第12章 結界攻防戦(18)
今週は短めです。
来週、12章が完了し、4/13から「終章 ”ルリタテハ王国の神様の所業”」を掲載開始します。
コーヒーの香り漂うダイニングルームで、ゴウとアキトが自分達の置かれている現状を認識するため意見を交わしていた。
「残念だったなぁー。出来れば嫌がらせしたかったぜ」
「まったくだ。叩けるときに叩くのが戦闘の基本だからな」
「結界の外だったからね~」
ゴウとアキトは撤退するTheWOCの機動戦闘団を追撃する気はなかった。しかし、嫌がらせをする気は満々であった。少しでも戦力を削りたかったからだ。
「うむ、ジュズマル2機は勿体なかった。・・・だが、結界外では偵察すらも危険なんだと戦力差を知れたのは収穫だったぞ」
結界外に布陣したTheWOCの第1即応機動戦闘団を偵察するため、ジュズマル2機が飛び出していった。しかし、結界外ではTheWOCの索敵網に引っ掛かり、即座に撃墜される破目となった。
「TheWOCに戦力差を誤認させとくためにも追撃が必要だったんだげけどよ・・・」
「余力ないのがバレちゃったね~」
「余力がないのは欺瞞情報だと勘違いさせられないかしら?」
アキトとゴウが真剣な表情で悩む。
1分ぐらいダイニングルームを沈黙が覆っていたが、ゴウが明るい表情で言い放つ。
「ふむ、ムリだ。それは諦めよう」
吹っ切れただけだった。
アキトたちは艦隊を率いて堂々と惑星ヒメジャノメに降り立ったのではなく、敵の目を掻い潜って侵入したのだ。TheWOCは、お宝屋の戦力が潤沢とは想定していなかっただろう。そして、それが今回の戦闘で、露呈してしまったのだ。
「戦力や兵器数の少なさより、やっぱり追撃できなかったのが痛かったな。今後の戦闘でTheWOCは能動的に動けるし、主導権を握られ続けるぜ」
すんなり撤退できると知られてしまった。今後は躊躇なく攻撃を仕掛けられる可能性がでてくる。・・・というか、仕掛けてくるだろう。
不利になれば直ぐに撤退すれば良く、何度も攻勢を仕掛け弱点を探る。弱点が見つけるまでは、アキトたちを休ませず疲労を蓄積させ消耗戦に引きずり込めるのだ。圧倒的な戦力差を活かした嫌がらせは、弱者には悪夢以外の何ものでもない。
「翔太の負担が増えることはあっても、減ることはないよね~。ゴウにぃ、アキト、どうするの?」
アキトとゴウの表情から思考を最大限に巡らせ、解決策を得ようとしているのが見て取れる。
翔太が出て行ってから聞いていた3人の会話に、史帆が感じていた違和感を思わず口にする。
「3人は本当にトレジャーハンター?」
「人型兵器”七福神”を搭載している時点で、トレジャーハンティングユニットではないわ」
トレジャーハンターが行く先で宇宙海賊と遭遇する可能性がある。無論、危険宙域と比較的安全な宙域が存在するので、安全な宙域のみでトレジャーハンティングするユニットもある。・・・というより、そちらが殆どなのだ。
当然お宝屋は少数の方に属している。それ故、宇宙海賊相手のささやかな戦闘対策のために武装していた。
しかし、ミルキーウェイギャラクシー軍との戦闘を経て、武装を充実させすぎた。それに、宝船に追加搭載した汎用量子コンピューターに、古代から現代までの戦略、作戦、戦術などの戦訓をデータベース化して登録されている。
最早トレジャーハンティングユニットと胸を張って言えないと、千沙自身が思っていたのだ。その千沙のセンシティブな思いに史帆と風姫は、土足で踏み込んだ。
「2人とも~・・・あたしはトレジャーハンターなの~。2人とも分かって言ってるよね? ねっ? ねっ? いい? あたしは、ト・レ・ジャー・ハ・ン・ター」
風姫と史帆は地雷を踏み抜いたと覚り、無言で頷くしかなかったのだ。




