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エレメンツハンター  作者: 柏倉
第2部 ルリタテハ王国の神様の所業
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第12章 結界攻防戦(14)

「2個機動戦闘団、それぞれ結界内まで3分、10分」

「起動。毘沙門天、寿老人、恵比寿。封じ込めるぜ!」

『福禄寿は必要ないのかな?』

「後詰め」

『了解さぁー』

 アキトと翔太、千沙が激化するTheWOCとの戦闘に注力している。

 その間、格納庫にもあった8角形の打ち合わせ机で、ゴウと風姫は史帆を待っていた。ゴウから《ここは結界内じゃないぞ》との一言を聞いたヘルは、興味を失ったようで研究論文の執筆に戻った。

 オペレーションルーム内の空気は緊張感に満ち溢れていた。アキトたちは刻々と変化する戦場と策略の実行に数ミリ秒間隔で対応している。翻って、ゴウと風姫は微動だにせずメインディスプレイを眺めている。

 史帆がグラスを1つ手に持ち、開いたオペレーションルームの扉から入ってきた。打ち合わせ机にいるゴウの前にグラスを置き、メインディスプレイの前を通るのを避け、風姫の席の隣に座る。

 それでも、ゴウと風姫はメインディスプレイから視線を外さない。

 分割されたメインディスプレイの中央には、大黒天が米俵ジェットで力強く・・・というより力に任せに、猛スピードで飛行している姿が映し出されている。中央右隣には、大黒天の目からの映像が表示されていて、バイオネッタの1小隊の背後を捉えている。

 その迫力ある映像から視線をムリヤリ剥がすには、史帆の戦闘力は圧倒的に低かった。しかも耳の中へ、ゴウと風姫の興味を引く内容が次から次へと入ってくる。

「1個戦闘団が結界手前で布陣するみたいだよ~。でも、もう1個の方は寿老人方面から結界内に侵入してきたの」

「侵入してこない方は放置・・・もう」

『寿老人と恵比寿で迎撃してみせるさ』

「そうじゃねぇー。後方から不意打しろや」

『情けないから・・・せめて襲撃とかにしないかい?』

 緊張感を奪い取る会話だが、ゴウと風姫の興味を惹きつ続ける。

 そこに、コーヒーの芳醇な香りが漂い始める。クックシスがコーヒーを淹れ、運んできたのだ。もちろん、アキトが喫茶サラで購入したコーヒー豆を使用している。

 打ち合わせ机に置かれたカップから漂う香りに釣られ、漸くゴウと風姫はメインディスプレイから視線を外したのだ。

 ゴウは香りを愉しみ、一口含んで苦味と酸味の絶妙なバランスを舌で感じ、嚥下後のコクを味わう。

「相変わらず美味いな」

 吐息と共に、ゴウは素直な感想を洩らした。

 アキトにコーヒーの味を教え、喫茶サラを情報屋として紹介したのはゴウだった。ゴウ好みの味でコーヒーの美味しさをアキトは知った。それ以降、幾つもの銘柄や焙煎、淹れ方で注文したが、今はまだ、ゴウの味覚を引き継いでいるのだった。

 故に、ゴウが美味いと感じるのは当然なのだが、風姫と史帆の2人は目を瞠った。風姫はゴウにコーヒーの味が分かることに驚き、史帆はバリトンボイスの囁きに込められた称賛に満足感を得て・・・。

 一言に真逆な感想を持った2人を置き去りにするかのように、ゴウは唐突に語り始める。

「まず結界の定義からだが・・・」

「知っているわ。空間に境界を定義して内陣と外陣に分ける。そして設定した対象物に境界を越えさせない・・・どうかしら?」

「うむ、ここまでは満点だな」

「ここまで?」

 平坦な口調で史帆が呟いた。

「ああ。ここまでは、な」

 史帆に対してゴウは優しく答え、視線を風姫に戻し出来の悪い生徒に考察を促す。

「だが、応用が利かないから宝船の場所を勘違いするのだ。結界の役割を考えれば、自明の理だぞ」

 ゴウはサバイバルの教官として、風姫の思考を鍛えているのだ。ただ、風姫の意志を確認したことはない。

「役割・・・? 内陣の領域守護が、結界の役割だわ」

「うむ、零点になったぞ」

「どういうことかしら?」

「説明している最中に口を挟んだのは貴様だぞ」

 悔しそうな表情を浮かべ、風姫は必至に考えを巡らす。しかし思考の陥穽に嵌まり込み、柔軟な発想が出来なくなっていた。

 カップを口の近くに持っていき、ゴウは徐にコーヒーの芳香を愉しむ。

 風姫の周囲とゴウの周囲は、時間の流れが異なっているようだった。ゆったりと少なめのコーヒーを飲み終えたゴウの表情はリラックスしていて、風姫は額に汗を滲ませていたのだ。

「まあ、とりあえず人の話を最後まで聞くのだな」

「・・・分かったわ。最後まで聞くから、さっさと話してくれないかしら?」

「ふぅー。全く、王女様は短気だな」

 カップを机に置いてからゴウは、ワザとらしく溜息を吐き、大人げなく風姫を煽った。そして風姫は、一々ゴウの言葉に反応してしまい、苛々しながら台詞を吐き捨てる。

「早くしてくれないかしら?」

 もはや、風姫の育ちの良さを保っているのは、言葉遣いだけだった。

 頭に血が上った状態でも冷静に検討できるかどうか確認するために、ゴウは煽ってみたのだ。そして、海で対決した時と心構えに変わりがないようだと、ゴウは判断するに至った。

 現在TheWOCと戦闘中であり、説明に多くの時間を掛けられる状況にない。ゴウは教育を諦め、今は結界の解説だけに留めることにする。

「内陣と外陣があるのだから、結界の用途は2通りになるな。護ると封じ込めるだ。今回の結界の用途は、封じ込めることを役割としたのだ。それゆえ宝船は、外陣に配置することになる。良いか、結界を敷くのは、敵と自分を境界で分断するためなのだぞ。常識的に考えれば、私設とはいえ軍隊を敵に廻して、この仕組みは実現し難い。だが、アキトの開発したオリハルコン通信が、この結界を実現した。宝船の人工知能がソフトウェア部分の開発を担当したが・・・ソフトウェア開発専用のコンピューターでないため性能と精度が良くなかったがな。まあ、史帆の貢献がなければ、こんなにも巧くいかなかったぞ」

 急な自分の名前が出て、史帆は呆気に取られ小声で独言する。

「・・・アタシが?」

 ゆったりとした所作で、ゴウはグラスを持ち、水を一口含む。その動きは、人に全く警戒を抱かせなかった。見えていても、気にならない、気にさせない。ゴウが苦労して身につけ磨き続けているわざであり、わざである。

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