終章 ルリタテハ王国の神様の所業(1)
宝船が惑星ヒメシロのスペースステーションに入港した。当然、ユキヒョウとは別のスペースステーションになる。何しろユキヒョウは軍港に入港しなければならないからだ。
入港の手続き終え、宝船はスペースステーションとエアロックを接続した。
アキトは先頭に立ちエアロックを通り抜け、待機所へと足を踏む入れた。その瞬間、最近の時空境界突破通信で良く聞いた声がアキトの耳に入る。
「空人、久しぶりだね」
「おっ・・・お父ぉ様ぁあぁーー。・・・何故ヒメシロにいらっしゃるのですか?」
アキト自慢の思考力が追い付かず、目の前の光景を理解できないでいた。アキトの言葉づかいが反射的にか、新開家にいる時に戻っていた。
「そうだ、剛くん。ヘル博士を紹介してくれないか。その際、新開グループが計測器をご用意したいと伝えて欲しい。そうすれば円滑にことが進むだろうね」
にこやかな表情でアキトの父親である新開優空が翔太と千沙に話しかける。
「やあ、初めまして。宝翔太くんに宝千沙さんだね。息子がお世話になっています」
「うんうん、任せてください。一緒に愉しくトレジャーハンティングしてますよ。最近はトレジャーハンターではなく、傭兵になったような気がするけどさ」
「ア、アキトくんのお父様・・・は、初めまして、アァ、アタシは宝千沙です。不束者ですが、今後とも末永くよろしくお願いします」
「あ、うん。2人とも空人と仲良くしてやってくれると嬉しいね」
「ハッ、ハイ」
「僕とアキトは永遠の友だからね。心配はいらないさ」
いいや、永遠の友じゃねーし。オレの命は危険で一杯、心配だらけだぜ。
「剛くんに伝えてあるけど、これから昼食を共にしよう。移動する間、彼らが君達と会話をしたいそうでね。相手をして欲しい」
スカイブルー、パールホワイト、翡翠色を各所に配色し、作業服であるのにデザイン性の高い服装の男女2人が現れた。宝船の開発責任者のラルフ・スタインマン統括と七福神ロボのガブリエラ・ミストラル技術統括である。
2人は早歩きで翔太と千沙に近づき、20インチぐらいのペーパーディスプレイをそれぞれに押し付けた。ディスプレイには予め宝船からデータをダウンロードしておいた。そのデータは既に加工され、分析に必要なのは、他に操縦者と乗組員からの情報だけであった。
「時間ないから、さっさと吐きなよ」
「僕に対する態度が酷いなぁー。まるで犯罪者みたいじゃないか」
「犯罪者よ。アンタはアタシの作品を破壊したんだからね」
「いやいや、ガブリエラちゃんさ。破壊したのはTheWOCの心なき私設軍隊なんだよねぇー」
「いいから、訊かれたことに答えな」
気楽そうな会話を繰り広げる翔太とガブリエラとは対照的に、ラルフは真剣に千沙に話しかけている。ただラルフは気が急いていたようで、会話の目的を話さず千沙へと質問したため、質疑応答の成立を難しくしていたようだ。
「宝船が時空境界突破した後、どこかに異常は出なかったかい?」
「う~ん、あたしは別に大丈夫だけど・・・」
「それ良かった。それで宝船に異常はなかったかい?」
「異常じゃないけど、お風呂が足りないの。男風呂と女風呂を用意して欲しい」
「それは善処しよう。前の宝船と比較するとエンジンの出力が倍近くになったはず・・・安定してただろうか?」
「安定・・・?」
「宝船の乗り心地はどうだったかな?」
「う~ん。加速はスムーズになったけど・・・最大出力時に進行方向から微妙にずれてるような気がするの・・・でも、気の所為かも」
「なるほどね。そういう違和感が他にもなかったかい?」
翔太と千沙が宝船の開発関係者らしき男女から、質問攻めにあっている。内容が気になり、お父様が惑星ヒメシロにいるという事実から眼を逸らすように、意識が持っていかれそうになる。しかし、そんなに甘くなかった。
「ようようよう空人ぉお、色々とやらかしたな」
金髪碧眼の初老の男がラルフ・スタインマン統括の背後から姿を現した。
「おかげで新開グループの研究開発者1万人が惑星ヒメシロに移動だ。ワシなんか60過ぎて、初めての単身赴任となったんだ。しっかりと責任を取ってもらうからな」
60歳を過ぎたといっても若々しく、滑舌もはっきりしている。何より10メートル以上離れていたオレの横に駆けるようにやってきた。
新開グループの研究開発員にして、オレの研究開発の師匠でもあるエドバルド・モーセルがいたのだ。エドじぃは惑星シンカイで仕事をしているはずなのに・・・。
「な、何の?」
「新開グループ1万人の生活を変化させ、研究開発を加速させた責任だ。たっぷりと・・・」
「研究開発を加速させたなら貢献では・・・」
アキトの言葉づかいが安定していない。
トレジャーハンティングしている時、惑星ヒメシロで遊んでいる時、新開家に帰宅している時、研究開発している時、それぞれの時で言葉づかいが異なる。
「半端な貢献は罪でしかない」
エドバルドは強い口調で言い切った。
「脳内を隅々まで、洗いざらいワシらに公開しろっ。搾りかすすら残さずに、余さずに研究開発の肥料としてやる」
「あーっと・・・エドじぃ? オレ、レポートは提出したけど」
「まぁーーーったく足りん。大小合わせて、すでに質問が3桁もある」
オレは愕然とした。そのまま特許申請できるぐらいには仕上げたはずだぜ。そのレポートに3桁もの疑問点があるだって?
質問を訊きもせず感情のまま反論しようとした時、待機室にゴウとヘルが入ってきた。
「優空さん。マッドなヘルを連れてきたぞ」
「貴様がアキトの父か・・・新開グループが我輩を満足させる計測器を開発するというのうは、本当だろうな?」
「本当ですともシュテファン・ヘル博士。お会いできて光栄です」
優空が手を差し出し、ヘルと握手を交わす。
あの傍若無人のヘルが、まるで常識人のようだった。
「それでぇえーだぁああ・・・」
やっぱりヘルだ。
「私は新技術開発研究グループ”新技術開発研究株式会社”の代表取締役社長をしている新開優空と申します。それと彼は、新技術開発研究株式会社の研究開発本部”計測機器開発部のダークマター計測グループ”のグループ長で・・・」
「エドバルド・モーセルです。ヘル博士の理論を元に、ヘル博士の必要な計測機器を、ヘル博士の満足する性能で、他のどの企業よりも早くご用意いたします」
「貴様らぁあああ。二言は、ないっなぁあああ」
「ワシを含めて弊社の研究開発者約2000人が、ヘル博士の計測機器を開発します。もちろん二言はありませんとも・・・ただ、ヘル博士の求める計測機器がどのようなものか? 何を計測すれば良いのかご教授いただけないと開発はできません」
「アキトでは解決の目処もたたなかった計測機器。さあぁああ、我輩は貴様ら新開グループに任せるのっだぁあああーーーーっ」
ヘルの叫びに呼応せず、落ち着きを払って優空は説明する。
「すでに惑星ヒメシロにヘル博士専用の研究室と、計測機器開発のための研究開発所を開設しました。新技術開発研究株式会社の約2000人に、ご協力をお願いいたします。ヘル博士のご協力があれば、計測機器をご用意できるでしょう」
優空は、待機室の入口に並んでいた田中耕一を含めた5人の作業員を呼び、ヘルに有無を言わせず話を進める。
「宝船より必要な資材、資料を研究室に運びこませますので、彼らに指示を出してください」
オカシイぜ。新開グループの研究者に隠密の素養は必要なかったはず・・・。
アキトの思考は良い具合に迷走を続けていたのだ。




