表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壁の上の天国  作者: ASH
2/5

13歳《13m》

 朝の病院。


 通常の病棟から100m東にある、体育館ほどの馬鹿でかい小屋が、僕の個別病室だ。その真ん中にあるベットで、僕は本を読んでいた。

 すると、30m先にある部屋のドアが「ギィ」と開く音がした。見ると、担当の看護婦さんが朝ごはんを持って立っていた。


「幸樹くーん!!!!今日のご飯だよー!!!!!」


 彼女はそう僕に叫んだ後、いつも通り、ドアを開けてすぐのところにあるベルトコンベアーにそれを置いた。僕がベット脇のスイッチを押すと、ベルトコンベアーが動き出し、やがて朝ごはんが僕のベット脇に運ばれてきた。

 温かいご飯と、温かい味噌汁と、少量のサラダ。

 僕は、1日に3回もらえる自分以外の温かみを、ゆっくりじっくりと味わう。


 そして食べ終わったら同じように皿をベルトコンベアーに置いて、ボタンを押す。

「じゃあね〜。」

 空になった皿を持って出ていく看護婦さんを見送ってから、僕はまた本に目を落とした。



 僕は子供の頃から、ある特徴を持って生きてきた。


 それは、体をグルッと囲むように張られた、動物を拒む透明なドーム状のバリアだ。

 このバリアに当たった人は、まるでそこに壁があるかのように阻まれる。犬や猫が少し離れた場所で、バリアに体を押し付けて腹をこちらに見せてくるシーンも何度も見てきた。

 そのたびに僕は、孤独感を募らせていった。


 バリアは1歳の頃に発生し、以来1年ごとに半径1m分、ドームは広くなっている。つまり13歳の今は、13mだ。


 このバリアのせいで、僕は1歳の時から誰とも触れ合わずに過ごしてきた。だから、『人の温かみ』なんてものはとっくに忘れてしまった。

 もちろん、13m先から掛けられる言葉から、人の優しさや思いやり、同情の心は受け取れる。でも、それを『温かい』と感じることは出来ない。人の『温かさ』がわからないのだから、当然だ。

 そして『温かさ』を知らない僕は、他人に『温かさ』を向けることが出来ない。そんな奴に友達などできるはずがない。というより、元々1歳から病院の特別病室にいるので、人に会う機会なんて滅多にない。会うのはせいぜい、担当の看護婦さんと、やってきて『同情』を押し売り帰っていく人間と、13m先から授業をする個人教師くらいだ。


 親は、僕が5歳の時に離婚した。


 結局最後までその理由は明らかにしなかったが、恐らく僕のせいだ。

 そして、親のどちらも僕を引き取ってはくれなかった。

 僕がずっと病院にいるからというのもあるだろうが、それより恐らく、親は完璧に0に戻したかったのだろう。僕のせいで−1されていた人生を。


 だが幸か不幸か、その時すでに冷え切っていた心は、もうそれ以上冷めることは、無かった。






「ふぅ・・・」

 僕は、読んでいた本を読み終わり、一息ついた。どこにでもある、陳腐なラブストーリー。開放的な女の子が、閉鎖的な男の子と徐々に仲良くなる話。そして、当たり前のように幸せになって、終わる話。

(彼女なら、僕に『温かみ』をくれるのかな?)


 でも、絶対に僕にハッピーエンドはありえない。


 そう思いながら、僕は次の本に手を伸ばした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ