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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
支配少女とキョウダイ

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Ⅱ97.義弟と騎士は反省する。


「ちょ、ちょっと待ってくださいジャンヌだけ何処に……⁈」


エリックの弟でもあるキースに腕を掴まれ、共に引きずられたステイルとアーサーはかなり焦った。

特にステイルに至っては大分狼狽えた。元はと言えば、今回最も責任を問われるべきはステイルである。

自分からエリックとアーサーへ朝の登校時間が早まると連絡を請け負ったステイルだったが、直接会いに行くつもりだったアーサーと違いエリックへはカードだけで済ませるつもりだった。

早朝に時間が早まったことと、時間の指定だけを書き記したカードをエリックの元へ瞬間移動させる。それだけの単純な作業だった。しかし、その単純な作業だったからこそ昨晩のステイルは怠った。ペンとカードをいつものように上着のポケットに備えたことだけ確認した彼は、エリックへの連絡よりも先に酒瓶片手にアーサーの元へ瞬間移動した。

本来ならばそこでアーサーから飲みに付き合うことの了承を得て、彼が自分と飲むまでの準備を整える間に迅速に済ませて終える筈だった。しかし、ステイルの異常にすぐ気がついたアーサーが畑仕事も後回しにして対応した結果、ステイルは完全にエリックへの連絡を忘れてしまった。

ギルクリスト家に到着した直後からもしやと嫌な予感が駆け巡り反射的に昨日の上着ではない自分の服を叩いたが、あるのは昨日とは別のペンとカードのみ。しかし、それを見たアーサーは、今朝ステイルが忘れていった上着のポケットに何があったかをはっきりと思い出した。

アーサーにもこの時点で責任などない。彼はステイルがエリックへ連絡役を買って出ていたことすら知らなかったのだから。完全にステイルの大失態である。


「お前らはその間に朝食手伝えよー」

瞬間移動を使ってキースの手から抜け逃れることはできたが、あくまで自分達はアランの身内として世話になっている子ども。ここでエリックの身内に不興を買うわけにも、過剰な行動を取るわけにもいかない。

しかし、そうしている間にもキースに耳打ちされたプライドは階段を登っていってしまう。しかも心配するステイルとアーサーへ手まで振る始末だ。「違う」と二人も声を上げようとしたが、それもプライドの登る音で阻まれた。そのまま階段の上へと姿を消せば、もう引き摺られたまま言葉が出ない。

顔色だけが悪くなっていく二人に、キースは少しだけ悪いなと笑いながらも肩を叩いた。そのまま一人朝食の準備を始める為に火を起こす。実際はジャンヌへの言い訳の為だけで、わざわざ客人に朝食を手伝わせようとは彼も思ってはいなかった。何も知らないキースの目から見ても、ジャンヌを過保護と思えるほど大事に思っていると察せられるフィリップとジャックに、ただ安心させるべく言葉をかける。


「大丈夫大丈夫。うちの兄貴は寝ぼけて女の子に手を出すような奴じゃないから」

その言葉に、ステイルとアーサーは答えない。

口を噤んだまま茫然と心配そうに階段を見つめている。この場で全速力で駆け上りたい衝動を抑え、何よりも心臓がバクバクとうるさく喉まで鳴らしてしまう。

顔色が悪かった二人がだんだんと赤みまで増していくことにキースは「初々しいな」とまで思う。その間にも「死にますから‼」「ジャンヌ!起こすだけですよ⁈」と元気に吠える二人に温かな眼差しを注ぐ。ポットに火をかけ、湯が沸くまで二人に一個ずつ果物を差し出しながらのんびり彼らの前で顔を洗い、身支度を進めるキースは言葉を続けた。

「ジャンヌも良い子だし、兄貴を起こさせて〝やる〟ぐらい我慢してやれよ。送迎以外は殆どお前ら独り占めなんだし」

大人の男性として、一度は通る道だと言わんばかりに諭すキースにステイルとアーサーは


─ 違う!そうじゃない‼︎‼︎

─ そォいう問題じゃねぇンすよ‼︎‼︎


心の中だけで、叫ぶ。

実年齢は既に成人を迎えている二人はよくわかっている。あの日を境にキースがプライドとエリックの関係について大変な勘違いをしていることを。


『私、本当にエリック副隊長が大好きなんです』


元はと言えば、キースが送り迎えをするという申し出をそれらしく断る為の方便だった。

そしてそんなことを言えば、誰でもジャンヌがエリックに片思いしていると考えるのは当然だった。そして今も、キースは百パーセントジャンヌへの善意で取り計らっただけだということも二人は理解している。

だからこそ、今も下手に動けない。これがプライドへの悪意や兄への悪戯の為に彼女をけしかけているだけであれば、それらしい理由で今すぐにでも階段を駆け上がれた。

しかしキースからすれば、年頃の少女が都会で優しくしてくれた年の離れた都会の騎士に片思いをしたという甘酸っぱい状況である。兄の過去の恋愛歴を思い起こしても、ジャンヌは兄の恋愛対象ではない。何より、常識を持ち合わせた兄は絶対に十は年下の少女を相手にしない。たとえ遊びでも恋人ごっこでも手を出す人間ではないとよく知っている。告白しても確実にジャンヌは振られるだろうと思う。

更にはキースが知らされているだけでも、ジャンヌがエリックに会える期間は城下に住む親戚の準備ができるまでの一定期間のみ。それを終えれば完全に関係自体が切れてしまう。今が特別なだけで、基本的に実家に殆ど帰らず城の騎士団演習場にいることが多い兄と平日しか現れないジャンヌの接点は無に等しくなる。

ならせめてその短い期間でも、可愛い恋をしてしまった少女に良い思い出を作ってあげたいと思うのはキースにとって至極当然のことだった。だからこそあの日を境に彼はエリックへ自分が送迎をすると言い出すこともきっぱりやめた。


ステイルもアーサーも、キースの善意はわかっている。だがその上で彼らの心配は絶えず、落ち着かない。焦燥を露わにする二人が死ぬほどにその身を心配しているのは



─ 死ぬ!エリック副隊長が、死ぬ……!

─ プライドがエリック副隊長に妙なことをしなければ良いが……!



プライドに起こされる、エリックの方なのだから。

二人も、あのエリックが寝ぼけてでもプライドに手を出すとは微塵も思わない。エリックを慕うアーサーだけでなく、用心深いステイルすらエリックへの信頼は今や確かだった。今までの彼とプライドの様子を見れば、むしろ寝ぼけていようと寝込みだろうと夢だと思っていようとプライドに指一本妙なことなどしないとわかる。

ここでプライドが起こしに行くのが以前のセドリックだったら、二人は確実に脇目も振らずにプライドを守りに向かっていた。しかし、相手はエリック。プライドを慕い、大事に思ってくれる近衛騎士の一人だ。

そして、そんな彼が今のプライドに起こされるなど地獄絵図以外思い浮かばなかった。


「っっっっっプッ、ライド様⁈‼︎‼︎‼︎‼︎」


そして二人の心配した通り、間もなくしてすぐに二階からエリックの絶叫が降ってきた。

あのエリックが十四歳の姿の彼女をプライドと呼んでしまうほど混乱したのだと、すぐに理解した。何の前兆もなく響き渡った叫びとその声の上擦りから、確実にプライドが何かやらかしたなと二人は思う。昨夜に荒れ狂うステイルと撃墜したアーサーが潰れるまで語り続けた話題は当然のことながら二人の記憶に新しい。そして、そんなプライドとエリックを掛け合わせればどうなるかは火を見るより明らかだった。

兄の危機とも知らず、一人分のコーヒーを淹れたキースは「うわー……」と気まずそうな表情を浮かべ出す。


「プライド様の夢でも見てたのか……?折角ジャンヌが起こしてくれたのに他の女と間違うなよ……」

本人です、と。ステイルとアーサーはキースの言葉に頭の中だけで言葉を揃えた。

ジャンヌに同情するキースに対し、逆にステイルとアーサーの方が謝りたくなる。彼には絶対にジャンヌの正体は教えてはならないと思った。第一王女を兄にけしかけたなど、不敬罪で極刑でもおかしくない。真面目なエリックの弟であるキースもそんなことを知れば確実に取り乱すと確信する。取り敢えずエリックに元気過ぎる声を上げる程度の余裕があることに、ステイルとアーサーが胸を撫で下ろしたのも束の間だった。


「キーーース‼︎ジャック‼︎‼︎お前達何を考えているんだ⁈」


エリックの珍しすぎる怒号にアーサーの背筋がビビッと上がる。

称号こそ隊長である己の方がエリックより上のアーサーだが、彼にとってエリックは尊敬する先輩の一人である。新兵時代から一度もここまで凄まじい怒号で怒るエリックの声を聞いたことがないアーサーは、顔色から血の気が引いていった。エリックの怒りは確実にプライドをけしかけたキースとそしてそれを止めきれなかった自分へ向いていると理解する。

兄の怒号を大して気にしないキースは、カップのコーヒーを味わいながら「大丈夫大丈夫、子ども相手に本気で怒る人じゃないって」とアーサーに笑いかけたが、実際のアーサーは子どもでもなければ騎士団の後輩だ。


「まぁ、お前らは良かったよな。やっぱり兄貴とジャンヌに何も起こらなかっただろ?」

あの怒鳴り声からしても、と。

そう笑うキースにステイルもアーサーも返事の気力がない。寧ろ、今のエリックの怒号で確実にプライドが何かやらかしたのだとわかってしまった。救いはエリックの生存確認ができたことぐらいだ。

それから程なくして階段を降りてきたプライドを迎えた二人は、敢えて詳細は聞かなかった。ただでさえ被害者のエリックに、プライドとキースを止められなかった自分達が詳しいことを聞くのは酷すぎる。


「急いで準備して下さるって。ごめんなさい、よく眠っていたから少し驚かせてしまったわ」


それだけ確認できた二人は、せめてこれ以上エリックが煩わされないようにと行動を決めた。

エリックに怒鳴られたアーサーも積極的にエリックの母親に朝の支度をと部屋の掃除を手伝ったが、今回の元凶であるステイルもエリックが直接説明を求められる前に事情をギルクリスト家へ説明した。その後には掃除を任されたアーサーに倣い、第一王子が起きてきたエリックの両親へコーヒーまで淹れ始める。エリックへの罪悪感から流石に何もせずに寛ぐことはできなかった。

それから十分経つより先に、着替えを終えて騎士の格好で階段をフラフラと降りてきたエリックに三人揃って背筋が電流でも走ったかのようにピシリと伸びた。ギルクリスト家の人間がいる前では正直に謝罪も本当の事情説明もできはしない。

「おはようございます」「朝からすみません」しか言えない三人に、エリックの目は若干据わっていた。恐ろしいほど口数の少なかったエリックがプライドすら少し怖かった。

降りてきたエリックが唯一朝の挨拶以外で溢した独り言は「キース、逃げたな……」という低い声だけだった。

騎士の装いとは別に片手に分厚い手帳を携えたエリックは、それを団服の中にしまうと一階で顔を洗い、最後の身支度を済ませる。そして殆ど無言のまま早足でプライド達に玄関の扉を開けた。

視界にプライドを捉えてしまった途端エリックの顔が茹で蛸のように赤くなった瞬間、アーサーもステイルも平謝りするしかないと改めて決めた。ステイルのうっかりミスと、どうせ間違いは起こらないという近衛騎士への人間性の信頼の結果、全ての皺寄せが何も責任のないエリックへと寄ってしまったのだから。


結果として予定時間を遅らせずに学校へ向かえた四人だったが、早朝の晴れた青空とは対照的に誰一人顔色の良い者はいなかった。


Ⅱ48

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― 新着の感想 ―
[一言] この話に登場する男たちに「いちいちそこまで過剰に赤面するなよ」って思ったりするが…… これは仕方ないw
[一言] うわ……空も青いしみんなの顔も青い、いい天気ですね〜
[良い点] エリックさん視点めちゃくちゃ読みたいです。 今まで断然ヴァルを応援していましたが今回の流れが心に刺さりすぎてエリック派に乗り換え間近です・・・!違う視点でも読みたくなって今何度目かの最初か…
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