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エレメンツハンター  作者: 柏倉
第2部 ルリタテハ王国の神様の所業
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終章 ルリタテハ王国の神様の所業(2)

 アキトと優空は、他愛もない親子の会話をしながらスペースステーションの通路を移動している。

 上品な言葉遣いに機知に富んだ話、機微な感情の交換、洗練された仕草。何処から見ても上流階級の父と息子であった。ただ息子は・・・アキトは暗赤色のスペースアンダーの上に、一目でトレジャーハンターとわかる装備を身につけていた。

 今のアキトからは、世間一般で、粗野なイメージのトレジャーハンターとは一線を画していた。

「ここ3週間ぐらいレポートの作成で大変だったろう。体調は大丈夫かい、空人」

 アキトは今回のトレジャーハンティングで得た知見を、細大漏らさずレポートとして提出するよう命じられていた。命じたのは、新技術開発研究グループの持株会社”新技術開発研究統括株式会社”の会長”蒼空そうあ”に社長の”晴空せいあ”と優空である。

 レポート提出を労いながらも、優空はアキトに探りを入れる。

「何も問題ありません、お父様。自分の得た知見が、新開グループの役に立つのは大変喜ばしく感じています」

 アキトの真意を言葉にすると《体調は大丈夫。レポートが新開グループの役に立ってるんだから、ヒメシロでは自由にするぜ》となる。

 惑星ヒメシロへの帰途、アキトは全力でレポート作成をした。それは、実家にかなり迷惑をかけた罪滅ぼしというか、負い目からである。

 守護職任命をめぐり蒼空とジンの間で、激しい議論の応酬があった。一歩間違えれば、ルリタテハ王国で内乱・・・というより内戦に発展しかねない程だったと、父親から言い聞かされたのだ。

 それにアキトは、ルリタテハ王国王家守護職五位に任命され、ルリタテハ王国の門外不出の機密の塊であるGE計測分析機器を改造した。

 いくら任命理由に瑕疵があっても・・・、王族とGE計測分析機器改造の契約を交わしたとしても・・・、アキトを完全に自由の身とするのは困難を極める。その困難に新開家と新開グループが一丸となって、今も交渉しているのだ。

 3週間全力でレポートを作成したぐらいで、帳消しになるはずがない。

「それは良かった。何をするにしても体が資本になるからね。父親として子供が心身共に健康なのは、何よりも嬉しいよ。空人には、もっと喜んでもらえるよう、新開グループが全力でもって準備している」

《体調に問題ないなら、3週間のレポート以上の成果が期待できる。その為の準備は、新開グループの人物金と情報を総動員したからね。健康を害さない範囲で働いてもらおう》

 予め手配していた貴賓車両へと、優空はアキトたちを案内した。

 高価な貴賓車両を手配してまで、お父様は時間を買ったようだ。オレが新開家を離れてから4年以上、自立してから1年以上が経つ。こういう新開グループの節約意識に乏しいところが嫌になる。

 あの貴賓車両は、スペースステーションからシロカベン宇宙港へは、シャトルの一番良い位置にドッキングする。シロカベン宇宙港からはオリハルコンロードへと、そのまま貴賓車両で入り、運行することが可能なのである。そう、要は滅茶苦茶お金がかかる。

 独立トレジャーハンターとして活動していたオレには、理解に苦しむコスト意識の低い金遣いだった。

「さて・・・こっちだよ、空人。1時間ぐらいあるしね」

 相変わらず優しい声色で柔らかい口調なのだが、有無を言わせない迫力があった。ゆったりとした大きさの1人用ソファーがボックスシートに4人分配置されている。オレは仕方なく、言われたとおり、お父様の対面のソファーに腰を下ろす。座った瞬間、ボックスシート全体に遮音フィールドが、通路側全体に半透明の映像障壁が形成されたのだ。

「さて、ここからは本題だ。いいかい、空人。家との約束を違え、ルリタテハ王家に守護職として勝手に仕え、幾度も命の危機を迎えたね。父親としては、もう見過ごせない」

 全くもって不味いぜ。どう切り返すか?

《約束を違えた覚えはないです》

 約束の内容と事実を並べ立てられ、事細かに違いを指摘されるだろうな。

《些細な危機です》

 ミルキーウェイギャラクシー帝国や、民主主義国連合のTheWOCの軍隊との戦闘は知られているし、それ以外も怪しいぜ。お宝屋は新開家に雇われたスパイだったしな。

 ここはお父様の・・・新開家の出方を窺うべきだな。・・・というより、対応策はない。

「見過ごせない。なら、オレの処遇は?」

「残念だけど、決まってないね」

「決まってない?」

 珍しいことだった。

 大事な話は充分に吟味し、結論ありきで進めるのが新開家の流儀。

 もちろん反対意見に訊くべき部分があれば取り入れるし、撤回することもある。しかし、決まっていないということは、一族で検討したにもかかわらず意見を集約できなかったということだ。

「ルリタテハ王家との交渉が難航していてね」

 違った。

 もっと質が悪かった。

 つまり、どんな処遇となってもオレに拒否権はない・・・ということか。

「いいかい。一番の問題は、空人がGE計測分析機器に、新開グループのオリハルコン次世代制御システム”ダークゼータシステム”を搭載したことでね。権利関係が複雑になりすぎた。上手に収めないと、今後30年は特許紛争が続くね」

 あぁあああーーーそういえば・・・。

 七福神ロボにダークゼータシステムが使用されていたから、カミカゼのダークゼータシステムを取り外してGE計測分析機器に搭載したっけ・・・。それでオリハルコン同士の通信が可能になっただけでなく、システムとして機能したんだぜ。

「新開家は子供の独立心を否定しない。寧ろ推奨している。ただね、大学進学前にルリシジミ星系外で学校に通うのは前代未聞。しかも空人は、新開グループの進出していない星系を選んだ。いいかい。それでも許可したのは、大学進学が1,2年遅れても空人の為になると考えたからなんだ」

「お父様には感謝しています」

 感謝の気持ちを込めて答えたつもりだが、お父様の表情を見るに棒読みだったらしい。

「ふぅーーっ」

 深い溜息の後、優空は言葉を継ぐ。

「新開家の直系を・・・しかも未成年者を、本当に一人にして放っておいたと思うのかい? 24時間、陰ながら支援してた。つまり、お宝屋は目につき易くした表向きの支援役。裏では別動隊として20人以上の支援要員が動いていた」

 驚愕で声にならな。

 なんて大袈裟な・・・。

「今では、一桁少なかったいうのが新開家で主流な意見だね」

「どうして・・・」

「新開家恒例の5年間の自由期間を義務教育後すぐに申請したのも前代未聞なら、トレジャーハンターになったのも前代未聞。新開家の今までの前代未聞数を、空人一人で越えるだろうね、と冗談交じりに話してたが・・・ここ一年の活躍は凄まじいものだった。たぶん更新したろうね」

「そうかな・・・」

 アキトは内容のない言葉しか発せないでいた。

「その上、トレジャーハンターの資格を取得し、独立するとはね」

「まあ、資格取得は比較的簡単でした」

「いいかい、空人。褒めてはいないんだよ。ライコウを購入して独立した時は、対応に、本当に苦労してね。最終的には新開グループが水龍カンパニーと不本意な代理店契約を締結したんだ」

「えっ・・・なんで? 独立と水龍カンパニーは関係ないかと・・・」

 あまりの衝撃に、アキトの言葉遣いが悪くなっていた。

「中古船のライコウは、パーツ取り推奨となってたね」

「だから?」

「いいかい。中古船でパーツ取り推奨とは、まともに航海できないという意味なんだ。しかも新開グループ製でないから、アキトがメンテナンスできない」

「ん?」

「だから、新開グループ製の中古部品を水龍カンパニーに供給して装備を入れ替え、恒星間航行可能にメンテナンスしてもらった。いいかい、空人には内緒で協力してもらう交換条件として、ヒメシロ星系で一部の新開グループ製品の独占販売契約を締結したんだ」

 あー、なるほど。

 ライコウの修理・・・マニュアル片手でオレがやれたのは、新開グループ製だったからか・・・。宝船も新開グループ製。ユキヒョウは新開グループ製ではないから、技術的な違和感が半端なかったなぁーーー。

 アキトの思考が逃避気味になっていく。

 しかし優空の説明・・・というより説教は止まらない。

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