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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
私欲少女とさぼり魔

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Ⅱ159.騎士は戸惑う。


……ンで、何がダメだったんだ?


ハァ、と肩を落としながら校庭に引き摺り出されたアーサーは考える。

プライドからの暴投で頭が呆けてから、渡り廊下で待ち合わせていたパウエルと合流し校庭へと出た。アーサーと引き連れる男子達、そして教室からついてきた彼らの大名行列に道行く生徒まで興味本位で付いてくる。歩くごとに人が増えてくる様子にプライドは前世にあった笛吹の童話を思い出したが、こちらでは笛吹が子ども達に引っ張り引き摺り出されている。

校庭に出れば騎士の用具こそ教師に片付けられている途中だったが、授業を担った講師のカラムは居なかったことだけが救いだった。いつもならば昼休みにも意欲的な生徒の為に時間を割いていた彼だが、今回は自身も用事があった為に希望生徒には後日にと断りを入れていた。

生徒が片付け途中だった用具を片付けるのを条件に、教師から校庭の一角を場所を借りることができた。そして今、アーサーは二限と全く同じ場所で大勢の生徒に一定距離から囲まれていた。

何だ何だと、アーサーがこれから何を見せるかわからない生徒も多い。目を丸くさせるパウエルと並び自分を見守るプライドとステイルが視界には届くが、その中心で棒立ちの彼は



自分もまた、何を見せれば良いかわからない。



『では身体を伸ばした後は、軽く校庭を走り込みだ。競争ではない。あくまで無理のない範囲速度で走ること』

先ほどの授業で最初にカラムに指示されたことを思い出す。

軽い体操と基礎鍛錬を終え、走り込み。それから護身用にもなる素手での格闘術を教えられ、最後に模擬剣での一対一の打ち合い。特別講師とはいえ、授業一回目はどの生徒も選択授業でどれを選ぶかの熟考段階である。その中で全生徒が一度だけ受けられる騎士の授業を基礎鍛錬や走り込みのみで終わらせるのはと、カラムと教師が検討した結果だった。

当然のことながら騎士団の早朝演習にも満たない内容だ。しかしこの短時間でここまで効率的に授業内容を構築したのは流石カラムだと、アーサーもステイルも説明を聞きながら同時に思った。

そして授業開始時、最初は体操も加えたストレッチと基礎鍛錬。怪我の予防も含めたそれ自体は、騎士でなくとも肉体労働や身体を鍛える者であれば珍しくないものだ。

そこで、アーサーは最初にやらかした。


「いや本当にすげぇんだよ!俺ちょうど背後にいたんだけどジャックの奴、指二本だけで腕立てしてて!」

あちゃ〜、と男子の話し声を耳だけ傾けて聞きながらプライドは口が笑ってしまう。

ステイルも当時アーサーの隣に居たが、当然のようにそれをするアーサーにてっきり敢えてかと思った。片手や逆立ち、指一本でもそれをするいつもの彼と比べれば、むしろ指二本使っているのはまだ目立たないように考えた結果だろうとも。実際、彼の近くに居なければ腕立てのやり方が違うことくらい殆ど気付かれない。全員が同じように自分の腕立てで忙しいのだから。そしてカラムもまたここで注意した方がアーサーを目立たせてしまうと思い、敢えて気付かない振りをした。


マジで⁈すげぇ!いや指二本の振りだろ⁈と生徒達が騒ぎ合う中でステイルの反対隣に立つパウエルは「ジャックすげぇなぁ」と素直に信じた感想を口にした。

プライドとステイルと共に、最前列ではなく少し離れた花壇の段差に腰を下ろして遠目に眺める。ガタイの良いパウエルでは、最前列に並ぶと中等部生徒の視界の邪魔になってしまう。

腰を下ろした位置で充分にアーサーを見守れる位置を取れたプライドは、棒立ちのアーサーがこちらを見た瞬間大きく手を振った。


「走り込みの途中まではまだ、普通な方だったんですけれどね」

ぼそっ、と隣にパウエルもいる為に言葉を選んだステイルへプライドの笑みが苦くなる。

〝まだ〟という台詞に、きっとその時点でもアーサーは抜きん出ていたのだろうと早々に理解した。

当然、潜入という点からも目立ってはいけないとアーサーも授業開始時から理解はしていた。だからこそ全員で走り込みをする時も、別段いつもの騎士団でのペースで走ろうとは思わなかった。本来ならば余裕で生徒達の半周以下で一周を終えてしまう彼は、敢えて集団に紛れるようにステイルと共に同じ速さを保った。後方過ぎず前方過ぎず、中堅の中でも速い方で抑えて駆けていた。

しかし、途中で自分達の後方を走っていた生徒が転倒してからが問題だった。

勢いよく正面から転び倒れた背後の生徒に、アーサーはすぐさま気付き当然のように足を止め後退した。「大丈夫っすか⁈」と他にも何人か友人の生徒が足を緩める中駆け寄り、足を捻ったかもしれないと患部を押さえる男子生徒を彼は



当然のように抱えて走った。



「自分が運びます‼︎」と叫んだアーサーは仮にも同年である男子生徒、しかもしっかりとした体格の青年を両腕で軽々と抱えて迷いなく走り出した。

しかも頭の端には折角のカラムの授業を邪魔はできない、さぼれないと考えてしまった結果駆けたのは医務室の最短ルートではない。真正直に周回ルートに沿ってしっかり一周してからだった。

「待てジャック」と講師であるカラムが止める間もなかった。ゴールした生徒の名前と記録を取る為、転んだ生徒へ駆けつけるのを教師に任せてしまっていた。

〝一般生徒〟であるアーサーは生徒一人を抱えたまま本気で走り出し、先頭を走っていた生徒すら余裕で抜いた。まさか生徒一人を抱えた途端に急速発進して追い抜くとは誰も思わなかった。

最後には茫然とする教師を置いてカラムの元へ一番にゴールを決めた彼は、生徒を医務室に連れて行く旨を早口で伝えると二番目の生徒が到着するより先に医務室へ走り去ってしまった。

もうその時点で、笑いを堪えたステイルも苦笑いを抑えたカラムもアーサーの身体能力を隠し切るのは無理だと半分諦めた。ゴールしたステイルとカラムが目を合わせれば、次の瞬間には互いに無言で小さく頷いた。

ステイルはジャックが山で鍛えていることをゴールした生徒に伝え、カラムは彼らが騒ぎ出すよりも前にと迅速にカリキュラムを進めるべく促した。


「ジャック!格闘術の時にやったアレ見せろよ‼︎」


棒立ちで何をすればと悩み続けるアーサーに、生徒の中からリクエストが飛び出した。

それを受け、やっとアーサーも自分が何をすべきか掴む。「ああ」と一声漏らすと、医務室に生徒を運んで戻ってきた直後のことを思い出した。

十四歳の身体能力とはいえ持ち前の足で早々に授業へ戻ってこれた。しかし医務室に生徒を運び保健医から彼の怪我の具合を聞き、礼儀正しく退室した後も廊下は走らずにを心がけた結果戻ってきた時にはとっくに授業は次に進んでいた。

簡単な拳を突き出された時の避け方と腕や衣服を捕まれた時の対処方法。今後の彼らが身を守る為に覚えて損はないその技術を、カラムが直々に生徒達に手解きしている最中だった。説明が半分近く過ぎてしまっていた為、アーサーから怪我した生徒の状態を聞き終えた教師がカラムの代わりに彼へ追うように手解きをした。


「ええと、じゃあちょっと相手役お願いしても良いっすか?」

リクエストを投げた男子生徒へ手を伸ばし、呼ぶ。

行け行けと友人に押されながら前に出る生徒は、ついさっき受けたばかりの授業の反復を思い出しながらアーサーの正面に立った。そしてカラムに教わったのと同じように身構える彼に、アーサーは最初にゆっくりと拳を伸ばすように突き出した。スローの動きで放たれる拳を生徒は自分から軌道を逸らさせるように横からパシリと弾く。同時に身体を反対横に反らして避け、流れたアーサーの拳を逆に掴み前へと転ばせるように引き込んだ。……ところで


くるんっ、と。


転ぶ筈だった体勢から、前のめりどころか縦に回転するように宙返りをしたアーサーは綺麗に両足で着地した。

その瞬間、囲んでいた生徒達から「おぉ!!」と湧くような歓声が上がり出す。まるで曲芸のように、助走をつけることもなく宙返りで受け身をとったアーサーの姿に拍手まで放たれた。

本来であれば相手の勢いを利用したそこから、転ばせるか蹴りや関節技を決めるなどへ反撃へ至る為の技だ。今回カラムが彼らに教えたのは相手の体勢を崩させるまでの流れだが、アーサーはそこで転ぶどころか体勢を崩すこともなく瞬時に反撃ができる最善体勢での受け身を取っていた。

教師から手解きを受けた時にも、彼は全く同じことをしてみせた。当然ながら教師に生徒へ反撃をするつもりなど全くなかったが、騎士であるアーサーにとっては当たり前の〝受け身〟がそれだった。

一回転してすぐ立ち上がった彼は、平然とした顔で「わかりました。やってみます」と教師へ振り返った。が、教師やその様子を見てしまっていた生徒の目にもわかるほど、アーサーのそれは教師に受けた手解きより遥かに難易度の高い身のこなしだった。


─ ……そぉいやァ、ステイルもこういう受け身はあんま得意じゃねぇっけ。


ただ受け身を取っただけで歓声を浴びてしまったアーサーは、首の後ろを摩りながら考える。

昔からステイルと稽古をする中で、自身が騎士団で学んだ技術を教えてもいた。隊長格になってからは、隊員や時には新兵にも手解きをすることもあった。しかし、ステイルも元々王子としてアーサーと出会う前から護身格闘術や剣の基礎は受けていた。そして本隊騎士ですらない新兵も、騎士団へ入団する為に厳しい試験を突破してきた猛者達である。

幼い頃から剣を教えてくれた父親は騎士団長。そしてゲームの設定でラスボスすら剣で圧倒する〝最強の騎士〟である彼は剣の才能も身体能力も飛び抜け、そして自身は未だ全く自覚がない。そんな中で彼の常識は




かなり、ずれていた。




〝これくらいまぁちょっと身体動かせる奴なら当然できるだろ〟くらいの感覚のものが、常人には目を見張る動きであることを自覚していない。少なくとも彼の所属する騎士団では、今くらいの受け身は誰でもすぐにできるようになる。

戦場では受け身の一つもまともに取れない者はすぐに死んでいく。単に怪我をしない受け身ではなく、そこから反撃や次の行動へ移れる体勢を取るまでが基本だった。騎士団内での手合わせでも、相手の練習台になる為に敢えて攻撃や反撃を受けることはいつものことだが、そこで受け身をとることも当然のことだった。

しかし今こうして彼らの反応と授業時に見た教師の驚愕色になった顔を思い出せば、流石にアーサーも〝他の奴らはできねぇのか〟くらいはわかる。更にはステイルも昔はこのような瞬時に求められる軽業的動きは得意でなかったことを思い出せば、これもそれなりに高等技術な方だったのかくらいは察しがついた。


考えている間も拍手や賞賛が続きぺこぺこと頭を下げるアーサーは、慣れない銀縁の眼鏡の弦を両手で押さえ、また頭ごと下げた。

次第に「もう一回!」というアンコールや、「今度は俺が腕を引っ張ってみたい」「私も」と同じクラスの生徒を中心に手を上げられれば、二つ返事で返してしまう。基本的に人の頼みをあまり断れないアーサーは、そのまま生徒を相手に何度も受け身を取ることになった。

アーサー側からすれば、攻撃でも反撃でもなくただ受け身を取ってみせるだけの動きはお世辞にも格好良いとはいえない。それでも生徒達に頼まれれば、戸惑いこそあっても嫌な顔一つもせず付き合った。

すごい!おおぉっ!一体どうやってんだ⁈と、何度も綺麗に宙返りで着地を取るアーサーに誰もが声を上げる。

その様子を遠巻きで眺めているプライドは、彼らの歓声に紛れさせながらパチパチと手を叩いていた。


「大人気ねジャック」

「すげぇなぁ、俺も騎士の授業は受けたけど皆絶対転びかけたのに」

「ジャックならあれくらいできて当然だ」

フフンッと鼻で笑うように言うステイルの声は、言葉こそ冷たいが上機嫌そのものだった。

それから持ってきたリュックから昼食を取り出すと、プライドへ手渡す。パウエルにも声を掛け、アーサーより一足先にこのまま昼食を済ませるよう促した。アーサーを待てば確実に食事がゆっくりな自分やプライドは食べる時間がなくなることは目に見えている。

また授業中にプライドの腹を鳴らせるような事態は避けなければならない。プライドがサンドイッチを食べてから自分もパンに齧り付く。


「それに、あいつが一番注目を浴びてしまったのはアレではありませんから」


飲み込んでから付け足したステイルの言葉に、プライドとパウエルは同時に振り返った。


Ⅰ39.127番外.247

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― 新着の感想 ―
改めて読み返してみたら アーサーはプライドが騎士団長を救う出来事に立ち会うまで騎士の道から逃げてたから、出来ない側のレベルや気持ちを実体験として持ってるのに今では無自覚に無双するようになっちゃったんだ…
[一言] 逆立ち指立て伏せ……そら目立つわw そして王城騎士団のレベルの高さの一端が垣間見えた。この国の騎士団がバケモノ呼ばわりされる訳だ
[良い点] アーサーめちゃめちゃ格好いいな(*⁰▿⁰*) アーサーにとっては普通…というか初歩的なことでも、一般人からしたら本当は聖騎士の受け身だもんね。 しかもまだあるのか!(笑)
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