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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
支配少女とキョウダイ

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Ⅱ102.キョウダイは食い縛った。



「ではな、クロイ。明日も宜しく頼むぞ」


そう言い残して特別教室へと去っていくセドリック様を見送った後、頭を下げたまま僕は考える。

しまった、と。

興奮のままに話し過ぎた。これじゃあディオスのことを馬鹿にできない。

顔を上げれば、騎士様と一緒に去っていくセドリック様の後ろ姿があっという間に雑踏に消されていった。

その間にちらちらと僕への視線も集まったけれど、もうさっきまでの大雨みたいな視線と比べれば俄か程度で大して気にならない。人の視線とかあんまり好きじゃなかったし、むしろ肌触りが嫌だった筈なのに完全に麻痺していた。

こそこそと「従者?」「友人⁇」「王族とお知り合いなんて」「貴族か?」「いや確か俺の教室の」と僕の噂をこんな近くで撒いている人までいるのに逃げたいと思うどころか耳を塞ぎたいとも思わない。ただただついさっきまでの出来事が夢か幻のようで頭の処理が追い付かない。一体どうなってるの、なんで、どうして僕はよりによって王族なんかと夢中で話し込んでたわけ⁈

しかも今こうして冷えた頭で考えれば、途中からは殆ど一方的に僕ばっかり話してた!王族を前に聞き手に回るどころかずっと話すとかありえないし‼︎なんであんなにぺらぺら自分のことを話してしまったのかわからない。今まで姉さんやディオスにすらこんな長話したこともないのに。

セドリック様に「そうか」「良い家族だな」「偉いな」「本当にお前は真面目だな」とか言われる度に嬉しくて嬉しくて。

ぐるぐると頭の中で考えている内に、人波が引いてくるのを熱で感じた。

そういえば予鈴がなったんだと思い出し、急いで僕は教室へ戻る為に廊下で急ぐ。足と一緒に必死に頭も回し続けた。

本気で食事に何か自白剤みたいなものでも盛られたんじゃないのかと思う。けど、むしろ毒を盛れるのは毒見役の僕の方だ。ならスプーンを差し出してくれた騎士様かなとも思ったけど、王族ならともかく騎士がそんなことするとは思えない。

記憶を辿り、セドリック様に会ってからの一部始終を出来る限り思い出す。最初に本物の王族が来て、肩を掴まれて引っ張られて、食事はどれがおすすめかとか聞かれて、それであとは


美味しかった。


「〜〜っ」

ふわふわと、あの時の美味しい味が舌の上にまだ余韻が残ってる。すぐにそんなことを思い出している場合じゃないと気が付くけれど、引きずられるようにその後のセドリック様との時間を思い出せば今度は惨めで泣きたくなった。

単にご飯を奢られて、身の上話を聞いて貰って、優しい言葉を掛けられただけ。

子どもでもわかる、うまく丸め込まれてる。なのに、頭が火照るままにずっと流された。そうなってしまうくらいにセドリック様との話は楽しくて信じられないくらい話しやすかった。

僕なんかが王族相手に心理戦とか計算をしようとしていたこと自体が間違いだったんだ。あれもきっと全部計算で何か企みがあるんだと僕は自分に言い聞かす。なのに、頭に何度も何度も過るのは


『ではクロイ、食事にしよう。お前の話も聞かせてくれ』

『お前の道行もまた楽ではない。そして感謝もされている。ただ必要以上に言葉にされないだけだ』

『姉兄のことは好きか?』


ああもう、駄目だ。

本当に本当に意味が分かんない。王族ってのはどうしてみんな‼︎

みんな、あんな言葉だけで人心掌握とかできちゃうの⁈王族ってああいうことばかり城で勉強してるとか⁈疑いたいのに警戒したいのに思い出せば思い出すほどセドリック様を信じたくなる。あの人は本当にただの良い人で、フリージアの庶民の暮らしとかを理解したがっていて、ジャンヌが持ってきたのも本当にただのわりのいい仕事だと思いたい。

そこまで考えてふと、自分の拳がずっと何かを握っていたことを思い出す。軽く力を込め直してみると、チャリッと夢じゃない本物の感触がした。やっぱりあれだけじゃなく、その後のことも現実だ。

階段に辿り着く前に手の中をそっと確認すれば、銀色に輝く貨幣がそこにはあった。今日、ただ食事を運んで食べて話をしただけの代金だ。本当に、ただそれをしただけで稼げてしまった。セドリック様に直接手渡された時はお礼こそ言えたけれど、その金額に茫然としてしまった後は言葉も出なかった。

代金を見つからないようにポケットにねじ込んで、手を離す。固い感触のそれは手放しても薄い布越しに感触が伝わった。

姉さんが丸一日一人で稼いでくれた時や、僕らが二人で必死に力仕事をした時の払いを思い出せばいっそ絶望したくなる。学校にいる間のたったの数時間で、この金額を稼げるとか何?

今こうして思い出してもセドリック様のあの金色の眩さと威厳を放つ笑顔しか思い出せない。

代金を受ける僕を、見下すわけでも偉そうにするわけでもなくちゃんとその手でしっかりと直々に掴んで渡してくれた。一体どうなってるの。これじゃあ本当に僕に都合が良いだけの……


「…………あ」


階段を登ろうと足をかけた時だった。

ちょうど、まるで図ったかのようにジャンヌ達とばったり遭った。そりゃああっちも僕と同じ中等部の二年生だし行先は殆ど一緒なんだから不思議じゃない。けれど、この時に会ったのがすごく嫌。どっかで見てて、偶然の振りして待ち伏せしてたとかじゃないのと思う。ていうか絶対そうでしょ。

僕にあんな無茶ぶりしておいてたなら、遠目に僕が慌てふためくのを見ていて笑っていたに決まっている。

なら、やっぱりセドリック様もグルなのか。仕事は本当でも、その目的は庶民の僕がこうして必死に王族のご機嫌取りをしているのを見て笑う為とか。……うん、ジャンヌ達なら充分にあり得そう。

初対面のディオスを脅したり、弱みを握って僕を脅してくるような人達だ。取り巻きの銀髪眼鏡は姉さん助けてくれたし良い人かもしれないけれどやっぱりジャンヌの言うこと聞いてるっていうことはそういうことなんだろう。じゃあ、やっぱりセドリック様も……、…………。


「どうも、クロイ。仕事はどうだった?無事に続けられそうかしら」


白々しい。

へらりと笑い掛けてくるジャンヌがムカついて仕方がない。僕の目にはどうしても今のジャンヌが僕を嘲笑っているようにしか見えない。あんなに美味くて楽でお金を稼げる仕事に、続けられそうも何もないでしょ。

どうせ僕をあざ笑うのが目当てだとしても、……続けないわけがない。だって笑いものにされていても僕はお金を稼げるし、食費だって浮く。おいしいもの食べさせてもらえて、一生お近づきになれるわけのない王族と話せて、一生分の注目浴びて羨ましがられて、セドリック様とまた話せて、聞いてもらえてそれで


『お前の道行もまた楽ではない』


「…………………………」

……〝続けるよ〟の一言が、最初は口の中で死んだ。

舌を動かしてもどうしようもなく、その言葉を言うことがジャンヌに負けを認めるようで悔しかった。

僕らみたいな立場はどうせ上の人間の玩具で珍しい鑑賞物なんだと。きっとセドリック様にそう思われているとか思うと憎らしくて。なのにどうしてもどうしても、ジャンヌはさておきセドリック様がそんなことを考えていると思えなくて信じたくて堪らない。もう完全にたったあのひと時で完全に僕が掌握されきっていることを思い知るのが屈辱だった。

悔しい。悔しい。悔しい。王族ならともかく、こんな僕らと年も変わらない身分も変わらない女に玩ばれている自分が。

それでも貰ったこの機会を手放せないし、セドリック様をまだ疑いきれない自分がどうしようもなく惨めで。

歯を食い縛り、ジャンヌを睨む。僕はディオスとは違う。安易に暴力なんて振るったりはしない。それにもし殴って今の仕事をやっぱり取り消しにされたら困るのは僕の方だ。こんな稼げる仕事を棒に振るなんてそれこそ馬鹿だ。……けれど、今ならディオスがこいつを殴ろうとした気持ちもわかる。

暴力以外の全てでこんな女に勝てないことが死にたくなるほどに悔しいし恥ずかしい。

「え⁇」とまた白々しく聞き返される。その反応に、僕の中で沸騰しきっていたもの全てが破裂して火になった。


「続けるよ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」


くそっ。

拳の代わりに声で殴りつけ、取り巻きに反撃される前に僕は階段を上った。

まだ内側が茹り切っていて、熱も冷めないどころか言葉にした瞬間追うように前上がって苛々して、一人で吠える代わりに足を踏み鳴らして堪えた。ガンガンガン、と家の中でもディオスと喧嘩しても一度もやったことのない足踏みで八つ当たる。

そうだ、八つ当たりだ。

自分がやっていることがどうしようもなく八つ当たりで、こじつけで、まだ何の証拠もないし妄想かもしれないのに感情ばかりが沸いて止まらなかった。

こうやって頭が燃えながら、視界が滲んで目元まで熱くなって力任せに拳で擦る。泣いている自分がまたもう一つ惨めに思えて余計にジャンヌへの憎しみが煮立った。今一人殺したい人はと聞かれたら絶対僕は迷えない。

惨めで、悔しくて、苛ついて、殺したいほど憎らしくてむかついて、腹が立って泣きたくなって仕方ないくらい昼休みのあのひと時が



温かくて、幸せだった。



まるで、家族五人で過ごせた遠い記憶みたいに。

……お陰でこんな都合が良すぎる話があるわけないと、確信できてしまった。

今の幸せも、見えた希望も、温かさも。全てがあの女に最後に嘲笑われる為だけのものだと思うと、自分が死ぬほどみじめで滑稽な道化に思えた。だって、金も時間も自由もない僕らには選択肢なんてないんだから。

仕事を選ぶ権利だってまだない。それがいつか欲しくて学校に通い始めたのに、その学校でこんなことなるなんて馬鹿だし惨めだ。やっぱり僕らなんてどう頑張ってもそこからは抜け出せないんだ。

そして、確信しても尚それに縋りついて泥の中から金を手探る僕は、本当に人生の敗者だとわかりきったことを改めて思い知る。


「……くそっ」

瞼を強く瞑って、溢れる涙をまた絞る。


いっそ、ディオスみたいに純粋に人の好意を受け入れられたら、今だけでも幸せだったのに。


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