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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
勝手少女と学友生活

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そして打ち合わせる。


気持ちの良さそうに締めくくったアランに、アーサーは「お疲れ様でした!!」と礼をした。


自分も、そして所属する八番隊の騎士も手伝えなかったがこうしてアランのお陰で彼らの生活が良い方向にいったと思えば感謝しかない。

アーサーへ空いている方の手をヒラヒラさせながら「あいつらもちゃんと甥と姪について言わないでくれたしな」と笑うアランに、アーサーも大きく胸の息を吐き出した。騎士達には無事秘密が隠し通せたことにほっとする。


「プライド様とステイル様はどうだった?今日はお二人とも忙しかっただろ」

あとティアラ様も、と。礼ばかりを言うアーサーに話題を変えるようにアランが声を張る。

片腕からやっと反対の腕も地面に添える動作をした彼は、今度は両親指のみでの腕立てに切り替えた。先ほどよりも負荷のかかるそれに、やはり汗こそ垂らすものの震わすこともなく継続する。


「ええ、はい。ステイルはやっぱ主役だから勿論ですけど、プライド様とティアラ様も今回はわりと忙しそうでしたね」

毎年のことながら忙しく過ごしていたステイルと、そして学校の進捗報告の打ち合わせを行うプライドに次期王妹として務めるティアラ。

更には昨日から様々なイベントが盛り込んできた所為で思考が破裂寸前の彼女らは、息をつく暇もなかったといっても過言ではなかった。

そっかー、と笑いながら返したアランだが、そこから少しだけ口を閉じた。話が終わったのに未だアーサーが戻ろうとしないことに疑問を抱く。

てっきりファーナム姉弟のことだけ聞く為にわざわざ自分を探しに来たのかと思ったが違うらしい。自分が暇な時はこうして鍛錬していることは、騎士達に知られているし場所も大体決まっている。アーサーが自分を見つけ出すことは簡単だ。わざわざ足を運んだというよりも、演習後にちょっと足を伸ばしてみたら居たくらいの感覚で話しかけてくれたのだと思っていた。

しかし、いつもなら大概の騎士は鍛錬中の自分に対して用事が終われば「鍛錬中失礼しました!」と早々に去って行く。礼儀正しいアーサーは特にだ。実際、話しかけてきた時も最初の一声は「鍛錬中に失礼致します」だった。

しかし未だアーサーは去ろうとしない。こうして自分が敢えて黙してもその場を切り上げようとしないのは少し妙だった。

顔の角度を向け、下からアーサーを覗く。すると腕を後ろに組んだまま自分に視線を向け続けているアーサーは唇を絞ったままだった。明らかに何かを言いたいのを躊躇っている様子の彼に、アランは敢えて何の気もない振りで「どうした?」と軽い口調で言ってみる。

何かあったのか、悩みかと。考えている間も彼が口を割るまでは下から目を合わせ続ければ、じわりと口端から次第に彼の口が開いていった。


「あ、の……、……アラン隊長。今日はいつから鍛錬を?」

「演習場に帰ってからすぐだな。一緒に戻った奴らとも門で解散したし」

「始めて何時間くらいっすか」

「もう演習が終わったんなら四時間くらいじゃねぇか?」

「疲れてませんか?」

「いや全然」

珍しい質問をしてくるアーサーに、アランは頭の中だけで首を傾げる。

慣れないことをしたからか演習よりも疲れた騎士も確かに居た。更には貴重な休みの残りは身を休めようと早々に騎士館へ戻った騎士もいる。だが城下に降りたついでに酒場や市場を見て回ることにした騎士も居る中で、アランのように自主鍛錬に戻った騎士も珍しくない。そこから四時間も休息無しで鍛錬しようなどという騎士は彼くらいだが。

しかし自分の鍛錬時間が他の騎士よりも大幅に多いことも、体力が人並み外れていることもアーサーは当然知っている。アラン本人はひけらかさずとも騎士団では有名な話だ。なのに何故今更、そんなことを聞いてくるのかと余計に疑問が深まった。


「そっすか……」

ぼそりと呟くアーサーは、やはりその場を去ろうとしない。

明らかにまだ何かあり、遠慮している様子の後輩に眉を寄せてしまう。むしろさっきよりも余計に踏ん切りが悪くなった様子の彼に一体どうしたのかと思い、そこでふと気がついた。

もしや、と気付いたアランは思いつきのまま念を押すようにアーサーへと言葉を繰り返す。


「いや本当に全然疲れてねぇよ。鍛錬もまだ少ねぇくらいだし、非番だったから早朝演習もなかったしさ」

実際は、早朝演習に出ていない代わりにペンキ屋が開く時間までずっと鍛錬をしていた彼だが、敢えてそこはぼかす。

さらりと言い切る彼にアーサーは「ほんとっすか……?」と少し声調が上がっていった。その反応にアランは予想が当たったと確信を持って逆立ちのままニカッと笑う。

悪巧みを考えたような悪戯っぽい笑みにアーサーが目を見開けば、すぐにまた言葉が続けられた。


「やるか?手合わせ」

「!良いンすか?!」


是非!!と、今度こそ遠慮の暇もなく前のめりに声を上げたアーサーにアランは声に出して笑った。

そっかそっかと言いながら、アーサーのここ最近を振り返る。昨日はファーナム家修繕の後に飲み会、その前日は実家に帰っていた彼は今日もいれたら三日も騎士と手合わせをしていない。

週に二度はハリソンと手合わせをしているが、当然それだけで満足するアーサーでもない。特に最近は極秘任務の為お互い演習の時間が削られることも多かった為、その分を埋めるように近衛騎士同士での手合わせが夜頻繁に行われてもいた。

その中でこの三日間は手合わせがないとなると、流石に疼く。プライドの極秘視察から半日近くは起立も許されないデスクワークを余儀なくされていたのだから。

しかも、今日はアランが休息日。他の騎士相手なら折角の非番に手合わせに付き合って欲しいなど自分からは決して言えないが、ファーナム家でのペンキが終わっても、アランなら鍛錬を欠かさないであろうことはアーサーも予想できていた。ならば一息ついた後にでも手合わせに付き合って貰えないかと思ったが、実際来てみればアランは一息つく間もなく鍛錬の真最中だった。しかもペンキから戻ってずっとこの時間まで鍛錬を続けている。


「あっ……でも良いンすか?アラン隊長まだ鍛錬し足りねぇンですし、そうでなくでもペンキとかずっと働きっぱで……」

はっ!とまた思い出したようにアーサーが遠慮がちに声を漏らす。

ここで自分の手合わせに付き合わせたら残り時間が少なすぎる貴重な彼の休息が余計に削られるのではないか。もしくは彼の大事な鍛錬の時間を削いでしまうことになると思えば、どうにも言い出せなかった。

だが「疲れていない」と言われれば、やはり手合わせをして欲しいという欲求もぬぐえない。しかもエリックはここ最近プライドの奇襲目覚ましと遅くまでアラン達と飲み明かして居た為疲労を癒やすべく早々に部屋へと休み、カラムも学校から戻ってからいつもより疲弊していた。プライド達に尋ねられても彼女らにこれ以上悩みの種を増やさせまいと口を噤んだカラムだったが、演習を終えた後はぐったりと背中からその疲れは明らかだった。

カラムもまたエリックと同じく昨日の飲み会で疲れているのだろうかと考えれば、これから明日の式典に備えて実家に帰らなければならない彼にそこで無神経に引き留められるアーサーではなかった。

そして何より、他の騎士にも頼めば宛てはいくつもあったが、一度アランと手合わせをしたいと思えばどうにも気持ちを切り替えられない。


「全然全然。鍛錬なら一人でもできるしさ、俺も今日は一度も手合わせしてねぇから助かる。剣と素手どっちにする?」

「両方でお願いします!!」

ありがとうございます!!!!と目を輝かせて声を張るアーサーに、アランはひょいっと腕の力だけで地面を突き、跳ね上がった。

逆立ちからくるりと空中で反転するようにして着地した彼は、手の土汚れを叩きながら傍に置いていた剣を取った。よォし!!と覇気のある声を返しながら構えれば、アーサーもすぐに倣う。

タンッ、と試すようにアランから地面を蹴って飛び込んだ瞬間、殆ど同時と思える素早さでアーサーも駆けだした。


「今日はステイル様は良いのか?このままだと遅くなるぞ??」

「大丈夫です!今日は速攻で寝てる筈なンで。誕生祭の前日は絶対すぐ寝るンすよ」

「へぇ、やっぱ例のお楽しみの為か?」

気軽が会話を続けながら、互いの剣が何度も激しく交差する。

金属音がぶつかる度に高く鳴り響き、振動が腕から芯まで響き渡る。アランにとっては今日初めての感覚であるそれはいっそ心地良い。

剣に気を取られている間に足を軽く蹴り出せば見事な反射神経でアーサーが飛び上がった。ある程度手心を加えられていても、アランの一撃は騎士ですら平然としていられる者は少ない。


「ッいえそれもありますが……ッ⁉︎」

跳ねたところで口を動かしたアーサーだが、直後に死角からアランの拳が飛んできた。

鳩尾に真っ直ぐ突き刺さるそれに、流石のアーサーも呻いて短く飛んだ。何とか受け身前に足で着地できたが、膝を折ったまま剣を構えた後は詰まった息を整えることに集中する。そしてその暇を許さないようにアランがまた飛び込んだ。


「〝ありますが〟……なんだ?」

地面を蹴った勢いのまま、また剣をバットのように横殴りにされた。

アーサーも両手で構えた剣で受けたが、そこからは堪えるのがやっとだった。勢いを殺しきれず、膝を突いた状態から今度こそ地面に転がる。

受け身を取り、体勢を今度こそ立て直しながら「ッますがっ……」と続きを言えるように繰り返したが、何を話していたかを忘れてしまう。また元気よく剣を振るってくるアランに、やっぱ強ぇこの人!と心の中で叫ぶ。

騎士団内での常識で考えても、間違いなく四時間鍛錬を続けた後の動きではなかった。


「ほらほら!そんなんじゃまた俺が勝っちまうぞ?剣なら負けねぇんだろ?」

「ッ剣だけなら絶ッッ対負けませんよ!!!!」


ガキィンッッ!とまた剣がぶつかり合う。

今度こそアランの剣を受けきったアーサーが彼の剣を弾き、更に突きを繰り出した。鎧も身に纏っていないアランはそれを背中を反らして避けようとする。しかしアーサーの踏み込みが予想よりも深く、仰け反るだけでは足りず背中から倒れ込んだ。トンットンッ!とそのまま両手を突いて飛び上がり、先ほどの逆立ち状態からと同じように体勢を立て直す。

その隙を狙って今度はアーサーがまた飛び込んだが、既にアランも迎撃体勢が整った後だった。


二時間以上続いた手合わせ後。

礼をして騎士館に戻ろうとするアーサーだったが、アランの「いや俺はもうちょい鍛錬してから」発言と剣を担ぎ演習場の内周走り込みへと去って行く後ろ姿に、騎士として改めて頭が下がった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 騎士の皆さんの体力には、いつも驚かされます!千分の1でもいいから、分けて欲しい…。羨ましいなぁ…。
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