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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
勝手少女と式典

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Ⅱ152.貿易王子は尋ねる。


「どうも、ボルドー卿。また本の話に付き合って貰えますか?」


ダンスパーティー後、最後に女王とプライドから学校についての進捗状況が報された後。

来賓との会話もある程度終えた僕は、再び彼のもとに足を運んでいた。僕に気付いて道を開けてくれた来賓に笑みで返し、その中央に囲まれていた彼と話すのも今日は二度目だ。ダンスパーティー前も少し話はしたのだけれど、ダンス後は僕もまた学校見学のことで各国の王侯貴族に囲まれてしまった。一応区切りはつけられたところで彼も大丈夫かなと思えば……予想通りだった。

喜んで、と言葉を返してくれる彼が心なしか安堵しているように見えて、やっぱり足を運んでみて良かったと思う。もう閉幕も行われたにも関わらず、殆どの来賓がまだ帰ろうとはしなかった。無理はない。だって、閉幕前に発表された学校の情報があれだったのだから。


「申し訳ありません、レオン王子殿下……!一度ならず二度までもお手を煩わせてしまうなど」

「気にしないで良いよ。無理もないさ、学校の特別講師に〝カラム隊長〟が配属されたと公的に知られたのだから」

今月に始動した学校〝プラデスト〟

そのカリキュラムと特待生制度の導入。更にはひと月だけ限定でセドリック王弟による特別入学と共に、特別講師として今回カラムの名も挙げられることになった。他にも隣国の同盟国である僕の先行見学も含めてこの一か月間に行われる特別導入の数々はどれも話題に尽きないものばかりだった。

お陰で僕も学校見学を許された身として色々質問が絶えなかった。プライドの元婚約者である僕にはあくまで〝学校見学を許された〟程度の注目だったけれど、カラムはなかなかの大人気だ。


申し訳ありませんと感謝を込めながらも僕に遠慮してくれる彼は、小さく肩を落とした。

元々、プライドの婚約者候補の一人じゃないかと疑われて注目を浴びていた彼だ。その彼がプライドの創設した学校に大きく関わっていると知られたら、鎮火しかけていたそこに再び噂の火種が灯るのは同然のことだった。近衛騎士、ボルドー卿代理、その上に特別講師だ。しかも今回、彼はプライドとまたダンスを踊っている。一番最初に手を二度も取られているアランも一部では噂が台頭してるけれど、今回はカラムが一番かなと思う。そういえば彼が初めてボルドー卿として現れたのもステイル王子の誕生祭だった。


「ステイル様にはまことに申し訳なく思っております。まさか今年までも……」

「今回は別じゃないか。寧ろ君の名前を出すことになったのも……だろう?」

声を潜めながら、敢えて一番大事な部分は止める。

意図を汲み取ったカラムは、言葉を飲み込むと同時に深々と頭を下げた。本当に真面目な人間だなと思う。寧ろ今回は彼が〝ステイル王子達に頼まれた側〟なのに。それでもステイル王子の誕生祭で注目を浴びてしまったことを気にする彼は、表情までも曇らせた。


今回、本来であれば特別講師についての公表も「騎士の一人を派遣」だけで済んだ。

それをわざわざカラムの名を出すことを提案したのは、ステイル王子とジルベール宰相だ。元々は極秘視察中のプライドの護衛という為だけなのに、気が付けばそれ以上の立場を担っている。プライドも本当に良い人間を近衛騎士や候補者にしたなと思う。

残りの婚約者候補二人が何者かはまだ僕もわからないけれど、少なくともカラムは良い人選だ。


「そうそう、ダンスも凄く良かったよ。流石の手並だね」

「!いえ、レオン王子殿下こそ。ティアラ様とのダンス、とても素晴らしいものでした」

角度まで完璧に礼をして恐縮してくれるカラムに僕からも笑みを返す。

……けれど話を変えたことよりも、ダンスの話題にまたカラムの顔が僅かに軋んでしまった。その表情を見てやっと、僕も「あ」と短く思う。もしかして今のを嫌味か何かと勘違いされてしまったかもしれない。

今回、僕はプライドとではなく踊った相手はティアラだけだ。そして逆にカラムは今回プライドと踊っている。ダンスの相手は五人から六人と決まっている中、来賓がいる以上毎回同じ相手としか踊らないわけにもいかない。今回はステイル王子、アラン、カラム、そして来賓から二名の男性の手をプライドは取っていた。

正直、残念と言えばそうだけれど…でも、代わりにティアラが手を取ってくれたし、彼女とのダンスも充分楽しかった。それに前回のプライドの誕生祭では一番最後の栄誉を貰えたし、今までのダンスパーティーの割合としてはかなり……というか確実に多く踊っている。

それでも自分がプライドと踊ってしまったことを気にしたのか、カラムは並んだまま俯きがちに傾けた頭を上げようとしない。ここで僕がもっと褒めてもきっと気負ってしまうだろう。

うーん、とグラスを片手に一度視線を上げる。煌びやかなシャンデリアの輝きを眺めながら、僕が知っているだけでも彼はなかなか苦労をしている。つい二日前のことを思い出せば特に。


「次は君とプライドのダンスの時にティアラと踊ってみたいな。……それこそ贅沢過ぎるかもしれないけれど」

フフッ、と試しに単なる願望を口にしてみる。

謙遜でも冗談でもない僕の本音に、カラムはぱちりと目を丸くしたまま見返してくれた。笑ってしまった笑みをそのままにグラスを軽く掲げて見せれば、今度はちゃんと伝わったらしい。「恐縮です」と頭をまた下げた彼の顔が小さく綻んだ。


「楽しいだろうなぁ。同じ舞台に君がいて、プライドがいてティアラがいて。それにステイル王子もいるなら、最高の贅沢だよ」

「それは私の方かと。そのような豪華な並びに私が紛れるなど考えるだけでも恐縮致します」

「じゃあヴァルも招こうか?」

いえ、それは……、と。軽い冗談にやっとカラムが苦笑気味ではあるけれど笑ってくれた。

口元へグラスを傾ければ、僕に合わせたカラムの方が先に中身がなくなった。すれ違いざまに背の高い給仕係にグラスを預け、流れるように給仕係から新しいグラスを取ればカラムもそれに揃えた。プクプクと底から泡立ったシャンパンを味わえば、今度はカラムから僕に投げ掛けてくれた。


「ところでレオン王子殿下。先日は学校見学にわざわざ御足労頂き、ありがとうございました」

教師達に代わりお礼申し上げます、と深々頭を下げてくれる彼に思わず笑ってしまう。

それこそあんなことがあったのに、それでも感謝して労ってくれるなんてと伝えればカラムは首を横に振って断った。


「教師も生徒も皆、心より喜んでいたことには変わりありません。昨日も職員室どころか職員室全体がレオン王子殿下とティアラ様の話題で溢れかえっていたほどでした。活気も戻り、皆がいきいきとしておりました」

……彼が言うなら本当なのだろうな。

お世辞でもご機嫌取りでも社交辞令でもなく、本当にそうなのだと確信を持てれば胸がホカリと温かくなった。彼が特別講師だと初めて聞いた時は驚いたけれど、とても合っているなと思う。こうして嘘偽り無い教師達の声を聞かせて貰えるのは僕にもプライドにも大きい。


「今度は君の講師姿が見たいな。騎士の授業なんて、僕も一度付けてみて貰いたいくらいだ」

「!いえ、レオン王子殿下が受けるほどのものでは。ですが、また足を御運びの際には是非。生徒達もレオン王子殿下とティアラ様に見守られれば喜ぶでしょう」

「ありがとう。……授業の方はどうだい?」

「問題ありません。殆どの生徒が真面目で、筋が良い者もおります。……。参加者は。……」

「⁇何かあったのかい」

なだらかに会話が続いたところで、急に歯切れが悪くなる。

見ればお酒を飲んでいるのに顔色が火照りと反対に冷めている。彼がお酒に弱く無いことはわかっているけれど、むしろ顔色がさっきより悪い気がする。さっきまで落ち着いた笑みを向けてくれていたのに、急に陰り僅かに両眉まで寄っていた。

問う僕に、いま気が付いたように「!いえ」と短く声を張るカラムは思考ごと言葉を飲み込むように一気にグラスの残りを傾けた。それから溜息ともとれる細い息を吐く彼は、空いた手で前髪を押さえながら口を開く。


「……このひと月で、できる限り教師達の負担を減らせればと思っております。勿論、本来の任務も忘れてはおりませんが」

「君、本当に教師も向いているんじゃないのかい?」

勿論、天職は騎士だろうけれど。

そう誤解がないように重ねながら言えば、カラムは少し難しい顔で首を振った。いえ私では決してと謙遜する彼だけれど、間違いなく彼の今の仕事量はプライドの近衛騎士としても城から派遣された特別講師としても優に域を超えている。

確か三番隊だと聞いたけれど、彼が隊長を務めている騎士隊は恵まれている。ここまで言われている以上の仕事を当然のようにこなして、視野も広く、短期間で成果を出すなんてこれ以上ない有能な人材の証拠だ。

アネモネの騎士団も優秀だという自負はあるけれど、特殊能力抜きでも彼には敵わないかもしれない。……うん。教師、というよりもどんな職務でも彼ならば出世できるだろう。それこそ王配としてもステイル王子やティアラの助けも要らず努め上げられるだろうし、もしくはボルドー卿が今から彼に家を継がせたいと考えても納得できる。彼の兄とはあまり話したことはないけれど、確か落ち着きのあるしっかりとした人だった。よほど家の育て方が良かったのだろうとこっそり感心してしまう。


「……僕も、また何かあったら教えて欲しいな。遠慮はいらないから、気が付いたことがあれば何でも。今回も君からの報告は僕もプライドもとても助かったから」

協力は惜しまないよ、と笑って見せればカラムからも力の抜けた笑みが返された。

グラスを片手に足を進ませ、大広間の中をゆっくりと闊歩する。騎士団の横を抜けたところで、カラムは不思議そうに両眉を上げて僕を見た。

変わらず歩み並んでくれながらも、僕が騎士団へ合流しなかったことが意外らしい。いつもなら、ここで彼と一緒に騎士団に合流するから当然だ。けれど


「…………少し、寄り道しても良いかな。あと一人だけ挨拶したい人がいるんだ」

カラムの疑問に応えるべくそう問いかければ、すぐに了承してくれた。

勿論です、と言いながらそれでもどうして自分までかはわからない顔だ。もうダンスの前にアイビー王家や上層部との挨拶も僕と一緒に終えた彼からすれば、誰が残っているのかといったところなのだろう。この場で教えてあげても良かったけれど、少しの悪戯心が口を噤ませた。

不自然に見られないようにゆったりと歩き、来賓の中心を抜けながら人混みの中に目当ての人物を見つける。その途端カラムは「レオン王子殿下っ……まさか……⁉︎」と声を霞ませた。それでも肩を抱く必要もなく僕に並んでくれる彼の付き合いの良さに、返すよりも先にフフッと笑いが漏れてしまう。


「折角なら、君と一緒の方が良いかなと思って。……その為の公表だろう?」


付き合ってくれるよね?と、言葉にせずに目で求める。

カラムが大きく見開いた目が一瞬、僕の姿を映した。直後には顎を引いて進行方向を見据えた彼は「承知致しました」と頼れる声で頷いてくれた。

ボルドー卿から、一気に騎士隊長の顔つきに戻った彼の横顔は頼もしい。すぐに理解し決断し対応してくれる。王配じゃなかったら次の騎士団長は順当に行けば副団長ではなければ彼だろうかと考える。

覚悟を決めてくれた彼に一言感謝を伝えながら、僕は半分近く残っていたグラスを一息で飲み干した。すれ違いにまた侍女にグラスを変えて貰い、乾杯の準備をする。

行こうか、と。とうとう射程範囲に入る時に声をかければ、彼の背筋が剣のように伸びた。僕もそれに倣い、にこやかな笑みを意識しながら人混みの先へと視線を注ぐ。

僕らが近付いたことで、集まっていた人波もそしてその中央にいた人物も振り返り顔を上げてくれた。どうも、とグラスを掲げながら笑いかければ人の壁が二つに裂けて僕らに道を開ける。一瞬だけ目配せ程度にカラムを見れば、〝ボルドー卿〟がそこにいた。

僕一人でも、……そうでなくてもきっとジルベール宰相あたりが既に探りを入れている。けれど折角ここに役者が二人もいるのだから動かない手はない。こんな機会は滅多にない。僕と、そしてカラムもいれば更に良い。……何より



「どうも。アネモネ王国第一王子、レオン・アドニス・コロナリアと申します。こちらはフリージア王国伯爵家のカラム・ボルドー爵子。……僕らも、少しお時間を頂いて宜しいでしょうか」



もっと、プライドの役に立ちたいからね?


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― 新着の感想 ―
騎士隊長としてだけじゃなく、カラム隊長の人間性をいっぱい褒めてくれて嬉しい レオンありがとう( ´ ` *)
[気になる点]  極悪アダムの潜伏先の国から使者でも来たかな?
[一言] えっ、一体誰と会うの!?…次話の更新予定すぐで良かった!(笑) レオン&カラムのやり取り、なんかキラキラしていて、ときめきます♪レオン視点、カラムの魅力ばっちり引き出してくれますね!しかも、…
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