言っていたし、嘘をついたわけではなかったのだけれど。


「あ、でもハリソンさん固い食い物は割と避けますよね」

じゃがレコとか、せんべいとかと。指折り思い出しながら言うアーサーに、ハリソン先輩が「面倒だ」と切った。若い内から固いものを避ける傾向は少し心配になる。

一応アーサーが提供した料理とか食堂の料理とかは残さず食べているらしいけれど、味よりも食感が優先ってまるでおじいちゃんだ。そう思っているとカラム隊長からも「昼食もエネルギーゼリーで済ませているだろう」と指摘が入る。急にサラリーマンの栄養食の登場に、男子寮に食堂があって本当に良かったと痛感する。

ジュースを片手にお菓子を摘み、今度はジャンクの定番であるチキンへ私は手を伸ばした。

そうこうしていれば、あっという間に時間が過ぎた。そろそろかしらとティアラと一緒に周囲を見回していると、蒼い髪の青年がこっちに手を振っているのが見えた。

レオン!と呼びかけ私からも立ち上がると、その背後にもしっかりと三人を引き連れていた。


「ヴァルにセフェクとケメトも無事来てくれましたねっ!」

良かったです!と嬉しそうに声を弾ませるティアラに私も返す。

今日のお花見予定メンバーもこれで全員揃ってくれた。他の皆と違い、「めんどくせぇ」と一度は断ったヴァルだけれどセフェクとケメトの熱烈参加希望に仕方なく折れてあげていた。といっても昨日までずっと「テメェらだけで行けばいいじゃねぇか」とめんどくさがって参加不参加があやふやだったから正直可能性も半々だったけれど。レオンと一緒、ということは一緒に車で乗せてきて貰ったのだろうか。


「遅れてごめん。呼び出しでどうしても今日って言われてしまって」

「何のご用だったのですか⁇」

「どうせまた追っかけのどれかに口説かれたんだろ」

尋ねるティアラに、ケッと吐きつけながら言うヴァルへレオンも眉を垂らして笑うけど否定はしなかった。

流石アネモネ王国の第一王子。休日まで熱烈呼び出しを受けるなんて。

春になると特にレオンは呼び出しシーズンだなと思う。卒業式は先輩に告白されて入学式後には新入生に告白されて猛ラッシュだ。ステイルやセドリック、ティアラに……まぁ何故か私も告白はされるけれど、レオンは特に突撃率が高い。基本的に護衛がついているけれど、それでもファンの追っかけや熱狂的付き纏いが絶えない。

セドリックも入学当初はすごかったけれど、……ティアラに猛烈アタックしては散っているのが校内で有名になりすぎて挑戦者が激減したらしい。まぁライバルが可愛いティアラなら私も心折れるだろうから気持ちはわかる。勝てそうな人を見たことがない。

有名洋菓子店の箱を手土産にレオンも加わって座る中、セフェクとケメトも広げられたお菓子とチキンに誘われ飛び込んだ。お菓子!チキン‼︎と目をきらきらして手を伸ばす彼らに、エリック先輩がお手ふきを先に手渡した。二人に引っ張られる形でヴァルもレオンの隣に足を組む。


「花見ってのに酒はねぇのか」

「お酒は未成年には禁じられています‼︎」

貴方十八でしょう!?と、私から怒るけれどヴァルは完全に馬の耳に念仏だ。

なんでもかんでもお酒をセットにしようとする習慣を本当にやめて欲しい。セフェクとケメトも一緒に住んでいるのだから余計にだ。アラン先輩達なんてお酒が飲める年だけど、私達に配慮してわざわざ無しで通してくれているのに。

ケッ、とまた吐き捨てたヴァルに溜息を吐いてしまう。ケメトが「どうぞ!」とヴァルにお茶が入ったコップを渡すけれど、もうお酒がないだけで不機嫌そのものだ。

とにかく全員揃ったところで主食をと、ティアラからの提案でとうとう保冷バックの中身を私達でお披露目することにした。

日本昔話に出てくるくらいたくさんの肉巻きおにぎりとおいなりさんから始まって、唐揚げの定番から薔薇のトマトとサーモン、お花の形をした煮物に卵焼き、ベーコンポテトに枝豆コロッケ、デザートには林檎ウサギとコンポート。これでもかと豪華お弁当に拘り抜いた大作だ。ここまで一度に色々な種類を作ったこともなかなか無い。

おおおおおおぉぉ!とセドリック達も声が上げて箸を伸ばしてくれた。一部箸がぶつかっている人もいたけれど、取り敢えず皆それぞれ気になる料理から取ってくれる。

デザートを最初に選ぶセフェクが可愛らしい。ケメトが肉巻きおにぎりを頬張る中、ヴァルも片眉を上げながらコロッケを摘まんでいた。さっきよりは機嫌も治ったようで何よりだ。


「アーサー、半分食ってくれ。全部は食い切れない」

「ンじゃお前もこっち半分いるか?」

おいなりさんを手に取るステイルと、肉巻きおにぎりを取るアーサーで視線がぶつかる。

アーサーは問題なく食べきれるのだろうけれど、相変わらずの半分こが仲良くて微笑ましい。おいなりさんは綺麗に手で半分に分けたステイルだけど、肉巻きの方は手で分けるのが難しかったアーサーが一口で半分食べてからそのままステイルに渡した。確かにナイフで切るより簡単ではある。


「やっぱ弁当って言ったら唐揚げだよなぁ。あっエリック!そこのコロッケも取ってくれ。ヴァルに全部食われる」

「わかりました。他に取って欲しい方いたら仰って下さい、自分が取りますので」

アラン隊長、ある意味英断。

他の人と違って気に入ったものを集中攻撃するヴァルの所為で、早速一カ所だけ数がどんどん減っている。セフェクが「ちょっと取り過ぎよ!」と怒ったけれど、全く歯牙にも掛けない。まぁコロッケは彼の為に作ったようなものだから私は気にしないのだけれども。やはり揚げ物需要は高い。


「ヴァル、君他にも食べたらどうだい?この煮物も絶品だよ」

「そう言いながら俺の皿から取っていくんじゃねぇレオン」

「君が取り過ぎなだけだよ」

ほら代わりに、と。

若干箸同士でお行儀悪く攻防戦をしながら、ヴァルの皿からコロッケを捕まえた手先の器用なレオンがそのまま煮物を代わりに積んでいく。

全部野菜なところがレオンもヴァルの栄養バランスを気にしてくれているんだなぁと思う。牙みたいな歯を剥き出しに嫌そうな顔で睨んだヴァルだけど、最終的にはそれも口に放り込んだ。……その間も皿に積んでいたコロッケがセフェクとケメトにも攫われていったけれど。

でも煮物が絶品なのは間違いない。味付けは私がメインだったけれど、可愛い形に切ったのも煮たのも全部


「あっ、あのっ……セドリック王弟も、良かったらどうぞ。お野菜……少ないので」

「‼︎あ、ああ。ありがたく頂く」


ティアラが顔を正反対に向けながら、煮物が入った器だけをセドリックに差し出した。

ぷすぷすと顔に湯気を出しながらも、ちゃんとセドリックの栄養を気にしてくれているティアラはやっぱり天使だ。しかもあの煮物は一番上出来にできたとティアラ自慢の一品だもの。

お花型にハート型にウサギ型と、もう女子力の権化ティアラの見事な大作を前にセドリックも選ぶ箸が嬉しそうだった。

私達と一緒で王族としてああいうキャラ弁に疎かったセドリックには余計目新しくて嬉しい品だろう。あとでこっそりあの煮物が一番ティアラ個人のお手製だと教えてあげよう。……食べる前から野菜の可愛い型を褒めて味を褒めてと大絶賛だったセドリックに、終始顔をぷいっと背け続けていたけれど。

まぁ食べ損なわなかった分幸せだ。私は二人を眺めている間にあっさりとコロッケと唐揚げを食べ損なった。揚げ物と肉の人気恐るべし。


「こちらの卵焼きも美味しいです。以前も頂きましたが、やはり自分はこれが一番好きです」

「!良かったわ。エリック先輩が前回甘めの方をすごく褒めてくれたから、今日も同じ味付けにしてみたの」

にこにことまた褒めてくれたエリック先輩に私も嬉しくなって前のめりに自慢してしまう。

今までも何度かお手製を披露させて貰った皆だけれど、以前に出汁の卵焼きと甘い卵焼きを二種類作ったら甘めの方がエリック先輩に大絶賛して貰えた。どちらの味が喜んで貰えるかわからなくての悩みに悩んでの二種だったけれど、エリック先輩に褒めて貰えたからには一択確定だった。私もティアラも甘めの方が好きだったからそれも含めて嬉しかったもの。

私から予想外の食いつきだったのか、エリック先輩が目を丸くしたまま皿の上に食べかけの卵焼きを落下させてしまった。男性で甘め好きと気付かれたのが恥ずかしかったのか、じわじわと頬を熱らせるエリック先輩に隣でアラン先輩がけらけら笑っていた。

消え入りそうな声で「ありがとうございます……」と言うのが聞こえるところから察すると、私達に気を遣わせたと恐縮したのかもしれない。別に私達がエリック先輩に喜んで欲しくて作っただけだから気にする必要もないのに。


「〜っ……!あっ、あの⁉︎はり、ハリソン先輩もどれかいかがですか?何でも取りますので、無くなる前に」

「必要ない」

慌しく顔の赤いまま尋ねるエリック先輩のお気遣いにハリソン先輩が一刀両断する。

お菓子を広げてからもお弁当を広げてからも自分の皿に何も盛ろうとしないハリソン先輩は、一人お茶のコップを片手にお地蔵のままだ。

するとカラム先輩が数種類おかずをよそった別皿を溜息交じりにアーサーへ手渡した。


「アーサー、すまないがハリソンに渡してくれ。せっかくの料理を食べないなど無礼でしかない。それに腹が減っていないわけがない」

確かに、エネルギーゼリーを昼食にしている人が騎士科の運動量でお腹が減らないとは思えない。

ハリソン先輩に比較席が近いアーサーへ託された皿には、きちんと野菜からお肉にとワンプレートのように料理が味も混ざらないように並べられていた。はい!と二個目の肉巻きおにぎりを咥えながら受け取るアーサーが、腰を上げて端っこのハリソン先輩に歩み寄る。


「っつーわけで食って下さい。せっかくプライド様とティアラが作ってくれたンすから。この唐揚げとかすっげぇ美味かったですよ」

「ならお前が」

「いやハリソンさんの分ですから」

アーサーのお勧めをおねだりと思ったのか、箸で取った唐揚げをそのままアーサーの口に突っ込もうとしたところを手で防がれる。

アーサーもお肉も揚げ物も好きだけれど、ここはきっちり断るのが彼らしい。アーサーに断られると、大人しくそのまま唐揚げを自分の口に放り込むハリソン先輩は見事に無表情だった。もう美味しいかまずいのかもわからない。

アーサーが「どうっすか」と聞いても「唐揚げの味がする」としか答えないハリソン先輩に、苦笑いをしてしまう。まぁその感想で間違いは無い。

そのまま渡された皿の料理は淡々と口に放り込んでいくハリソン先輩に、アーサーもコップへお茶を並々注いでからこちらに戻って来た。帰ってきた瞬間、お弁当箱からおかずが更に数種類消えていることに目を丸くしちゃっていた。

カラム先輩から「すまないな」と言って彼の分のおかずも確保された皿を渡されれば、途端に目を輝かせた。さらにはエリック先輩も自分の皿からカンパしてあげている。


「ぶっ、プライド様も欲しいものはありませんか。せっかく作ってくださったのですから」

「あっ、じゃあ……手前のベーコンポテトを取って貰えるかしら。ちょっと自信作なの」

気遣ってくれるエリック先輩の言葉に甘えて、受け皿を差し出しながら所望する。

ジャガイモもゴロゴロ感にこっそり拘って作った自信作だ。ベーコンと別々に味見したけれど、一緒になったのを食べるのは今が初めてだ。

どうぞ、とエリック先輩がよそってくれた後、自信作発言が効いたのか急激にベーコンポテトの競争率が跳ね上がった。……単純に、自信作と言った私に気を遣ってくれたのかもしれないけれど。

でも自分で食べてみてもなかなかの良い出来だった。冷めてはいるけれどホクホク感もちゃんと出ているし、人気チェーン店にも引けを取らないと自画自賛する。……そういえばさっき広げていたお菓子とチキンと一緒にフライドポテトがあった。


「ごめんなさいアラン先輩、そっちのポテトを取って貰えるかしら」

「ん?ああこっちか」

お弁当を広げた時にお菓子やチキンを一度端によせた所為で遠くなってしまった。

膝元近くにあったそれにアラン先輩もすぐ気が付く。手に持っていた皿を器用に口でくわえ、空けた手でポテトを取ってくれた。「ほいっ」と腕を伸ばして差し出されたポテトを私もそのままパクリと口で受け取る。行儀が悪くても、この面面だと気にする必要もない。


「……プライド。ですから、そういうことを軽はずみにされるのは」

ハァ……と溜息を吐くステイルに早速怒られたけれど。

アラン先輩もカラム先輩に「王女相手にに気安くし過ぎるのは控えろと言っただろう」と同じように怒られている。

でもステイルもアーサーと半分こしているしおあいこだ。ヴァルの皿から誘拐成功したレオンもいる。ステイルだって私とティアラと家ではよくあることだ。

アラン先輩も笑いながら「いやだって学校じゃ普通にって本人の希望だし」と私達からレオン、セドリックへ目で差しながら断った。入学してまもなく、学校ではお気遣いなく普通に接して欲しいと希望した私達王族に、唯一速攻で敬語を外してくれたのはアラン先輩くらいだ。

せっかくのお花見だし無礼講でと、私からもステイルに謝りつつ断る。流石に会食や式典やテレビでは私もしない。

残り半分のポテトは自分の手で持って放り込めば、今度はティアラが「お姉様っ!」と林檎のうさぎをあーんしてくれた。良い林檎を買ったからこちらも美味しい。

私も口の中身を飲み込んでからコンポートをティアラに差し抱けば、可愛い口でぱくりと頬張ってくれた。…………ちょっとセドリックが羨ましそうな目で見ていたけれど、許して欲しい。


「プライド。こっちはもう食べたかい?凄く美味しかったよ」

「!レオン王子までっ……‼︎」


両眉を上げるステイルに、レオンが滑らかな笑みで返すとそのまま薔薇のトマトサーモンを差しだしてくれた。確かにそっちも食べてない。

箸で差し出されたそれに、口をつけちゃうけどいいのかしらと思ったけれど、器用に食べ物だけ私の唇にちょんと当ててくれて事なきを得た。うん、こっちも美味しい。

お弁当箱を見ると、既にトマトサーモンも消えていて、もしかして最後の一個を貰っちゃったのかしらと思う。けどレオンはにこにこと上機嫌で気にしていないようだった。カラム先輩と同じように私の為に取っておいてくれたのかもしれない。

代わりに「僕もそっちのリンゴを貰えるかい?」と希望され、フォークで突き刺して差し出したらお返しとばかりにレオンも直接齧って食べた。やっぱりレオンもこういう無礼講は好きらしい。……林檎を齧る姿すら色っぽくて、間近に長い睫毛と妖艶な空気にうっかりドキドキしたけれど。シャリシャリと齧りながら、色香をぶわりと広げて微笑んでこられたから余計に顔が熱くなった。

レオンの隣、欠伸混じりのヴァルの傍らでセフェクとケメトもお互いに仲良く食べさせ合っている。……真似されているのかしら、と思うとなんだか恥ずかしい。セフェクなんて今は中学生なのに。


ティアラと力を合わせた大作は、それから一時間もしない内に綺麗に完食された。

最後にレオンが持ってきてくれたケーキとセドリックが持ってきてくれた和菓子でお茶をしながら私達は一息吐いた。

どちらもピンク色のお菓子に囲まれて、見上げれば満開の桜と花びらで。ペットボトルのお茶すら高級玉露に感じられるほどの贅沢だった。


……お菓子に主食にデザートでお腹が重くなった私とティアラは、そのまま暫く動けなくなったけれど。


量を制限したステイル達は別として、胃の鍛えられた大食い男性陣がもの凄く羨ましくなった。



明日4/30にラス為コミカライズ2巻が書籍で発売致します…‼︎

2巻も無事発売できたのも皆様のお陰です。本当にありがとうございます。

是非、お家にお迎え頂ければ幸いです。各協力店舗様でペーパー特典もつきます。今回も豪華松浦ぶんこ先生による素敵なイラストです…!


その為、作者もまた特別SSを書き下ろさせて頂きました。

一巻に続き、美しく可憐な戦闘や重要な物語がいくつも描かれる二巻をよろしくお願い致します。

小説を読んでくださっている方々も喜んで頂ける素敵なコミカライズであると同時に、知らない方でも本当に漫画として楽しめる作品になっています。

是非皆様にもお楽しみ頂ければ幸いです。


本当に本当にありがとうございます。

少し時期からずれましたが、お花見のお話になります。

どうぞこれからもラス為をよろしくお願い致します。


皆様に心からの感謝を。

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― 新着の感想 ―
[一言] コミック2巻購入しました あんなに綺麗なイラストを本当にありがとうございます また、小説版の方と照らし合わせながら 読んでみます! これからもずっと応援してます! 素敵な作品ありがとうござい…
[一言] ティアラのいっぱいいっぱいぶりに、何故かバタついてしまいます(笑)可愛すぎでしょう! そしてプライドの相変わらずの鈍っぷり、笑えます!罪ですねぇ(笑) コミカライズの特典も楽しみです♪購入前…
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